第九章 対面
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「大体のことは分かった。」
重たい空気を最初に破ったのは赤木であった。
「歯痒いが、俺たちよりも適任や言うことは認める。だが……受け入れ難いのも事実や。」
硬く腕を組み唸る。
「あんたらが北の知り合いやったとしてもや。それが俺らにとって、信じるに値するかは別問題。仕事言うからには従うが……正直、先が見えへん。」
赤木の言葉に、皆、険しい表情で頷いた。
「……ただでさえ失敗が許されへん仕事やのに、腹の探り合いまでやっとる暇はおまへんからなあ……。」
明後日の方向を向いて呟いた治の主張は、至極もっともである。
数刻前に知り合った、それも得体の分からない連中。素性も実力も計れない奴らと手を組むなんて、堪ったもんじゃない。例えこれが最善であると分かっていても、葛藤は避けられなかった。
北は静かに考える。
最初から上手くいくなんて毛程も思っていない。しかし、この場をなんとか収めなければ、その先に道がないことも十分理解していた。北は自身の期待を裏切らない展開に、ふう、と息を一つ吐くと、後ろに控える綾鷹を見やる。
「最初から上手くいくことなどございません。……もう少し、様子を見てみましょう。」
「……せやな。」
北が再び視線を前へ戻した時。男達は赤木の発言を境に、胸の内に秘めていた懸案を口にし始めた。
「身元が知れへんことも大事やけどなあ。それ以前に、なんでアンタらが手を貸さなあかんのか。そこがいっちゃん理解できひん。」
気持ち悪うてしゃあないねん。侑の勢いのある物言いに、誰1人咎める者はいない。前屈みになり、斜め下から睨みあげた視線の先はヒヨリへと注がれていた。
「身元に関しては、先ほど話したことが全てです。そこに嘘偽りはございません。協力するに至った経緯にしても、北様と面識がありーー
「ちゃうねん、ヒヨリさん。俺らは別に、アンタ達が嘘ついてるとは思わへん。」
ヒヨリの声に割って入った治は、できる限り言葉を砕いた。
「侑が言いたいんは、ポッと出のアンタらが俺らに協力することでどんな『得』があるかっちゅう話や。」
己の片割れが抱く不安は、治本人が抱く不安でもある。
そもそもこの件は、時代遅れの大馬鹿野郎共が企てる、英国大使の暗殺を回避する事が大意である。国に雇われ、国のために命を張る軍人として阻止以外あり得ない。国の根幹を揺るがすに値する一大事。故に我々は動く。
しかし、目の前の女達はどうか。どう見ても”愛国心”なる情とは無縁に見える。では、何を持って手を差し伸べてくれるのか……。目的は何か。何を企んでいるのか。この際、問い詰められる所まで問い詰めてしまおうか。治が今一番知りたい事。それは
信じるに値する人間なのかーー。
胸中でそう言葉を吐いたと同時に、最も信頼を寄せる男の背後を見た。すん、と澄ました恐ろしいほど美しい女は、微動だにしない。
確信が欲しい。それは侑たち全員の紛れもない総意である。
痛い空気の中、女達は黙り続けた。その様が、侑たちの疑心をさらに加速させる。
これは宜しくない状況だ。
焦る気持ちを抑え、北は話の落とし所を探っていた。