五徹の恐怖
逃げ場がない。そう感じた。
扉の前には白い靄、縁側に出る障子には黒い影が映り、手元の本は風もないのに勝手に捲れる。
刻限は俗に言う草木も眠る丑三つ時、時節は盆明け。
「帰り損ねたのか?それとも灯籠でも流してやろうか?」
供養が足りんかったのか。いや、そもそも”そういうモノ”ではないのか。
「人ならぬ者、というやつか?」
そちらは面倒なもので、供養も念仏も効きゃしない。
「なんでもいいんだが、部屋から出しては貰えんだろうか」
五徹を超えると伊作と仙蔵から怒られるのだ。
お前らより余程恐ろしいものが俺には待ち構えているのだ。
「経くらいなら読んでやるから、な」
聞き入れてはくれないだろうか。
そろそろ困り果ててきた。
聞き分けのない子供を相手にしているようだ。
あぁ、そうだ。そういう感じだ。
「後でこの部屋の棚にある饅頭をやるよ」
かたん
戸棚が開く音と共に気配が、影が、靄が消えた。
「盆のお供えが足りんかったのか」
開いた障子の向こうにはもうなんの気配も感じることは出来なかった。
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