婚約
毎日、勉強は何かしらしている状態ではあるけれど、嫌だとは思った事は無いし、たまにミゲルが遊びに来るから寂しくはない。
彼は、家の仕事を手伝い始めているそうだ。忙しいこともあるだろうに、話し相手になってくれている。家で会っていた時と変わらない様子で付き合ってくれる彼は、ヒューゴともここで会っていたようだ。ヒューゴも、彼とはリラックスしているようで、のんびりとくつろいでいる。ヒューゴは、ミゲルミーティアの話題を出した。
「ミゲル、この子を君と一緒にミーティアに入学させるつもりだから」
そう言いながらも、意図を見せぬ笑みを見せる。しかし、ミゲルは予想していたらしい。呆れてため息を付きながら、 彼は同意した。
「幼馴染だしな、どっちも」
幼馴染としての彼らしいのかも知れない。とは思ったし、ふたりともにこやかに話している。
ただ暇なので、彼と話をしている間にソファーにごろんと寝転んで、彼の脚の上に頭を乗せる。彼はそんな行動を取る私にくすりと頭をなでながら笑った。
「君は本当に、甘えたがりだよね。それでいいんだけど」
ミゲルは、甘えて甘えさせる二人を見て、ようやく落ち着いた気分になる。今まで心配していたが、ひどい事はなされてなさそうだと感じた。
まぁ、 ヒューゴの事だから、したりはしないだろうが。周りの貴族たちからは分からないからである。それにしても。
「随分と、仲良いんだな。安心した」
ヒューゴは言われて、ミゲルへと顔を向けてくる。いつも通りに、読みにくい表情をしていて、どこか嬉しそうではあった。
「この子が俺の事を受け入れてくれて いるからね。まぁ、兄がほしかったのもあるだろうけど」 ヒューゴは、スティが夫として見てくれているならそれで……と思っている。それに、今から関係は作られて行くのだから、慌てる必要はない。 「ミゲルはミーティア行くのなら、ヒューは行くのですか」
二人の会話にスティは、別の話題を振る。少し恥ずかしくなったのだ。だから、はやく変えてほしいのである。
それに気付いて、ヒューゴは今のミーティアに対する意識の現状を話す。
「今は、貴族が反発しているんだよ。だからね、どうなるかな?とりあえず、公務は引き続きやるし、帰る事も出来るから、その調整しないとね」
どうやら、私も彼も行くらしいので、ワクワクしている。1年差をつけて入学ということだ。
そんな私に二人は顔を見合わせて、微笑んだ。そう、平和なアフタヌーンティーの時間の頃のことだった。
そこから数ヶ月も経てば、この生活にも慣れてくる。彼との関係性を良いものとして築けているかは分からないけれど。
ただ、となりで本を読んでいると覗き込んで来たり、側で出来る事をしたりしてくれているかは、嫌われていないようだ。久しぶりに、そんな事を考えていると、うつらうつらと眠くなる。
半分寝ているような状態に、ヒューゴは気付いたらしく、頭に手をやって熱を測った。そして、平熱だったらしく、ほっとしているようでそのまま撫でられた。ただ、やっぱり心配なようで。
「ただ、眠いのかな。一緒に寝ようか、俺も眠いから」
上着を脱いで、寝る準備をしだした彼に続いて、ラフな格好になる。 先にベッドに上がれば、彼も横になった。さすがに彼の方が身長は高い、結構、高い方なんじゃないかなと思う。だから、すっぽりと抱きしめられてしまうことにどきりとしてしまった。
「疲れたりしていない?体調崩してはいない?」 顔を覗き込んで尋ねてもらえるけれど、特に無いと、首を振る。すると「そっか」なんて、笑ってくれるのだ。
「なら、大丈夫かな、寝ていいよ、俺も寝るから」
布団を掛けてくれる。背中をリズム良く撫でられて寝ないのがいるのかなぁとは思った。
「おやすみ、気にせずに寝ようね」
なんて、耳元でつぶやかれて、しばらくするともう寝ていたと、思う。
ヒューゴは、 すやすやと寝てしまったスティを眺めていたけれど、自分も寝に入ることにする。 最近、疲れているし、今日は休みなのだ。父から言われたので、それで良いのである。何せ、父は国王なのだから。ヒューゴもまたいつの間にか寝ていた。
スティが起きれば、すやすやと寝ている彼が目の前にいた。薄明の紫は隠されているけれど、顔立ちは整っており、綺麗な人だと思う。美しいよりも端麗であると言えばいいのだろうか。
体に乗っている手をにぎって、もう一眠りしようかなとも考えていたけれど、そうしているうちに彼は起きていたらしく、くすくすと柔らかな笑い声がする。上を見てみると、目があってやっぱり起きていた。
「本当に、君って本当に、甘えるのがへただね」
