あお空つなぐ祈り
あお空つなぐ祈りー会議と思わぬ横槍ー
どんよりとした曇り空のシュートシティ、このローズ氏により計画的に作られた都市で、各リーグ委員長、サポート企業の社長、役員クラスによる会議が行われていた。今回は、議題は密猟防止策を考えることであり、リーグだけでなく企業にも対策への参加と協力を求めた。ここ最近、数カ月前からは直接的な行動に出て他人のポケモンを捕獲し売買する取引も増加傾向にあることで、早急に対策を練ることが重要視された。しかし、すでにリーグは密猟の対策で手が一杯な状態であり、売買の現場を抑えるべく動いている者と密猟の現場を抑える者で別れて、それぞれにやるべきことをやっているのだけども……。
ダイゴは気付かれないように、はぁ……と軽くため息をついた。気がついたのは、横にいらっしゃる、ある会社の社長のみだろう。いや、あるいは自身の秘書とその社長というところか。ただリーグ側と会社側の衝突に、頭痛がする。
「きみはよく頑張ってると思うがね?」
そう、ゆったりと言ってくれたその社長に「ありがとうございます」と、伝えると「今回は我々のみでの協力としようかね」そう、ボクに四角いメモをそっと渡してくれた。
『きみが先に言ってくれて構わない』
なんだかんだと、父よりもボクを気に入ってくれているその社長の提案を飲み、会議を進めるカントーリーグ委員長に目線を上げた。
あお空つなぐ祈りー大切な子ー
会議と、いえば会議だが……押し付け合いにも見えるようなもの。『会議は踊る、されど進まず』とは、言われるけど。まさにその通りかも知れない。
「それは、各チャンピオンや委員長が、ジムリーダーなどがやる必要があることだろう?なぜ、我々まで進めていく必要がある?」
「それだと、各地方で対応に差が出る。それに加えて、すべて人がやっていく訳には行かない。管理システムの整備を進めなければ」
「ワタルくんやカルネさん、に話を聞いてみれば一杯一杯みたいだよ。ワタルくんは現場を取り押さえる方で、カルネさんが売買の現場または情報をとるって形だから。とりあえずは、各自の仕事関係で二手に別れているって」
「それで、偏ってるんじゃないのか?2つともできて当たり前だろう、個人の問題じゃないか?」
企業は『チャンピオンなのだから、できて当たり前』、リーグは『サポート企業なのだから、協力してくれないと困る』という認識が基本だからなぁ……と、思うけども。
「はぁ……それ、僕に向かって言えますか?」
「あっ、そうだった。今日、ムクゲから息子に頼んだからよろしく。って言われてたのにな」
「構いませんよ、急な変更でしたので。改めまして、デボンコーポレーション副社長兼ホウエン地方チャンピオンをさせて貰っていますツワブキダイゴです」
「ダイゴくんは、皆さんのご存知の通り、鋼鉄の貴公子の異名を持つチャンピオンだ。今回はカルネさんと一緒に、売買を見つけて摘発する方にまわって貰っているよ」
ザワッとざわつく会場に、「彼が来ていたのか」とか「なぜ、ムクゲの息子が?」という言葉も交じる。
「今回、このことに対し、ホウエンはシルフカンパニーへの協力を求めました。ですが、時を同じくして本部から、デボンコーポレーションとシルフカンパニーへの協力依頼を頂きましたことを踏まえ、デボンコーポレーションと……」
チラリ、とシルフカンパニー社長へと視線を向け頷きが帰ってきたことを確認してから、再び視線を前へと向ける。
「シルフカンパニーの二社で協力体勢をつくり、支援していくことが決定しております。実際に、先週……本部と二社の担当者での会議が始まっていますので、ご報告とさせていただきます」
にこっ、とした顔で言い切ったダイゴに他社の担当者や社長は、どういうことだ?と動揺する。二社は、大手企業であり世界的企業である。その二社であるから、他地方にも会社を持っているのは当然で、二社合わせれば全地方に対応できるのでは無いか、と。
「はっ……どういうことだ?」
「おいおい、二社に動きがあるってのはこれかよ」
「うわっ、どう社長に報告するかなぁ」
慌てる担当者をスルーし、話を続けたのはまさかのシルフカンパニーの社長であった。
「まさか、ダイゴくんの方から提案がくるとは思ってなかったんだがね」
「ははっ、すみません。ですが、今回は他社にも協力を依頼し全地方規模で、各地方を支えていこうと思い、どうするか本日、社長と話をと考えていたのですが……」
