Episode 0
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Episode 0「Seven wonders ①」
※ヒロイン不在
それは突然の出来事であった。
「なあ、この学園、七不思議があるって知ってたか。」
いつもの如く、いつものメンバーで、いつもの時間に朝食を突いていた全員がエースを見る。皆、同じようにキョトンとしていた。
「七不思議? 何なんだゾ、それは。」
「ほら、よく学校とか有名な場所にはあるだろ。ちょっと不思議で怖い話。」
いや、怖い話は七不思議というより、怪談だと思うんだが。なんてナンセンスな事は誰も口にはしなかった。どうやらグリムは、七不思議という言葉自体に馴染みがないらしい。無垢な顔で尋ね返す。
「そういう話なら、オンボロ寮にもあるんだゾ。なんせ幽霊がうじゃうじゃいるからなっ。」
得意げに胸を張ってそう言った。グリムよ、だからそれは不思議な話じゃなくて、怖い話だから。新入生にして唯一の監督生であるユウは、ツッコんでやりたいのをぐっと我慢する。
「学園の七不思議かあ。……このナイトレイブンカレッジも創立100年以上の歴史があるし、そんな話の1つや2つあったって不思議じゃないよなあ。」
デュースの言葉に、小さく相槌を打つ。その割には、入学してそこそこ時間が経ったのに、その類の話題は一度も耳にしたことが無かった。先輩達の口からも聞いたことなんかない。一体、エースの持つ情報の出所はどこなんだろうか。
「で、その七不思議ってどんな話なの。」
興味が無かったわけじゃないが、至って関心が高かったわけでもない。話の流れからして、そして何よりエースの得意げな顔からして、そう尋ねないわけにはいかなかったのである。よくぞ聞いてくださいました。と言わんばかりに表情が輝き出した。
「題して、西校舎の美女。」
「西校舎の……。」
「美女……。」
西校舎は、まあ、問題ないとして。男子校であるはずのこの学園で、美女という単語が出てくるとは。なるほど、だから不思議な話なのか。
「そそ。ほら西校舎って廊下に沢山絵が飾られてるだろ。そいつらの一人から聞いたんだけどよーー。
この学園には美女が住み着いている。どうやらそれは亡霊でも妖精でもないらしい。しかし、だからと言ってこちらから訪ねるような真似もできないのだとか。会いたくて会えるような存在ではない。男しか居ないこの学園に、夜な夜な美女が現れるというのも可笑しな話だ。本当にそれは女なのか、と疑問に思うかもしれない。けれど、その姿を目にした者は口を揃えて「彼女」とその人の事を語るのだとか。
彼女が姿を表すのは、決まって新月の夜。月の光が途絶えるその闇夜に、音もなく現れては、空を見上げ、そして消えてしまう。特に悪さをするわけでは無い。邪悪な存在という認識は無いようだ。むしろその逆で、彼女の姿を目にしたら、幸運が舞い込むという噂がいつしかついて回るようになった。
何か特別な力がその人にはあるのだろうか。と、そこまで話を聞き終えてユウは考え込む。
「確かに不思議な話だな。……俺も初めて聞いた。」
うううん、と小さく唸っていると、グリムがツナ缶を夢中で頬張っている側へジャックが腰を下ろした。本日も銀の毛並みが美しい。あ、おはよう。と軽く挨拶を交わす。
「ジャックも初めて聞くんだ。この話。」
「ああ。元々、俺の寮はそう言った話を殆どしねえし、興味もねえ奴らばっかりだからな。」
「確かに、サバナクロウの奴らってムキムキ、ガテン系の体育会系だしなあ。……そんな事してる暇があったら、マジフトしてそう。」
図体の大きい男子高校生が、小さな円を作ってコソコソ噂話に花を咲かせている。そんな光景を想像した。それはそれで可愛いと思うのだが、微笑ましいとは縁遠い。何かイケナイものを見てしまった気分になって苦笑した。
「特に悪さをするわけでも無いようだし……突然そんなこと話題に出したりなんかして、お前どうかしたのか。」
ここに来てデュースが問いかける。何やら嫌な予感がしてならなかった。監督生の勘はそう告げる。
「ふふふふ、よくぞ聞いてくれましたっ。なあ、今日が何月何日か知ってるか。」
「……6月21日。」
「そうっ。って事は今夜は新月だっ。」
ああ、この流れはもしや……。
「ってなワケで、今日の夜10時に中庭へ集合なっ。」
そうなりますよねえ。
と言うより、夜10時以降はどこの寮も外出を控える傾向がある。エースとデュースの所属するハーツラビル寮は特にルールを重んじる所だというのに、夜間の外出は許されるのだろうか。つい数ヶ月前にお宅の寮長と何やかんやで一悶着あったことを忘れているわけではあるまいな。さらに言えば、おい、グリム。お前も一応オンボロ寮の寮生なのだから、私の監督下にある事を忘れていないか。そんなユウの心配とは裏腹に、当事者の二人と関係者一匹は勝手にウキウキ・ワクワクと計画を立て始めた。
「チッ、くだらねえ……。」
心の声を代弁するかのように、3人の姿を呆れ顔のジャックが舌打ちする。
さて、程なくすると始業の時間だ。もうすでに、厄介な事になる前提の今晩を目の前にして、果たして授業に集中できるのか。今から不安にならざるを得なかった。
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