そう、笑いながら言われて、ムッとする。 行動に対していっているのだろうことは一目瞭然だ。
「知らない!」と、布団を引っ張って奪ってやる。でも彼の判断は早くてすぐに、動かれてしまう。
「ははっ、可愛い事してくれる」と言って私の事を探し出したと思ったら、抱き上げられる。ベッドの上に座わる彼の上に座らされた。
「すねてるの?」と、彼にのぞき込まれてしまうから、「すねてないの」と、すねてみるのだ。
そっぽ向くと、彼は「すねているよね、可愛い所あるよね、君。愛しているよ」と、今まで言ってこなかった事を言ってくる。初めてだった気がして、大人しくしてくれない自分の心がうるさい。
「すねないで、俺は君が笑っている方が好きだよ」
そう言う彼の顔を見ると、どこか照れていて、彼もまた少し緊張しているらしい。
「なら、ほっぺにキスちょうだい。だったら、許してあげますよ」
そうやって試してみれば、彼は驚いたように少しだけ目を見開いた。
「まったくって言ってほしいの?仕方ない子だね、おいで」キスしてあげよう。そう言い切った彼は、望んだ通りにしてくれる。それがうれしかった。
「すねて、ごめんなさいね。 ヒュー」
彼のほっぺたにお返しをしてから、スティはベッドから降りる。
「よく寝た。気持ち良かったかもしれないなぁ」と、言いつつ、服を整えると彼も自分の服を整えていた。そうして、外に出て行くのかと思えば、そうじゃないらしい。整え終えてから声をかけてくる。
「今日は、何する?まだ、夕食までは時間があるからね」と、尋ねてくれているけれど、まったく思い付かない。
「どうしたいって言われると、ないなぁ。今は、欲しい物ならあるけど」
そう、一つ欲しいものがある。それを耳に入れたヒューゴは、何がほしいのだろうと思っているだろう。
彼は「何が欲しいの」と言って私の側まで歩いて来た。すぐに、詰められた距離はもうすでに至近距離で。
「言ってごらん、さあ」そう急かすように私を後ろから抱きしめてくる。なら、一つだけ。
「時計が欲しい なぁって思うのですよ、ほら広いから」
素直に欲しいものをいうと、後ろから「確かに、俺もユージンも持っているからね。いいのがあるよ。俺とおそろいでよければ、ね?」と、はっきりといった。何かしらの意図が隠れているような気もする。何かもったいぶった言い方というかそんな感じのなにかを感じた。
「どんなやつなのです?」 と、彼にもたれながら尋ねると、そのままソファーまで行って、そこに座らせられた。
そこから、彼が大切な物を入れているらしい棚を開ける。茶色の棚は、ツヤがあり、美しいものだ。彼がそこから出したものは、 みどり色をした一つの箱だった。
それを持って、くすくす笑いながら彼は私の手にそれを乗せてくれた。彼はどうやら、何かを考えているらしい。
「開けてごらん?」そう言われて、素直に従う事にする。そこには、丸い懐中時計、確かに彼も持っていたはずだ。ならば、もしかしてと思った。そっと丁寧に、気を付けて引き出す。すると、国章のものだった、ベリルウッドの国章だ、あの垂れ幕と同じやつ。
中は、まるで永久の花冠のような花の輪と、時 間が描かれる。
それには、「わぁ、可愛い」と素直な感想を持った。しかし、良く見るとわかる。時計の裏に書いてあるのか彫ってあるのかそれとも押してあるのか。これ名前入ってますよねとなった。
「ステファーヌ・ミラ・オブ・ベリルウッド」
未来の名前となるであろうやつ。気が早い人だなぁと思うのだ。そう、これはとても、とても、気が早すぎるのである。
本当に彼は当然だみたいな、にこやかに圧が凄い。貰えって言ってる。何がって、顔が。
「圧が凄いですよ、王子様?」
なんて、ふざけて言えば彼はしゅいっとそれを消した。普段通りの彼であるけれど、少しもらってほしいそうにしている。
「持っていたほうがいいと思うよ、この中でも外でもそれを持てる人間は限られているからね。ましてや、その名前は我が国で十分に効力を持つ。 なにか言われたときに、見せればいいからね。無くさないように、チェーンも渡しておこうかな」
彼は、別の場所へと向かっていくつかのものから一本チェーンを取り出した。それは、エメラルドとペリドットがひと粒ずつついたものでそれもまたそれなりにしそうだ。まぁ、いいや。彼に、つけられてつなげてもらえば、出来上がりであるのだから。
「そもそも、その時計。父が許可しなきゃ作れないのだから、安心しなよ。父、公認で作ってあるから。いつ渡そうか悩んでいたんだ」
と、今までで見たこともない満面の笑みを見せた、何だか落ち着くような落ち着かないような。
