あお空つなぐ祈り
あお空つなぐ祈りー神出鬼没な彼ー
そわそわと、あちらこちらをキョロキョロと見渡してしまう……。きらびやかなシャンデリア、茶色ベースのシックな壁紙なんて見慣れている。そんなことに目を向けているよりも、こっちに意識を向ける。
彼は、居ないだろうか……今回も、こちらには来ていないだろうか。そうやってパーティー会場を見渡すも、見つかりやしない。彼らの名前すら出ていないことが彼がいない証拠でもあるだから、探したって仕方ないのに。
何ヶ月会えていないのだろう、寂しい、会いたい。私なんて忘れてしまっているのだろうか、いつも会う度に優しく接してくれる彼が。でも、そんな簡単に忘れたからと言って、何年も連絡さえ無いなんてあり得るのだろうか。いや、無いだろうな。と、思ってしまうぐらいには彼を兄だと思っているし、感じている。
自分から連絡出来ない自分に悔しい、悲しい……。いや、優柔不断で、怖がりな自分なんて嫌いなんだ……嫌いなんですよ。でも、そんな感情を持つのはいつものことなのですから…気にしなくても良いじゃないですか。そう言ってくる自分もいる、ただ……なんだか、待っているのが辛いと感じるようになってしまったのだ。だから、毎回こうやって、探している。
『あお空つなぐ祈り』第一話「離れていても」
「これは、これは……。コトミヤさんではないですか」
自問自答の深い思考に入りかけた矢先に……。私の叔父が近くに居ないことをいい事にか、マクロコスモス社長、ローズ氏が話しかけてきた。質の良いグレーのスーツはぽっこりとお腹を主張している。その後ろには、定位置と言える場所にやはりオリーブさんがひっついていた。
「ローズ委員長、ご無沙汰しております。お招きいただきありがとうございました。今回は、父と弟の代わりに、出席させて頂いております」
淡い青色に銀色の桜が刺繍された着物で、ゆったりとお辞儀をする。ここ、ガラルでは非常に着物は珍しい。目立ってしまっただろうか、それでも私は着物が多いんだから仕方ないのにね。
「そうでしたか、去年度の戦い……素晴らしい戦いだったと記憶していますよ。いやぁ……今年も、エントリーするものだと勝手に思っていたわけですが」
「そうでしたか……あいにく、私……ダンデだけが自分にとってのチャンピオンではありませんのでそこまであの地位に執着はいたしませんし……」
いやぁ、と笑う委員長に。私は正直な話をする。私にとっては、チャンピオンは一人じゃないからその地位を何年も追い続けれるような性格でもないのだ。
「その口ぶりだと、きみは他のチャンピオンを知っているようですねぇ」
「ご想像におまかせ致します。しかしながら、それは……当家にも関わることですので、私の一存ではお伝えしかねます」
クスッ、と笑って……その続きを遮断する。この続きは話さない、それを態度をもって示す。
「それは、それは……次に、アヤトくんに会った時にでも聞いてみましょうかねぇ」
「えぇ、そうしてください」
では、また……と、言おうとしたときには。既に、叔父さんが私の方に向かってきてくれていた。
「ローズさん、アオイを連れていきますね。行こうか、明日夕方に兄さんが帰ってくるらしいから、早めに帰ってやることしないと。どうやら……カントーで、兄さんの親友に出会ったようでね。やって欲しいことが出来たらしい」
「やってほしいことですか?」
何かあったのだろうか、と少し眉をひそめる。そんな私に叔父は、違うよ。と、何かあったことを否定した。
「ただ、会社として動いたほうが好ましい。そう判断したんだって。と、言っても相手はアオイも知ってる人だから、安心して大丈夫さ」
にこっ、と普段と変わらぬ人懐っこそうな笑顔を見せてくれる叔父さんは、ローズを前にしようとこの調子なのだ。
「了解です。帰りましょうか、叔父さま」
「そーだね。帰ろう、では……失礼します」
何処か、軽やかな歩調で帰る叔父に、疑問を抱きながらも彼の横に並んで歩いた。
アーマーガアタクシーが、綺麗な星空の中を飛ぶ。シャンデリアよりも、穏やかな優しい光をここまで届けてくれる星、恒星。遥か、遥か遠い場所からここまで光を届けてくれている。それを思うと、彼と私の物理的距離は近いと言えるだろう。だけど、、なんだか、遠い存在に思えてしまうのはどうしてだろうか。
彼と会う度に、彼が私に教えてくれたこと、見せてくれたこと、気づかせてくれたことが沢山ある。それは、きっと温かく、優しいもので彼が思っている以上に多い。こうやって、空を見ながら振り返ってみると、少なく短い時間の中で、貰った様々な思い出が、景色が、多くのものが浮かんでくる。
まだ私が幼く、義務教育を卒業していなかった時期から大学入学までの記憶はより濃く残っているのに。ジムチャレンジを終えた今だから、話せることだってあるだろうに。パーティーではなかなか会えないけど、彼と会いたいなぁ……。
ファイルで準優勝したこと、どう言ってくれるだろうか。褒めてくれるだろうか、それとも……?でも、彼ならきっと、良い方に言ってくれるだろう、そして悪かったところも言ってくれる。最後の試合は、全国に配信されているらしいから、見てくれてるのではないか。そんな淡い期待もあるけど……。
彼の顔を見たくなってきてしまう、彼とみたい景色もまだまだあるし、彼の表情をみていたい、彼の考えを知りたい。今だからわかることも多いだろうから……やっぱり、会いたいなぁ。
そう、考えている横にはにこにことした叔父が居るだけで。
「ふふっ、自分で飛びたかったかい……? きみのアーマーガアは夜じゃ目立つだろう? あまり、すすめはしないぞ」
「確かに……言えてますね」
夜の星空をアーマーガアはバサバサと音をたてて空を飛ぶ、この星空にどうか会えますようにと祈る今日が終わろうとしていた。
翌朝、朝から元気のいいトゲデマルのだいふくを抱えて、ナックルシティからワイルドエリアに降り立つ。横に控えるのは、昨夜のアーマーガアとは色違い、ワイルドエリアに祖父と遊びに来ていた時に、エンジンシティの橋の下で出会った子、怪我をしていて自然回復が認められなかったことから保護した後、私の鋼パーティの仲間となった子。
『まチュッ、マチュ!』
「ふふっ、ありがとう。行こうか」
『まッチュ〜』
『がアッ!』
「よしっ、ヤタは一度休んでね。ありがとう」
『ガア』
ヤタが自分で、ボールのボタンをつついて戻ったのをみて、賢い子だなぁ。と、一人つぶやいた。ナックルシティから、逆鱗の湖の方向へと移動しエンジンシティの方へと向かう。その途中で、巨岩に頭のところで、手を組んだ幼馴染がいた。
「よっ!アオイ、昨日は来てたんだってな」
ニコッ、と人懐っこそうな笑顔をみせて、よって来るのは、幼馴染であり、スクールから一緒のレインだ。声を掛けられたからか、だいふくがまチュ、まチュと彼を可愛らしい指で指した。
「そう言うあなたは来ていらしたのですか?」
「おいおい……俺の父さん、ローズさんと知り合いだぜ?行かなきゃ怒られてしまうやろ」
「あ〜確かに、そうですよね」
『まチュ?』
何もないよ。と、だいふくに言いつつ考える。そういえば、彼の父親はローズの会社の上の方にいるから怒らせたら、やばいと思うしかないですね。
「ローズさんが、何も言わないのはお前のところぐらいだって言われるからな」
