憑かれた男
潮江文次郎は憑かれている。
誤字ではなく、文字通り、取り憑かれている。
同室である六年い組、立花仙蔵がそう思ったのは何のことはない。何もいない空間に話しかける文次郎を何度も見たからである。
最初は鍛錬のしすぎか、徹夜で気が触れたのだと思った。
しかし、そうではない。
一度、そう。一度だけ、仙蔵もその文次郎の隣にいるモノの姿を見てしまったのだ。
あれは男だった。いや、正確には男児であった。
恐らく年の頃は一年生よりも更に幼い、五つか六つか、そのくらいの年齢のモノであった。
それが文次郎の横で、まるで犬のようにころころと転げ回っている。
あれ以来、アレの姿は見ていないが、今でも文次郎の横には文次郎の”兄”がいる。
「仙蔵、俺は名の通り、次男だ」
文次郎の実家には、文次郎が生まれた日に亡くなった一匹の犬の墓があると聞く。
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