「まぁ、いいや」ということにしておきたいと思います。
彼は、家の仕事を手伝い始めているそうだ。忙しいこともあるだろうに、話し相手になってくれている。家で会っていた時と変わらない様子で付き合ってくれる彼は、ヒューゴともここで会っていたようだ。ヒューゴも、彼とはリラックスしているようで、のんびりとくつろいでいる。ヒューゴは、ミゲルミーティアの話題を出した。
「ミゲル、この子を君と一緒にミーティアに入学させるつもりだから」
そう言いながらも、意図を見せぬ笑みを見せる。しかし、ミゲルは予想していたらしい。呆れてため息を付きながら、 彼は同意した。
「幼馴染だしな、どっちも」
幼馴染としての彼らしいのかも知れない。とは思ったし、ふたりともにこやかに話している。
ただ暇なので、彼と話をしている間にソファーにごろんと寝転んで、彼の脚の上に頭を乗せる。彼はそんな行動を取る私にくすりと頭をなでながら笑った。
「君は本当に、甘えたがりだよね。それでいいんだけど」
ミゲルは、甘えて甘えさせる二人を見て、ようやく落ち着いた気分になる。今まで心配していたが、ひどい事はなされてなさそうだと感じた。
まぁ、 ヒューゴの事だから、したりはしないだろうが。周りの貴族たちからは分からないからである。それにしても。
「随分と、仲良いんだな。安心した」
ヒューゴは言われて、ミゲルへと顔を向けてくる。いつも通りに、読みにくい表情をしていて、どこか嬉しそうではあった。
「この子が俺の事を受け入れてくれて いるからね。まぁ、兄がほしかったのもあるだろうけど」 ヒューゴは、スティが夫として見てくれているならそれで……と思っている。それに、今から関係は作られて行くのだから、慌てる必要はない。 「ミゲルはミーティア行くのなら、ヒューは行くのですか」
二人の会話にスティは、別の話題を振る。少し恥ずかしくなったのだ。だから、はやく変えてほしいのである。
それに気付いて、ヒューゴは今のミーティアに対する意識の現状を話す。
「今は、貴族が反発しているんだよ。だからね、どうなるかな?とりあえず、公務は引き続きやるし、帰る事も出来るから、その調整しないとね」
どうやら、私も彼も行くらしいので、ワクワクしている。1年差をつけて入学ということだ。
そんな私に二人は顔を見合わせて、微笑んだ。そう、平和なアフタヌーンティーの時間の頃のことだった。
そこから数ヶ月も経てば、この生活にも慣れてくる。彼との関係性を良いものとして築けているかは分からないけれど。
ただ、となりで本を読んでいると覗き込んで来たり、側で出来る事をしたりしてくれているかは、嫌われていないようだ。久しぶりに、そんな事を考えていると、うつらうつらと眠くなる。
半分寝ているような状態に、ヒューゴは気付いたらしく、頭に手をやって熱を測った。そして、平熱だったらしく、ほっとしているようでそのまま撫でられた。ただ、やっぱり心配なようで。
「ただ、眠いのかな。一緒に寝ようか、俺も眠いから」
上着を脱いで、寝る準備をしだした彼に続いて、ラフな格好になる。 先にベッドに上がれば、彼も横になった。さすがに彼の方が身長は高い、結構、高い方なんじゃないかなと思う。だから、すっぽりと抱きしめられてしまうことにどきりとしてしまった。
「疲れたりしていない?体調崩してはいない?」 顔を覗き込んで尋ねてもらえるけれど、特に無いと、首を振る。すると「そっか」なんて、笑ってくれるのだ。
「なら、大丈夫かな、寝ていいよ、俺も寝るから」
布団を掛けてくれる。背中をリズム良く撫でられて寝ないのがいるのかなぁとは思った。
「おやすみ、気にせずに寝ようね」
なんて、耳元でつぶやかれて、しばらくするともう寝ていたと、思う。
ヒューゴは、 すやすやと寝てしまったスティを眺めていたけれど、自分も寝に入ることにする。 最近、疲れているし、今日は休みなのだ。父から言われたので、それで良いのである。何せ、父は国王なのだから。ヒューゴもまたいつの間にか寝ていた。
スティが起きれば、すやすやと寝ている彼が目の前にいた。薄明の紫は隠されているけれど、顔立ちは整っており、綺麗な人だと思う。美しいよりも端麗であると言えばいいのだろうか。
体に乗っている手をにぎって、もう一眠りしようかなとも考えていたけれど、そうしているうちに彼は起きていたらしく、くすくすと柔らかな笑い声がする。上を見てみると、目があってやっぱり起きていた。
「本当に、君って本当に、甘えるのがへただね」
そう、笑いながら言われて、ムッとする。 行動に対していっているのだろうことは一目瞭然だ。
