あお空つなぐ祈り

あお空つなぐ祈りー冬の特別感とともにー
 雪が舞い降りる季節がやってきた。なんだかか、今年は寒くなるのが早い気がする。どうしてだろうとは思うけれど。それはきっと、専門家の仕事なんだろうなぁと、ふと思ってしまう。そんなことよりも、仕事の合間を縫って来てくれる忙しい彼との時間を大切にしたいから。

「ふふっ、雪が降ってますね……。」

白い世界に包まれた景色は染められることを拒んでいるようで、私達だけの世界に閉じ込めてくれるのではないかという錯覚を起こさせてくれる。

「ホワイトクリスマスだね……。」

ふふっと優しげに、得意げに笑う彼に私はどう返してあげようかと少し悩んでしまうけれど。きっと、彼はそんなに考え出した答えは望んでないって思うから。

 凍えるような寒さなのに、心がぽかぽかとするこの気持ちを伝えたいから。

「寒いはずなのに……なんだか、ぽかぽかしてきました」

 そっとダイゴの手に自分の手を重ねる。そして何となく恥ずかしくて、そっとそっぽを向くように少しだけ顔をそむける。今、顔がほんのりあったかい。

「そうかもね。きみといるクリスマスはいつだって、どこだって、暖かいよ」
「なんだか照れますね」

そう、ほっぺをほんのりと優しい桜色に染めているであろう自分をみて、ダイゴは、ほわりと微笑み私を抱きしめた。

「キミだから、ボクは結婚しようって思えたんだ。だから、もっと自信を持ってよ」

私の薬指に存在を示す指輪をそっと優しく撫でる。その撫でる仕草が、本当に優しくて、甘くて、本当にくすぐったくて。そんなことを思っていると、彼が立った。

「今年のプレゼントは……ボクと過ごすこと。その間に何かプレゼントしようかな?」

私の手をとり、さっき撫でていた指輪へと軽い口付けが落とされる。ほら、あなたはそうやってするのに、私はあなたに返してあげれているだろうか。あなたがくれる「好き」に似合う「好き」を返してあげれているだろうか。

「ボクにとっては、アオイと一緒に居るのがクリスマスプレゼントだよ。久しぶりに会って、それから数ヶ月なのに、こうやってプロポーズを受け入れてくれて、ボクを側に居させてくれる。それがアオイだから」

シャンシャンと雪が舞い降りるこの季節だけど、好きと好きを重ねることで寒さなんて吹っ飛ばせてしまう。そんなこの季節が私は好きで、いつになっても離れてほしくないって思ってしまう。だけど……。今年は……二人で年越しを迎えてみたいって思ってしまうんですよ。

きみは、クリスマスが過ぎてほしくないと言うけれど、ボクは過ぎて欲しいなって思うよ。そうしないと、きみと様々な思い出を作れないじゃないか。ボクはきみのことが、きみが思っているよりも好きだから安心してね。どうか、これからはボクと二人で年越しを迎えたいって言ってほしいなぁ。

どうか、来年のクリスマスもダイゴさん/アオイと共に過ごせますように。

白く舞う雪へとその思いを託した。消えてなくなる儚い雪は、確かに水へと変わり川へと湖へと海へと流れ、蒸発し、雲へと変化し、雨となり雪となる。ほら……無くならないでしょ。形が変化するだけ。

きっと、このまま結ばれて形が変わっても、変わらずにとなりにいたいから。

 さくっとブーツが沈む音がするこの雪景色に、アオイは、はぁっと白い息を吐き出した。ダンバルたちがふよふよと、浮いて雪山で過ごしている景色を「見てみたいなぁ」なんていう彼と一緒に来ている。コートを羽織る姿はどこかクールで仕事のできる人のイメージを増強させているかのようで、かっこいいなぁって思ってしまってる。
 彼から目線を外して、私も彼の目線の先に合わせた。そうしたら、雪が積もっている草の上をふよふよと浮いている数匹のダンバルがいて、どこか可愛らしさをも感じさせてしまう。だけれど、育てばチャンピオンの相棒をつとめてしまうまでに成長するポケモンで、私にとっても相棒だ。彼にとっても大切で仕方ないポケモン達だと思う。

