狼の悪戯
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─偶然会った親切な警官さん。
嘘は言っていない。
一応知り合いである事を除けば藤田とは今し方偶然出くわし、手を貸すためにこうして一緒になっただけなのだから。
権兵衛は店主に余計な詮索をされる前に当たり障りのない言葉で事情を説明した。
「にしても今日は本当にどうしちまったんだい?普段なら女物の着物なんか着ないじゃないか。」
「そうなのですか?」
店主の言葉に反応した藤田がいきなり口を開いた。
マズいと思った頃には時すでに遅し。
「この嬢ちゃんは普段袴に刀ぶら下げて歩いてんだ。話し方だってこんな澄ましてないし、見る度にいっつも口に飴を啣えとる。」
「!…ちょっと、お爺さん…っ!!」
「どうしたんじゃ?いつもなら"爺さん"と呼んでおるじゃろうが。」
「ほう、そうなのですか?」
最後には「そうだろ、嬢ちゃん?」なんて可愛らしく笑うものだから権兵衛はもう何も言えなくなってしまった。
そんな権兵衛の隣で藤田は店主の話を面白そうに笑って聞いている。
「いかん、いかん。飴を買いに来たのじゃな。どれ、いつものを包んでやろう。」
藤田にああだこうだと説明していた店主は思い出した様にそう言うと茶の和紙に飴を包み始めた。
「貴女の貴重なお話が聞けて良かったです。」
藤田は権兵衛の顔を覗き込みながら満足そうにそう言った。
飴を買い終え飴屋のすぐ傍の通り道へと出た二人は未だ買い物客でごった返している通りを眺めながら立ち話をしていた。
と言うよりも藤田の質問に権兵衛が軽く答えているといったところだ。
「では普段は本当に袴を着てらっしゃるのですか。」
「…はい。やっぱり動きやすい格好の方が護衛もしやすいので。」
「では今日は何か特別な用事でも?」
「いえ…。引き抜きの件でお祝いにと旦那様から頂いたんです。つい先刻、仕立屋で着つけて頂いてからそのまま店を出て来たもので。」
「そうでしたか。でも本当に良くお似合いですよ。」
「はは…、有難う御座います…。」
似合いたくないというのが本心ではあるが褒めてくれているのだから一応礼だけはしておく。
向かい合う形で藤田にまじまじと見詰られ権兵衛はもうそろそろ目の前の羊顔に耐えられそうになかった。
(旦那様っ…、早く戻って来いッ!)
通りに視線を向けながら内心そう叫んでいると目の前の藤田の影が動いたのが見え権兵衛はふと視線を藤田の方へと戻した。
「!…藤田…さん?」
気付くと藤田は権兵衛のすぐ目の前に立っており少しだけ腰を折り屈む様にして権兵衛の胸元を覗き込んでいた。
「少し着崩れてしまってますね。」
「あぁ…。」
藤田の言葉に視線を胸元へと向けると掛襟が少しよれ広がってしまっていた。