「今回は、二社での協力でいいかね?」
「はい、そのようにします。社長……このあとお時間いかがですか?」
「もちろんだとも」
「では、そのように。今回のデボンからの提案は以上です」
「よしっ、、、とりあえず。本部に協力してくれる企業は私に言ってくれ。シルフとデボンは引き続きよろしく頼むよ」
「わかっているよ」
「勿論です」
とにかく、この二人の会話によってデボンとシルフとつながる機会を逃した企業も多く、後で事実に気付き唖然とした社長も居たとか居なかったとか。
「ダイゴくん、お久しぶりですねぇ」
「えぇ、お久しぶりです。今は、すみません。急いでますので、行きましょうか」
「そうだね、行こう」
予定の場所へと向かう二人の背を見て何かを考え、ぐっと悔しそうな顔をしたローズは、何かを始めようと執務室へと向かった。
午後3時頃のナックルシティは、晴天。青空に微かな雲がちらちらと見えている。ナックルシティといえば、ナックルジム。と、言われるほどの特徴的なジムの前で待ち合わせ場所に選んだのは、彼だった。昨日の別れ際に突然言われた予定に私は驚いたのだった。
「アオイ、明日は昼から時間どうかな?」
「えっと……確か。3時頃なら、特に予定はないですよ」
「本当?なら、よかった。ボクもちょうど、時間に余裕があるんだ」
そう、ほわっと柔らかに微笑むダイゴさんに私も照れくさくなって笑うと、彼は私の頭を撫でてくれた。そういうのが昨日あったわけだけど。
「あっ、お待たせ。待ったかな?ごめんね」
にこやかな笑顔を見せつつ、私に誤ってくれるたダイゴさんの服装は。灰色の三揃えのスーツに紺色のTシャツを合わせた休日スタイルで。あっそっか、今日はこれからお休みなのか。と、思い少し嬉しくなった。だけど、淡い青色の紙袋を下げていることが少し気になる。
「いえ、全然。大丈夫ですよ、今来たところですから」
「うん?本当かな……ふふっ。そういう事にしておこうかな」
やっぱり、今来たことを疑ってるよね……。そう思ってしまうけれど、彼が私のことを親切にしてくれていのはわかるから。特別な気持ちが無くともそれは多分……本物だと思うけど。
「行きましょうか?」
「そうだね、ほら……ここに」
紳士らしく、体と腕の間に三角のすき間を作った彼に私はすいっと手を入れてエスコートしてもらう体勢へなった。
「ワイルドエリアも久しぶりなんだ。きみが一緒に居てくれると安心するよ」
「ふふっ……そうですね。なら、行きましょうか」
ワイルドエリアの天気は、巨人の鏡池の方が雷雨になっているようなので、逆鱗の湖の方へと行こうということになった。
「ワイルドエリアは、よく来るのかい?」
「えぇ……ワイルドエリアでのドラゴンの研究は、得意とする分野ですから」
「そっか。で、今は誰かに協力して研究してるわけだね」
「そうなんです、マグノリア博士の助手として調べているのですよ」
「博士についているなら安心して君を任せられるね」
「どうしたんですか?」
「いや、きみが……ガラルで何を感じて、どう過ごしているのか、というのが気になってね。ただそれだけだよ。でも……そんなこと、聞かなくても。きみを見ていたらわかるよ」
「よく、頑張ったね」そう私に言ってくれる。彼の顔が見れなくなるような気がして、私はうつむいた。ダンデとの戦いは自分にとって、悔しく、悲しい結果だった。自分の努力もポケモンとの絆もそれまでだったんだな。そう言われているような、王者の瞳が怖かった。同時にそれは『負けたんだ』という感覚を鋭く伝えてきた。ダンデさんが悪いわけじゃない。それを、その意味でとった私が悪いのだ。
私は家柄的にも、財力的にも優れた一族の出身で、かつてにフスベ出身の夫とルネ出身の妻がガラルに移住したことから始まる一族でもあると言われ、得意なタイプはドラゴンとみず。貴族としての地位も高く、上から数えるほうが早い。
そんな家柄で育った私は、厳しいくも優しい祖父に優しい父、叔父、厳しくも凛とした母の元で何不自由なく育ってきた。褒められて、叱られて多分……他の子よりも厳しく、甘く育てられたと思う。世間知らず、と言われることはあまりなくどちらか言うと落ち着いていると言われるぐらいだった。
