Episode2「Sleeping Lion③」


泥沼化したレオナの推理は、一向に出口を見出せないでいた。
カラス野郎とこの女の関係は何なのか。目の前の女は、当然かのように学園の空気に馴染んでいる。レオナが考えるよりも遥か長い時間、学園で過ごしているのかもしれない。

「……あの……、あなたはどうしてここに？」
「あぁ？ …俺はここの生徒だ。学生が学園内にいて何がおかしい？」
そう言えは、この女は先程も同じ問いを投げてきた。女はどうしてこんな質問をするのか。
レオナの鋭い感は、この些細な疑問を見過ごしてはいけない、と警告する。
「……俺が、ここにいちゃまずい都合があるのかよ？」
「別に、都合が悪いわけじゃないわ。けど……。」
歯切れの悪い女の口調に、レオナは舌打ちを隠さなかった。
「けど、何だよ。」
「あ、……けど、その……。」
女は視線を忙しなく左右へ動かす。レオナは適当な言葉を探している女の様子からその心情をよく理解していた。かつて息の詰まる宮廷にいた頃、官達がレオナに向ける表情と重なる。兄に向けるのとは異なり、レオナに向けられるのは困った顔や薄っぺらい偽りの笑顔ばかりだった。

どいつもこいつも、俺を蔑ろにしやがって！

「はっきりしろよッ！」
若きライオンは、とうとう我慢できずに吠える。突然の怒号に女は目に見えて驚いた。その顔は強張り、そして半歩後ずさる。
ハッ、とレオナは口を閉じた。違う、決して怖がらせたかったわけじゃない。ただ、誰も自分を見ようとせず、真の言葉を発してはくれないという焦燥に耐えられなかっただけだ。
気づくとレオナは、その場から駆け出していた。



自分がどうやって帰ってきたのかは分からない。けれど、レオナは無事にサバナクロー寮へ辿り着いた。今は相部屋のベッドで横になっている。
同室の奴はレオナがどんな傷を負って帰ってきても何も言わない。初めの頃は驚いていたものの、今では関心すら向けなかった。
午後の授業を丸々すっぽかしたレオナは、自室に戻る前、寮長にこっ酷く怒られた。
その怒りに愛は無く、口から出る言葉の裏には、監督不届で己の評価を下げてくれるな、と言う意図が見えた。まるで隠す素振りさえ無い言葉に、レオナの精神は怒りを通り越して疲れてしまった。
散々だ……。宮廷を逃げるようにして入った学園。逃げてきた先でも同じ思いをしなくてはならないのか。

俺が一体何をした。
俺は、一生このままなのか。
俺は、俺は……孤独の中で生きなければならないのか。


気の毒にも涙は出ない。
誇り高きライオンは、その夜、身を小さくして眠りについた。