かしまし
そういえば、今朝すごくかっこいい金髪の人がゴース連れて歩いてた。お昼に購買で買ったメロンパンを齧りながらそう話したら、何故か質問攻めにあった。どんな服を着てたかだの、髪の長さだの。首を傾げながらその一つ一つに返事をしていくと、呆れ返った溜め息をつかれてしまった。
「いくらバトルには興味ないからって、それはちょっとないと思うよー」
「他の地方とかならまだしも、ずっとジョウトに住んでるのに」
「しかもお膝元のエンジュにいるというのに」
一緒にお昼を食べていた三人に一度にそう言われてしまっては黙るしかない。バトルは多分ポケモンバトルの事だろう。確かに私はバトルには興味がない。一応いざという時のためにボールを一つ持ってはいるけれど、その中で眠っているメリープは残念ながらバトルは得意ではない。かろうじて電気ショックぐらいは使えた気がするから、野生のポッポぐらいならば多分なんとかなると思うけれど。
毛並みの良さなら負けないもん、と誰に対してかわからない呟きを飲み込む。
「そんなに有名な人なの?」
「有名だよ!」
正面に座っている友達が頭を抱えた。アイボリーのカーディガンから覗く手の、右の薬指にシルバーの細い指輪が光っているのを見て、そういえばこの前彼氏ができたって言ってたなあと思い出す。
「ジムリーダーだよ、エンジュの。マツバさん」
「あー……」
そうゆるい声で返事をしたものの、まだあまりよくわかっていなかった。ジムリーダーはわかる。けれど、今朝見た男の人と私の中のジムリーダーのイメージが一致しなかった。バトルが強い人だし、もっと体が大きいだとか殺しの目をしているだとかそういうイメージを漠然と持っていた。
「結構普通の人なんだね、ジムリーダーって」
「うーん、まあ、確かにそうかも。コガネのジムリーダーなんかも同じクラスにいても違和感ないだろうし」
「あー、わかる。いそういそう」
コガネのジムリーダーを思いだそうとしてみたが全く思い出せなかった。地元のジムリーダーですらわからないのにそりゃあわかるはずがないかと開き直る。
「なんでみんなそんなに詳しいの?」
純粋に疑問だったのだ。テレビに出るわけでもないし雑誌に載っているわけでもないし、どうしてそんなに詳しいのだろうと思ったからそのまま口に出した。けれど、どうやら地雷を踏んだらしい。それはお前が詳しくなさすぎるんだだのなんだのと三人がかりで怒られた。ひどい。
「そりゃテレビに出る事はほとんどないけどさ、雑誌とかには時々載ってるんだよ?」
「そうなんだ……」
「せっかくだから貸して進ぜよう。宿題ね」
そう言って彼女は机の横に引っかかった鞄から雑誌を取り出した。本屋でよく見るファッション誌で少し驚く。表紙の左隅に黄緑の文字でジムリーダー特集と小さく書いてあった。
「ジムリーダー好きだったんだ」
雑誌を受け取ってそう呟く。ふるふると首を横に振られてしまった。
「いや、買ったらたまたま載ってたから……でもマツバさんはいいよね。優しそう」
今朝見かけた姿を思い出す。確かに、ゴースのふわふわとした体に触れて笑う姿はきれいだった。表情も柔らかくて、なんといえばいいのか、美人だなあと思ってしまった。なんとも悔しい事に。
「年上いいよねえやっぱり」
「うんうん。大人の雰囲気が」
「やっぱり彼女とかいるのかな」
「そりゃあいるんじゃない? あ、でもジムリーダーって忙しそうだし、そんな暇ないのかも」
「ジムリーダーって忙しいの?」
「ごめん想像で言った」
なにそれ、とみんなで突っ込みを入れて笑う。そうこうしているうちにお昼休みは終盤で、慌てて昼食を済ませてそれぞれ席に戻った。次は退屈な古典。果たして眠らずにいられるだろうか。