「知らない!」と、布団を引っ張って奪ってやる。でも彼の判断は早くてすぐに、動かれてしまう。
「ははっ、可愛い事してくれる」と言って私の事を探し出したと思ったら、抱き上げられる。ベッドの上に座わる彼の上に座らされた。
「すねてるの?」と、彼にのぞき込まれてしまうから、「すねてないの」と、すねてみるのだ。
そっぽ向くと、彼は「すねているよね、可愛い所あるよね、君。愛しているよ」と、今まで言ってこなかった事を言ってくる。初めてだった気がして、大人しくしてくれない自分の心がうるさい。
「すねないで、俺は君が笑っている方が好きだよ」
そう言う彼の顔を見ると、どこか照れていて、彼もまた少し緊張しているらしい。
「なら、ほっぺにキスちょうだい。だったら、許してあげますよ」
そうやって試してみれば、彼は驚いたように少しだけ目を見開いた。
「まったくって言ってほしいの?仕方ない子だね、おいで」キスしてあげよう。そう言い切った彼は、望んだ通りにしてくれる。それがうれしかった。
「すねて、ごめんなさいね。 ヒュー」
彼のほっぺたにお返しをしてから、スティはベッドから降りる。
「よく寝た。気持ち良かったかもしれないなぁ」と、言いつつ、服を整えると彼も自分の服を整えていた。そうして、外に出て行くのかと思えば、そうじゃないらしい。整え終えてから声をかけてくる。
「今日は、何する?まだ、夕食までは時間があるからね」と、尋ねてくれているけれど、まったく思い付かない。
「どうしたいって言われると、ないなぁ。今は、欲しい物ならあるけど」
そう、一つ欲しいものがある。それを耳に入れたヒューゴは、何がほしいのだろうと思っているだろう。
彼は「何が欲しいの」と言って私の側まで歩いて来た。すぐに、詰められた距離はもうすでに至近距離で。
「言ってごらん、さあ」そう急かすように私を後ろから抱きしめてくる。なら、一つだけ。
「時計が欲しい なぁって思うのですよ、ほら広いから」
素直に欲しいものをいうと、後ろから「確かに、俺もユージンも持っているからね。いいのがあるよ。俺とおそろいでよければ、ね?」と、はっきりといった。何かしらの意図が隠れているような気もする。何かもったいぶった言い方というかそんな感じのなにかを感じた。
「どんなやつなのです?」 と、彼にもたれながら尋ねると、そのままソファーまで行って、そこに座らせられた。
そこから、彼が大切な物を入れているらしい棚を開ける。茶色の棚は、ツヤがあり、美しいものだ。彼がそこから出したものは、 みどり色をした一つの箱だった。
それを持って、くすくす笑いながら彼は私の手にそれを乗せてくれた。彼はどうやら、何かを考えているらしい。
「開けてごらん?」そう言われて、素直に従う事にする。そこには、丸い懐中時計、確かに彼も持っていたはずだ。ならば、もしかしてと思った。そっと丁寧に、気を付けて引き出す。すると、国章のものだった、ベリルウッドの国章だ、あの垂れ幕と同じやつ。
中は、まるで永久の花冠のような花の輪と、時 間が描かれる。
それには、「わぁ、可愛い」と素直な感想を持った。しかし、良く見るとわかる。時計の裏に書いてあるのか彫ってあるのかそれとも押してあるのか。これ名前入ってますよねとなった。
「ステファーヌ・ミラ・オブ・ベリルウッド」
未来の名前となるであろうやつ。気が早い人だなぁと思うのだ。そう、これはとても、とても、気が早すぎるのである。
本当に彼は当然だみたいな、にこやかに圧が凄い。貰えって言ってる。何がって、顔が。
「圧が凄いですよ、王子様?」
なんて、ふざけて言えば彼はしゅいっとそれを消した。普段通りの彼であるけれど、少しもらってほしいそうにしている。
「持っていたほうがいいと思うよ、この中でも外でもそれを持てる人間は限られているからね。ましてや、その名前は我が国で十分に効力を持つ。 なにか言われたときに、見せればいいからね。無くさないように、チェーンも渡しておこうかな」
彼は、別の場所へと向かっていくつかのものから一本チェーンを取り出した。それは、エメラルドとペリドットがひと粒ずつついたものでそれもまたそれなりにしそうだ。まぁ、いいや。彼に、つけられてつなげてもらえば、出来上がりであるのだから。
「そもそも、その時計。父が許可しなきゃ作れないのだから、安心しなよ。父、公認で作ってあるから。いつ渡そうか悩んでいたんだ」
と、今までで見たこともない満面の笑みを見せた、何だか落ち着くような落ち着かないような。
「まぁ、いいや」ということにしておきたいと思います。