「えっ?それは、知りませんでした。と、いうよりも……レイン、あなたなんでここに居たんですか?」
ニヤッ、とした笑みを見せる彼に何か企んでませんか?という視線を送ると、肩をすぼめさせた。
「エンジンシティに行くんだろ?俺もそっちに予定があって、たまたま見かけたから。まっててやろ〜ってなったわけ」
「相変わらずですね、待ち伏せですか?」
「違うって、ぐうぜんやって。で、行かないのか?」
「行きますよ」
歩きだした私の横に頭のところで腕を組みながらついてくるレインが、何か思い出したように切り出した。
「そういえば、去年度のリーグで婚約話増えたとか聞いたけど本当なのか?」
「どこから聞いたんですか?まぁ、本当なんですけど、その辺はお父さんに全てお任せしているからわかりませんよ」
確かに、増えているのは事実である。それは、ガラルのリーグのやり方が影響しており、すべての試合が公開試合となる。すなわち、負けも勝ちもすべてサポーターにわかってしまうという難点を持ち合わせているということだ。それを言うと、名家など、高い地位がある家柄の子がリーグを挑戦する際は、誰もが注目するわけで、カロス、イッシュあたりの地位の高い人々は自分の子どもの婚約者探しを行う上で、このセミファイナルあたりに目を付けていると言われている。家柄や目立った成績を出してしまうと、こう婚約者として名乗り出る人が増加するというのが、難点である。
「ふぅ〜ん。へぇ〜」
「なんなんですか?まったく……レインは、増えたんですか?」
「ローズさんの関係者からな、アオイは?」
「私ですか?カロスからも数件来ていたとは聞きましたけど?」
「おいおい……流石は、コトミヤ家ってとこか」
「でも、家柄が全てじゃないでしょう?」
コトミヤは、もともとジョウト地方とホウエン地方の有名な家柄同士の結婚があり、それを機にガラルへと引っ越してきて今や数代目となっている。得意タイプは、竜と水であり、3対3で両者のタイプを揃える半統一パーティを得意とする家柄だ。
「まっ、そうなんだけどな。そういえば、もうジムチャレンジ始まるよな」
「あっ、そういえば。ダンデさんが、弟さんの」
「何か知ってるのか?」
「いや、ダンデさんが…自分の弟と幼馴染の子を推薦したらしいというのをお父さんから聞いたからですね」
「へぇ〜、珍しくないか?チャンピオンがこの10年、推薦したのは0人っていうんは知ってるけどな」
「そうそう、らしいですね。前のチャンピオン、マスタードさんは稀に出してくれていると聞いてますよ」
マスタードさんは、どうやら…時々こちらに来てマイナーリーグの試合を見たりして、いいと思った子には推薦状を渡しているらしいというのはちらほら耳に入る。
「そんなのよくしってるよなぁ…アオイは。いや、ちょっと考えたら、情報は力なりって考え方もあるか…。そういやさ、アオイって。誰から推薦受けたんだ?」
「んんっ…?それはですね」
私も疑問に思っていることを聞かないでくださいよねぇ……と思う。いつの間にか「推薦状が届いてるらしいと連絡があったよ」そうお父さんに言われて…何も言えなくなったのを覚えているから、困っているのは私自身だった。心当たりがあるようで…ないような………気もしてくる。
「なんだよ、アオイは成績良かったのに、ナックルユニバーシティからの推薦じゃなくて、マイナーリーグから行くってゆってたから。去年、俺はびっくりしてたんだぞ?」
「私も謎なわけですし、聞かないでいただけますか?誰からの推薦だったのか…。そう言えば、レインは委員長からの推薦ですよね」
ナックルユニバーシティからも、推薦状を出していいと言われていたし、申請をする直前でお父さんから知らされたから…その手の申請時期を知ってる人だと思うのだけど…そこしか、分からないし、現物は持ってないし……確認なんてさ、無理だよね。
「委員長から貰えたからな、というかさ。確か、直接ガラルリーグ本部に送って向こうが受け取ってくれるのって、ジムリーダー、四天王、チャンピオンクラスのみの推薦だからな」
「えっ?初耳ですね。それ、本当なんですか?」
「俺がいつ、お前に嘘ついたんだか」
そんな答えにくい質問をしないでくださいよ。それに、レインはすぐに小さな嘘なら付くじゃないですか。
「さぁ…それよりも、ますます分かりませんよ。一応、ナックルジムとは古くからの付き合いがありますから、キバナさんかも知れませんけど」
「まぁ…俺らも貴族階級だしなぁ。どこに繋がってても可笑しくはないわけだし、もしかしたらそうかも知れないな」
私の家系は…ナックルシティでも、上位を争うぐらいの地位を持っているけれども…確か、ナックルジムとの付き合いはあったはずだから、そっから来たのかもしれないなぁ…という考えに行き着いた。
「そうですよね…」
「なんだ、心当たりあるのかよ」
無いわけではないけれど、、、。
「無いって、無い無い。本当に分からないから、その手の話は苦手なんですって。特に、パーティーではすぐにその話になりますから」
「ふ〜ん…?」
レインは、手を上げて頭の上で組むと、ニヤリと深い笑みを見せた。手を頭の後ろで手を組む、そういう時は何か聞いてくる合図みたいな感じになっているのを知っているのはどうしてだろう?と、自分に問いたくなってきてしまいますね。
「そういやさ、俺と……婚約しないか?」
えっ……。そう思うことをさらり、と言いのけた彼の渾身のドヤ顔……。じゃないですよ!唐突な告白じゃないですか!いや、告白と言うものよりもかなり大雑把な口説き……そんな口説きでね?「結婚しましょう」ってなる人いたら私の前に連れてきてほしーってかなんわ!ってなりますよ。
「だから、なぜそうなるのですか?婚約はしませんって何度も言ってるでしょ……まったく……これで何度目ですか?」
「理由は教えてもらってねぇから、アピールしてんだよ!」
「理由って、伝えましたよね?私のお祖父さんとお父さんが委員長と仲違い…ではないですね。意見の食い違いによるものですが、何かあったようです。それに対して、レインのお父さんは委員長と仲いい…私のお祖父さんが許す筈がないです。それに、私は………」
「なんだよ、ゆってくれていいんだぜ」
じと〜っとした目で見てくる幼馴染にはぁ…と、ため息が出てきそうになるが、余計に不機嫌になられては困る…。けど…これから、不機嫌になるような事を言うのだから、この気持ちは、面倒だ。
「好きな人は居るんですよ、、、相手はきっと私の事は妹みたいにしか思ってくれてないと思うんですけど」
「ふ〜ん…なら、俺がそいつよりも、強くなればいいのか?偉くなればいいのか?」
いや、私の好きな人は…世界的企業の社長令息の上に…現在副社長をつとめ、なおかつ…リーグチャンピオンの座につく…強さも地位も認められた人物なのにね…無理ですよ。
「………ごめんなさい。私は、お父さんの決定に従うよ…だって、お父さんは私の事を考えて、悩んでくれてるのは分かっているから」
「まぁ…気長にアピールするから、いつか降参させてやるからなぁ!」
よくわからないけども、にかっ…としてから、急に走り出したレインに呆れる。でも、なんだか違和感を感じる。彼は、もっとそっけない感じだと思っていたのだけども、何というか……あんなに、元気のいいキャラ?