古典と世界史のコンボをなんとか眠らずにやり過ごして、一日の授業は終わる。部活には入っていないので、あとは帰るだけだ。部活に向かう友達と別れ、帰り道が違う友達に手を振る。駅までは自転車を使っている。シルバーの自転車のかごに鞄を放り込み、サドルにまたがりゆるゆるとペダルを漕ぐ。気が付けば今年ももう10月。すっかり秋らしくなって、スカートから出ている膝が冷える。タイツと手袋を出さないと、なんて考えながら走る事15分。駅の駐輪場に自転車を止めた。
振り返ると空はもうオレンジ色に変わり始めていた。日が落ちるのも早くなった。冷えた手を擦り、ホームへと向かう。階段を上るとちょうど電車が来る。各駅停車のこの電車はいつも空いている。色褪せて固くなった椅子に座り、揺られる。手持ち無沙汰になったのでポケギアを出そうと鞄を開けた。その途端に人気アイドルと目が合って少し驚いてしまった。
つやのある紙に印刷された人気アイドル。そういえばこの雑誌借りたんだった、と思い出す。ポケギアはやめてその雑誌を取り出した。ぱらぱらとページを捲ると、ちょうど件のジムリーダー特集に辿り着いた。カラーで印刷された写真に写る、少し乾いた印象の金色の髪には確かに見覚えがあった。やっぱり美人だなあと溜め息をつく。
彼は、マツバ……さん、はゴーストタイプ専門のジムリーダーらしい。ゴーストタイプというと怖いイメージだけれど、マツバさんの隣にいるゲンガーは笑っているようでなんだか可愛らしかった。でも確かによくよく考えてみると、ゴーストタイプには可愛らしい子も多いような気がする。フワンテとかムウマとか。でも人を驚かせるのが好きだったり、悪気はないのだろうけどなかなか危なっかしい事をしてきたりと、扱いが大変なタイプなのだ。そんなタイプをよく……使いこなしているからジムリーダーなのか、と一人納得する。
次のページへ進む。今度は女の子が載っていた。……当然だけどこの子もジムリーダーなんだろう。まだこんなに小さいのに。どう見たって小学生だ。しかも女の子なのに虫ポケモン専門。この前教室に大きなイトマルが迷い込んできた時の事を思い出す。大抵の女子は逆側の壁まで逃げた。私はそこまではいかなかったけれど、まあ、席を立って距離は置いた。悲鳴を上げるほどではないけど残念ながら好きではない。あの時は先生が教科書を放り捨ててボールを投げてゲットしたおかげで事なきを得た。先生はこんなに大きなイトマルが手に入るなんて、と嬉しそうだった。娘に自慢すると言い出して、それはやめた方がいいよと散々言われたあの後どうしたのだろう。
その話はさておき。ものすごく好かれてるとは言い難いけれど、なんでまた虫ポケモンなんて選んだのだろう。特集はインタビュー形式になっていた。一通り読んでみる事にした。ありきたりな質問とそれに対する答え。まだまだ子供の見た目にはそぐわないほどしっかりとした答えだった。紙の上の文字を読んでいるだけでも伝わってくるのだから、面と向かい合って話している記者にはもっとわかるわけで、インタビューの締めくくりにはこう書かれていた。『少年らしい、愛らしい見た目とは裏腹にしっかりとした言葉で』。
「少年……」
男の子だったのか、と静かに衝撃を受けてしまった。確かに子供は男の子なのか女の子なのかわからなかったりするけれど、ここまでわかりにくいものなんだろうか、と思う。中性的と言えばそれまでなのだけれど、なんだかこう、妖精みたいな。……妖精はちょっと言い過ぎかもしれないけれど。
ページをめくろうと端をつまむ。どうして普通のファッション雑誌にジムリーダー特集なんて組んであるのかが疑問だったのだけれど、なんとなくその謎が解けたような気がした。まだ二人しか見ていないけれど、多分そういう事なのだろう。一言で言えばレベルが高い。
つまんだページを右へ捲る。三人目もやっぱり男の子だった。キキョウのジムリーダー。隣町だ。前二人と同じように顔立ちの整った、羽織と袴がよく似合う男の子だった。
思わず二度見してしまった。羽織と袴。……インタビューだし改まった格好で? いや、でもちょっと改まり過ぎではないだろうか。今までの二人は至って普通の格好をしていたし。気合いを入れすぎて空回りをしてしまったパターンだろうか。