ただ、家柄の良さで判断することの多いというのもある『家柄がいいから、バトルがうまくなったんじゃねーのか?』、『それぐらい、できて当たり前だろう』そう言う人も多かった。それで、私は……自分がどのレベルにいるのか、どれぐらいなのか。それが、さっぱりわからなくなってきたのだ。「自信がないのなら、自信を付けろ」そう言われることも多かったけど、自信なんて、小さなことなのかも知れない。家柄は自信になんて結び浮かないんだから、と。
そんな自分を、責められているように感じて。
「どうしたんだい?」
きっと、この人は……そんな目はしないのだろう。バトルが終われば、さっと表情を変える彼だから。終わってからも、鋭く相手を射るような瞳はしないはず。
「ファイナル……私は、負けました」
「うん……そうだね」
「負けて、あぁ……『負けたんだ』って思った。それで……」
「あぁ……彼は、バトル……いや。違うね、ガラルの人たちはバトルを一種のエンターテイメントとしてみている。だから、バトルが終わっても尚チャンピオンはチャンピオンでなくてはならない。立場的にじゃなくて、それを示さなくてはならないんだ。見ている人が多いから……」
「わかっています……。なんだか、それが……ポケモンとの接し方が足りなかったんじゃないか、才能が無いんじゃないかとか……責められてるように感じて」
「大丈夫……アオイ、きみはよく頑張ってるよ。きみの、ポケモンたちを見ればわかる。バトルを見ればわかるから、よく頑張ったね。ボクが直したほうがいい。そう言ったところ、頑張って直そうとしてたことがわかるし、改善できてるよ。だから、自信を持ってね?」
「そうですね……あなたが言ってくれるなら、そうですよね」
「ボクは信じているよ。だから、大丈夫……。きみが思う以上に、きみのこと大切に思っているんだよ」
優しく笑う彼に、つられて笑ってしまう……そうだよね。彼が認めてくれてるのだから、私は私の思うように……と言ってもそれが難しいのだけど。
「まぁ……きみは、思い切れれば凄く強いから。こう、と決めたならば。そう、すればいい」
「わかりました。ふふっ……話が変わるのですけど、ダイゴさんは何かお仕事で?」
「うん?あー、リーグ委員長会議だよ。各地方の企業の社長や役員も参加する会議なんだけどね。今回はここガラルで開かれているんだ。明日からは委員長のみの会議なんだよ」
「宜しければ……議題はどうですか?」
「今回は、密猟の案件だね」
「密猟……実は、ミニリュウがミロカロ湖の南にいるという情報が来まして。対応……していたのですけど、密猟というか、その子を捕まえようとする黒服の人らに出会いまして」
「なるほどね……。度々確認されている中の一つかもしれない。きみが、一人でワイルドエリアを探索してるから、守るすべが欲しい。って、きみのお父さんから連絡が来ていてね」
「お父さまがですか?」
ダイゴさんが淡い青色の紙袋から取り出したのは、白い箱。その箱に印刷されているのは……。
「デボン製のスマホですか?」
「そうだよ、デボン製の中で必要なものは入れてあるんだ。基本的な設定はしてあるから、個別設定はやってほしい」
ただ、それはいいのだけど……。これ、銀色に紫の線と紺色の線が描かれていて、デボン製の柄付きスマホにあったかな?
「ふふっ、ボクとお揃いのやつだよ。この世界に、2台しかない。これと似たやつは、各地方チャンピオンモデルとして発売予定だからね」
「なぜ、それを私に?」
「うん?ボクはきみに渡したいな。って思ったからだよ。それに、この子を出してあげて」
ダイゴさんは、モンスターボールを手の上に乗っけてくれた。どんな子だろう、ワクワクする。
「ほら、出てきてくださいね」
白いボタンを押して、ポンッと放てば「ケテっ!!」と、言って出てきてくれて私のまわりをシュンシュンと飛んでいる。
「ほら、アオイに挨拶は?」
「ケテっ!」
「ありがとう、よろしくね」
「この子は、スマホに入れてあげてね。ボクが育てた子だから、きっと……いや、そうでなくてもきみの手助けをしてくれると思う。だけど、ボクがそうしたいからね」
「はいっ!わかりました。ありがとう、ダイゴさん」
「うん、それと……後で、こっちも渡そうかな」
「あれ?アオイ、珍しいよな。他の人連れてくるなんて、いつも特定の人としか一緒に居ないのに」
灰色に薄紫色が混ざる髪色をしたレインが、私達に声をかけてきた。そういえば、今日はこっちで調査って言ってたっけ。
「教授から任されたのですか?」
「そうなんだよな。まったく、人使い荒いって。そういえば……あなたは、ホウエンのチャンピオンですよね?」
