弄ばれる猫
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藤田と共に縁日で警備をした日から数週間―。
あれから藤田と遭遇する事もなく毎日を気ままに過ごしていた権兵衛。
大西との契約も残すところあと数日。
最近は大西の護衛をする事も少なくなり、毎日邸の大木の上で昼寝をしたり、河原を散歩したりと一日の殆どを自由に過ごしていた。
「名無しの様―、藤田様がお見えになられております。」
今日は午後から飴屋の爺さんのところへ顔を出そうかと考えていたところにハウスメイドが一番会いたくない客の訪れを告げに来た。
「あの…、名無しの様…?」
ハウスメイドの言葉を聞いた途端に顔を歪めた権兵衛。
その顔はいかにも面倒臭いと言った表情だ。
そのまま黙ったままの権兵衛にハウスメイドが困惑の声を漏らした。
だが、いずれは自分の上司となる人間の為会わない訳にはいかない。
ハウスメイドに分かったと短く伝えると重たい腰を上げ藤田の待つ応接室へと向かった。
「京都ですか…。」
「えぇ。明日からしばらくの間ではありますが。」
相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべた藤田は明日から仕事で京都へ行くようだ。
何でも大きな山らしくいつ東京へ戻れるかは現段階では分からないとの事だった。
その間警視庁は人手が足りなくなる為、都合が良ければ署での仕事を手伝って欲しいとの事だった。
手伝うと言っても簡単な雑用のようなものではなく、京都での仕事に関して随時要調査事項として持ち帰られたものを任される事になるらしい。
「…"時尾"…ですか?」
今回の件は少々危険なものらしく関わった人間に飛び火となる可能性があるかも知れない。
基本的に権兵衛が京都へ出向くような事はないが、事件関係者が外部から接触して来た場合、素性がバレれば厄介な事に成りかねない為藤田が東京へ戻るまで外部の人間には偽名を名乗れとの事だった。
(またなんで"時尾"なんて大層な名前…、アンタが"五郎"なんて名前なんだから簡単に"加代"や"千恵"でいいんじゃないのか?)
内心そう毒づいた権兵衛だったが、ありふれた名前の方が逆に怪しまれるものかと何も言わない事にした。
「でも素性を隠すくらいの件に私が首を突っ込んでもいいんですか?」
「何故です?」
「一応まだ警察関係者ではないですし、部外者が署を彷徨(うろつ)くのもどうかと…。」
「心配要りませんよ。いずれは関係者となる訳ですし、万が一外部の人間と接触したとしても貴女なら大丈夫です。」
そう言いきり微笑む藤田に権兵衛は苦笑いを浮かべた。