可哀想に、とそれなりに失礼な事を考えながら写真を見つめる。美人だなあとマツバさんの時に思った事を思い返す。だけど、目つきがマツバさんとは全然違った。たれ目で優しげなマツバさんとは対照的に、吊り目で鋭い印象だ。ああでもジムリーダーってこういう目をしているイメージだから、マツバさんよりもこの子……ハヤト……君?の方が、ジムリーダーらしいかもしれない。戦う人という感じ。歩いていて肩がぶつかったらちょっとまずいなって思うだろうなというのが正直な所だ。
降りる駅まではあと二つ。インタビューの内容にも目を通す。鳥ポケモン使いと書かれていて思わずうなずいてしまった。確かにこの目つきは鳥ポケモンに似ている。近所のゴミ捨て場に集まるヤミカラスや、朝早くに鳴き始めるピジョンだとか。何枚か写真が載っているけれど、どの写真でも目つきが悪い。なのに膝の上に乗っているのは可愛らしいポッポで微笑ましい。
鳥ポケモンもいいかも、と思った所で電車が降りる駅に到着した。雑誌を閉じて鞄にしまい、開いた扉から外に出る。もうすっかり冬の空気だった。帰ったらマフラーを出す、と頭の中のメモにしっかりと書いて歩き始めた。
今朝も昨日と同じように冷えていた。昨日忘れずに出したクリーム色のマフラーを首に巻き、玄関でローファーに爪先を引っかける、と、こつこつと足音が聞こえてきた。爪を切ってあげないといけないなあと思いながら振り返る。
「今日も寒いねえ」
メリープは同意するように弱々しく鳴いた。
「メリープはもこもこで暖かいでしょ、何言ってるの」
冬が近くなって、最近のメリープは一回り大きくなったような気がする。その背中に手を差し入れて撫でてやると、嬉しそうに膝に鼻をすり寄せる。
「さて、行こうか」
モンスターボールにメリープをしまい、腰に引っかける。家を出て駅までは10分もかからない程度だ。いつも通り音楽を聞きながら歩き、駅に着く。ラッシュのこの時間は、いくら各駅停車といえど座るのはなかなか難しい。今日も席は空いていなかった。人の出入りに流されにくい場所を選んで、吊り革を掴んで窓の外を眺める。まだ目を覚ましきっていない空に合わせてあくびを一つ。
いつも通りに電車は走り、いつも通りに駅に着いた。学生やサラリーマンの間を抜けて駐輪場に向かい、愛用の自転車を取り出して学校へ向かう。街はもうほとんど目を覚ましている。店は閉まっている所がほとんどだけれど、道には学校に向かう子供や出勤する会社員の姿が見えた。同じ制服を着た子たちも見かけた。
前を走っている子も同じ制服だ、と思った時、その背中の向こうに青いものがちらりと見えた。自転車の速度を落として、首を動かして見てみる。その青いものには見覚えがあった。昨日の雑誌の写真で見たのだと思い出す。
空色の羽織と紺色の袴。ハヤト君だ。そして隣には金髪の美人な男の人。マツバさんだった。
「仲いいのか……」
思わずそう呟く。マツバさんは手で口元を覆ってあくびをしているようだった。ハヤト君はそれを見上げてマツバさんの背中を叩く。驚いたマツバさんは目を丸くした。それを見てハヤト君は歯を見せて笑った。何故か妙に驚いて、ハンドルが少しふらついてしまった。
体制を立て直し、二人の隣を通り過ぎる。笑うんだ、というのが正直な感想。だって昨日見た写真ではずっと固い表情をしていて目つきも悪くて、あんな風に笑う所は想像できなかった。あんなに子供みたいに笑うようには見えなかった。はー、とよくわからない声が思わず漏れてしまう。マフラーの上を通り抜けて朝の街に吸い込まれる。
教室にはもうおなじみに面々が揃っていた。挨拶をして、鞄から雑誌を取り出す。
「これ、ありがとう」
「あっ、もう読んだの? どうだった?」
「えーっとね」