「そっちで、知っているんだ……」
ダイゴは、じぃーっと睨むようにみてくるレインを睨み返す。なるほどね……この子は。
「あっ、二人とも……初対面で何をしていらっしゃるのですか?やめてくださいね」
首を傾げて、「なんで二人ともにらみあってるのでしょう?」と思っていることが丸わかりの表情に微笑ましさを感じてしまう。そんな表情をこの5年、見たい……見ていたいと何度考えただろうか。忙しい、それを理由にここには来なかった。誰よりも大切な子なのにな。
「ごめんね、きみは確か。ローズ委員長の企業の役員の一人のご子息で、レインくんじゃないかな」
「まぁ、そうだよ」
「えっと、私とは幼なじみですよ」
「いいだろ?幼なじみって言うの」
「何を言ってるのです?ふふっ、まぁ……一緒にジムチャレンジできて良かったです」
「それはそうだろ!」
「流石に、二人で行動はしなかったよね?」
ドヤ顔するこのアオイの幼なじみを見て、まさか、アオイは幼なじみだから……と、一緒に行ってはいないだろうか。少し、なんだか心配になってきてしまった。
「大丈夫ですよ、然るべき所の方に一緒に来てもらいましたから」
「それなら良かったよ」
まぁ、あのアヤトさんが簡単に幼なじみと一緒に行かせるわけがないか。
「おい、どういう事だよ」
「うん? どういう意味かな?」
とりあえず、この子は……レインは、アオイの事が好きなようだから注意しておかないとね。
「あの……ダイゴさん、あの方が手を振ってらっしゃるのですが」
うん?アオイのその声に、反応して振り向くとボクの秘書が何故か申し訳なさそうにしている。何かあったのだろうか。と、手招きすると手に何か持っていることがわかる。
「副社長、すみません……。これ、ローズさんからです」
だいたい、ボクの秘書である彼が申し訳なさそうにするのは。ボクにとって良くない事を伝える時に限る。機嫌がどうとかでは無いし、怒ったりはしないのだけど。彼の中では何かがあるのだろう。
「わかった、何か言っていたかな」
「えぇ……多分読めばわかると思うのですが」
こそっ、と伝えられた内容は驚くもので。アオイはどちらか言うと望まないだろう事。さっき、聞いた話だと彼女は嫌がるだろう内容で。
「どうかしたん?」
「ああっ、アオイ。この子は、ボクの秘書のショウくんだね」
「初めまして、副社長秘書をしております。ショウと申します」
「アオイです。よろしくおねがいします」
「えぇ、よろしくおねがいしますね」
秘書とアオイが挨拶し終わったところで、ダイゴは封筒を開ける。さらっと、取り出したものを読み終わると。
「アオイ……実はね。ローズ委員長がボクとアオイ、ダンデくんとキバナくんでダブルバトルしようと言ってきた。いや、これは決められたことだ。どうする?ボクなら変えてみせることも出来るよ」
「おいおい、マジかよ。それって、大丈夫なのか?そもそも、アオイはジムリーダーでもない。去年の一般参加者だろ?」
「それがですね。去年、準優勝なされたことを引き合いに出された訳みたいですね」
「これは……ボクへのケンカっていう意味で捉えてもいいのかな?いや」
「大丈夫でしょうか……」
「ふふっ、アオイなら大丈夫だよ」
「大丈夫ですよ。私も、バトルの様子を見せてもらいましたが、どこかダイゴさんに通ずるものがありますよね」
「ホントですか?でも……まだまだですよ」
「まだまだ、そう思うなら。頼ればいいと思いますよ。しばらくはここガラルとカロスの行き来が増加する可能性が高いので」
いつの間にか、ショウとアオイで話が進んでいる。アオイと相性もいいみたいだから良かったかなと一人思っていた。それに、バトルならさ。
「しかも、ボクが居るんだ負けさせはしないさ。だけど……勝手に決めたことはね、文句をつけないと気がすまないぁ……」
「アオイ、こんな事なれば……婚約話、今以上に増えると思うけどな」
「レインくん、その話聞かせてもらおうかな?」
「いいぜ、ライバル減るもんな」
「まぁね、でも……ボクは諦めるつもりも、手放すつもりも無いよ」
「よく言うよな。5年もアオイと会ってないやつが」
「君だって、ボクよりも長く一緒にいたのに。手に入れていないのだろう?」
今日のワイルドエリアは、雷雨と晴天、極端な分かれ目に口角が上がる。
「鋼の特性は知っているかい?」
重く、硬く、粘り強い……そんなタイプを得意とするボクが。簡単に諦めると思うかい?
