忍の名
『お母様、行ってまいります』
六年前、そういって家を出た。
心配性の母親は、最後まで俺が学園へ行くことを気にしていたが、武家の次男などそういうものだ。
兄上がご健勝であるならば、次男など邪魔でしかない。
ならば自ら生きる術を探すしかないのだ。
長期休みに帰っていた家も、上級生になる頃には帰らなくなった。
卒業をしてから一度は顔を出して、それで終いだ。
死ぬ時に身元を知られてはならない忍びが家に繋がる行動をする訳にはいかない。
潮江の家の忍びになるつもりもない。
どこか、家が仕えている主君と敵対しない遠方で人知れず散ることこそが、学費を払い続けてくれた家への恩返しなのだ。
「お母様、今までありがとうございました」
今生の別れを済ませて家を出る。
死ぬ時、俺が潮江文次郎を名乗ることはきっとない。
母がくれたこの名は誰にも知られず、内に秘めたままで、名前だけが生き続ける。
潮江文次郎は、永遠に死ぬことはないのだ。
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