キキョウのジムリーダーって可愛いんだね。そう言ったらまた三人がかりで可愛いとはなんたるかを教え込まれたのは言うまでもない。
(END)
「いくらバトルには興味ないからって、それはちょっとないと思うよー」
「他の地方とかならまだしも、ずっとジョウトに住んでるのに」
「しかもお膝元のエンジュにいるというのに」
一緒にお昼を食べていた三人に一度にそう言われてしまっては黙るしかない。バトルは多分ポケモンバトルの事だろう。確かに私はバトルには興味がない。一応いざという時のためにボールを一つ持ってはいるけれど、その中で眠っているメリープは残念ながらバトルは得意ではない。かろうじて電気ショックぐらいは使えた気がするから、野生のポッポぐらいならば多分なんとかなると思うけれど。
毛並みの良さなら負けないもん、と誰に対してかわからない呟きを飲み込む。
「そんなに有名な人なの?」
「有名だよ!」
正面に座っている友達が頭を抱えた。アイボリーのカーディガンから覗く手の、右の薬指にシルバーの細い指輪が光っているのを見て、そういえばこの前彼氏ができたって言ってたなあと思い出す。
「ジムリーダーだよ、エンジュの。マツバさん」
「あー……」
そうゆるい声で返事をしたものの、まだあまりよくわかっていなかった。ジムリーダーはわかる。けれど、今朝見た男の人と私の中のジムリーダーのイメージが一致しなかった。バトルが強い人だし、もっと体が大きいだとか殺しの目をしているだとかそういうイメージを漠然と持っていた。
「結構普通の人なんだね、ジムリーダーって」
「うーん、まあ、確かにそうかも。コガネのジムリーダーなんかも同じクラスにいても違和感ないだろうし」
「あー、わかる。いそういそう」
コガネのジムリーダーを思いだそうとしてみたが全く思い出せなかった。地元のジムリーダーですらわからないのにそりゃあわかるはずがないかと開き直る。
「なんでみんなそんなに詳しいの?」
純粋に疑問だったのだ。テレビに出るわけでもないし雑誌に載っているわけでもないし、どうしてそんなに詳しいのだろうと思ったからそのまま口に出した。けれど、どうやら地雷を踏んだらしい。それはお前が詳しくなさすぎるんだだのなんだのと三人がかりで怒られた。ひどい。
「そりゃテレビに出る事はほとんどないけどさ、雑誌とかには時々載ってるんだよ?」
「そうなんだ……」
「せっかくだから貸して進ぜよう。宿題ね」
そう言って彼女は机の横に引っかかった鞄から雑誌を取り出した。本屋でよく見るファッション誌で少し驚く。表紙の左隅に黄緑の文字でジムリーダー特集と小さく書いてあった。
「ジムリーダー好きだったんだ」
雑誌を受け取ってそう呟く。ふるふると首を横に振られてしまった。
「いや、買ったらたまたま載ってたから……でもマツバさんはいいよね。優しそう」
今朝見かけた姿を思い出す。確かに、ゴースのふわふわとした体に触れて笑う姿はきれいだった。表情も柔らかくて、なんといえばいいのか、美人だなあと思ってしまった。なんとも悔しい事に。
「年上いいよねえやっぱり」
「うんうん。大人の雰囲気が」
「やっぱり彼女とかいるのかな」
「そりゃあいるんじゃない? あ、でもジムリーダーって忙しそうだし、そんな暇ないのかも」
「ジムリーダーって忙しいの?」
「ごめん想像で言った」
なにそれ、とみんなで突っ込みを入れて笑う。そうこうしているうちにお昼休みは終盤で、慌てて昼食を済ませてそれぞれ席に戻った。次は退屈な古典。果たして眠らずにいられるだろうか。
古典と世界史のコンボをなんとか眠らずにやり過ごして、一日の授業は終わる。部活には入っていないので、あとは帰るだけだ。部活に向かう友達と別れ、帰り道が違う友達に手を振る。駅までは自転車を使っている。シルバーの自転車のかごに鞄を放り込み、サドルにまたがりゆるゆるとペダルを漕ぐ。気が付けば今年ももう10月。すっかり秋らしくなって、スカートから出ている膝が冷える。タイツと手袋を出さないと、なんて考えながら走る事15分。駅の駐輪場に自転車を止めた。
