愛について



「ジュンコ、どこへ行ったの?」

また、ジュンコが散歩に行ってしまった。
僕は、君のことをこんなに愛しているのに。
いつだって一緒にいたいのに、君はいつもどこかへ行ってしまう。
君は僕のことが嫌いなの?

「ジュンコはどうしていつも居なくなってしまうんだろう」
「伊賀崎くんは、女心が分かってないのね」

独り言に、返事があった。
声は、女性。この学園の女性と言えば、食堂のおばちゃんに用務員さん、あともうひとつ、僕たちが近寄らない、禁断の園、くノ一教室の生徒と、教師の、山本シナ先生。

「シナ先生、」
「ジュンコちゃんはお散歩中なのかしら」

若い女性の姿の、シナ先生。若い姿と、老人の姿。どちらが本当かは、誰も知らない。

「それで、ジュンコちゃんがいなくなった理由だったわね?仕方がないわ」
「仕方なくありません」

彼女の言い方にムッとした。
まるで、僕たちが愛し合っていないみたいに聞こえたんだ。

「いえ、仕方ないわ。女の子はね、いや、男だってきっとそう。愛してるから、四六時中一緒にいて、寝て、起きて、それだけじゃ嫌なの。町で甘味も食べたいし、女の子同士でしか出来ない話もしたいわ。でもね、恋人が嫌いな訳では無いの。だから、必ず愛する人の元へ戻るの」
「なぜ、ずっと一緒ではいけないのですか?」
「だって、その方がずっと長くいられるから。長くいすぎるとね、変なところばかりが目に付いたりして、嫌になってしまうのよ」
「僕はなりません」
「貴方がならないから、彼女がならないとは限らないわ」

ふと、足元に濡れた感触。
僕の、愛おしい彼女。

「ほらね、だから心配はいらないの。むしろ、笑顔で送り出すくらいでないと、愛想を尽かされてしまうわよ」

そう言って笑って去っていった先生の後ろ姿を見る。
僕も、いつか大人になったらそのような余裕が出来るのだろうか。
ジュンコの鱗の感触を確かめながら、そのいつかについて思いを馳せた。

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