覚
さとりという妖怪は、誰かと共には生きていけない。
人は、妖怪は、醜い。
言葉を持つものは、皆言葉と心が乖離しているのだ。
そうやって、父に教えられた。
そういう父上も、醜いね。
幼心に放った言葉に、父は穏やかに笑って言った。
「だから、私と小平太も今日でお別れだ」
知っていた。父上が私と共に居られなかったことを。
さとり同士ですら共に居られないのに、他の誰かとなど居られるわけがない。
母も、弟を連れてすぐに出ていった。
子供と二人でも、限界なのだ。
「お前らといるのが一番楽でいいなぁ」
それから五年、結局私はさとりの例に漏れず、言葉を持たない動物とだけ心を交わして生きることを選んだ。
たまに縄張りに来る誰かも、自分がさとりだと知れるとすぐにいなくなってしまう。
「だよなぁ。私だって嫌だもん。心を読まれるなんて」
そうして、一人で生きていく。
父上みたいにたった一人、心を読まれても構わない女性と出会えれば共に生きて子を作ることも考えるが、今はまだ出会えていない。
ただ動物たちと共に獲物を狩って、その日の食事にありつくだけの日々を繰り返していた。
そんなある日、森の動物たちの警戒を感じた。
多分よそ者が迷い込んで来たのだ。
「めんどくさいなぁ」
どうせすぐにいなくなるし、ほんの少しだけでも人の心は私に不快をもたらすことしかない。
いいことなど何も無いのだ。
『ここはどこだ』
心の声が聞こえてきた。だんだんこちらに近づいているのだろう。
『誰もいないのか?』
「ここにいるぞ」
近づいてきた何者かに答える。
大概はこれだけでいなくなる。
読まれたことに気づくのだ。
『私の声が聞こえるのか?』
「私はさとりだ。お前が困惑しているのもちゃんと分かるぞ」
『私と話ができるのか』
「だから!私はお前の声が…あれ?お前、声が出せないのか?」
気づいた。先程からこのよそ者は一言も話していない。
心だけで会話をしているのだ。
「お前、言葉を持たないのか?」
『違う、私は声を出してはいけないのだ』
「なぜ?」
その質問に答えてはくれなかった。
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