振り返ると空はもうオレンジ色に変わり始めていた。日が落ちるのも早くなった。冷えた手を擦り、ホームへと向かう。階段を上るとちょうど電車が来る。各駅停車のこの電車はいつも空いている。色褪せて固くなった椅子に座り、揺られる。手持ち無沙汰になったのでポケギアを出そうと鞄を開けた。その途端に人気アイドルと目が合って少し驚いてしまった。
つやのある紙に印刷された人気アイドル。そういえばこの雑誌借りたんだった、と思い出す。ポケギアはやめてその雑誌を取り出した。ぱらぱらとページを捲ると、ちょうど件のジムリーダー特集に辿り着いた。カラーで印刷された写真に写る、少し乾いた印象の金色の髪には確かに見覚えがあった。やっぱり美人だなあと溜め息をつく。
彼は、マツバ……さん、はゴーストタイプ専門のジムリーダーらしい。ゴーストタイプというと怖いイメージだけれど、マツバさんの隣にいるゲンガーは笑っているようでなんだか可愛らしかった。でも確かによくよく考えてみると、ゴーストタイプには可愛らしい子も多いような気がする。フワンテとかムウマとか。でも人を驚かせるのが好きだったり、悪気はないのだろうけどなかなか危なっかしい事をしてきたりと、扱いが大変なタイプなのだ。そんなタイプをよく……使いこなしているからジムリーダーなのか、と一人納得する。
次のページへ進む。今度は女の子が載っていた。……当然だけどこの子もジムリーダーなんだろう。まだこんなに小さいのに。どう見たって小学生だ。しかも女の子なのに虫ポケモン専門。この前教室に大きなイトマルが迷い込んできた時の事を思い出す。大抵の女子は逆側の壁まで逃げた。私はそこまではいかなかったけれど、まあ、席を立って距離は置いた。悲鳴を上げるほどではないけど残念ながら好きではない。あの時は先生が教科書を放り捨ててボールを投げてゲットしたおかげで事なきを得た。先生はこんなに大きなイトマルが手に入るなんて、と嬉しそうだった。娘に自慢すると言い出して、それはやめた方がいいよと散々言われたあの後どうしたのだろう。
その話はさておき。ものすごく好かれてるとは言い難いけれど、なんでまた虫ポケモンなんて選んだのだろう。特集はインタビュー形式になっていた。一通り読んでみる事にした。ありきたりな質問とそれに対する答え。まだまだ子供の見た目にはそぐわないほどしっかりとした答えだった。紙の上の文字を読んでいるだけでも伝わってくるのだから、面と向かい合って話している記者にはもっとわかるわけで、インタビューの締めくくりにはこう書かれていた。『少年らしい、愛らしい見た目とは裏腹にしっかりとした言葉で』。
「少年……」
男の子だったのか、と静かに衝撃を受けてしまった。確かに子供は男の子なのか女の子なのかわからなかったりするけれど、ここまでわかりにくいものなんだろうか、と思う。中性的と言えばそれまでなのだけれど、なんだかこう、妖精みたいな。……妖精はちょっと言い過ぎかもしれないけれど。
ページをめくろうと端をつまむ。どうして普通のファッション雑誌にジムリーダー特集なんて組んであるのかが疑問だったのだけれど、なんとなくその謎が解けたような気がした。まだ二人しか見ていないけれど、多分そういう事なのだろう。一言で言えばレベルが高い。
つまんだページを右へ捲る。三人目もやっぱり男の子だった。キキョウのジムリーダー。隣町だ。前二人と同じように顔立ちの整った、羽織と袴がよく似合う男の子だった。
思わず二度見してしまった。羽織と袴。……インタビューだし改まった格好で? いや、でもちょっと改まり過ぎではないだろうか。今までの二人は至って普通の格好をしていたし。気合いを入れすぎて空回りをしてしまったパターンだろうか。