「あなた、そんなキャラでしたっけ?」
まぁ…結論なんて、出さなくてもいいか。と、空を見上げた…あぁ…エンジンリバーサイドの空は綺麗な青空を見せてくれている。
(まぁ…また会えるでしょうから、気にすることも無いのかも知れませんね。貴方とのバトルがしたい………指導してほしい、そう思ってしまうのはわがままかも知れないけれど、会いたい…)
私の腕の中で、不満そうに『まチュ!』と鳴くだいふくの姿があった。
そんな時…空に、一機の飛行機が着陸を試みていた。白い機体のそれになんだか…不思議とそわそわしてしまう。
「今日は、エンジンシティに用事があったので行かなかったですけど…明日は、シュートシティに行きましょうか」
ただの独り言は少し雲のある青空へと消えていった。
用事を終え、家へと戻った私は、カントー地方への出張から帰ってきたばかりのお父さんと、廊下でかちあった。そういえば、昨日叔父さんが、忙しそうにしていたのはこの事だったのか。
「お帰りなさい、お父さん」
「ただいま、アオイ。さて、今日は、お母さんもう寝てしまっていてね。おいで、アオイ……少し話をしよう」
こっちだよ、と書斎に招かれた私は……ソファに座ると「私もこっちに座ろうか」なんて言って座った父の顔をみている私に気がついたのか、ふっと微笑んだ。
「昨日、彼と出会ってね……」
「えっ?彼って、ダイゴさんですか!?」
「そうそう、久しぶりにパーティーで会えてね。ムクゲとも話していたんだ。そうだ、それで。明日、ガラルに来るらしいよっていうのを伝えたかったんだ。もしかしたら、連絡あるかもしれないね」
「あっ、ありがとう……お父さん」
「ふっ……アオイは、彼のことが好きなのかな?」
「うん……私、ダイゴさんのことが好きです」
「そっか、まぁ。任せなさい、とは言えないけれどそれとなくムクゲには伝えておいてあげようか」
そうにっこりと微笑んだお父さんの顔にはどこか確信めいた何かがあった。
次の日…今日の予定を確認し、何も無い事を確認すると、シュートシティに行こうと財布に免許がある事を確認した。ガラル地方で空を飛ぶのには、免許を持つ者またはチャンピオン、ジムリーダーであることが求められる。免許を携帯してないといけないから、いつも財布の中に入れているまぁ…一応、リーグカードと免許は連動しているので、リーグカードのみ携帯している人が多いのだけども。しっかりと、持っておかないと不安ですからね…。それを確認し、空を飛ぶので…と、服装を考える。今日は、グレーのウェストコートと、同色のズボンに薄手のコートを羽織って行くことにした。そして、外にいこうとすると、、、。
「シュートシティに行くなら、お使い頼まれて欲しいんだよ」
やぁ!朝から、元気そうで何よりだ!と、にこにこ顔のお父さんに出会ったと思えば…そのお使いという言葉に、なんだろう?と首を傾げた。いつもなら、叔父さんに頼むのに。
「どうしたんですか?今日、叔父さんが…シュートシティのカフェで誰かと話すって言ってましたよね?」
「それなんだよ、それ!お父さんもね、必要な物を忘れていく弟にはびっくりしたよ…」
あぁ…それでか。カフェなら、場所も知っているから大丈夫ですし、迷うこともないだろう。
「わかりました、ついでに行ってきます」
「んっ!これ、ファイルに入ってるから…と、鞄と一緒に持っていってくれて構わないよ」
「じゃあ、行ってきます」
「ん!いってらっしゃ〜い」
家から飛び出して、アーマーガアを呼び出す。美しい艶やかな体は彼から、教わった磨き方でいつもお手入れを欠かせない…。手袋を外して、ペタリとその体を触る。この子から伝わってくる飛べることの嬉しさに何だか…トレーナーとしての何かが揺さぶられた。再び、手袋をはめるとアーマーガアへと飛び乗った。
「ヤタ!シュートシティまで飛びますよ」
『があっ!』
バサッとその翼を大きく振り、空へと飛び立つ。
ナックルシティから、シュートシティに向かうと雪の降る景色……それを越えれば、シュートシティが見える。アーマーガアの上から見える景色は絶景で、タクシーとは違うドキドキ感が凄い良い。
シュートシティに付くといつも、アーマーガアの石像がある場所で下降してもらうのが恒例で、今日もスッと綺麗な下降をこなしてくれるヤタには頭が上がらない。
「ありがとう…ヤタ。休んでね」
『がぁ』
ボールへとヤタを戻せば、カフェへと足を運ぶために足をすすめる。カフェまで、あと少し…ということろに、一人のある女の子が私のところへとやってきた。何処かで見たことがあるから、もしかしたら…去年のジムチャレンジで会ったのかもしれない。
「あの…!アオイさんですよね?」
「そうですよ」
軽く膝を曲げて、背丈を合わせる。その手には、私のリーグカードがあるから…あれ?これって、まだ売り出してたのか?と、思うけれども子どものキラキラした笑顔には…勝てやしないなぁ。確か…サインペンあった気がするからいいか。
「サイン下さい!」
「ふふっ…いいですよ」
予想通りの展開に、サインペンを自分の鞄から取り出すと、銀色のペンでさらりとサインを書く、シンプルイズベスト…で、名前を少しのアレンジと共に書いたものだけども、評判が良かった。
夕暮れのナックルジムを背景にしたそれは、中々に良く出来ていると我ながらに思うのだから、自画自賛だなぁ…とも思わなくは無いからね。背番号は401…さて、由来は………のんきなお父さんが勝手につけた数字なので知りませんが…。
「どうぞ、ふふっ…。今年なんですね」
真新しいモンスターボールを2つ付けて、いるこの子にそうあたりをつけて…言う。
「どうしてわかったんですか?」
「いえ、なんとなくですよ。頑張ってくださいね!応援していますよ。」
「アオイさんのバトル…ポケモンとの、息があっていて…信頼している、されているって感じがあって凄く憧れます!それに、、カッコよかったです。何かコツとかありますか?」
コツ…コツと言われても、そう大したことは…やっていないのだけれども、まずはポケモンとの信頼関係だろうから、とあたりをつけて話してみようかな。
「そうですね、、、毎日、ポケモンと触れ合う時間を作ると信頼関係を築けると思うよ。まず、バトルに勝てたら…褒めてあげて、負けても…ポケモンに対して苛立っては駄目、よく頑張ったって言ってあげて。問題は、トレーナー側にある…そう考えて行動するというのも大切になってくるよ」
「うん!ありがとう…アオイさん!」
元気いっぱいなその子に、笑顔で手を振る…ダイゴさんもこんな気持ちだったのだろうか。ついつい、昨日も、今日もダイゴの事を考えてしまうのは何かあるということかな?なんて思ってしまうのは、仕方ない?ことかもしれない。
