Episode 2
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Episode2「Sleeping Lion④」
日常は非情にも過ぎていく。
レオナの怪我は、何事もなかったかのように完治していった。ただあの夜以来、例の女は毎夜のようにレオナの思考を支配する。
あの女は、一体誰なのか。
あの女は、どこに住んでいるのか。
あの女は、学園長の何なのか。
よく思い出してみると、彼女はまだ若かった。もしかしたら、自身とそんなに離れていないのかもしれない。それなら妻や愛人ではなく、娘の可能性もーー。
そこまで考えて、レオナはハッと意識を取り戻す。近頃は今のように思考を無理やり止めることも多くなった。このままではダメだ、と自身に言い聞かせる。
彼のこれまでの人生において、物に執着することは命に関わることだった。盲目は悲劇を呼ぶ。幼い頃から常に自分へ言い聞かせ、自分を守ってきた術である。
しかし今、レオナは「例の女」に執心している。それは正に己が恐れていたことだ。女を考えれば考えるほど自分が弱くなる気がして、レオナは何度も振り払おうと試みた。けれども、まるで取り憑かれたかのように例の女は脳裏にこびり付く。彼の中には恐怖に似た焦燥が生まれていた。
あの女を探そう。そして文句の1つでも言ってやるーー。
女の呪縛から逃れるため、レオナはついに決心した。
後日、ライオンは再び人目を避けて道なき道を進む。
「確か、こっちだったか……。」
あの木はさっきも見たような…。いや、でもこんな坂道じゃなかったはず……。
嗚呼、こんな事になるのなら目印の1つでも付けておくのだった。後悔先に立たず。いくら手負いだったからとは言え、ここまで覚えがないとは。誰かに見られるわけでもないが、レオナはグッと舌打ちを抑えた。
微かな記憶を頼りに足を動かし、やっとのことで見慣れたような気がする景色に辿り着く。
「……ここ、か?」
果たして、ここがあの女と出会った場所であるか。残念ながら、レオナにはそれを確かめる術は無い。
仕方なくあの日と同じように芝へ身を委ねる。遥か高く続く空を目の前に静かに瞳を閉じると、人よりも数倍優れた両耳に神経を集めた。
また、あの車輪の音でも聞こえてくれたら……。
そんな都合のいい願いは虚しく、何も聞こえない。それどころか、この世界でたった一人残されてしまったと勘違いするほど、人はおろか生き物の気配さえ感じられなかった。無情にもレオナを撫でるように風が吹く。
いや、ここで諦めるには早い…、歩いて探そうーー。
よし、と小さく呟くと、レオナは体を起こし再び歩きはじめた。
「嘘だろ。」
レオナは目の前に広がる光景に、思わず絶句をこぼした。彼の手はこの美しき学舎と外界とを区切るフェンスを力強く握っている。これはつまり、ナイトレイブンカレッジの端まで辿り着いたことを意味していた。少し目を凝らすと麓の街が見える。
「何でだ……、庭園どころか人ひとりすら見当たらねえ…。」
ここまで辿り着く間、どんな小さな気配も見逃しはしない、とレオナは全神経を使って進んできた。しかし、行き着いた先は、彼が求めていた景色ではない。それどころか、獣道1つ見当たらない周囲に、レオナは思わず頭を抱える。
「そうだ! ここはきっとあの場所とクソ程そっくりな別の場所だ。きっとそうだ! そうに違いねえ!」
はははっ!とレオナの乾いた笑いは、周りの草木に溶け込むようにして消えていく。もちろん、彼の声に応えるモノはいない。
何故だ。一体どうなっているんだ。ここがナイトレイブンカレッジだからか? それとも俺は、初めから妖精か何かに化かされていたのか?
「…くそッ……なんでーー。」
なんで何もかも上手くいかない。俺が一体、何をしたって言うんだ。
俺が、恐ろしい魔法の使い手だから?
俺が、都合の悪い第二王子だから?
俺が、上手く人と付き合えないからか?
俺がーー
俺が、誰からも望まれない存在だから?
