あお空つなぐ祈り

あお空つなぐ祈りーお菓子作りとプレゼントー

 綺麗にキッチンを拭いていたかと思うと、おもむろに調理器具を出してきたアオイにダイゴは何をするのだろうかと首を傾げた。

「どうしたんだい?」
「えっ……とね。少しやりたいことがあってですね」

どこか、照れているような恥ずかしそうなアオイに更に首を傾げるダイゴだったが、まぁ……何かを作る予定なのだろうとは理解できた。

「何を作るの?」
「小さなパンケーキを作ろうかなと思いまして」
「ふふっ、そうなんだね。ボクにも手伝わせてよ」

 そう言うと、キョトンとした顔をしてアオイは瞬きを数回繰り返した。だけど、にこっと微笑んで「はいっ」と答えてくれた。

「じゃあ、作っていきましょうか」
「そうだね」

デニム地のエプロンを被り結んだ姿をアオイにされたダイゴであったが、アオイが高いところにあるポケモンでも食べられる薄力粉とベーキングパウダーを取ろうとする姿をみて、そっと手を添えた。背伸びをするアオイの足元はどこか不安定でちょっと危なっかしい。

「アオイがいつも作ってるのは知っているけど、ボクの前では、ボクに頼ってほしいな」
「すっ、すみません、、そうですね。あの、ポケモンでも食べれられる薄力粉とベーキングパウダー取ってくださいです」
「ふふっ、ですって。いいよ」

いつも、ボクには丁寧に話すキミだから。ください……って終わるのは嫌だったのだろう、ですの語尾に可愛らしいなぁと思っているのは暫く会えてなかったからなのだろうか。

「これと、これであってるかな?」
「あってますよ」

アオイに確認をとって、棚からそれを出してアオイへと渡す。

「ありがとうございます。じゃあ、冷蔵庫から卵と牛乳とってきますね」
「うん、準備しておいで」

そう言うと、たたっと冷蔵庫へと向かい必要な物を揃えるアオイをみてダイゴは。

(もうそろそろ、アオイと婚約じゃなくて……先に進めたいなぁ。でも、アオイはボクがそう思っているなんて気がついているのかな。いや、付いてないんだろうなぁ)

なんて思っていた。そんなダイゴの元に、卵と牛乳などを揃えたアオイが戻ってきて。

「じゃあ、始めましょう」

 先にホットプレートを温める必要があるので、コンセントを刺して弱火で温めておく。

「じゃあ、卵を半分に割って卵黄と卵白と分けましょう」
「そうだね。まずは……卵からかぁ」

トントンと、ボウルの端で卵の殻を割り半分に割れたところで交互にして卵白を分けるこれが結構難しくて、大変だけど。アオイは、慣れているのかすぐに綺麗に分けていてそれを見ているだけのボクなんだけどなぁ。ボクは、どちらかというとお菓子をつくっているキミを間近で見ていたいから。そして、卵白が入ったボウルを冷蔵庫へと向かわせてから次の作業へと向かった。

「ダイゴさんには、混ぜてもらいましょうか」
「いいよ、任せて」

薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖など今から使うものを計量していく。お菓子は、計量を丁寧にすることで成功すると言われるほどに計量は必要で重要なものなのだ。

「じゃあ、卵黄と薄力粉、ベーキングパウダーを混ぜますね。薄力粉、ベーキングパウダーを入れるときは、空気を入れるために、これを使ってください」

と、差し出されたのは細かい網のついたもの。ふるいをかけるもので、玉を無くすことにもつながるものだ。そういうところも、しっかりとしているのは流石はアオイってところかな。

「じゃあ、やってくね」
「お願いします。私は、卵白をやっていきますね」

 そう言って、アオイは冷蔵庫から取り出して、そのボウルの近くに砂糖を取り寄せる。そして、ハンドミキサーをとり、少しの砂糖と共に混ぜていった。ボクも、あの2つをふるいをかけて混ぜていく、2人でつくったものだから……きっと美味しくなるのだろうなぁ、なんて決まっていることを思いながら。
 綺麗なメレンゲと、生地の下準備ができたところでアオイがその2つを混ぜ合わせる。しっかりと玉ができていないことを確認したアオイは、ホットプレートに、小さな塊をぽん、ぽんと乗せていった。そして、お湯を端のところや乗っかっていない場所に流すと、ホットプレートの蓋を閉じた。どうやら蒸し焼きみたいにするようだ。

「ふふっ、こうやって。ダイゴさんとお菓子を作るのって初めてですよね」
「確かに、、ないかもしれないね」

嬉しそうな声色で、アオイが言うものだから。今日、ここに来たかいがあるなぁと思う。そう思いつつ、作業しているアオイを見ているといつの間にか、形の綺麗なふっくらとしたミニパンケーキができていた。

「ほら、完成しましたよ」

そう言って、綺麗に盛り付けられたパンケーキを見せて、微笑むアオイと共に、庭に出てポケモン達と食べることにした。みんな、喜んでくれているからすごく嬉しいなぁ。と、思うと同時に。

(この御礼に、指輪なんてどうだろうか。そして、ボクの横に)

なんて、考えてしまう。そして、それを考えつつもパンケーキを口に運ぶと優しい味が口に広がる。まろやかで柔らかなそれは、ボクの心の湖を清らかで優しい水が満たしているような心気になった。