「ふっ、そんなの……関係ないし」
「そうだね。好きという気持ちに、得意なタイプも関係ないか。だけど……」
「得意なタイプは性格にも影響を与えると言われているからな。いや、逆か。だから、アプローチ方法や、性格は……関係あるかもな」
恋のライバルだとしても、ボクはきみに負けるつもりは無いよ。バトルだって、彼には……あいつには、負けないさ。
「とにかく、ダブルバトルをどうするか……だね」
「バトルしてしまえばいいんじゃねーの?」
「どっちにしろ、抗議はしないと」
アオイに一声掛け、秘書にアオイを家に付き添って帰ってくれ。と伝えてから、エアームドを呼び出した。
「とにかく、天気のいいところを飛ぼうか」
「エアっ!」
さて、レインくんも含めてさ、これからどうなるのかは楽しみだね。案外に彼もいい子かもしれない。
ボクにとって大切な子は、アオイだけだよ。
どんよりとした曇り空のシュートシティ、このローズ氏により計画的に作られた都市で、各リーグ委員長、サポート企業の社長、役員クラスによる会議が行われていた。今回は、議題は密猟防止策を考えることであり、リーグだけでなく企業にも対策への参加と協力を求めた。ここ最近、数カ月前からは直接的な行動に出て他人のポケモンを捕獲し売買する取引も増加傾向にあることで、早急に対策を練ることが重要視された。しかし、すでにリーグは密猟の対策で手が一杯な状態であり、売買の現場を抑えるべく動いている者と密猟の現場を抑える者で別れて、それぞれにやるべきことをやっているのだけども……。
ダイゴは気付かれないように、はぁ……と軽くため息をついた。気がついたのは、横にいらっしゃる、ある会社の社長のみだろう。いや、あるいは自身の秘書とその社長というところか。ただリーグ側と会社側の衝突に、頭痛がする。
「きみはよく頑張ってると思うがね?」
そう、ゆったりと言ってくれたその社長に「ありがとうございます」と、伝えると「今回は我々のみでの協力としようかね」そう、ボクに四角いメモをそっと渡してくれた。
『きみが先に言ってくれて構わない』
なんだかんだと、父よりもボクを気に入ってくれているその社長の提案を飲み、会議を進めるカントーリーグ委員長に目線を上げた。
あお空つなぐ祈りー大切な子ー
会議と、いえば会議だが……押し付け合いにも見えるようなもの。『会議は踊る、されど進まず』とは、言われるけど。まさにその通りかも知れない。
「それは、各チャンピオンや委員長が、ジムリーダーなどがやる必要があることだろう?なぜ、我々まで進めていく必要がある?」
「それだと、各地方で対応に差が出る。それに加えて、すべて人がやっていく訳には行かない。管理システムの整備を進めなければ」
「ワタルくんやカルネさん、に話を聞いてみれば一杯一杯みたいだよ。ワタルくんは現場を取り押さえる方で、カルネさんが売買の現場または情報をとるって形だから。とりあえずは、各自の仕事関係で二手に別れているって」
「それで、偏ってるんじゃないのか?2つともできて当たり前だろう、個人の問題じゃないか?」
企業は『チャンピオンなのだから、できて当たり前』、リーグは『サポート企業なのだから、協力してくれないと困る』という認識が基本だからなぁ……と、思うけども。
「はぁ……それ、僕に向かって言えますか?」
「あっ、そうだった。今日、ムクゲから息子に頼んだからよろしく。って言われてたのにな」
「構いませんよ、急な変更でしたので。改めまして、デボンコーポレーション副社長兼ホウエン地方チャンピオンをさせて貰っていますツワブキダイゴです」
「ダイゴくんは、皆さんのご存知の通り、鋼鉄の貴公子の異名を持つチャンピオンだ。今回はカルネさんと一緒に、売買を見つけて摘発する方にまわって貰っているよ」
ザワッとざわつく会場に、「彼が来ていたのか」とか「なぜ、ムクゲの息子が?」という言葉も交じる。
「今回、このことに対し、ホウエンはシルフカンパニーへの協力を求めました。ですが、時を同じくして本部から、デボンコーポレーションとシルフカンパニーへの協力依頼を頂きましたことを踏まえ、デボンコーポレーションと……」
チラリ、とシルフカンパニー社長へと視線を向け頷きが帰ってきたことを確認してから、再び視線を前へと向ける。
「シルフカンパニーの二社で協力体勢をつくり、支援していくことが決定しております。実際に、先週……本部と二社の担当者での会議が始まっていますので、ご報告とさせていただきます」
にこっ、とした顔で言い切ったダイゴに他社の担当者や社長は、どういうことだ?と動揺する。二社は、大手企業であり世界的企業である。その二社であるから、他地方にも会社を持っているのは当然で、二社合わせれば全地方に対応できるのでは無いか、と。
「はっ……どういうことだ?」
「おいおい、二社に動きがあるってのはこれかよ」
