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年越し



あと少しで今年が終わる。
今年は学園長先生が生徒全員に新しい半纏を買い与えてくださった。
「文次郎、お前のその半纏の羽織り方はどうなんだ・・・それはもう半纏の存在意義を否定していないか?」
半纏を肩に引っ掛けただけの文次郎を仙蔵が指摘する。
「仕方ないだろう。そもそも半纏などを着込んでいたら算盤に袖を引っ掛ける。袖を通さん方が便利なんだよ」
そう呟くと、やはり肩に引っ掛けただけの半纏姿で部屋での帳簿計算をしている。
「年末年始まで帳簿付けか。ほかにすることはないのかお前は」
「バカタレ、学園の正月飾りの計上を一昨日されたんだ。もう1度計算しなけりゃならんだろうが。年明けにはそろそろ田村に引き継ぎもせにゃならんしな」
今度の桜が咲く頃には六年生は卒業となる。
そして、学園の予算を統括する会計委員会の委員長が代理となるのだ。代理でない委員会は生物、図書、火薬の三ヶ所。
「作法も綾部が代理だろう。準備はいらんのか?」
「いらん。私たち作法は一年間かけて引き継ぎをしているようなものだ。最後にそれが必要なのは図書、会計、火薬、体育だろうな。技術を伴う用具や生物、保健、作法は一年間かけて最高学年の技術を下に教え込むのだから今更新しく教えることもないだろうさ」
あとは各委員会が会計委員会の新委員長対策である。毎年これが一番大変だ。
文次郎の時など得意武器は委員長になるまで同輩にすら隠しており、最初の予算会議は全委員会が惨敗した。
誰もが文次郎の武器は完全近距離の苦無だと思っていたのだ。
まさか中距離の袋槍が出てくるなどとは思いもしなかった。
そして田村も石火矢だとは思っていたが、前回ハンドカノンを出されている。近距離も危うくなってきた。さらに神崎は情報すらない。
「言っておくが、田村と神崎の得意武器は俺も本当は知らんからな」
案の定くぎを刺された。

夜も遅くなってきた頃、ヘムヘムの除夜の鐘が聞こえた。

「あけましておめでとう。本年もよろしくお願いいたします」
作法委員会らしくきっちり作法に則って頭を下げると、文次郎も同じように返してきた。

肩に掛けていただけの半纏は頭を下げた瞬間に落ちてきた。
だからきっちり羽織れと言ったのだ。

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