狼の悪戯
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「…何ですか?」
顔だけで振り返った権兵衛は精一杯の笑顔で藤田に尋ねた。
「ふらついてらっしゃいますが、大丈夫ですか?」
心配そうに眉を下げている藤田は権兵衛の手からステッキを取るとその手を自分の右腕へと誘導した。
先刻権兵衛が大西にして貰っていた事を何も言わずにした藤田に勿論権兵衛は慌てて断り(拒絶)の声を上げた。
「…こんな事して頂くなんて申し訳ないです!」
「構いませんよ。転びそうになった時は私が支えて差し上げますから安心して下さい。」
勝手に藤田の右腕に組まされた左手。
その上から更に空いている左手を添えにこりと笑む藤田は端から見れば紳士そのものだ。
「もうそろそろで巡回も終了ですから、目的地までお供致しますよ。」
だが権兵衛の知っている斎藤一とは、段だら模様の派手な着物を纏い、壬生狼の名に相応しい鋭い眼光で此方を射抜き不敵に笑う男だ。
かつての記憶の中の男とは似ても似衝かない今の斎藤一に権兵衛は手を重ねられている左腕からぞわりと鳥肌を立てた。
藤田には優しげな笑顔を浮かべながらもどこか逆らえない様に言いくるめてくる節がある。
その事を昨日で分かり切っている権兵衛は、ここで長々と理由を付けて押し返すのは最早無駄な足掻きと諦め藤田に同行してもらう事にした。
「やぁ、大西さんとこのお嬢さん。今日は男連れかい?」
しばらく歩き着いた権兵衛行き着けの飴屋。
普段、昼の休憩時間に一人で訪れるのが常の権兵衛に店主である爺さんはそう尋ねた。
「また珍しくめかし込んで…、今流行りの"でぇと"とか言うやつかい?」
得意気にそう言う店主に権兵衛は苦笑が止まらない。
「履き慣れない草履を履いてるから転んではいけないと親切な警官さんがここまで手を貸してくれたんですよ。」