「うわっ、どう社長に報告するかなぁ」
慌てる担当者をスルーし、話を続けたのはまさかのシルフカンパニーの社長であった。
「まさか、ダイゴくんの方から提案がくるとは思ってなかったんだがね」
「ははっ、すみません。ですが、今回は他社にも協力を依頼し全地方規模で、各地方を支えていこうと思い、どうするか本日、社長と話をと考えていたのですが……」
「今回は、二社での協力でいいかね?」
「はい、そのようにします。社長……このあとお時間いかがですか?」
「もちろんだとも」
「では、そのように。今回のデボンからの提案は以上です」
「よしっ、、、とりあえず。本部に協力してくれる企業は私に言ってくれ。シルフとデボンは引き続きよろしく頼むよ」
「わかっているよ」
「勿論です」
とにかく、この二人の会話によってデボンとシルフとつながる機会を逃した企業も多く、後で事実に気付き唖然とした社長も居たとか居なかったとか。
「ダイゴくん、お久しぶりですねぇ」
「えぇ、お久しぶりです。今は、すみません。急いでますので、行きましょうか」
「そうだね、行こう」
予定の場所へと向かう二人の背を見て何かを考え、ぐっと悔しそうな顔をしたローズは、何かを始めようと執務室へと向かった。
午後3時頃のナックルシティは、晴天。青空に微かな雲がちらちらと見えている。ナックルシティといえば、ナックルジム。と、言われるほどの特徴的なジムの前で待ち合わせ場所に選んだのは、彼だった。昨日の別れ際に突然言われた予定に私は驚いたのだった。
「アオイ、明日は昼から時間どうかな?」
「えっと……確か。3時頃なら、特に予定はないですよ」
「本当?なら、よかった。ボクもちょうど、時間に余裕があるんだ」
そう、ほわっと柔らかに微笑むダイゴさんに私も照れくさくなって笑うと、彼は私の頭を撫でてくれた。そういうのが昨日あったわけだけど。
「あっ、お待たせ。待ったかな?ごめんね」
にこやかな笑顔を見せつつ、私に誤ってくれるたダイゴさんの服装は。灰色の三揃えのスーツに紺色のTシャツを合わせた休日スタイルで。あっそっか、今日はこれからお休みなのか。と、思い少し嬉しくなった。だけど、淡い青色の紙袋を下げていることが少し気になる。
「いえ、全然。大丈夫ですよ、今来たところですから」
「うん?本当かな……ふふっ。そういう事にしておこうかな」
やっぱり、今来たことを疑ってるよね……。そう思ってしまうけれど、彼が私のことを親切にしてくれていのはわかるから。特別な気持ちが無くともそれは多分……本物だと思うけど。
「行きましょうか?」
「そうだね、ほら……ここに」
紳士らしく、体と腕の間に三角のすき間を作った彼に私はすいっと手を入れてエスコートしてもらう体勢へなった。
「ワイルドエリアも久しぶりなんだ。きみが一緒に居てくれると安心するよ」
「ふふっ……そうですね。なら、行きましょうか」
ワイルドエリアの天気は、巨人の鏡池の方が雷雨になっているようなので、逆鱗の湖の方へと行こうということになった。
「ワイルドエリアは、よく来るのかい?」
「えぇ……ワイルドエリアでのドラゴンの研究は、得意とする分野ですから」
「そっか。で、今は誰かに協力して研究してるわけだね」
「そうなんです、マグノリア博士の助手として調べているのですよ」
「博士についているなら安心して君を任せられるね」
「どうしたんですか?」
「いや、きみが……ガラルで何を感じて、どう過ごしているのか、というのが気になってね。ただそれだけだよ。でも……そんなこと、聞かなくても。きみを見ていたらわかるよ」
「よく、頑張ったね」そう私に言ってくれる。彼の顔が見れなくなるような気がして、私はうつむいた。ダンデとの戦いは自分にとって、悔しく、悲しい結果だった。自分の努力もポケモンとの絆もそれまでだったんだな。そう言われているような、王者の瞳が怖かった。同時にそれは『負けたんだ』という感覚を鋭く伝えてきた。ダンデさんが悪いわけじゃない。それを、その意味でとった私が悪いのだ。
私は家柄的にも、財力的にも優れた一族の出身で、かつてにフスベ出身の夫とルネ出身の妻がガラルに移住したことから始まる一族でもあると言われ、得意なタイプはドラゴンとみず。貴族としての地位も高く、上から数えるほうが早い。
そんな家柄で育った私は、厳しいくも優しい祖父に優しい父、叔父、厳しくも凛とした母の元で何不自由なく育ってきた。褒められて、叱られて多分……他の子よりも厳しく、甘く育てられたと思う。世間知らず、と言われることはあまりなくどちらか言うと落ち着いていると言われるぐらいだった。
