狼の悪戯
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「…?」
訳が分からず藤田の様子を伺っていた次の瞬間、藤田は権兵衛の手の平に頭を垂れるとそのまま金平糖に口を付けた。
「!!…あ、あの…っ…藤田さん…?!」
「あぁ、動くと落ちてしまいますよ。」
遠回しに動くなと言った藤田は権兵衛の手の金平糖を一つずつ口へ入れていく。
「…っ…!!」
時折、藤田の舌先が手に触れ権兵衛は羞恥とその倍の怒りに歯を食いしばった。
(…この野郎~…ッ…!!)
最後の金平糖を食べ終えると藤田は顔を上げ権兵衛から手を離した。
そしてまたいつもの如くにこりと笑い、
「ご馳走様でした。」
満足げにそう言った。
行き場のなくなってしまった手は想定していなかった今の状況に動かすことが出来なかった。
「すみません。少し悪戯が過ぎました。」
「…びっ、びっくりしたじゃないですかっ…!」
これには流石に反論した権兵衛に藤田は両手を小さく上げ困った様子で頭を下げた。
「権兵衛さん。」
そこへ権兵衛を呼ぶ声と共に大西が姿を現した。
「…旦那様。」
人混みを掻き分け二人の元へとやって来た大西に権兵衛は溜め息を吐いた。
(…遅いよ。)
そんな権兵衛の隣に立つ藤田に気付いた大西は嬉しそうに笑みを浮かべると藤田に向かい軽く会釈した。
「これは藤田殿。今は巡回勤務中ですかな?」
「えぇ。大西様はお買いものですか?」
藤田に対しどこか絶対的な信頼を置いている大西は昨日の帰り際の時の様に藤田と愉快に会話をし始めた。
とうとう居た堪れなくなった権兵衛はそれを遮る様に口を開いた。
「…旦那様…っ!」
「はい?」
「簪(かんざし)!簪をまだ買って頂いてません!」
「あぁ。そうでしたねぇ。」
「それに今日はこの後古川様がいらっしゃる予定ですし、早く買い物を済ませて帰りましょう…ッ!」
矢継ぎ早にそう言った権兵衛は一刻も早くこの場から離れようと大西の背中を押した。
権兵衛は背後の藤田に軽く頭を下げると大西と共に人ごみの中へと紛れて行った。
そんな権兵衛の背中を眺めていた藤田は深い笑みを浮かべていた。