「どういたしまして、きちんと時間は間違えないようにすることも大切だからね」
「はい!」
10歳を越えてすぐぐらいの女の子に、私もこの時にジムチャレンジをしていたらこんな感じだったのかな…と、思ってしまう。私は、義務教育後高校進学、そして大学進学卒業後に初めてジムチャレンジに挑戦したから、あの時期には、まだ学校に通っていた。
「考えても仕方ないですね。間に合わなくなるから行きますか」
と、言っても…場所はすぐそこ、カフェの扉を開けると、藍色とも紺色とも取れる綺麗な色合いの髪を短く切りそろえた叔父さんの前には、空色鼠によく似た水色気味の銀色は、証明があたり、銀色に時に水色にキラキラと輝いている…この輝きが私は好きで…って!何故貴方がいるのかききたいですよ。
「叔父さん…お届けものです」
その声に、二人が振り向くと…二人とも、少し険し目の表情から、さらりと優しい表情へと変えた何を話していたのか、さっぱりわからないけれど何を話していたのかなんて、聞くのはいけないと思うから。
「久しぶりだね…アオイちゃん」
ふわりと微笑む姿は、5年も経てばお互いに変わっているような気もするけど…なんだか、変わらないような優しい微笑みが私に向けられる。
「お久しぶりですね、ダイゴさん」
「お使い悪かったね、貰うよ」
髪の毛をくしゃりとしつつ、叔父さんが私に預かるよと自分から受け取りに来てくれた。
「叔父さん、お父さんがびっくりしたよと言ってましたよ」
「兄さんに言われるぐらいなら、父さんに言われる方がいいな。いや、助かったよ」
あははっ…と笑う叔父は、うっかりやで仕事に大きなミスを与えないぐらいには、うっかりしている。ちょっと、今回はなんだか、よくわからないから少し怒ってやろうとは…違うけど、、、。つい、言いたくなるよね。
「気を付けてくださいね!」
「ごめんごめんって、あぁ…そうそう、しばらくこっちにダイゴくんが居るそうだから、久しぶりに指導して貰えばいいと思うぞ、ねっ?ダイゴくん」
「えっ?」
叔父の思わぬ発言に、ダイゴさんの方を向けば…それいいね!と、返事を返してくれる。いや…それを望んだのは…私だし、祈ったこともあるけれど…。
「もちろんですよ、ツバタさん」
ニコッとした…優しげな笑顔に、叔父さんもテンションを高める…いや、その言葉に何か意味あるのかな?なんて…ほんとに、意味深気な言葉だなぁ。
「さて、実はこれ、あの計画についての資料なんだ」
「そんなに、重要な資料なんですか?」
「それ…忘れたら、困りますよ。っていうわけでもないので、大丈夫ですよ」
まぁ…それなら、助かったし、良かったな。と、いや…なんていうか、デボンとうちだと規模の差があるってことだよ?
「そう言ってもらえると嬉しいよ、父にも言われるほどのうっかりやでね」
「まぁ、父親って何処もそんな感じですよね」
はぁ…と、ため息混じりの声が聞こえるけれど、そんなにダイゴさんとムクゲさんの仲って悪かっただろうか。
「ムクゲさんもかい?ははっ…友は類を呼ぶとは言うけれど、似たところもあるよね……私らの父たちは」
「ふふっ……ちょっかい掛けてくるのも同じですよね。数日は、デボン関係で、リーグ会議がありますけど、それでも良ければ…どうかな?」
んんっ!数日ガラルにいるの!?えっ…よく分けわからない。ちょっ…パニックです。やめて…。
「えっ!?いいんですか?」
「もちろんさ、任せて!」
「なら、よし…今日は、ここで終わろうか。また今度はうちの本社で」
じゃーね〜なんて、お父さんと同じくのんきな声を上げる…一人にしないでよぉ…と思わなくないけど、めったにないか…。
「そうですね、お兄さんにもよろしくお伝えください」
「うん、その件については私に任せてくれると嬉しいよ」
叔父が、会計を済ませ…会社に戻るのを見送り、二人で外に出る。久しぶり…5年近く会っていないのに、何だか照れくさくて…ダイゴさんの顔を見れない、見たくない…けど、久しぶりなんだから、ちゃんと目を見て話したい…。そんな葛藤が大きくて……見れない自分が嫌になる。
「アオイちゃん、あの試合…見ていたよ」
「えっ?あの………試合?まさか」
あの試合、それは多分…ダンデとの決戦、チャンピオン戦で、私は惜しくもぎりぎりで負けた。あと少し、タイプ相性が優位であれば勝てたかもしれない…そう思わせた勝負!と銘打ってデカデカと書かれた雑誌が多く出回った。それを、ダイゴさんが見てた…じゃあ、なんで?なんで、言ってくれなかったの?そんな疑問が湧き上がる。
「リアルタイムで、見たわけじゃなくてね。親父がきみのお父さん経由で手に入れたらしい…」
あははっ…と乾いた笑い声から何かひと悶着あったらしい……それだと、確かに嫌だなぁ。
「んんっ?お父さん経由で、ですか?」
「そう、きみのお父さんだよ。まぁ…理由が何であれ、、、手に入れられたんだ」
「そうだったんですか」
あっ…今、素っ気なかったかもしれない。やばいどうしよう…どうしようかなぁ………嫌われたかも知れない。不安に…眉がきゅっとなる…なんだか今にも泣けてきそうで。
「ご機嫌斜めかな?悪かったね。5年…連絡すら無くて、デボンの副社長についてくれと言われたり、密猟の防止と、密猟者の確保…自然災害への対策と指示系統の調整…色々……やらなくては行けない事が次から次へと湧いてきて、ボクも手が一杯になってね…正直言うと余裕が無かった」
うん…と、彼の言葉に頷いて…下を向く。彼もまた悲しい顔をしているなんて、わかっていても…今の私には、彼の顔を見れなかった。それに、そんな事…お祖父さんからお父さんから…聞いているから分かっている。
「話には聞いてますよ…だから、、、私は…貴方に対してというよりも…」
「自分に苛立っている?」
「そう…だって、そんなこと言ってたって。あなたなら、電話ぐらい…とってくれる。そう、わかってたんです。大学でのこと、バトルのこと、チャレンジのこと…不安になったとき、いつも連絡すれば…きっと、答えをくれるって…だけど」
出来なかった、迷惑を掛けるから…心配を掛けたくなかったから………言えなかった、電話を掛ける勇気すら無かったのだ。
「本当に追い詰められたら、しようと思ってたんですけどね」
ジムチャレンジの時点で…負けが続いたら、アドバイスを貰おうと思ってた。でも、勝ってしまったから…機会が、チャンスがなくなった。
「ふふっ…じゃあ、これからね……何でも、連絡してきていいよ」
えっ…?。そんな、簡単にいいよって言っていいんですか………?