ただ、家柄の良さで判断することの多いというのもある『家柄がいいから、バトルがうまくなったんじゃねーのか?』、『それぐらい、できて当たり前だろう』そう言う人も多かった。それで、私は……自分がどのレベルにいるのか、どれぐらいなのか。それが、さっぱりわからなくなってきたのだ。「自信がないのなら、自信を付けろ」そう言われることも多かったけど、自信なんて、小さなことなのかも知れない。家柄は自信になんて結び浮かないんだから、と。
そんな自分を、責められているように感じて。
「どうしたんだい?」
きっと、この人は……そんな目はしないのだろう。バトルが終われば、さっと表情を変える彼だから。終わってからも、鋭く相手を射るような瞳はしないはず。
「ファイナル……私は、負けました」
「うん……そうだね」
「負けて、あぁ……『負けたんだ』って思った。それで……」
「あぁ……彼は、バトル……いや。違うね、ガラルの人たちはバトルを一種のエンターテイメントとしてみている。だから、バトルが終わっても尚チャンピオンはチャンピオンでなくてはならない。立場的にじゃなくて、それを示さなくてはならないんだ。見ている人が多いから……」
「わかっています……。なんだか、それが……ポケモンとの接し方が足りなかったんじゃないか、才能が無いんじゃないかとか……責められてるように感じて」
「大丈夫……アオイ、きみはよく頑張ってるよ。きみの、ポケモンたちを見ればわかる。バトルを見ればわかるから、よく頑張ったね。ボクが直したほうがいい。そう言ったところ、頑張って直そうとしてたことがわかるし、改善できてるよ。だから、自信を持ってね?」
「そうですね……あなたが言ってくれるなら、そうですよね」
「ボクは信じているよ。だから、大丈夫……。きみが思う以上に、きみのこと大切に思っているんだよ」
優しく笑う彼に、つられて笑ってしまう……そうだよね。彼が認めてくれてるのだから、私は私の思うように……と言ってもそれが難しいのだけど。
「まぁ……きみは、思い切れれば凄く強いから。こう、と決めたならば。そう、すればいい」
「わかりました。ふふっ……話が変わるのですけど、ダイゴさんは何かお仕事で?」
「うん?あー、リーグ委員長会議だよ。各地方の企業の社長や役員も参加する会議なんだけどね。今回はここガラルで開かれているんだ。明日からは委員長のみの会議なんだよ」
「宜しければ……議題はどうですか?」
「今回は、密猟の案件だね」
「密猟……実は、ミニリュウがミロカロ湖の南にいるという情報が来まして。対応……していたのですけど、密猟というか、その子を捕まえようとする黒服の人らに出会いまして」
「なるほどね……。度々確認されている中の一つかもしれない。きみが、一人でワイルドエリアを探索してるから、守るすべが欲しい。って、きみのお父さんから連絡が来ていてね」
「お父さまがですか?」
ダイゴさんが淡い青色の紙袋から取り出したのは、白い箱。その箱に印刷されているのは……。
「デボン製のスマホですか?」
「そうだよ、デボン製の中で必要なものは入れてあるんだ。基本的な設定はしてあるから、個別設定はやってほしい」
ただ、それはいいのだけど……。これ、銀色に紫の線と紺色の線が描かれていて、デボン製の柄付きスマホにあったかな?
「ふふっ、ボクとお揃いのやつだよ。この世界に、2台しかない。これと似たやつは、各地方チャンピオンモデルとして発売予定だからね」
「なぜ、それを私に?」
「うん?ボクはきみに渡したいな。って思ったからだよ。それに、この子を出してあげて」
ダイゴさんは、モンスターボールを手の上に乗っけてくれた。どんな子だろう、ワクワクする。
「ほら、出てきてくださいね」
白いボタンを押して、ポンッと放てば「ケテっ!!」と、言って出てきてくれて私のまわりをシュンシュンと飛んでいる。
「ほら、アオイに挨拶は?」
「ケテっ!」
「ありがとう、よろしくね」
「この子は、スマホに入れてあげてね。ボクが育てた子だから、きっと……いや、そうでなくてもきみの手助けをしてくれると思う。だけど、ボクがそうしたいからね」
「はいっ!わかりました。ありがとう、ダイゴさん」
「うん、それと……後で、こっちも渡そうかな」
「あれ?アオイ、珍しいよな。他の人連れてくるなんて、いつも特定の人としか一緒に居ないのに」
灰色に薄紫色が混ざる髪色をしたレインが、私達に声をかけてきた。そういえば、今日はこっちで調査って言ってたっけ。
「教授から任されたのですか?」
「そうなんだよな。まったく、人使い荒いって。そういえば……あなたは、ホウエンのチャンピオンですよね?」
「そっちで、知っているんだ……」
ダイゴは、じぃーっと睨むようにみてくるレインを睨み返す。なるほどね……この子は。
「あっ、二人とも……初対面で何をしていらっしゃるのですか?やめてくださいね」
首を傾げて、「なんで二人ともにらみあってるのでしょう?」と思っていることが丸わかりの表情に微笑ましさを感じてしまう。そんな表情をこの5年、見たい……見ていたいと何度考えただろうか。忙しい、それを理由にここには来なかった。誰よりも大切な子なのにな。
