壬生浪との対峙
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「…こんばんわ、藤田さん…。」
どうやら先刻の声の主は藤田だったようだ。
権兵衛は引き攣りそうな顔を何とか抑え笑顔で挨拶を返した。
「おや、藤田殿!」
よそ見をしていた大西も藤田に気付いた様で嬉しそうに頭を下げると藤田もいつもの笑顔で頭を下げた。
「藤田殿も縁日に来られているとは意外ですな。」
「いいえ。今日はここの警備の仕事でして。」
「おや?その少女は?」
未だ泣いている少女は藤田の足元にしがみ付き覗き込んできた大西を不安そうな表情で見上げていた。
「迷子になってしまっていたようで。これから親御さんの所へ連れて行くところだったんです。」
「そうですか。警察の仕事と言うのは実に大変ですな。」
大西は少女の頭を優しく撫でてやると取り出したハンカチで少女の涙を拭ってやった。
「…あやめっ…!」
そうしていると雑踏の中から少女の名を呼びながら母親が駆け寄って来た。
途端、少女は藤田の元から母親の方へと駆けて行き安心した様子で母親に抱かれていた。
母親は藤田に礼を言うと少女を抱え再び縁日の雑踏の中へと消えていった。
それを3人で見送っていると大西が突如声を上げた。
「権兵衛さん!」
「はい?」
「貴女も藤田殿のお手伝いをなさい!」
「!…はい?!」
引き抜きの話といいまた急に何を言い出すんだと権兵衛は声を裏返した。
「今の様に迷子になってしまって泣いているお子さんが他にもいるかも知れません!貴女もいずれは警視庁の人間となる身。事前実習も兼ねて藤田殿と縁日の警備をしてらっしゃい!」
「…ちょっと待って下さい!今日はアタシと旦那様との思いでを作りに来たんですよ!」
「そんなものは後日改めて作る事にします。貴女のおっしゃっていた通り、警視庁は我邸から馬車で5分です。思い出ならいつでも作れます。」
ここに来てあんなこと言うんじゃなかったと権兵衛は後悔した。
大西が元々正義感の強い人間であるのは知ってはいたが、権兵衛は最近それにことごとく巻き添えを喰らっている気がしていた。
自分に正義感がないとは言わない。
迷子を助けたいと思うのは当然の事。
だが、今は余りにも状況が悪すぎる。
何だって"藤田と共に"警備をしなければならんのだ。
「さぁ、急ぎなさい!警備は迷子を助けるだけではないはずです!こうした人の集まる場所には危険人物が紛れている可能性もあります!貴女にはやる事がたくさんありますよ!!」
そう言い残し「私も迷子がいないか探して来ます。」と、大西は奮起した様に雑踏の中へと踏み行ってしまった。
「本当に人のいい方ですね。」
そんな大西の背中を見送りながら藤田はくすくすと笑った。
それに苦笑いを浮かべた権兵衛は小さくなってしまった大西の背中に内心呟いていた。
(…アタシにはこの男が一番の危険人物だ…!)