「んんっ?えっ…と?」
「良いんだよ、迷惑かけても…心配掛けてもさ、ボクに迷惑掛ける?きみのお願いを聞くことが迷惑なんて、ボクは思ったことないから大丈夫だよ」
ふわっとした優しげな微笑みは…確かに、迷惑なんて思ってないよ!と私に伝えてくれている。
「えっ…いいんですか?」
「良いんだよ、ボクは君のこと良いと思うよ」
んん?それ、ダイゴさんが良いトレーナーに対して言う言葉ですよね?どうして、今いうのだろうか。
「?ふふっ…なら、わかりました。これからは、甘えさせてもらいますね」
「うん……そうだ、これ」
手渡された、木箱は、綺麗な紐で括られているのだけども、なんだろう?と、首を傾げると……帰って開けてね?というほのかな圧力を感じるけれど、しばらくは一緒に居ることが出来そうだから、少し嬉しく思ってしまう。
できるだけ長く一緒に居れますようにと、綺麗なあお空へと願った。
そわそわと、あちらこちらをキョロキョロと見渡してしまう……。きらびやかなシャンデリア、茶色ベースのシックな壁紙なんて見慣れている。そんなことに目を向けているよりも、こっちに意識を向ける。
彼は、居ないだろうか……今回も、こちらには来ていないだろうか。そうやってパーティー会場を見渡すも、見つかりやしない。彼らの名前すら出ていないことが彼がいない証拠でもあるだから、探したって仕方ないのに。
何ヶ月会えていないのだろう、寂しい、会いたい。私なんて忘れてしまっているのだろうか、いつも会う度に優しく接してくれる彼が。でも、そんな簡単に忘れたからと言って、何年も連絡さえ無いなんてあり得るのだろうか。いや、無いだろうな。と、思ってしまうぐらいには彼を兄だと思っているし、感じている。
自分から連絡出来ない自分に悔しい、悲しい……。いや、優柔不断で、怖がりな自分なんて嫌いなんだ……嫌いなんですよ。でも、そんな感情を持つのはいつものことなのですから…気にしなくても良いじゃないですか。そう言ってくる自分もいる、ただ……なんだか、待っているのが辛いと感じるようになってしまったのだ。だから、毎回こうやって、探している。
『あお空つなぐ祈り』第一話「離れていても」
「これは、これは……。コトミヤさんではないですか」
自問自答の深い思考に入りかけた矢先に……。私の叔父が近くに居ないことをいい事にか、マクロコスモス社長、ローズ氏が話しかけてきた。質の良いグレーのスーツはぽっこりとお腹を主張している。その後ろには、定位置と言える場所にやはりオリーブさんがひっついていた。
「ローズ委員長、ご無沙汰しております。お招きいただきありがとうございました。今回は、父と弟の代わりに、出席させて頂いております」
淡い青色に銀色の桜が刺繍された着物で、ゆったりとお辞儀をする。ここ、ガラルでは非常に着物は珍しい。目立ってしまっただろうか、それでも私は着物が多いんだから仕方ないのにね。
「そうでしたか、去年度の戦い……素晴らしい戦いだったと記憶していますよ。いやぁ……今年も、エントリーするものだと勝手に思っていたわけですが」
「そうでしたか……あいにく、私……ダンデだけが自分にとってのチャンピオンではありませんのでそこまであの地位に執着はいたしませんし……」
いやぁ、と笑う委員長に。私は正直な話をする。私にとっては、チャンピオンは一人じゃないからその地位を何年も追い続けれるような性格でもないのだ。
「その口ぶりだと、きみは他のチャンピオンを知っているようですねぇ」
「ご想像におまかせ致します。しかしながら、それは……当家にも関わることですので、私の一存ではお伝えしかねます」
クスッ、と笑って……その続きを遮断する。この続きは話さない、それを態度をもって示す。
「それは、それは……次に、アヤトくんに会った時にでも聞いてみましょうかねぇ」
「えぇ、そうしてください」
では、また……と、言おうとしたときには。既に、叔父さんが私の方に向かってきてくれていた。
「ローズさん、アオイを連れていきますね。行こうか、明日夕方に兄さんが帰ってくるらしいから、早めに帰ってやることしないと。どうやら……カントーで、兄さんの親友に出会ったようでね。やって欲しいことが出来たらしい」
「やってほしいことですか?」
何かあったのだろうか、と少し眉をひそめる。そんな私に叔父は、違うよ。と、何かあったことを否定した。
「ただ、会社として動いたほうが好ましい。そう判断したんだって。と、言っても相手はアオイも知ってる人だから、安心して大丈夫さ」
にこっ、と普段と変わらぬ人懐っこそうな笑顔を見せてくれる叔父さんは、ローズを前にしようとこの調子なのだ。
「了解です。帰りましょうか、叔父さま」
「そーだね。帰ろう、では……失礼します」
何処か、軽やかな歩調で帰る叔父に、疑問を抱きながらも彼の横に並んで歩いた。
アーマーガアタクシーが、綺麗な星空の中を飛ぶ。シャンデリアよりも、穏やかな優しい光をここまで届けてくれる星、恒星。遥か、遥か遠い場所からここまで光を届けてくれている。それを思うと、彼と私の物理的距離は近いと言えるだろう。だけど、、なんだか、遠い存在に思えてしまうのはどうしてだろうか。
彼と会う度に、彼が私に教えてくれたこと、見せてくれたこと、気づかせてくれたことが沢山ある。それは、きっと温かく、優しいもので彼が思っている以上に多い。こうやって、空を見ながら振り返ってみると、少なく短い時間の中で、貰った様々な思い出が、景色が、多くのものが浮かんでくる。
まだ私が幼く、義務教育を卒業していなかった時期から大学入学までの記憶はより濃く残っているのに。ジムチャレンジを終えた今だから、話せることだってあるだろうに。パーティーではなかなか会えないけど、彼と会いたいなぁ……。
ファイルで準優勝したこと、どう言ってくれるだろうか。褒めてくれるだろうか、それとも……?でも、彼ならきっと、良い方に言ってくれるだろう、そして悪かったところも言ってくれる。最後の試合は、全国に配信されているらしいから、見てくれてるのではないか。そんな淡い期待もあるけど……。
彼の顔を見たくなってきてしまう、彼とみたい景色もまだまだあるし、彼の表情をみていたい、彼の考えを知りたい。今だからわかることも多いだろうから……やっぱり、会いたいなぁ。
そう、考えている横にはにこにことした叔父が居るだけで。
「ふふっ、自分で飛びたかったかい……? きみのアーマーガアは夜じゃ目立つだろう? あまり、すすめはしないぞ」
「確かに……言えてますね」
夜の星空をアーマーガアはバサバサと音をたてて空を飛ぶ、この星空にどうか会えますようにと祈る今日が終わろうとしていた。
翌朝、朝から元気のいいトゲデマルのだいふくを抱えて、ナックルシティからワイルドエリアに降り立つ。横に控えるのは、昨夜のアーマーガアとは色違い、ワイルドエリアに祖父と遊びに来ていた時に、エンジンシティの橋の下で出会った子、怪我をしていて自然回復が認められなかったことから保護した後、私の鋼パーティの仲間となった子。
『まチュッ、マチュ!』
「ふふっ、ありがとう。行こうか」
『まッチュ〜』
『がアッ!』
「よしっ、ヤタは一度休んでね。ありがとう」
『ガア』
ヤタが自分で、ボールのボタンをつついて戻ったのをみて、賢い子だなぁ。と、一人つぶやいた。ナックルシティから、逆鱗の湖の方向へと移動しエンジンシティの方へと向かう。その途中で、巨岩に頭のところで、手を組んだ幼馴染がいた。
「よっ!アオイ、昨日は来てたんだってな」
ニコッ、と人懐っこそうな笑顔をみせて、よって来るのは、幼馴染であり、スクールから一緒のレインだ。声を掛けられたからか、だいふくがまチュ、まチュと彼を可愛らしい指で指した。
