ぶさいくかぼちゃ

 10月はもうすぐ終わる。どこに出掛けても、口の端を上げてにやりと笑うカボチャが並んでいる。

「変なカボチャ……」

 誰にともなく呟く。ハロウィン、だったか。僕にはあまり縁のないイベントだ。そりゃあ、カボチャの周りに置かれているゴーストポケモンの人形は可愛いけれど。

「ゲンガー、帰るよ」

 カボチャを見つめたまま動かないゲンガーに声を掛ける。ゲンガーは僕を見上げた。


「……それで、作る事にしたわけか」

 親馬鹿だなぁ、と彼は言う。

「あんなにキラキラした目で見つめられたら、準備しないわけにはいかないよ……」

 スプーンでカボチャの中身をくりぬいていく。思ったほど硬くはないが、やっぱり少し手が疲れる。ハヤトも同じなのか、たまに手をぶんぶんと振る。

「ごめんね、付き合わせちゃって」
「いや、別に。持って帰ったらポッポたちも喜ぶかもしれないし」

 ハヤトだって親馬鹿じゃないか、と言うと、むっとした顔をした。だけど反論はしてこない。

「それにしても、あのカボチャのどこがいいんだろう」

 店先のカボチャを思い出す。三角の目にギザギザの口。笑っているのか何なのか。口角が上がっているから笑っているのだろうとは思うけれど。

「まあ、愛嬌がある顔といえばそうかもしれないなぁ……」
「愛嬌……あるかなぁ?」
「俺は結構可愛いと思うけど」

 そう言うと彼はまぶたに指を当て、押し上げた。あのカボチャの目のつもりだろうか。

「うーん、ちょっと怖い」
「こ、怖いか」

 そうか、と呟くと彼はカボチャをくりぬく作業に戻る。その姿がなんだかしょんぼりとしているように見えて、申し訳ない気分になった。
 だけど、悪いけれど、さっきのハヤトの顔はやっぱり怖かったのだ。仕方ない。

「ところで、どれくらいの厚さにすればいいんだ?」

 カボチャを覗き込みながら彼は言う。僕も彼の手元のカボチャを覗き込んだ。

「あとは目と口を開けるだけだから……、こんな感じでいいんじゃないかな」
「目と口?」
「うん。ペンで下書きしてから、ナイフで穴を開けて完成」

 筆立てから油性ペンを取り出して渡す。彼はカボチャに顔を描き始め、僕はまたカボチャの中身と格闘する。

「えっと、目は三角だったよな」
「そうそう」

 三角、と言いながら彼はペンを滑らせる。きゅ、きゅ、と音がする。

「それから、口」
「うん。僕が見たのは、上がギザギザで下は曲線だったと思う」

 ギザギザと曲線、と呟く。またペンの音がした。

「こんな感じか?」

 ハヤトはカボチャをくるりと回す。三角の目にギザギザの口。それに間違いはなかった。
 だけど、思わず噴き出してしまったのは仕方がない。
 何が問題なのだろうか。まず、目の高さがずれているのがいけないと思う。左目が高い。右目が低い。しかも微妙に三角形が歪んでいる。そして小さい。
 それから口だ。目と比べると明らかに大きい。笑った形をしているという点に異論は全くないが、何故か左下がりになっている。こちらも形が歪んでいる。
 総じていえば……バランスが悪い。

「じ、じわじわくる……」

 唇を噛み、お腹を抱えて笑いを堪える僕を、ハヤトは不思議そうな顔で見ている。

「何がおかしいんだ?」

 怪訝な表情でカボチャを確認する。少し経ってから、あっ、と声が聞こえた。
 気付いてくれたのか、と顔を上げる。すると彼は、謎が解けた、とばかりの明るい表情で手を打ち鳴らした。

「鼻を描き忘れてた!」


「そんなに笑う事ないんじゃないのか」

 ハヤトは不機嫌そうに頬を膨らませる。その表情を見てまた笑ってしまう。

「だから、笑うな」
「だって、ハヤトが悪いよ」

 鼻を描いた事でさらにひどい顔になったカボチャを見つめて、彼は溜め息をついた。

「絵を描く事なんて今までほとんどなかったんだから仕方ないだろ」
「そうなの?」
「外で遊ぶ方が好きだったから」

 なるほど、と答える。それなら仕方がないかもしれない。

「マツバはよく描いてたのか?」

 僕が描いたカボチャの顔を見て、不公平だ、というような顔をする。

「昔はね。ミナキ君が絵を描くの好きだったから」
「ミナキさんは絵を描くのがうまいのか?」
「そうでもないよ」

 ハヤトと同じぐらいのレベルかな、という言葉はなんとか飲み込んだ。

「スイクンだけはうまく描けるけど、それ以外は全然」
「なるほど……」
「さて、あとは顔を作るだけ。僕はもう彫っていくつもりだけど、ハヤトは? 描き直す?」
「うーん、彫りながら調整していく」

 ナイフを手に取る。丸い目が二つとバツ印の口。普通の顔ではつまらないか、と思い、フワライドの顔にしてみた。

「おっと」

 丸く切るのはなかなか難しい。少しずつ丁寧に、がコツ……なのだろう。そろそろとナイフを入れていく。時々ハヤトが、あっ、とか、うわっ、と声を上げているのが聞こえた。
 なんとか目を完成させ、ふう、と溜め息をつく。ふとハヤトの方を見ると、彼はそれはもう真剣な顔でカボチャと見つめ合っていた。
 休憩ついでに観察してみる。眉間に思い切り皺を寄せて、口をきゅっと引き結んでナイフを握っている。

「ハヤト、目が悪くなるよ」

 眉間をつつくと、彼はびくりと体を震わせる。どうやら驚かせてしまったらしい。

「痛っ」
「わ、ごめん。大丈夫?」

 驚いた拍子に手を滑らせて切ったようだ。ナイフを机に置き、人差し指を眺めている。

「大丈夫。血は出てないみたい」
「それならいいけど」

 ひどい傷ではないようだ。だけど痛みはするようで、親指で傷のあたりを押さえている。

「はい、絆創膏」

 薬箱から取り出した絆創膏を渡す。

「たいした怪我じゃないから平気」
「でも、痛いんでしょ?」

 指見せて、と言えば大人しく指を差し出す。うっすらとできた傷に絆創膏を貼ってやる。

「ハヤトの手、温かいね」
「そうかな」
「うん」

 軽く握るとおずおずと握り返してくる。こういう所が可愛くて仕方ないのだ。

「あとどれぐらいで完成?」
「口を開ければ出来上がりだよ」

 繋いでいない方の手を使ってカボチャを見せてくれた。
 僕がまた笑いを堪えきれなくなって、怒ったハヤトが僕の手を握り潰そうとするまで、あと1秒。

(END)
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