狼に目をつけられた猫
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「この2年貴女には食客として私の側に付いて頂いていましたが、時々考えていました。貴女のその力を私を守る為だけに振るわせていていいのかとね。」
「…旦那様?」
「貴女はもっと多くの人の為にその力を使うべきです。こんな老いぼれを守る為ではなくね。」
冗談混じりに言う大西に権兵衛は慌てて口を挟んだ。
「別にアタシは今更そんな大それた事する気はないですよ。それにアタシが今お側に居てお守りしたいの旦那様なんですから。」
「嬉しい事を言ってくれますねぇ…。」
大西はソファーから腰を上げ権兵衛の前へやって来ると権兵衛の手を優しく握った。
「ですがそれは私の意思に反します。私にとって貴女は食客ではなく娘の様なものです。私は貴女をこんな狭い屋敷の中に閉じ込めておきたくはないのですよ。」
「旦那様…。」
「子を思う親心です。"可愛い子には旅をさせろ"と言うでしょう?」
そう言うと大西は権兵衛の肩を掴み藤田の方へと向き直らせた。
「それに藤田殿なら心配いらないでしょう。貴女の腕を買って優秀な警部補殿がこうして直々にいらっしゃったのですから、貴女の腕に間違いはないと言う事です。」
目の前で相も変わらずにこにこと笑顔を浮かべ大西の言葉にうんうんと頷いている藤田に権兵衛は苦笑した。
大西がいくら"優秀な警部補殿"と言ったところで権兵衛にとってこの男は"斎藤一"でしかないのだ。
目の前の藤田を見ながら権兵衛は昔の事を思い出していた。
幕末の頃―、斎藤は幕府側である新選組。
権兵衛は倒幕側である長州。
互いに敵対していた為、何度も刀を交えてきた。
正直、斎藤に出くわす度にろくな目に合っていない故これからまた斎藤と関わる…、しかも同じ場所で仕事をするなど権兵衛には考えられなかった。
「大西様の大事なご息女様ですから…、こちらも丁重にお迎え致しますよ。」
ご息女などと冗談交じりに言った藤田が大西に更に拍車を掛けた。
「どうぞ娘をよろしくお願い致します。」
2人の間に挟まれたまま、互いに笑顔でそう交わした大西と藤田に権兵衛はもうぐうの音も出なかった。
「いやぁ~、貴女のこれからの活躍振りが楽しみですよ。」
楽しげにそう言う大西に権兵衛はもう何も言わない事にした。
「これからよろしくお願いします。名無しのさん。」
頭を下げ満足そうに言った藤田に権兵衛は引き攣らせた顔で精一杯笑顔を作り頭を下げた。