「美味しいよ」
「ふふっ、ありがとうございます!」
「ボクこそ、ありがとう」

礼儀正しく、ナイフとフォークを所定の場所に戻したアオイの手をとり、そっと握り、ボクが普段つけている指輪をはめた。ふふっ、やっぱり大きいね。

そんなことで、赤面している彼女は明日、ボクから指輪が贈られるなんてこときっと知らない。そして、彼女がどんな顔をするのかなんて、ボクにはわかっているけれど、ボクがどんな顔して渡すのかなんてキミはきっと知らない。

(はやく、ボクの物ってこと示したいんだけどなぁ)

さて、キミとボクに合う指輪は見つかるだろうか。いや、既にもう見つけているのだけど。

「どうかしましたか?なにか、考えごとでも?」

首をこてり、と傾げたキミのことがボクはとても大切なんだよ。の、意味を込めて。あらためて、優しく手を握った。

明日の朝の空はきっと晴天だろう。

 翌日、昼から始まったバトルは夕方へと入り込む時間帯に終わった。
 未だに熱冷めやらぬ会場……結果は引き分け。そんな良くも悪くも無いその結果に人々は安堵したらしい。とは……誰かの言葉だろうか。

「まぁ……ここは、一種のエンターテインメント。だからこそ、最もチャンピオンが表に出ており、問題が解決されなかった場合には……批判が起きる。ボクらだって、失敗はするし、間違えだってやってしまうのにね」
「そうですね……」

そうやって、話しているときに。ある女の子が来た。髪を姫カットした女の子で、何処か和風な感じがする。キュッと大きな瞳が優しそうに細められた、なんだか上品な感じがする。なんだか……凄く、優しそうですね。

「ご無沙汰してます、こちらにいらっしゃると聞いたんで……」
「こっちに来ていたんだね。あっ、アオイ、彼女は君と同い年の音初さん」
「始めまして、シロタエ・コーポレーションの社長令嬢のオトハと申します」
「あっ、始めまして…サクラカンパニー社長令嬢のアオイと申します」

軽くお辞儀をすると、同じようにオトハさんからも返ってきたので、律儀な人なんだなぁと感心する。も、束の間。私の心の水面に一滴の雫を垂らすような発言が飛び出してきた。

「ふふっ、ありがとうございます。ご婚約されているようですね」
「どうして、知っていらっしゃるのですか?」

まだ、発表はしていなかったはずなのに。もしかしたら、この人にダイゴさんを取られてしまうのでないか。そんな、言葉が心の中でこだました。

どこか、悲しげなアオイの表情を優しげに捕らえたのは、誰だったか。いや、このダイゴとアオイ、この二人のうちどちらかというのは間違っていないのだ。私は、この日逃げるように家へと戻った。

 ごめんね。その言葉から、考えられるのは。「二人でいる時に声をかけてくれ」と頼んだことなのか、実際に彼女に不安が芽生えてしまったことなのか。うちには、計り知れないのだろう。この、優しいのにずる賢い彼の頭の中は。

「私には、結婚を前提にした婚約者居ますから。大丈夫ですよ?そもそも、私が手伝ったからって何も言いませんし」
「分かっているよ、きみは……幼い顔をしながらも、かなり頭の回る子なのだから」
「よく言いますね。あなたもでしょう」
「ははっ、頭の回ることに関しては認めようかな。で、何かやってほしいことある?流石に、今回はお礼したいな。」
「デボンのCMソング、私に歌わせて貰えませんか?」
「ふふっ、そうだろうね。人気歌トレさん」
「私の本名も活動名も知ってるのは、数少ないのですからね」
「わかっているよ、君に任せるよ。また、打ち合わせ日時は伝えるから安心して」
「安心しているから大丈夫だって」
「どうだかな……じゃあ、また。今日はありがとう」
「不安に思っているだろうから、優しくしてあげてね」
「勿論だよ、ボクの今日は特別なのだから」

 そう言って、足早にこの場を後にする彼を目で追った。
「さて、私もちょっと、自由にしたいかな」
「まぁ、そうしたらどうかな。僕も、自由にするからさ」
「さとっさん、が。私の大好きな人だからね」
「知ってるよ」

 そんな日の夜、儚げな三日月が優雅に広がる空にあがっていた。ワイルドエリアの湖にその月が映り、風で揺れている。それを……ゆったりと眺める私に声を掛けた。

「アオイ……月を見て、儚げな気分にでもなっているのかい?月が欠けるように、ボクとの時間も欠けるように感じているのかい?」

違うだろう?と、言うように彼は私の顔を手で包んだ。少し冷やかな手は優しい彼の性格をを示すようで、心が暖かくなる。

「きみが不安にならなくてもいいように……。これを、受け取ってくれやしないかい?」
「これって……」

さっと手を離してポケットからひょいっと箱を出したかと思うと、彼の手には奇麗な指輪が置かれていた。

「桜の花びらをイメージした指輪、ボクと君だけの特別な指輪だよ」
「えっ……」

混乱する私に、彼は……指輪をすっと定位置へと運んだ。しっかりと、きつすぎず緩すぎず奇麗にはまった。彼の手にも、指輪が存在感を増していた。あぁ、そうだ。明日は、パーティーがあるのだ。

「君のことしか、パーティーに連れて行きたくないよ」
「お供してもよろしいですよ」

ー君だけがボクのパートナーだよー
ー私もそう思っていますー

どうか、彼との関係が末永く続きますように。
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