可哀想に、とそれなりに失礼な事を考えながら写真を見つめる。美人だなあとマツバさんの時に思った事を思い返す。だけど、目つきがマツバさんとは全然違った。たれ目で優しげなマツバさんとは対照的に、吊り目で鋭い印象だ。ああでもジムリーダーってこういう目をしているイメージだから、マツバさんよりもこの子……ハヤト……君?の方が、ジムリーダーらしいかもしれない。戦う人という感じ。歩いていて肩がぶつかったらちょっとまずいなって思うだろうなというのが正直な所だ。
降りる駅まではあと二つ。インタビューの内容にも目を通す。鳥ポケモン使いと書かれていて思わずうなずいてしまった。確かにこの目つきは鳥ポケモンに似ている。近所のゴミ捨て場に集まるヤミカラスや、朝早くに鳴き始めるピジョンだとか。何枚か写真が載っているけれど、どの写真でも目つきが悪い。なのに膝の上に乗っているのは可愛らしいポッポで微笑ましい。
鳥ポケモンもいいかも、と思った所で電車が降りる駅に到着した。雑誌を閉じて鞄にしまい、開いた扉から外に出る。もうすっかり冬の空気だった。帰ったらマフラーを出す、と頭の中のメモにしっかりと書いて歩き始めた。
今朝も昨日と同じように冷えていた。昨日忘れずに出したクリーム色のマフラーを首に巻き、玄関でローファーに爪先を引っかける、と、こつこつと足音が聞こえてきた。爪を切ってあげないといけないなあと思いながら振り返る。
「今日も寒いねえ」
メリープは同意するように弱々しく鳴いた。
「メリープはもこもこで暖かいでしょ、何言ってるの」
冬が近くなって、最近のメリープは一回り大きくなったような気がする。その背中に手を差し入れて撫でてやると、嬉しそうに膝に鼻をすり寄せる。
「さて、行こうか」
モンスターボールにメリープをしまい、腰に引っかける。家を出て駅までは10分もかからない程度だ。いつも通り音楽を聞きながら歩き、駅に着く。ラッシュのこの時間は、いくら各駅停車といえど座るのはなかなか難しい。今日も席は空いていなかった。人の出入りに流されにくい場所を選んで、吊り革を掴んで窓の外を眺める。まだ目を覚ましきっていない空に合わせてあくびを一つ。
いつも通りに電車は走り、いつも通りに駅に着いた。学生やサラリーマンの間を抜けて駐輪場に向かい、愛用の自転車を取り出して学校へ向かう。街はもうほとんど目を覚ましている。店は閉まっている所がほとんどだけれど、道には学校に向かう子供や出勤する会社員の姿が見えた。同じ制服を着た子たちも見かけた。
前を走っている子も同じ制服だ、と思った時、その背中の向こうに青いものがちらりと見えた。自転車の速度を落として、首を動かして見てみる。その青いものには見覚えがあった。昨日の雑誌の写真で見たのだと思い出す。
空色の羽織と紺色の袴。ハヤト君だ。そして隣には金髪の美人な男の人。マツバさんだった。
「仲いいのか……」
思わずそう呟く。マツバさんは手で口元を覆ってあくびをしているようだった。ハヤト君はそれを見上げてマツバさんの背中を叩く。驚いたマツバさんは目を丸くした。それを見てハヤト君は歯を見せて笑った。何故か妙に驚いて、ハンドルが少しふらついてしまった。
体制を立て直し、二人の隣を通り過ぎる。笑うんだ、というのが正直な感想。だって昨日見た写真ではずっと固い表情をしていて目つきも悪くて、あんな風に笑う所は想像できなかった。あんなに子供みたいに笑うようには見えなかった。はー、とよくわからない声が思わず漏れてしまう。マフラーの上を通り抜けて朝の街に吸い込まれる。
教室にはもうおなじみに面々が揃っていた。挨拶をして、鞄から雑誌を取り出す。
「これ、ありがとう」
「あっ、もう読んだの? どうだった?」
「えーっとね」
キキョウのジムリーダーって可愛いんだね。そう言ったらまた三人がかりで可愛いとはなんたるかを教え込まれたのは言うまでもない。
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