酒の肴に砂糖漬け
六年い組、潮江文次郎と立花仙蔵は付き合っているらしい。
五年生の時に口吸いをしている二人を見てそれとなく聞いてみたら、その本人たちが隠すことなく白状した。
「それで、留三郎は何が気になってるの?」
二人が実習へ行っている今日、六年ろ組の部屋ではろ組、は組合同飲み会が開催されていた。
そこで上がった議題こと酒の肴が六年い組の二人の関係である。
留三郎が杯の酒を一気に飲み干す。
「いや、あの二人って付き合い始めたのって五年だって聞いた気がするんだよ。でも俺あいつらが付き合い始めたのって四年だと思ってたんだよな。なぁ、お前らいつ付き合い始めたか聞いたか?」
口吸いをしている二人を見て留三郎が聞いた時、仙蔵は「先月付き合い始めた」と言っていた。
しかし、決定的な瞬間を見たのはその時だが、留三郎はそれ以前より二人は付き合っているのではないかと疑っていた。
「四年の色実習のあと、覚えてるか?」
「覚えてるよ。朝起きると仙蔵が苦無で襲ってくるから安心して眠れないって言って毎晩僕らの部屋かろ組の部屋か、どうしても困った時は一人部屋だった田村とか竹谷の部屋にも泊まりに行ってたよね」
「あぁ!結局仙蔵以外の人間の気配だと気が散って満足に眠れないとかで文次郎が寝不足で倒れて、いさっくんがブチ切れて仙蔵を説教した事件だな!」
仙蔵の食事に毎日毒を混ぜてやるぞとまで脅した伊作に仙蔵が折れた。あの時誰もが伊作には逆らうまいと思ったのだ。
「あれ、俺は色実習で先輩の相手をした仙蔵が嫉妬した結果だと思ってたんだよ。だからあんときにはもう恋仲だと思ってた」
「あの時かぁ。僕は三年の時から付き合ってたと思ってたなぁ。だってあの頃の二人っていつでも一緒にいなかった?二年の時に少しぎくしゃくしてたじゃん?だから仲直りしてそのまま付き合い始めたんだと思ってた」
伊作が注いだ酒を零さないように盃を傾ける。
確か三年生の頃は移動教室も食事も、それこそ厠に至るまで一緒にいた気がする。
「私は二年生だと思っていたぞ!だってあれだ!覚えているだろう!?留三郎と仙蔵の大喧嘩だ!」
「忘れねぇよ⋯つか忘れる訳ねぇだろうが」
小平太が言うと留三郎は頭を抱えて唸った。
当時の仙蔵と留三郎というと、実技も座学も成績優秀、教師の覚えもいい優等生の仙蔵と実技はよくとも座学はそこそこ、文次郎と喧嘩ばかりの問題児の留三郎。
誰から見てもどちらが喧嘩を売ったのかは明白であったが事実は逆で、当時仙蔵が「文次郎といつも喧嘩をしていることが気に食わん」という理由で留三郎の道行くところに罠を仕掛けたのが原因であった。
「罠を仕掛けたのが仙蔵だって気付いてから仙蔵に抗議しに行ったら喧嘩になったんだよ。その上決着はつかねぇまんま文次郎に止められるし、教師にはバレて俺が怒られるし、散々だったんだよ」
しかし、確か当時文次郎が喧嘩を止める時に「やめんか仙蔵!」と叫んでいたので、恐らく文次郎にはどちらが喧嘩の原因かわかっていたようだった。
「結局それって文次郎に構ってもらえない仙蔵の焼きもちだったんじゃないの?」
「だな!留三郎はただの巻き込まれ不運か!」
「ほっとけ!」
「……確か、もう一年生の冬の頃にはお互いのことが少し気になっていたように見えた……」
長次が呟くと全員が頷いた。
四人がふぅ、と息をつく。
「つまりさぁ、仙蔵と文次郎は一年生の頃からお互い好きだったのに何を思ったか周囲を巻き込みながらめちゃくちゃ迷惑な遠回りをしながらやっと五年生で収まったってこと?」
「だなぁ。しかも付き合ったら付き合ったで人目憚らねぇし」
「仙ちゃんはケダモノだからなぁ!たまに文次郎の腰が心配だぞ!せっかくの鍛錬なのに腰が痛くて本気が出せない時がある!」
「……自重を……」
酒の肴にするには甘すぎる話題だったようで、居ない二人の心の中で文句を言いながらまだまだ世話の焼ける不器用な二人についての話題は続く。
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