Who is your Santa Claus?
『サンタって、何ですか?』
きっかけはツクシのそんな言葉だった。
クリスマスなんてものを祝う習慣が僕の周りにはなかった。だから、ツクシがサンタを知らない、という事に驚きはしなかった。家にそういう……文化、だろうか、がなければ知らない事もあるだろう、と思っていた。
だけどハヤトはそうは思わなかったらしい。
『あのわくわくした感じを知らないなんて』
二人きりになった時。しみじみとそんな事を言うから、戸惑った。そんなにわくわくするものなのかい、と思わず問い掛けると、当然だろう、とでもいうような顔をされてしまった。
『でもあれって……その、親がプレゼントを置いているだけなんだろう?』
『まあ、そうなんだけど……。それでも特別なものは特別だよ』
懐かしそうに彼はそう言う。彼の家でこんな洋風な事が行われている、というのは意外だった。古風なイメージだし、実際そうだから。だけど、ハヤテさんならやるかもしれない。親馬鹿……いや、ハヤトを随分と可愛がっているようだったし。
ハヤトは何を欲しがるのだろう。尋ねてみて、父さん、なんて言われてしまったら僕にはどうしようもないから、聞かないけれど。
『なあ、マツバ』
『なんだい?』
彼は机に肘をつき、手の甲に顎を乗せた。
『……親以外のサンタって、おかしいかな』
「あの家だ。フワライド、よろしく」
フワライドはぷぐぐ、と声を上げて高度を落とす。
二階の辺りを漂い、窓の外から部屋の様子を伺う。エンジュから飛んできたから、もうすっかり暗闇に目が慣れてしまった。
「いた」
ハヤトが小さく声を上げる。布団から紫色の髪と、女の子みたいな顔が覗いている。
「寝てる……かな」
「多分大丈夫だと思うけど」
よし、と呟いて、彼は斜めに掛けた鞄の中から赤と緑のラインが入った紙袋を取り出す。
「喜んでくれるといいね」
「うん」
何を贈るかは二人で考えた。結構な時間を掛けて考えた末に、ウエストポーチを贈る事にした。虫眼鏡とか図鑑とか、いろいろと持ち歩くものが多いだろう、と思ったのだ。
お互いにプレゼントを選ぶ事なんてほとんどなかったから、喜んでもらえるかどうかは今ひとつ自信がないのだが。
「あ、ところでハヤト」
「ん?」
プレゼントを見下ろして何事か考え込んでいる様子の彼に声を掛ける。
「……どこから入る?」
今は夜中。日付が変わってもうすぐ二時間。常識的に考えて、窓の鍵は閉まっているだろう。
「あー、えっと」
彼はフワライドの上から身を乗り出し、一階の様子を伺う。電気は消えている。という事はツクシの両親はもう眠っているのだろう。事情を話して家に入れてもらうという訳にもいかない。
「……どうしようか」
この可能性をすっかり忘れていた。二人とも。額を付き合わせ、唸りながら考える。……クリスマスの夜に男二人がフワライドの上で額を付き合わせているなんて、考えてみればひどい状況じゃないか、なんてくだらない事を考えた。
ツクシの部屋を覗きながら、困ったなぁ、と彼は言う。困ったねぇ、と返しながら、僕も一緒に覗き込む。
ふと、枕元に何かが置いてある事に気付いた。
「フワライド、もうちょっとだけ窓に寄って」
少し窓に寄った所で、枕元に置かれているものの正体を確信した。
「ハヤト」
「何だ?」
「窓、多分開いてる」
え、と声を上げ、彼は窓に手を伸ばす。指先がなんとか届いた。その手を左に引くと、窓が開く。ハヤトよりも僕よりも早く、その光景を見たフワライドが鳴き声を上げた。
「本当だ。どうして」
「あれ」
僕は部屋の中、ツクシの枕元を指差す。
枕元には、色とりどりの包装紙に包まれたプレゼントがいくつもいくつも置かれていた。
「なるほど、ね」
物音を立てないように気をつけながら部屋に入る。プレゼントの数を数えてみる。……五つ。どうやら僕らは最後のサンタクロースのようだ。
枕元にそっとプレゼントを置く。ツクシの幼い寝顔を見ながら、そういえばこの子はまだ子供だった、と思う。年齢の割にしっかりしている、というか、下手をしたらこちらの方が子供なのではないかと思えるほどにきちんとした子だから、つい忘れていた。
「おやすみ」
ハヤトがそう囁いて、ツクシの頭をそっと撫でる。その表情は、いつもよりも少しだけ大人びて見えた。
「それじゃあ、起こす前に行こうか」
外に出て、フワライドに乗る。最後に窓を静かに閉めた。