「そう言うあなたは来ていらしたのですか?」
「おいおい……俺の父さん、ローズさんと知り合いだぜ?行かなきゃ怒られてしまうやろ」
「あ〜確かに、そうですよね」
『まチュ?』
何もないよ。と、だいふくに言いつつ考える。そういえば、彼の父親はローズの会社の上の方にいるから怒らせたら、やばいと思うしかないですね。
「ローズさんが、何も言わないのはお前のところぐらいだって言われるからな」
「えっ?それは、知りませんでした。と、いうよりも……レイン、あなたなんでここに居たんですか?」
ニヤッ、とした笑みを見せる彼に何か企んでませんか?という視線を送ると、肩をすぼめさせた。
「エンジンシティに行くんだろ?俺もそっちに予定があって、たまたま見かけたから。まっててやろ〜ってなったわけ」
「相変わらずですね、待ち伏せですか?」
「違うって、ぐうぜんやって。で、行かないのか?」
「行きますよ」
歩きだした私の横に頭のところで腕を組みながらついてくるレインが、何か思い出したように切り出した。
「そういえば、去年度のリーグで婚約話増えたとか聞いたけど本当なのか?」
「どこから聞いたんですか?まぁ、本当なんですけど、その辺はお父さんに全てお任せしているからわかりませんよ」
確かに、増えているのは事実である。それは、ガラルのリーグのやり方が影響しており、すべての試合が公開試合となる。すなわち、負けも勝ちもすべてサポーターにわかってしまうという難点を持ち合わせているということだ。それを言うと、名家など、高い地位がある家柄の子がリーグを挑戦する際は、誰もが注目するわけで、カロス、イッシュあたりの地位の高い人々は自分の子どもの婚約者探しを行う上で、このセミファイナルあたりに目を付けていると言われている。家柄や目立った成績を出してしまうと、こう婚約者として名乗り出る人が増加するというのが、難点である。
「ふぅ〜ん。へぇ〜」
「なんなんですか?まったく……レインは、増えたんですか?」
「ローズさんの関係者からな、アオイは?」
「私ですか?カロスからも数件来ていたとは聞きましたけど?」
「おいおい……流石は、コトミヤ家ってとこか」
「でも、家柄が全てじゃないでしょう?」
コトミヤは、もともとジョウト地方とホウエン地方の有名な家柄同士の結婚があり、それを機にガラルへと引っ越してきて今や数代目となっている。得意タイプは、竜と水であり、3対3で両者のタイプを揃える半統一パーティを得意とする家柄だ。
「まっ、そうなんだけどな。そういえば、もうジムチャレンジ始まるよな」
「あっ、そういえば。ダンデさんが、弟さんの」
「何か知ってるのか?」
「いや、ダンデさんが…自分の弟と幼馴染の子を推薦したらしいというのをお父さんから聞いたからですね」
「へぇ〜、珍しくないか?チャンピオンがこの10年、推薦したのは0人っていうんは知ってるけどな」
「そうそう、らしいですね。前のチャンピオン、マスタードさんは稀に出してくれていると聞いてますよ」
マスタードさんは、どうやら…時々こちらに来てマイナーリーグの試合を見たりして、いいと思った子には推薦状を渡しているらしいというのはちらほら耳に入る。
「そんなのよくしってるよなぁ…アオイは。いや、ちょっと考えたら、情報は力なりって考え方もあるか…。そういやさ、アオイって。誰から推薦受けたんだ?」
「んんっ…?それはですね」
私も疑問に思っていることを聞かないでくださいよねぇ……と思う。いつの間にか「推薦状が届いてるらしいと連絡があったよ」そうお父さんに言われて…何も言えなくなったのを覚えているから、困っているのは私自身だった。心当たりがあるようで…ないような………気もしてくる。
「なんだよ、アオイは成績良かったのに、ナックルユニバーシティからの推薦じゃなくて、マイナーリーグから行くってゆってたから。去年、俺はびっくりしてたんだぞ?」
「私も謎なわけですし、聞かないでいただけますか?誰からの推薦だったのか…。そう言えば、レインは委員長からの推薦ですよね」
ナックルユニバーシティからも、推薦状を出していいと言われていたし、申請をする直前でお父さんから知らされたから…その手の申請時期を知ってる人だと思うのだけど…そこしか、分からないし、現物は持ってないし……確認なんてさ、無理だよね。
「委員長から貰えたからな、というかさ。確か、直接ガラルリーグ本部に送って向こうが受け取ってくれるのって、ジムリーダー、四天王、チャンピオンクラスのみの推薦だからな」
「えっ?初耳ですね。それ、本当なんですか?」
「俺がいつ、お前に嘘ついたんだか」
そんな答えにくい質問をしないでくださいよ。それに、レインはすぐに小さな嘘なら付くじゃないですか。
「さぁ…それよりも、ますます分かりませんよ。一応、ナックルジムとは古くからの付き合いがありますから、キバナさんかも知れませんけど」
「まぁ…俺らも貴族階級だしなぁ。どこに繋がってても可笑しくはないわけだし、もしかしたらそうかも知れないな」
私の家系は…ナックルシティでも、上位を争うぐらいの地位を持っているけれども…確か、ナックルジムとの付き合いはあったはずだから、そっから来たのかもしれないなぁ…という考えに行き着いた。
「そうですよね…」
「なんだ、心当たりあるのかよ」
無いわけではないけれど、、、。
「無いって、無い無い。本当に分からないから、その手の話は苦手なんですって。特に、パーティーではすぐにその話になりますから」
「ふ〜ん…?」
レインは、手を上げて頭の上で組むと、ニヤリと深い笑みを見せた。手を頭の後ろで手を組む、そういう時は何か聞いてくる合図みたいな感じになっているのを知っているのはどうしてだろう?と、自分に問いたくなってきてしまいますね。
「そういやさ、俺と……婚約しないか?」
えっ……。そう思うことをさらり、と言いのけた彼の渾身のドヤ顔……。じゃないですよ!唐突な告白じゃないですか!いや、告白と言うものよりもかなり大雑把な口説き……そんな口説きでね?「結婚しましょう」ってなる人いたら私の前に連れてきてほしーってかなんわ!ってなりますよ。
「だから、なぜそうなるのですか?婚約はしませんって何度も言ってるでしょ……まったく……これで何度目ですか?」
「理由は教えてもらってねぇから、アピールしてんだよ!」
「理由って、伝えましたよね?私のお祖父さんとお父さんが委員長と仲違い…ではないですね。意見の食い違いによるものですが、何かあったようです。それに対して、レインのお父さんは委員長と仲いい…私のお祖父さんが許す筈がないです。それに、私は………」
「なんだよ、ゆってくれていいんだぜ」
じと〜っとした目で見てくる幼馴染にはぁ…と、ため息が出てきそうになるが、余計に不機嫌になられては困る…。けど…これから、不機嫌になるような事を言うのだから、この気持ちは、面倒だ。
「好きな人は居るんですよ、、、相手はきっと私の事は妹みたいにしか思ってくれてないと思うんですけど」
「ふ〜ん…なら、俺がそいつよりも、強くなればいいのか?偉くなればいいのか?」
いや、私の好きな人は…世界的企業の社長令息の上に…現在副社長をつとめ、なおかつ…リーグチャンピオンの座につく…強さも地位も認められた人物なのにね…無理ですよ。
「………ごめんなさい。私は、お父さんの決定に従うよ…だって、お父さんは私の事を考えて、悩んでくれてるのは分かっているから」
「まぁ…気長にアピールするから、いつか降参させてやるからなぁ!」
よくわからないけども、にかっ…としてから、急に走り出したレインに呆れる。でも、なんだか違和感を感じる。彼は、もっとそっけない感じだと思っていたのだけども、何というか……あんなに、元気のいいキャラ?
