Episode 1
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Episode2「Uber peace①」
各寮につながる鏡の間へ二人はやって来た。目的はただ一つ。両腕いっぱいに抱えている季節の花々を、其々の寮へお届けするためだ。
「最初はどこにすんの?」
随分と高いところから声をかけられ、綾鷹は見上げるようにして返事する。
「ポムフィオーレよ。あそこには毎月届けているから。」
初耳である。と言うようにフロイドは片眉をあげた。
”美しき女王の奮励の精神に基づく寮”であるポムフィオーレ寮は、その志の通り美意識の高い生徒たちが多く所属している。寮長を務めるヴィル・シェーンハイトは正に、美意識の塊とも言える人物で、学生ながらにして、この世界のインフルエンサー的存在でもあった。彼以外に、この寮を率いることが出来る人物はいない。
「ベタちゃん先輩のとこかあ。……なんか納得。」
「ふふふ。向こうの談話室、すっごく豪華なのよ。どこかの王宮に迷い込んだみたいな気分になるわ。それに、生けた花も小まめに世話してくれているみたいで、いつも長く綺麗なままなの。」
誰が用意したとも分からない花を、律儀にも水を変え、程よく日光が当たる場所に置いてくれる。それを綾鷹はいつも嬉しく思っていた。だから、その感謝の意味も込めて、毎月欠かさずポムフィオーレ寮には足を運んでいる。
「……なぁんか妬ける。俺たちの所には来てくんないの?」
ボソリ、とフロイドが拗ねたように呟いた。慌てて綾鷹はフォローする。
「後でちゃんとオクタヴィネル寮にも行くわ。もちろん、フロイドが苦手なラベンダーは抜いておくから心配しないで。」
「本当?約束だよっ。」
途端に機嫌を直したようで、ほっと胸を撫で下ろした。ルンルンと鼻歌を歌いそうな勢いでポムフィオーレ寮へと続く鏡に入って行く大きな背中に、綾鷹は苦笑しながらついて行く。
「もっしもーし。誰かいるぅ?」
談話室へとつながる廊下からヒョッコリと頭を出して、部屋の中を確認する。そんなフロイドの背後から綾鷹も様子を伺った。
「どう?誰か居そうかしら?」
「うーん、多分平気!誰も居ないよ。」
その言葉を信じて、恐る恐る談話室の中へと足を踏み入れる。キョロキョロと辺りを見渡し、何かを探し始めた。
「何探してんの?」
「花瓶よ。いつも使ってるモノがこの辺りにあるはずなんだけど……あっ!あったわ。」
視線を彼女の言う方向へ向けると、白を基調とした大きな花瓶があった。やはり、良い具合に日の当たる場所へと移動されている。
「まだ綺麗に咲いているのね。」
どっしりとした立派な花瓶の中には、先月彼女が生けたチューリップが生き生きと咲いていた。多少茎が細くなっている気もするが、許容範囲内。目で愛でる程度であれば問題ない。感心のため息がついつい漏れる。
「あ!オレこの花知ってる。チューリップでしょ?」
「そうよ!正解。フロイドよく知ってるわね!嬉しいわ。」
褒めて褒めて、と嬉しさを微塵も隠そうとしないフロイドを、綾鷹も全力で褒めた。
一頻り頭を撫で続けたところで、早速、花の入れ替えを行う。いつもは一人で準備から片付けまでやるのだが、今回は心強い助っ人も一緒だ。綾鷹の身長よりも、ちょっと低い位置にある花瓶の口から古い花を取り出す作業を、今回は背の高いフロイドに任せることにした。
「チューリップはこっちの新聞紙の上においてちょうだい。」
「わかった。けど、これどおすんの?捨てるの?」
真っ赤な色が未だ美しい花々を、指示された場所へと素直に並べながら、フロイドが尋ねる。
「そうねえ。押し花にして、栞を作ろうかしら。」
「栞?クマノミちゃん本読むの?」
「ええ。人並みにはね。フロイドは読書好き?」
「きらーい。」
予想通りの即答でついつい笑ってしまった。
「けど、クマノミちゃんが読むんなら、オレも読んでみよっかな。ね、だからオレにも作ってよ!」
おや、意外。今の流れの中で、何が彼の興味を引いたのだろうか。数回瞬きを繰り返して考える。けれど、それらしきヒントは見当たらない。良いわよ。と断る理由もなかったから、栞のプレゼントを約束した。