狼に目をつけられた猫
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明治12年―東京。
下町から離れた一等地の洋館。
この地区では名の知れた実業家の大西秀三の邸宅。
その庭の立派な落葉樹の上には小さな影。
「権兵衛さん。そんな所で昼寝なぞしては風邪を引きますよ。」
この邸宅の主、大西がその影に向け声を掛けた。
その影は大西を見下ろすと、得意げな笑みを浮かべ返事を返した。
「アタシが風邪を引いたとこなんて見たことらっしゃらないでしょう?」
栗色の艶やかな長い髪に袴を着たその女はそう言うと肩に掛けた刀を握り、また眠りに就こうと目を閉じようとしたが、それを見逃さなかった主は間髪入れずに返した。
「今日は来客があると言ったでしょう?私は貴女にも同席するよう言ったはずですよ。」
「アタシの事はお構いなく…、お偉い実業家様のお話に水を差す真似はしたくありませんから。」
大西はジャケットの胸元から懐中時計を取り出した。
針は午前10時を指している。
「今日の客人は業界人でも社交界関係者でもありませんよ。」
「誰が来るんです?」
ため息を吐くと大西は懐中時計をジャケットへ閉まった。
「近頃社交界の人間を狙った事件が増えてると警察から連絡がありましてね、警備のため屋敷の間取りと死角などを調査させてほしいと…、食客である貴女にも立ち合ってもらいたいと昨夜話した筈ですよ…。」
「あぁ…確かに言ってましたねぇ。」
「忘れていたんですか?」
「今思い出しました。」
地面へ飛び降り、なんの躊躇いもなく言った権兵衛に大西は呆れて返す言葉も浮かばなかった。
「なんでも今回は現場の指揮を執る警部補殿自らいらっしゃるそうですから、粗相のないように。後その袴も着替えて来て下さい。」
「?…何故着替える必要が?」
「いくら食客と言えども貴女は女性です。ちゃんと着物を着てもらいます。」
「嫌ですよ、あんな女の着るもの…。」
権兵衛は苦虫を噛み潰したような表情で言うと踵を返しその場を去ろうとしたが大西に首根っこを掴まれそうはいかなかった。
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