それは一瞬の出来事であった。突然の突風がレオナの側を通り抜ける。
そして、1匹の悲しきライオンは光と共に姿を消した。
日常は非情にも過ぎていく。
レオナの怪我は、何事もなかったかのように完治していった。ただあの夜以来、例の女は毎夜のようにレオナの思考を支配する。
あの女は、一体誰なのか。
あの女は、どこに住んでいるのか。
あの女は、学園長の何なのか。
よく思い出してみると、彼女はまだ若かった。もしかしたら、自身とそんなに離れていないのかもしれない。それなら妻や愛人ではなく、娘の可能性もーー。
そこまで考えて、レオナはハッと意識を取り戻す。近頃は今のように思考を無理やり止めることも多くなった。このままではダメだ、と自身に言い聞かせる。
彼のこれまでの人生において、物に執着することは命に関わることだった。盲目は悲劇を呼ぶ。幼い頃から常に自分へ言い聞かせ、自分を守ってきた術である。
しかし今、レオナは「例の女」に執心している。それは正に己が恐れていたことだ。女を考えれば考えるほど自分が弱くなる気がして、レオナは何度も振り払おうと試みた。けれども、まるで取り憑かれたかのように例の女は脳裏にこびり付く。彼の中には恐怖に似た焦燥が生まれていた。
あの女を探そう。そして文句の1つでも言ってやるーー。
女の呪縛から逃れるため、レオナはついに決心した。
後日、ライオンは再び人目を避けて道なき道を進む。
「確か、こっちだったか……。」
あの木はさっきも見たような…。いや、でもこんな坂道じゃなかったはず……。
嗚呼、こんな事になるのなら目印の1つでも付けておくのだった。後悔先に立たず。いくら手負いだったからとは言え、ここまで覚えがないとは。誰かに見られるわけでもないが、レオナはグッと舌打ちを抑えた。
微かな記憶を頼りに足を動かし、やっとのことで見慣れたような気がする景色に辿り着く。
「……ここ、か?」
果たして、ここがあの女と出会った場所であるか。残念ながら、レオナにはそれを確かめる術は無い。
仕方なくあの日と同じように芝へ身を委ねる。遥か高く続く空を目の前に静かに瞳を閉じると、人よりも数倍優れた両耳に神経を集めた。
また、あの車輪の音でも聞こえてくれたら……。
そんな都合のいい願いは虚しく、何も聞こえない。それどころか、この世界でたった一人残されてしまったと勘違いするほど、人はおろか生き物の気配さえ感じられなかった。無情にもレオナを撫でるように風が吹く。
いや、ここで諦めるには早い…、歩いて探そうーー。
よし、と小さく呟くと、レオナは体を起こし再び歩きはじめた。
「嘘だろ。」
レオナは目の前に広がる光景に、思わず絶句をこぼした。彼の手はこの美しき学舎と外界とを区切るフェンスを力強く握っている。これはつまり、ナイトレイブンカレッジの端まで辿り着いたことを意味していた。少し目を凝らすと麓の街が見える。
「何でだ……、庭園どころか人ひとりすら見当たらねえ…。」
ここまで辿り着く間、どんな小さな気配も見逃しはしない、とレオナは全神経を使って進んできた。しかし、行き着いた先は、彼が求めていた景色ではない。それどころか、獣道1つ見当たらない周囲に、レオナは思わず頭を抱える。
「そうだ! ここはきっとあの場所とクソ程そっくりな別の場所だ。きっとそうだ! そうに違いねえ!」
はははっ!とレオナの乾いた笑いは、周りの草木に溶け込むようにして消えていく。もちろん、彼の声に応えるモノはいない。
何故だ。一体どうなっているんだ。ここがナイトレイブンカレッジだからか? それとも俺は、初めから妖精か何かに化かされていたのか?
「…くそッ……なんでーー。」
なんで何もかも上手くいかない。俺が一体、何をしたって言うんだ。
俺が、恐ろしい魔法の使い手だから?
俺が、都合の悪い第二王子だから?
俺が、上手く人と付き合えないからか?
俺がーー
俺が、誰からも望まれない存在だから?
それは一瞬の出来事であった。突然の突風がレオナの側を通り抜ける。
そして、1匹の悲しきライオンは光と共に姿を消した。
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