「うわぁ〜。本当にこんなにいるんだ、本当に可愛らしいなぁ。ここまで多くいるのはあんまりみないよ」
「でしょう? ここで集団で暮らしているんですよ。凄い綺麗な動きをすることもあるそうです」
「うん、ダンバルは群れで生活するからね。あっあんなところにメタング……珍しいね」
 
 きらきらとした瞳は常に野生のポケモン達の方へと向いている。そして、彼らを眺めているのがとっても楽しそうで、鼻歌が聞こえてきそうなテンションで。なんだか、それが少しだけ寂しくなってしまう。少しの嫉妬かもしれない。こんな感情嫌だなぁって思ってしまう。
 少しだけわがまま言っても良いだろうかなんて、そう思ってしまうんですよ。言ってみようかなって。

「そんなこと、言ってると貴方のメタグロスが、嫉妬しますよ」

そんな私の言葉に、驚いたのかキョトンとした表情で瞳をぱちぱちしてしまっているのは彼で。そして、ふっと優しく微笑んで私の手をとり彼自身のポッケに手を入れてくれた。

「ふ〜ん……どうしたのかな? アオイは今どんな気持ちでいるの? よかったら教えて? 」 

そんなことをされて、こんなことを言われたら、なんだかくすぐったくて。ほんとのことを伝えてしまっても良いのかなと思ってしまう。

「貴方がずっと……」
「ボクがずっと?」
「ダンバルたちを見てるから、なんだか寂しくなったんです! 」

そう言って、ふいっと顔を彼から背けると。

「ふふっ、ごめんね? でも、ボク。きみと一緒にここに居るから楽しいんだよ? きみとじゃなきゃこんなに楽しくないよ?」

そう言ってくれる彼は、何か話そうかとポンッとメタグロスを呼び出した。メタグロスの頭に乗せて貰うのだろうか。

『メタッ!』

 メタグロスをみて、彼のぽっけから手をだしてメタグロスに触れる。綺麗で艶やかだ。

「艶やかで綺麗ですね……」
『それは、いつも綺麗にしてもらってるからさ』
「ふふっ、嬉しいですね」

ふふんっ、と言うような声が聞こえてきそうなドヤッとした感じのメタグロスに微笑みが自然と溢れる。そんな私を覗き込むように彼は声を掛けてくれた。今は、私だけをみてくれてる。そのことに、嬉しいなぁって感じてしまう。

「本当に、アオイはみんなと触れ合うのが好きだね。きみが嬉しいとボクまで嬉しくなるよ」
「ダイゴさん」
「ん? あぁ……そうだった」

 そう言って、私の手を引き込んでいたぽっけとは逆のぽっけから箱を取り出してきた。あれ? なんだろう? 今日はなにかあったのかな? 記念日とか?

「これ……どうぞ。開けてみて」
「なんですか?」

 指輪は、こないだ彼から貰って、ここにあるんだ。あぁ……どうして、少し寂しさを感じていたのだろうか。彼が私のことを大切にしてくれていることはしっかりとわかっているのに。なんだかそのことに、申し訳なくなってくる。
 丁寧に、梱包用紙を開いてぱかりとその箱を開けてみる。その中には、まぁるい鮮やかなマカロンがあってなんだか、くすぐったいと感じてしまう。

「ありがとうございます。私にとっても、特別な人ですよ」
「ボクにとってもだよ」

 ホワイトデーは、ほわほわとした雪が降るホワイトな世界から気持ちをお届けしようと思ったのはダイゴの方だったのだ。あの子達を観に来たのも本当だけど、そっちの方が意味は大きかった。

ボクの特別な人はきみしかいない。
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