「ごめんね、きみは確か。ローズ委員長の企業の役員の一人のご子息で、レインくんじゃないかな」
「まぁ、そうだよ」
「えっと、私とは幼なじみですよ」
「いいだろ?幼なじみって言うの」
「何を言ってるのです?ふふっ、まぁ……一緒にジムチャレンジできて良かったです」
「それはそうだろ!」
「流石に、二人で行動はしなかったよね?」
ドヤ顔するこのアオイの幼なじみを見て、まさか、アオイは幼なじみだから……と、一緒に行ってはいないだろうか。少し、なんだか心配になってきてしまった。
「大丈夫ですよ、然るべき所の方に一緒に来てもらいましたから」
「それなら良かったよ」
まぁ、あのアヤトさんが簡単に幼なじみと一緒に行かせるわけがないか。
「おい、どういう事だよ」
「うん? どういう意味かな?」
とりあえず、この子は……レインは、アオイの事が好きなようだから注意しておかないとね。
「あの……ダイゴさん、あの方が手を振ってらっしゃるのですが」
うん?アオイのその声に、反応して振り向くとボクの秘書が何故か申し訳なさそうにしている。何かあったのだろうか。と、手招きすると手に何か持っていることがわかる。
「副社長、すみません……。これ、ローズさんからです」
だいたい、ボクの秘書である彼が申し訳なさそうにするのは。ボクにとって良くない事を伝える時に限る。機嫌がどうとかでは無いし、怒ったりはしないのだけど。彼の中では何かがあるのだろう。
「わかった、何か言っていたかな」
「えぇ……多分読めばわかると思うのですが」
こそっ、と伝えられた内容は驚くもので。アオイはどちらか言うと望まないだろう事。さっき、聞いた話だと彼女は嫌がるだろう内容で。
「どうかしたん?」
「ああっ、アオイ。この子は、ボクの秘書のショウくんだね」
「初めまして、副社長秘書をしております。ショウと申します」
「アオイです。よろしくおねがいします」
「えぇ、よろしくおねがいしますね」
秘書とアオイが挨拶し終わったところで、ダイゴは封筒を開ける。さらっと、取り出したものを読み終わると。
「アオイ……実はね。ローズ委員長がボクとアオイ、ダンデくんとキバナくんでダブルバトルしようと言ってきた。いや、これは決められたことだ。どうする?ボクなら変えてみせることも出来るよ」
「おいおい、マジかよ。それって、大丈夫なのか?そもそも、アオイはジムリーダーでもない。去年の一般参加者だろ?」
「それがですね。去年、準優勝なされたことを引き合いに出された訳みたいですね」
「これは……ボクへのケンカっていう意味で捉えてもいいのかな?いや」
「大丈夫でしょうか……」
「ふふっ、アオイなら大丈夫だよ」
「大丈夫ですよ。私も、バトルの様子を見せてもらいましたが、どこかダイゴさんに通ずるものがありますよね」
「ホントですか?でも……まだまだですよ」
「まだまだ、そう思うなら。頼ればいいと思いますよ。しばらくはここガラルとカロスの行き来が増加する可能性が高いので」
いつの間にか、ショウとアオイで話が進んでいる。アオイと相性もいいみたいだから良かったかなと一人思っていた。それに、バトルならさ。
「しかも、ボクが居るんだ負けさせはしないさ。だけど……勝手に決めたことはね、文句をつけないと気がすまないぁ……」
「アオイ、こんな事なれば……婚約話、今以上に増えると思うけどな」
「レインくん、その話聞かせてもらおうかな?」
「いいぜ、ライバル減るもんな」
「まぁね、でも……ボクは諦めるつもりも、手放すつもりも無いよ」
「よく言うよな。5年もアオイと会ってないやつが」
「君だって、ボクよりも長く一緒にいたのに。手に入れていないのだろう?」
今日のワイルドエリアは、雷雨と晴天、極端な分かれ目に口角が上がる。
「鋼の特性は知っているかい?」
重く、硬く、粘り強い……そんなタイプを得意とするボクが。簡単に諦めると思うかい?
「ふっ、そんなの……関係ないし」
「そうだね。好きという気持ちに、得意なタイプも関係ないか。だけど……」
「得意なタイプは性格にも影響を与えると言われているからな。いや、逆か。だから、アプローチ方法や、性格は……関係あるかもな」
恋のライバルだとしても、ボクはきみに負けるつもりは無いよ。バトルだって、彼には……あいつには、負けないさ。
「とにかく、ダブルバトルをどうするか……だね」
「バトルしてしまえばいいんじゃねーの?」
「どっちにしろ、抗議はしないと」
アオイに一声掛け、秘書にアオイを家に付き添って帰ってくれ。と伝えてから、エアームドを呼び出した。
「とにかく、天気のいいところを飛ぼうか」
「エアっ!」
さて、レインくんも含めてさ、これからどうなるのかは楽しみだね。案外に彼もいい子かもしれない。
ボクにとって大切な子は、アオイだけだよ。