はつこえ
今年最後のお祭りが終わった。今年は白組が勝ちか、と呟くと、彼はこたつから出て台所へと向かう。食器棚を開けて閉める音。多分あと数分で年越し蕎麦が目の前にやってくる。僕がリクエストした海老のかき揚げと一緒に。
もう新しい年がやってくる。ようやくその実感が湧いてきて、一年の短さになんだか驚いてしまった。わあ、と短く声を零して背後の窓ガラスにもたれかかる。カーテン越しに冷たさが伝わってきて、すぐに背中を離してしまった。風邪を引いてしまいそう。新年早々それは嫌だ。もたれるのをやめて天板に突っ伏す。ストーブを焚いた部屋の中とはいえ、天板もやっぱり冷たい。
さっきまで騒いでいたテレビは急に静かになって、今はどこかのお寺の映像が映し出されている。こんな夜中だというのに大勢の人が動いているのが見える。今夜は特別な夜だから。
「この映像見ると一年が終わるって感じがする」
さっき考えた通りに、突っ伏した僕の頭の横に年越し蕎麦の入ったお椀を置いて彼はそう言った。体を起こす。蕎麦の上にはかき揚げ。これもやっぱり予想通り。
「それにしても、つけひげ取ったんだな。結構似合ってたのに」
彼は僕の向かい側に腰を下ろす。その言葉に誰の事だろう、と考えた後、少し前に見たインタビューを思い出す。奇抜なファッションのあの歌手。そういえば、確かにひげはついていなかった。
「そうみたいだね。傷が治ったって事かな」
「それなら何よりだな」
いただきます、と手を合わせて蕎麦をすする。その温かさに息をつく。お待ちかねのかき揚げを一口。海老と玉ねぎに甘いつゆを吸った衣が絡んでおいしい。大満足だ。
「なんだか一気に静かになるな、テレビ。いつもの事だけど」
「チャンネル変えようか?」
他のチャンネルはもう少し賑やかなはずだ。バラエティや音楽番組がやっているのだと思う。新聞の番組表が頭に浮かぶだけで、具体的にどういう映像がテレビに流れるのかは知らないけれど。
「いい。こっちのが合ってる気がする。……去年も似たような話した気がするなあ」
呆れたような様子で彼は笑う。テレビ番組は毎年同じようなもので、それを見る僕らの会話も自然と同じものになってしまう。それでも物足りなさを感じないでいられるのは。
「ね、ハヤト」
窓の外では鐘の低い音が鳴り響く。部屋の空気も微かに震えている気がする。気のせいかもしれないけれど。
「なんだ?」
「あと何回ぐらい、こうやって一緒にこの番組見るのかなあ」
「あと……うーん、60回ぐらい? 平均寿命って何歳だっけ?」
最後にはおじいちゃんだなあ、とハヤトは笑う。意識をしているのか無意識なのかはわからないけれど、そんな年になるまで一緒にいるんだって思ってくれている事を確認して安心する。まだまだ不安な事だらけ。来年はどうなのだろう。一生こうやって彼の言葉の一つ一つに翻弄されるのかもしれない。でも、それならそれで悪くはないかと思ってしまう。
こたつの中で足を動かす。こつんと当たった彼の足を捕まえるように両足の先で挟み込む。
「うわ、なんだよ」
「ううん」
アナウンサーの静かな声が、今年がもう数秒で終わる事を告げている。湯のみを手に取り一口。画面の左上の数字が三つのゼロに変わるのを待って口を開く。
「好きだなあ、って思っただけ」
(END)
もう新しい年がやってくる。ようやくその実感が湧いてきて、一年の短さになんだか驚いてしまった。わあ、と短く声を零して背後の窓ガラスにもたれかかる。カーテン越しに冷たさが伝わってきて、すぐに背中を離してしまった。風邪を引いてしまいそう。新年早々それは嫌だ。もたれるのをやめて天板に突っ伏す。ストーブを焚いた部屋の中とはいえ、天板もやっぱり冷たい。
さっきまで騒いでいたテレビは急に静かになって、今はどこかのお寺の映像が映し出されている。こんな夜中だというのに大勢の人が動いているのが見える。今夜は特別な夜だから。
「この映像見ると一年が終わるって感じがする」
さっき考えた通りに、突っ伏した僕の頭の横に年越し蕎麦の入ったお椀を置いて彼はそう言った。体を起こす。蕎麦の上にはかき揚げ。これもやっぱり予想通り。
「それにしても、つけひげ取ったんだな。結構似合ってたのに」
彼は僕の向かい側に腰を下ろす。その言葉に誰の事だろう、と考えた後、少し前に見たインタビューを思い出す。奇抜なファッションのあの歌手。そういえば、確かにひげはついていなかった。
「そうみたいだね。傷が治ったって事かな」
「それなら何よりだな」
いただきます、と手を合わせて蕎麦をすする。その温かさに息をつく。お待ちかねのかき揚げを一口。海老と玉ねぎに甘いつゆを吸った衣が絡んでおいしい。大満足だ。
「なんだか一気に静かになるな、テレビ。いつもの事だけど」
「チャンネル変えようか?」
他のチャンネルはもう少し賑やかなはずだ。バラエティや音楽番組がやっているのだと思う。新聞の番組表が頭に浮かぶだけで、具体的にどういう映像がテレビに流れるのかは知らないけれど。
「いい。こっちのが合ってる気がする。……去年も似たような話した気がするなあ」
呆れたような様子で彼は笑う。テレビ番組は毎年同じようなもので、それを見る僕らの会話も自然と同じものになってしまう。それでも物足りなさを感じないでいられるのは。
「ね、ハヤト」
窓の外では鐘の低い音が鳴り響く。部屋の空気も微かに震えている気がする。気のせいかもしれないけれど。
「なんだ?」
「あと何回ぐらい、こうやって一緒にこの番組見るのかなあ」
「あと……うーん、60回ぐらい? 平均寿命って何歳だっけ?」
最後にはおじいちゃんだなあ、とハヤトは笑う。意識をしているのか無意識なのかはわからないけれど、そんな年になるまで一緒にいるんだって思ってくれている事を確認して安心する。まだまだ不安な事だらけ。来年はどうなのだろう。一生こうやって彼の言葉の一つ一つに翻弄されるのかもしれない。でも、それならそれで悪くはないかと思ってしまう。
こたつの中で足を動かす。こつんと当たった彼の足を捕まえるように両足の先で挟み込む。
「うわ、なんだよ」
「ううん」
アナウンサーの静かな声が、今年がもう数秒で終わる事を告げている。湯のみを手に取り一口。画面の左上の数字が三つのゼロに変わるのを待って口を開く。
「好きだなあ、って思っただけ」
(END)
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