Episode 0
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Episode 0 「Seven wonders ③」
それから、また30分ほど時間が過ぎた。グリムとジャックはもう瀕死である。文句を言う気力も無いようで、グリムに関してはユウの服の中に頭を突っ込んだまま、ピクリとも動かなくなってしまった。なけなしの気遣いで、はみ出たお尻を軽く撫でてやる。エースとデュースの顔にも諦めの色が見え始めていた。やっぱり七不思議とか言うものは作りばなしの類だったんだ。
「……現れねえなあ。」
「そうだねえ。」
「やはり、噂にすぎなかったのか……。」
まだ元気の残る3人で肩を落とす。エースに関しては不満そうな表情だ。きっと騙された気分にでもなっているのだろう。幸にして明日は週末。いつもより夜更かしをしても、これといった支障は出ない。まあ、今回のイベントが無駄足だったことを除けば。この調子だと、そのまま解散となりそうだ。
「畜生。あのおっさん、俺たちをおちょくりやがって……。自分はぐうすか壁で寝てらあ。」
「あのおっさんって、朝言ってた絵画の?」
「おう。ぜってえ馬鹿にされた。」
ギリギリと歯軋りの音がここまで聞こえてきそうだ。彼が意外と根に持つタイプだったのを忘れていた。
「もうそろそろ2時間くらいか。」
デュースが二の腕たりを軽く摩りながら時間を確認する。6月と言えども、今夜は少し肌寒い。もうそんなに経っていたのか。目の前にある西校舎の廊下には、何一つ変わった様子はなかった。ここまで来ておいて収穫は0。そう残念がっていたところで、ふと思いつく。
「ねえ、エース。」
「あ。なんだよ。」
「その西校舎の美女が現れる条件って、新月の夜ってダケかな?」
ユウの言葉を聞いて、エースはうーんと考えた。
「予兆みたいものがあるんじゃねえか、ってことか?」
うん、と頷く。
「いいやあ、俺はただ”新月の夜”ってしか聞いてねえ。」
「お前、たったそれだけの情報で待ち伏せしようって誘ったのかよ。」
デュースが呆れたように言った。確かに、不確定要素が多すぎる。大方、情報を入手した数日後が丁度新月だったから、特に深く考えもせず行動に移したのだろう。なんとも彼らしい。今回ばかりは返す言葉もないようで、膨れっ面で黙っている。
「っっっっだあ!悪かったよ。無駄足踏ませて。」
「あはは、こんなことも偶にはあるさ。今回は運が無かっただけだよ。」
心優しい監督生。彼女の言葉を聞いて、荒んだ心が気持ち穏やかになったようで、エースは軽くため息を吐いた。
「本当に悪りい。こんな夜遅くまで付き合わせちまって。」
「オンボロ寮まで送ろう。」
ヤンチャで問題生産機の彼らを嫌いになれない理由は、こう言う細かな気遣いを何でもない顔でサラリとやってしまうところだ。身に染みるレディーファースト。日本じゃあなかなかお目にかかれないくらいスマートだ。
「うん。ありがとう。」
素直に彼らの気遣いを享受する。
我等の長い長い夜もやっと終わりを告げる。さあ帰ろうか、と腰を上げたところで、今まで撃沈していたジャックが徐に顔をあげた。
「ジャック、どうしたの?」
ジャックの変化に、他の二人も不思議そうにこちらを見た。その間、ジャックはクンクンと辺りの匂いを真剣に嗅ぐ。
「どうしたんだ?」
「さあ……。」
彼の突然の行動に顔を見合わせた。クルクルと緩やかに自転しながら、辺りの空気に集中していたジャックが、ある方角をむいて止まる。
「……メスの匂いがする。」
「えっ!」
「何だって!」
すかさずエースが飛びついた。
「本当か!ユウの匂いと間違ってないだろうな?」
「ちょっとエース!」
「スンスンスンスン……、いや、似てるけど違う匂いだ。」
ここに来てまさかの新展開。諦めかけた矢先の出来事である。
「で、どこから匂うんだ?」
「……こっちだ!」
沈んだ空気は一変。4人は隠れていた草陰から勢いよく飛び出し、暗い廊下を走り抜けた。