月夜にご注意
忍務後、学園への道中、後ろに、気配を感じる。
月明かりの眩しい夜、誰かが居ればすぐに分かるはず。
振り返る。誰も居ない。
また、感じる。
誰も、居ない。
振り返る。
進む。
振り返る。
また進む。
繰り返す。
足を早める。
気配も早くなる。
振り返る余裕は無くなった。
もうすぐ、学園に着く。
ついてくるな。
消えろ。
これを学園に入れてはならない。
足が縺れる。
間に合わない。
気配が、袖に触れた。
影が、引っ張られる感覚。
「おかえりなさい」
優しい声と、門が開いて、閉じる音。
門の向こうに、気配は締め出されていた。
「お疲れ様」
門を守る彼が、いつも通り笑っている。
よかった、間に合った。
気が抜ける。
「まだ駄目だよ、これを書いてから」
無理やり差し出された入門表に、名前を書く。
書こうとする。名前を、思い出せない。
「ほら、早く。鉢屋三郎くん」
そうだ、鉢屋三郎。俺の、名前。
入門表に、名前を書く。
「今度こそ、おかえりなさい」
引っ張られた筈の影は、いつも通り足元に収まっていた。
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