僕らが乗ったのを確かめると、フワライドはふわりと高度を上げる。気がつけばヒワダタウンが全部見下ろせる高さだ。
「サンタの仕事に必死ですっかり忘れてたけど、寒いね」
「そうだな」
彼は両手に息を吐きかける。僕は首を竦める。
エンジュに向かってゆっくりと飛んでいく。森の上空を通り、コガネへ差し掛かる。もうすっかり夜は更けているけれど、コガネの街はまだ明るい。イルミネーションがちらちらと光っている。
「コガネはやっぱり賑やかだな」
僕に背中を向けて、コガネを見下ろす。
「キキョウはどうなの? あんまり飾りつけとかしない?」
「うん。景観に合わない、って嫌う人も多いからな。……でもあんなに綺麗なら、一度ぐらいやってみてもいいかもしれない」
相変わらずイルミネーションを見つめたままで彼は呟いた。寒いのか、肩が少し震えていた。
後ろから抱き寄せる。思った通り、体は冷えている。僕も同じだけど。
「マ、ツバ」
彼はぎこちなく僕の名前を呼ぶ。それには応えず、ただ黙っていた。
煌びやかなイルミネーションの上を通り過ぎた頃、ハヤトが口を開いた。
「あの、さ、マツバ」
「何?」
「俺、プレゼント選ぶ……センスっていうのか? そういうの、全然ないんだけど」
「うん」
「だけど、その」
僕の腕の中で体を捻る。顔を上げて、僕の目を少し不安そうに見つめた。
「マツバのために選んだ、って言ったら、もらってくれるか?」
腕に力を込める。思わず頬に口付けて、耳元で囁いた。
「ハヤトがくれるものなら、喜んで」
彼は恥ずかしそうに笑った。鞄の中から、ツクシへのプレゼントとは違う柄の包装紙で包まれた……。
「温かそうなの見付けたから」
白い、ふわふわとしたマフラー。それを僕の首に巻いてくれた。
「ちょっと可愛すぎたかな」
「そんな事ないよ。……すごく温かい。ありがとう、ハヤト」
「どういたしまして」
頬を染めてそう応える彼の手を取った。
「僕からも」
華奢な手に、濃紺の手袋をはめる。色はどれがいいか、と迷った末にこの色を選んだ。間違ってはいなかったみたいだ。
「温かい?」
「うん。マツバ、ありがとう」
大事にするよ、と言ってくれた。幸せそうに笑う彼を見て、時間が止まってしまえばいい、と強く願った。
(END)
きっかけはツクシのそんな言葉だった。
クリスマスなんてものを祝う習慣が僕の周りにはなかった。だから、ツクシがサンタを知らない、という事に驚きはしなかった。家にそういう……文化、だろうか、がなければ知らない事もあるだろう、と思っていた。
だけどハヤトはそうは思わなかったらしい。
『あのわくわくした感じを知らないなんて』
二人きりになった時。しみじみとそんな事を言うから、戸惑った。そんなにわくわくするものなのかい、と思わず問い掛けると、当然だろう、とでもいうような顔をされてしまった。
『でもあれって……その、親がプレゼントを置いているだけなんだろう?』
『まあ、そうなんだけど……。それでも特別なものは特別だよ』
懐かしそうに彼はそう言う。彼の家でこんな洋風な事が行われている、というのは意外だった。古風なイメージだし、実際そうだから。だけど、ハヤテさんならやるかもしれない。親馬鹿……いや、ハヤトを随分と可愛がっているようだったし。
ハヤトは何を欲しがるのだろう。尋ねてみて、父さん、なんて言われてしまったら僕にはどうしようもないから、聞かないけれど。
『なあ、マツバ』
『なんだい?』
彼は机に肘をつき、手の甲に顎を乗せた。
『……親以外のサンタって、おかしいかな』
「あの家だ。フワライド、よろしく」
フワライドはぷぐぐ、と声を上げて高度を落とす。
二階の辺りを漂い、窓の外から部屋の様子を伺う。エンジュから飛んできたから、もうすっかり暗闇に目が慣れてしまった。
「いた」
ハヤトが小さく声を上げる。布団から紫色の髪と、女の子みたいな顔が覗いている。
「寝てる……かな」
「多分大丈夫だと思うけど」
よし、と呟いて、彼は斜めに掛けた鞄の中から赤と緑のラインが入った紙袋を取り出す。
「喜んでくれるといいね」
「うん」
何を贈るかは二人で考えた。結構な時間を掛けて考えた末に、ウエストポーチを贈る事にした。虫眼鏡とか図鑑とか、いろいろと持ち歩くものが多いだろう、と思ったのだ。
お互いにプレゼントを選ぶ事なんてほとんどなかったから、喜んでもらえるかどうかは今ひとつ自信がないのだが。
「あ、ところでハヤト」
「ん?」
プレゼントを見下ろして何事か考え込んでいる様子の彼に声を掛ける。
