狼の悪戯
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余りに高価な着物ばかりで恐縮している権兵衛を気にすることなく大西は胸を張って言った。
「貴女はご自分の魅力に気付かれた方がいい。毎日袴ばかり着ているのは本当に勿体無いですよ。」
「女として生きてきた事がない私には今更なんですよ…。」
「そうは言っても貴女はれっきとした女性です。いつかは男性に心惹かれ恋をする日が来ますよ。その時の為にも自分を魅せる術を覚えておくべきです。」
そう断言する大西とは裏腹に権兵衛は何処か上の空だ。
権兵衛の頭にふと浮かんだ昔の情景。
まだ藩に居た幕末当時、"人斬り抜刀斎"の通り名で恐れられていた緋村剣心と良く行動を共にしていた権兵衛は一度、緋村が水浴びをしている風呂場に無断で入り込んだ事があった。
突然現れた権兵衛に男である緋村は当然驚き顔色を変えると、すぐに出て行けと声を上げた。
だが自分を女だとは思っていない権兵衛は当時、緋村の反応が理解できなかった。
自分は男も同然なのだから藩の男と湯殿を共にしようが誰も文句は言わないだろうと思っていた。
だが風呂場に現れた権兵衛を見るなり緋村は顔を赤くさせ出て行けと言った。
緋村とは日頃から男女の分け隔てなく本気で稽古だってし合っていたのにこの時だけは女として扱われてしまう事が権兵衛は不満だった。
どんなに剣の腕を上げ、大の男達と死線を渡り歩いていようとも自分は所詮女と認識されているのだと分かった。
今にして思えば緋村には悪いことをしたなと思う。
あの頃の緋村は大体齢15、6の健全な男子。
自分に色香があったとは言わないが、年頃の女子の裸を見せられた緋村は相当参っていたのではないかと思う。
それ程までに権兵衛は"女"というものを捨て、これまで生きてきたのだ。
それなのに今になって自分は"女"なのだと意識するのはどこか面倒臭ささえ感じる。