開き直る狼と猫
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扉の隙間から顔を覗かせ見えたそこには机の椅子に腰かけ書類を見ながら煙草を呑んでいる斎藤がいた。
「聞こえなかったのか?入れ。」
「あ…、失礼します。」
斎藤の言葉に権兵衛は部屋へと入ると促されるがまま長椅子へと腰を下ろした。
斎藤は机の引き出しから幾つかの書類を取り出し椅子から腰を上げると権兵衛の座る長椅子の前の机へそれを広げた。
「これがお前の契約書、証明書だ。一通り目を通して署名しておけ。」
権兵衛は書類を手に取ると言われた通り書類の内容へ目を通した。
斎藤はそのまま自分の机に腰を預ける様に立ち紫煙を吐きながらそれを眺めている。
「それからコレも書いておけ。」
斎藤はもうひとつの書類を権兵衛の前に差し出した。
「経歴書だ。基本的には俺の部下として雇う事にはなるが、通常勤務外の仕事は川路が直接依頼にくる事になってる。それはその時の指標になるものだ。」
「指標…ですか。」
「とは言っても実質は参考程度にしかならんだろうがな。」
経歴書を眺めながら権兵衛は考えていた。
(…絶対アタシの素性を探る為だな。)
権兵衛の主な経歴と言えば10代前半頃は各地で道場破りを働き、10代半ばで長州藩藩士として緋村と同様暗殺を専門としていた。
戦の終わった後は主に社交界の人間の警護や役人の護衛などをして生計を立てていた。
正直に書こうものなら自分の素性がバレてしまう。
終戦後の経歴は問題ないとして藩に居た頃の事など書ける訳がない。
(ま、いっか。)
嘘を書くなとは言われていないし藩に居た頃の事は適当に書いておこうと権兵衛は開き直り、側に置かれた筆を手に取ると経歴書を書き始めた。
「余り詳しく書かなくていい。現場じゃあその時の結果次第でしかない。経歴などあってないようなものだ。」
「………。」
走らせていた筆を止め権兵衛は側に立つ斎藤の顔を見上げた。