狼に目をつけられた猫
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「私は特別に許可して頂いたんですよ。扱い慣れた物の方が体にしっくりきますから。」
「相当腕の立つ方なんですね。」
「いいえ。ただのしがない警官ですよ。」
そう言って眉を下げ笑う藤田に権兵衛は愛想良く笑みを返した。
権兵衛は確信した。
藤田の持つ刀。
それは新選組三番隊組長・斎藤一の物だ。
幕末の頃、嫌と言う程刀を交えた事のあるそれを権兵衛は覚えていた。
そして今日応接室で藤田と顔を合わせた時に右腕の古傷が疼いた事も今なら納得がいった。
―権兵衛の右腕の古傷。
それは十数年前この男の付けた傷だ。
藤田の正体がはっきりとした今、権兵衛はこれまで以上に藤田を警戒しようと決めた。
今回こうして鉢合わせた事が偶然にしろ、今は大西の警護が優先事項だ。
この際今は藤田の事は後へ回し、大西を無事守る事に専念しようと権兵衛は自分の刀を握った。
「そろそろ地下室へ移動しましょう。」
藤田が落ち着いた様子で権兵衛と大西を地下室へと促した。
「地上の警備はお任せしますのでよろしくお願いします。」
「はい。こちらも大西様の警護は名無しのさんにお任せします。くれぐれもお気を付けて。」
藤田に頭を下げると権兵衛は大西を連れて地下室へと下りて行った。
藤田はそれを見送ると、懐から煙草を取り出し火を付けた。
紫煙を燻らせながら煙草を呑む。
その口元には至極愉快そうな笑みを浮かべていた。
―藤田と分かれて数分。
地下室のソファーに腰掛けている大西は懐中時計を眺めながら0時を待っていた。
盾になる様に大西の目の前に立つ権兵衛は、地下室の扉を見詰めながら地上の気配に意識を集中させていた。
0時まであと数分。
地上からは物音一つ聞こえてはこない。
何かあったのかと疑念を抱いた権兵衛に背後の大西が口を開いた。
「まぁ、そう気を立てなくとも…この先に優秀な警部補殿が居るんですから心配いりませんよ。」
その優秀な警部補殿を警戒している権兵衛にとって、大西を狙う犯人も藤田も同じようなものだった。
「貴女もこちらへお座りなさい。」
大西の言葉に振り返ると、大西が自分の腰掛けているソファーのすぐ隣を指示しているのが見えた。
権兵衛は小さく息を吐くと大西の隣へと腰を下ろした。
「どうかされましたか?」
唐突に問うてきた大西に権兵衛は「へ?」と間の抜けた声を漏らした。
「いつになく昂ぶってらっしゃる様なので。何かあったのかと思いましてね。」
2人はまだ数年の付き合いではあるが、自分に対して物怖じもせず分け隔てなく接してきた権兵衛を大西は自分の子供の様に思っていた。
そんな権兵衛の表情が今日はやけに鋭さを見せている事が大西は気になっていた様だ。
「お昼に食べた羊羹(ようかん)でお腹を壊してしまってまして…。」
「こんな時にまでおふざけはお止めなさい。」
にかっと笑いながら答えた権兵衛に大西は本気で心配した自分が少し馬鹿らしく思えた。