「……どこから入る?」
今は夜中。日付が変わってもうすぐ二時間。常識的に考えて、窓の鍵は閉まっているだろう。
「あー、えっと」
彼はフワライドの上から身を乗り出し、一階の様子を伺う。電気は消えている。という事はツクシの両親はもう眠っているのだろう。事情を話して家に入れてもらうという訳にもいかない。
「……どうしようか」
この可能性をすっかり忘れていた。二人とも。額を付き合わせ、唸りながら考える。……クリスマスの夜に男二人がフワライドの上で額を付き合わせているなんて、考えてみればひどい状況じゃないか、なんてくだらない事を考えた。
ツクシの部屋を覗きながら、困ったなぁ、と彼は言う。困ったねぇ、と返しながら、僕も一緒に覗き込む。
ふと、枕元に何かが置いてある事に気付いた。
「フワライド、もうちょっとだけ窓に寄って」
少し窓に寄った所で、枕元に置かれているものの正体を確信した。
「ハヤト」
「何だ?」
「窓、多分開いてる」
え、と声を上げ、彼は窓に手を伸ばす。指先がなんとか届いた。その手を左に引くと、窓が開く。ハヤトよりも僕よりも早く、その光景を見たフワライドが鳴き声を上げた。
「本当だ。どうして」
「あれ」
僕は部屋の中、ツクシの枕元を指差す。
枕元には、色とりどりの包装紙に包まれたプレゼントがいくつもいくつも置かれていた。
「なるほど、ね」
物音を立てないように気をつけながら部屋に入る。プレゼントの数を数えてみる。……五つ。どうやら僕らは最後のサンタクロースのようだ。
枕元にそっとプレゼントを置く。ツクシの幼い寝顔を見ながら、そういえばこの子はまだ子供だった、と思う。年齢の割にしっかりしている、というか、下手をしたらこちらの方が子供なのではないかと思えるほどにきちんとした子だから、つい忘れていた。
「おやすみ」
ハヤトがそう囁いて、ツクシの頭をそっと撫でる。その表情は、いつもよりも少しだけ大人びて見えた。
「それじゃあ、起こす前に行こうか」
外に出て、フワライドに乗る。最後に窓を静かに閉めた。
僕らが乗ったのを確かめると、フワライドはふわりと高度を上げる。気がつけばヒワダタウンが全部見下ろせる高さだ。
「サンタの仕事に必死ですっかり忘れてたけど、寒いね」
「そうだな」
彼は両手に息を吐きかける。僕は首を竦める。
エンジュに向かってゆっくりと飛んでいく。森の上空を通り、コガネへ差し掛かる。もうすっかり夜は更けているけれど、コガネの街はまだ明るい。イルミネーションがちらちらと光っている。
「コガネはやっぱり賑やかだな」
僕に背中を向けて、コガネを見下ろす。
「キキョウはどうなの? あんまり飾りつけとかしない?」
「うん。景観に合わない、って嫌う人も多いからな。……でもあんなに綺麗なら、一度ぐらいやってみてもいいかもしれない」
相変わらずイルミネーションを見つめたままで彼は呟いた。寒いのか、肩が少し震えていた。
後ろから抱き寄せる。思った通り、体は冷えている。僕も同じだけど。
「マ、ツバ」
彼はぎこちなく僕の名前を呼ぶ。それには応えず、ただ黙っていた。
煌びやかなイルミネーションの上を通り過ぎた頃、ハヤトが口を開いた。
「あの、さ、マツバ」
「何?」
「俺、プレゼント選ぶ……センスっていうのか? そういうの、全然ないんだけど」
「うん」
「だけど、その」
僕の腕の中で体を捻る。顔を上げて、僕の目を少し不安そうに見つめた。
「マツバのために選んだ、って言ったら、もらってくれるか?」
腕に力を込める。思わず頬に口付けて、耳元で囁いた。
「ハヤトがくれるものなら、喜んで」
彼は恥ずかしそうに笑った。鞄の中から、ツクシへのプレゼントとは違う柄の包装紙で包まれた……。
「温かそうなの見付けたから」
白い、ふわふわとしたマフラー。それを僕の首に巻いてくれた。
「ちょっと可愛すぎたかな」
「そんな事ないよ。……すごく温かい。ありがとう、ハヤト」
「どういたしまして」
頬を染めてそう応える彼の手を取った。
「僕からも」
華奢な手に、濃紺の手袋をはめる。色はどれがいいか、と迷った末にこの色を選んだ。間違ってはいなかったみたいだ。
「温かい?」
「うん。マツバ、ありがとう」
大事にするよ、と言ってくれた。幸せそうに笑う彼を見て、時間が止まってしまえばいい、と強く願った。
(END)
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