「あなた、そんなキャラでしたっけ?」
まぁ…結論なんて、出さなくてもいいか。と、空を見上げた…あぁ…エンジンリバーサイドの空は綺麗な青空を見せてくれている。
(まぁ…また会えるでしょうから、気にすることも無いのかも知れませんね。貴方とのバトルがしたい………指導してほしい、そう思ってしまうのはわがままかも知れないけれど、会いたい…)
私の腕の中で、不満そうに『まチュ!』と鳴くだいふくの姿があった。
そんな時…空に、一機の飛行機が着陸を試みていた。白い機体のそれになんだか…不思議とそわそわしてしまう。
「今日は、エンジンシティに用事があったので行かなかったですけど…明日は、シュートシティに行きましょうか」
ただの独り言は少し雲のある青空へと消えていった。
用事を終え、家へと戻った私は、カントー地方への出張から帰ってきたばかりのお父さんと、廊下でかちあった。そういえば、昨日叔父さんが、忙しそうにしていたのはこの事だったのか。
「お帰りなさい、お父さん」
「ただいま、アオイ。さて、今日は、お母さんもう寝てしまっていてね。おいで、アオイ……少し話をしよう」
こっちだよ、と書斎に招かれた私は……ソファに座ると「私もこっちに座ろうか」なんて言って座った父の顔をみている私に気がついたのか、ふっと微笑んだ。
「昨日、彼と出会ってね……」
「えっ?彼って、ダイゴさんですか!?」
「そうそう、久しぶりにパーティーで会えてね。ムクゲとも話していたんだ。そうだ、それで。明日、ガラルに来るらしいよっていうのを伝えたかったんだ。もしかしたら、連絡あるかもしれないね」
「あっ、ありがとう……お父さん」
「ふっ……アオイは、彼のことが好きなのかな?」
「うん……私、ダイゴさんのことが好きです」
「そっか、まぁ。任せなさい、とは言えないけれどそれとなくムクゲには伝えておいてあげようか」
そうにっこりと微笑んだお父さんの顔にはどこか確信めいた何かがあった。
次の日…今日の予定を確認し、何も無い事を確認すると、シュートシティに行こうと財布に免許がある事を確認した。ガラル地方で空を飛ぶのには、免許を持つ者またはチャンピオン、ジムリーダーであることが求められる。免許を携帯してないといけないから、いつも財布の中に入れているまぁ…一応、リーグカードと免許は連動しているので、リーグカードのみ携帯している人が多いのだけども。しっかりと、持っておかないと不安ですからね…。それを確認し、空を飛ぶので…と、服装を考える。今日は、グレーのウェストコートと、同色のズボンに薄手のコートを羽織って行くことにした。そして、外にいこうとすると、、、。
「シュートシティに行くなら、お使い頼まれて欲しいんだよ」
やぁ!朝から、元気そうで何よりだ!と、にこにこ顔のお父さんに出会ったと思えば…そのお使いという言葉に、なんだろう?と首を傾げた。いつもなら、叔父さんに頼むのに。
「どうしたんですか?今日、叔父さんが…シュートシティのカフェで誰かと話すって言ってましたよね?」
「それなんだよ、それ!お父さんもね、必要な物を忘れていく弟にはびっくりしたよ…」
あぁ…それでか。カフェなら、場所も知っているから大丈夫ですし、迷うこともないだろう。
「わかりました、ついでに行ってきます」
「んっ!これ、ファイルに入ってるから…と、鞄と一緒に持っていってくれて構わないよ」
「じゃあ、行ってきます」
「ん!いってらっしゃ〜い」
家から飛び出して、アーマーガアを呼び出す。美しい艶やかな体は彼から、教わった磨き方でいつもお手入れを欠かせない…。手袋を外して、ペタリとその体を触る。この子から伝わってくる飛べることの嬉しさに何だか…トレーナーとしての何かが揺さぶられた。再び、手袋をはめるとアーマーガアへと飛び乗った。
「ヤタ!シュートシティまで飛びますよ」
『があっ!』
バサッとその翼を大きく振り、空へと飛び立つ。
ナックルシティから、シュートシティに向かうと雪の降る景色……それを越えれば、シュートシティが見える。アーマーガアの上から見える景色は絶景で、タクシーとは違うドキドキ感が凄い良い。
シュートシティに付くといつも、アーマーガアの石像がある場所で下降してもらうのが恒例で、今日もスッと綺麗な下降をこなしてくれるヤタには頭が上がらない。
「ありがとう…ヤタ。休んでね」
『がぁ』
ボールへとヤタを戻せば、カフェへと足を運ぶために足をすすめる。カフェまで、あと少し…ということろに、一人のある女の子が私のところへとやってきた。何処かで見たことがあるから、もしかしたら…去年のジムチャレンジで会ったのかもしれない。
「あの…!アオイさんですよね?」
「そうですよ」
軽く膝を曲げて、背丈を合わせる。その手には、私のリーグカードがあるから…あれ?これって、まだ売り出してたのか?と、思うけれども子どものキラキラした笑顔には…勝てやしないなぁ。確か…サインペンあった気がするからいいか。
「サイン下さい!」
「ふふっ…いいですよ」
予想通りの展開に、サインペンを自分の鞄から取り出すと、銀色のペンでさらりとサインを書く、シンプルイズベスト…で、名前を少しのアレンジと共に書いたものだけども、評判が良かった。
夕暮れのナックルジムを背景にしたそれは、中々に良く出来ていると我ながらに思うのだから、自画自賛だなぁ…とも思わなくは無いからね。背番号は401…さて、由来は………のんきなお父さんが勝手につけた数字なので知りませんが…。
「どうぞ、ふふっ…。今年なんですね」
真新しいモンスターボールを2つ付けて、いるこの子にそうあたりをつけて…言う。
「どうしてわかったんですか?」
「いえ、なんとなくですよ。頑張ってくださいね!応援していますよ。」
「アオイさんのバトル…ポケモンとの、息があっていて…信頼している、されているって感じがあって凄く憧れます!それに、、カッコよかったです。何かコツとかありますか?」
コツ…コツと言われても、そう大したことは…やっていないのだけれども、まずはポケモンとの信頼関係だろうから、とあたりをつけて話してみようかな。
「そうですね、、、毎日、ポケモンと触れ合う時間を作ると信頼関係を築けると思うよ。まず、バトルに勝てたら…褒めてあげて、負けても…ポケモンに対して苛立っては駄目、よく頑張ったって言ってあげて。問題は、トレーナー側にある…そう考えて行動するというのも大切になってくるよ」
「うん!ありがとう…アオイさん!」
元気いっぱいなその子に、笑顔で手を振る…ダイゴさんもこんな気持ちだったのだろうか。ついつい、昨日も、今日もダイゴの事を考えてしまうのは何かあるということかな?なんて思ってしまうのは、仕方ない?ことかもしれない。
「どういたしまして、きちんと時間は間違えないようにすることも大切だからね」
「はい!」
10歳を越えてすぐぐらいの女の子に、私もこの時にジムチャレンジをしていたらこんな感じだったのかな…と、思ってしまう。私は、義務教育後高校進学、そして大学進学卒業後に初めてジムチャレンジに挑戦したから、あの時期には、まだ学校に通っていた。
「考えても仕方ないですね。間に合わなくなるから行きますか」
