壬生浪との対峙
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「………。」
目の前で作り笑っている権兵衛に斎藤はただ黙ったまま、壬生狼の目で権兵衛を見据えている。
それに相対する様に権兵衛は挑発的なまでに優しげに微笑み、斎藤を見詰め返す。
境内を夜風がゆるりと流れていく。
「…藤田さん…?」
権兵衛が名を呼ぶ。
頭を俯けた斎藤の口は弧を書いていた。
「失礼しました。私の勘違いだった様です。」
そう言い頭を上げた藤田に壬生狼の雰囲気は微かも無く、そこに居るのはいつもの優しげな笑みを浮かべた藤田そのものだった。
「先刻は失礼な物言いをしてしまい申し訳有りませんでした。」
「いえ…。」
予想外にあっさりと引き下がった藤田に権兵衛は内心面食らった。
先刻藤田が口にしていたのは間違いなく昨夜権兵衛が夢に見たあの日の事。
事実、先刻の藤田の発言に全て身に覚えのある権兵衛は藤田が正体を見せたあの一瞬、正直動揺していた。
元来感情が面に出やすい権兵衛は藤田が久し振りだと言い放ったあの時、してやられたと言う思いだった。
自らの正体を明かしたくない権兵衛も平静を装ってはいたが、とうとう正体を現した斎藤から逃げ切るのは不可能だろうと覚悟はしていた。
だがそれ以上追究する事もなく権兵衛の人違いとの発言に藤田はすんなりと合点した。
運良く騙せたのかと思案している権兵衛に目の前の藤田は然(さ)して気にした様子もなくただ笑みを向けていた。
「そろそろ戻りましょうか。姿が見えないと大西様もご心配なさるでしょう。」
先刻の事がまるで嘘のようだ。
一瞬だったとは言え正体を見せた斎藤は何事もなかったかの様にいつもの笑みを浮かべ藤田五郎を演じていた。
簡単に引き下がった藤田にどこか納得のいかない権兵衛は前を行く藤田の背中を見据えていた。
(…まだまだ油断ならないな。)
近い内またこうして何かを仕掛けてくるのだろうと権兵衛は藤田を更に警戒視した。