海のワルツ
いち、に、さん。いち、に、さん。書き物をする彼の鼻歌に合わせて、心の中で数える。三拍子のその曲には聞き覚えがあった。
机の上に置かれた透明な青色の箱を手に取り、蓋を開ける。箱の外の螺子を回すと、二羽のキャモメがゆっくりと回る。オルゴールの音に合わせて、彼の鼻歌に合わせて。
音に気付いたのか、彼はこちらを見た。はっとした表情を浮かべ、慌てて俯くと、手に持ったボールペンのペン先を落ち着きなく動かす。
「この曲、気に入ってくれた?」
「……うん。曲は、好き」
その言い回しに、このオルゴールを渡した時の事を思い出す。ゼンマイが切れて音が止まるまで、目を丸くして、わずかに口を開けて、呆けたような表情を浮かべていた。それから口元をわずかに緩める。その一連の表情の動きを、きっと僕も呆けた顔で見ていたのだろう。可憐な、なんて男の子に使ってはいけない言葉だろうけれど、そんな言葉がぴったりな表情だった。
だけどそれも一瞬。すぐに口元を引き締め、眉を上げる。
『俺、女の子じゃないんだよ』
そう怒られてしまって、僕は少し落ち込んだりもした。
だけど今日彼が歌っているのを聞いて、覚えるぐらい聞いてくれたのだと思った。なんだかんだ言って気に入ってくれたのかな、と。そうだったら嬉しいなあ、と。
「聞いてると、なんだか落ち着く」
曲が止まった。ボールペンを机に置いて、彼はまた螺子を回す。ころころとオルゴールは歌う。キャモメたちはまた回り出す。箱の表面に刻まれた波模様を指でなぞりながら、彼は言った。
「その、この、箱もいいよな。可愛すぎるって事もないし、さ」
ぎこちなく紡がれる言葉。優しく箱を撫でる指。……ああ、そうか。
「オルゴールのプレゼントなんて、俺には似合わないけど。だけど、その」
オルゴールを抱えるように引き寄せる。のんびりと踊るキャモメたちを眺めて、彼は照れくさそうに微笑んだ。
「……ありがとう」
(END)
机の上に置かれた透明な青色の箱を手に取り、蓋を開ける。箱の外の螺子を回すと、二羽のキャモメがゆっくりと回る。オルゴールの音に合わせて、彼の鼻歌に合わせて。
音に気付いたのか、彼はこちらを見た。はっとした表情を浮かべ、慌てて俯くと、手に持ったボールペンのペン先を落ち着きなく動かす。
「この曲、気に入ってくれた?」
「……うん。曲は、好き」
その言い回しに、このオルゴールを渡した時の事を思い出す。ゼンマイが切れて音が止まるまで、目を丸くして、わずかに口を開けて、呆けたような表情を浮かべていた。それから口元をわずかに緩める。その一連の表情の動きを、きっと僕も呆けた顔で見ていたのだろう。可憐な、なんて男の子に使ってはいけない言葉だろうけれど、そんな言葉がぴったりな表情だった。
だけどそれも一瞬。すぐに口元を引き締め、眉を上げる。
『俺、女の子じゃないんだよ』
そう怒られてしまって、僕は少し落ち込んだりもした。
だけど今日彼が歌っているのを聞いて、覚えるぐらい聞いてくれたのだと思った。なんだかんだ言って気に入ってくれたのかな、と。そうだったら嬉しいなあ、と。
「聞いてると、なんだか落ち着く」
曲が止まった。ボールペンを机に置いて、彼はまた螺子を回す。ころころとオルゴールは歌う。キャモメたちはまた回り出す。箱の表面に刻まれた波模様を指でなぞりながら、彼は言った。
「その、この、箱もいいよな。可愛すぎるって事もないし、さ」
ぎこちなく紡がれる言葉。優しく箱を撫でる指。……ああ、そうか。
「オルゴールのプレゼントなんて、俺には似合わないけど。だけど、その」
オルゴールを抱えるように引き寄せる。のんびりと踊るキャモメたちを眺めて、彼は照れくさそうに微笑んだ。
「……ありがとう」
(END)
1/1ページ