と、言っても…場所はすぐそこ、カフェの扉を開けると、藍色とも紺色とも取れる綺麗な色合いの髪を短く切りそろえた叔父さんの前には、空色鼠によく似た水色気味の銀色は、証明があたり、銀色に時に水色にキラキラと輝いている…この輝きが私は好きで…って!何故貴方がいるのかききたいですよ。
「叔父さん…お届けものです」
その声に、二人が振り向くと…二人とも、少し険し目の表情から、さらりと優しい表情へと変えた何を話していたのか、さっぱりわからないけれど何を話していたのかなんて、聞くのはいけないと思うから。
「久しぶりだね…アオイちゃん」
ふわりと微笑む姿は、5年も経てばお互いに変わっているような気もするけど…なんだか、変わらないような優しい微笑みが私に向けられる。
「お久しぶりですね、ダイゴさん」
「お使い悪かったね、貰うよ」
髪の毛をくしゃりとしつつ、叔父さんが私に預かるよと自分から受け取りに来てくれた。
「叔父さん、お父さんがびっくりしたよと言ってましたよ」
「兄さんに言われるぐらいなら、父さんに言われる方がいいな。いや、助かったよ」
あははっ…と笑う叔父は、うっかりやで仕事に大きなミスを与えないぐらいには、うっかりしている。ちょっと、今回はなんだか、よくわからないから少し怒ってやろうとは…違うけど、、、。つい、言いたくなるよね。
「気を付けてくださいね!」
「ごめんごめんって、あぁ…そうそう、しばらくこっちにダイゴくんが居るそうだから、久しぶりに指導して貰えばいいと思うぞ、ねっ?ダイゴくん」
「えっ?」
叔父の思わぬ発言に、ダイゴさんの方を向けば…それいいね!と、返事を返してくれる。いや…それを望んだのは…私だし、祈ったこともあるけれど…。
「もちろんですよ、ツバタさん」
ニコッとした…優しげな笑顔に、叔父さんもテンションを高める…いや、その言葉に何か意味あるのかな?なんて…ほんとに、意味深気な言葉だなぁ。
「さて、実はこれ、あの計画についての資料なんだ」
「そんなに、重要な資料なんですか?」
「それ…忘れたら、困りますよ。っていうわけでもないので、大丈夫ですよ」
まぁ…それなら、助かったし、良かったな。と、いや…なんていうか、デボンとうちだと規模の差があるってことだよ?
「そう言ってもらえると嬉しいよ、父にも言われるほどのうっかりやでね」
「まぁ、父親って何処もそんな感じですよね」
はぁ…と、ため息混じりの声が聞こえるけれど、そんなにダイゴさんとムクゲさんの仲って悪かっただろうか。
「ムクゲさんもかい?ははっ…友は類を呼ぶとは言うけれど、似たところもあるよね……私らの父たちは」
「ふふっ……ちょっかい掛けてくるのも同じですよね。数日は、デボン関係で、リーグ会議がありますけど、それでも良ければ…どうかな?」
んんっ!数日ガラルにいるの!?えっ…よく分けわからない。ちょっ…パニックです。やめて…。
「えっ!?いいんですか?」
「もちろんさ、任せて!」
「なら、よし…今日は、ここで終わろうか。また今度はうちの本社で」
じゃーね〜なんて、お父さんと同じくのんきな声を上げる…一人にしないでよぉ…と思わなくないけど、めったにないか…。
「そうですね、お兄さんにもよろしくお伝えください」
「うん、その件については私に任せてくれると嬉しいよ」
叔父が、会計を済ませ…会社に戻るのを見送り、二人で外に出る。久しぶり…5年近く会っていないのに、何だか照れくさくて…ダイゴさんの顔を見れない、見たくない…けど、久しぶりなんだから、ちゃんと目を見て話したい…。そんな葛藤が大きくて……見れない自分が嫌になる。
「アオイちゃん、あの試合…見ていたよ」
「えっ?あの………試合?まさか」
あの試合、それは多分…ダンデとの決戦、チャンピオン戦で、私は惜しくもぎりぎりで負けた。あと少し、タイプ相性が優位であれば勝てたかもしれない…そう思わせた勝負!と銘打ってデカデカと書かれた雑誌が多く出回った。それを、ダイゴさんが見てた…じゃあ、なんで?なんで、言ってくれなかったの?そんな疑問が湧き上がる。
「リアルタイムで、見たわけじゃなくてね。親父がきみのお父さん経由で手に入れたらしい…」
あははっ…と乾いた笑い声から何かひと悶着あったらしい……それだと、確かに嫌だなぁ。
「んんっ?お父さん経由で、ですか?」
「そう、きみのお父さんだよ。まぁ…理由が何であれ、、、手に入れられたんだ」
「そうだったんですか」
あっ…今、素っ気なかったかもしれない。やばいどうしよう…どうしようかなぁ………嫌われたかも知れない。不安に…眉がきゅっとなる…なんだか今にも泣けてきそうで。
「ご機嫌斜めかな?悪かったね。5年…連絡すら無くて、デボンの副社長についてくれと言われたり、密猟の防止と、密猟者の確保…自然災害への対策と指示系統の調整…色々……やらなくては行けない事が次から次へと湧いてきて、ボクも手が一杯になってね…正直言うと余裕が無かった」
うん…と、彼の言葉に頷いて…下を向く。彼もまた悲しい顔をしているなんて、わかっていても…今の私には、彼の顔を見れなかった。それに、そんな事…お祖父さんからお父さんから…聞いているから分かっている。
「話には聞いてますよ…だから、、、私は…貴方に対してというよりも…」
「自分に苛立っている?」
「そう…だって、そんなこと言ってたって。あなたなら、電話ぐらい…とってくれる。そう、わかってたんです。大学でのこと、バトルのこと、チャレンジのこと…不安になったとき、いつも連絡すれば…きっと、答えをくれるって…だけど」
出来なかった、迷惑を掛けるから…心配を掛けたくなかったから………言えなかった、電話を掛ける勇気すら無かったのだ。
「本当に追い詰められたら、しようと思ってたんですけどね」
ジムチャレンジの時点で…負けが続いたら、アドバイスを貰おうと思ってた。でも、勝ってしまったから…機会が、チャンスがなくなった。
「ふふっ…じゃあ、これからね……何でも、連絡してきていいよ」
えっ…?。そんな、簡単にいいよって言っていいんですか………?
「んんっ?えっ…と?」
「良いんだよ、迷惑かけても…心配掛けてもさ、ボクに迷惑掛ける?きみのお願いを聞くことが迷惑なんて、ボクは思ったことないから大丈夫だよ」
ふわっとした優しげな微笑みは…確かに、迷惑なんて思ってないよ!と私に伝えてくれている。
「えっ…いいんですか?」
「良いんだよ、ボクは君のこと良いと思うよ」
んん?それ、ダイゴさんが良いトレーナーに対して言う言葉ですよね?どうして、今いうのだろうか。
「?ふふっ…なら、わかりました。これからは、甘えさせてもらいますね」
「うん……そうだ、これ」
手渡された、木箱は、綺麗な紐で括られているのだけども、なんだろう?と、首を傾げると……帰って開けてね?というほのかな圧力を感じるけれど、しばらくは一緒に居ることが出来そうだから、少し嬉しく思ってしまう。
できるだけ長く一緒に居れますようにと、綺麗なあお空へと願った。
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