狼の悪戯
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「着慣れないとすぐこうなってしまいますから、仕様がないですよ。」
そう言いながら藤田は自然な動作で権兵衛の着物の襟を直し始めた。
「あ…、すみません。」
今のこの藤田の動きを警戒してはいない権兵衛は大人しく着崩れを直してもらっていた。
だが直ぐに権兵衛は油断した自分を恨む事になる。
「ちょっと失礼。」
「?!…えっ…!!」
短くそう告げると藤田は抱く様に権兵衛の背中に両腕を回した。
突然の事に驚いた権兵衛は身構える様に藤田の胸に手を置いた。
「帯を締め直しているだけですから、少しじっとしていて下さい。」
権兵衛の肩口に背中の帯を覗き込む藤田は慣れた手付きで緩んだ帯を締め直した。
その間権兵衛は藤田に言われた通り大人しくしていたが、直ぐにでも殴り倒してやりたい気持ちだった。
「できました。少し驚かせてしまいましたね。」
「…有り難う御座いました。」
体を離した藤田はやはり人の良さそうな顔で笑っていた。
権兵衛の知る斎藤は女にこんなにも親切に手を貸したりしそうにない程冷血な目をしていた。
ここまでされると本当にあの斎藤一なのかと疑ってしまいそうだ。
もしも権兵衛の正体に気付いている上での行動だとすればとんだ嫌味だ。
「そうだ。お礼にコレどうぞ。」
色々と面倒な事で頭を使いたくない権兵衛は空気を変えようと、先刻飴屋で買った金平糖を数個手の平に乗せ藤田の方へと差し出した。
権兵衛はコレをやって早くこの場は退散しようと言う気持ちだった。
「宜しいのですか?」
「はい。今はこんな物しか持ち合わせていなくて申し訳ないんですが…。」
相変わらずの羊顔の藤田。
それに答える様に権兵衛もにこりと微笑んで見せるが、
(…さっさと受け取れ…!この狼野郎っ…!!)
内心では皮肉たっぷりに毒を吐いていた。
「では、有り難く頂きます。」
そう言うと藤田は何故か権兵衛の差し出す手を掬(すく)う様に持つと軽く腰を折った。