妖精の幸わう国

 イギリスは非常に珍しい人の夢を見た。実に、現実っぽく、実に、不思議な夢だ。珍しいと思う理由は……。と、考えて頭を夢の中で振る。

「アーサー、イングランド」
 ゆるく、ウェーブの掛かった金髪の女性は白い布を巻いたような服装をしている。気高く強く、たくましい女性だからこそ、多くの女王を抱いてきた国として憧れるめんがある。
「母さま……」
「ふふっ、立派に育ったものね」
 どこか寂しそうに悲しそうに、俺への言葉をかけてくる。
「ありがとうございます、でも俺……。時折、自分の愛情が正しいのか、国民への俺の……愛情が、あっているのか相応しいのかが、分からなくなって」
「いいのよ、アーサー……貴方が、貴方らしくいれればいいの。何も間違いはないわ。価値観は国、人それぞれ、あなたの愛情がいいという人もいれば、違うという人もいる。それだけよ。
 確かに、貴方はアメリカの事で、自分が与える愛情に自信がないのね。でも、カナダを見ればわかる…貴方の愛情は間違ってはいないわ」
「そうですね、信じてくれている子達を「俺が」愛さないということ、それはない」
「そうよ、ふふっ。さて、アーサーに伝えたいことがあるの」
「なんですか、母さま」
「私達、古い化身に伝わる言い伝えがあるの。
『運命の交わるとき、長きときを生きる者の対比者は化身と共に生きることになる。交わりしその対比者は長きときを生きる者と運命を共にする』というものよ。今の世界に必要だからこそ、伝えておくわ。ちなみに、自分の国民しかなれないわよ」
「母なる知識の水面に浮かぶ星星の読み解き、まことに感謝します」
「ふふっ、詩人なのね。アーサー、貴方もまた私の息子よ。信じているわ、貴方の国としての性格と人としての性格が交わっているようで、交わりきれていない貴方だからこそ、教えたのよ。愛しているわ」
「俺も、愛しています母さま。また、いつの日にか」
「えぇ、またいつの間にか」
 別れの言葉を告げれば、イギリスの意識は起き上がる。母の言うことを共有せねば、と思い何故か重い体を起こす。どうやら、うまく寝れてなかったらしい。そんな体はまだ休息を欲しているらしく、またパタンと倒してしまう。
「……。まぁ、今日は休みだしいいか……」
 そんな、ぐーたらな考えを持ってまた意識を暗闇に手放した。一人でいいと思いながらも、誰かに手を伸ばそうとしてしまう己の弱さを感じながら。眠るその瞬間に、いつもそばにいる誰かの気配を感じた。それは、夢の間の出来事だとはっきりとしている。面白い現象なのに、誰なのかを、はっきりと覚えていないことに俺は……寂しさを感じた。
しくもほぼ同時に、アメリカにつくことになったのは、後で知ったことだ。飛行場から、車に乗り込むまでの道のりを歩いていくと、イタリアの、特徴的な鳴き声がとある場所から聞こえてくる。
「えっと、何かあったのでしょうか」
 そう、疑問と疑惑を抱えて聞いてくるうちの秘書の一人に、ため息を付きつつそこへと向かう。携帯許可は貰っているため、軍部から手渡された銃を再度確認し、イギリスの視線はそちらに向かった。アーサーの嫌な勘というものは、よく当たるものだ。
「俺に何かあれば、手配は頼む」
「もしかして、巻き込まれることになると?」
「あいつじゃ、何もかも話すことになるだろうからな。俺らは、秘密を守ることも必要だ。俺らだけでの決め事も多くある。あれを伝えられては、溜まったものではない」
 彼に、スマホを手渡して、イギリスにつけられているGPSを再度確認する。スーツに縫い付けてあるものだ。わかりにくいところにあるため、大丈夫だろう。
「……畏まりました。手配はお任せください」
「頼んだぞ、そして頼りにしている。マウリツィオ」
 イギリスは、彼を残して裏手に周ると確かにイタリアがいた。口を抑えられて、睡眠薬でも嗅いでしまったようだ。くったりしている彼を見て、危機感のないやつだと、呆れる。
 黒服の悪い笑みをした男性が、数人で取り囲んでいる。そして、こちらを向いてくる。彼らは、俺を見てさらに笑みを深めた。
「……。お前は、イングランドか?」
「さぁな、しかし……そいつを離してもらおうか」
「嫌だな、そのイングリッシュは腹立たしい」
「有無を言わずに付いてきてもらおうか」
 そのあくどい笑みをした、金髪の男に「仕方ねぇな」とついていく、ことはしねぇ。
「簡単に、ついていくと思うか?」
 かちゃりと、セーフティを外した拳銃を相手に向ける。
「はっ、一人でできるかよ」
 その相手の言葉のとおりに、どこに隠れていたのか二十は超えるであろう男たちが来た。今日は、海軍のイギリスのための式典用の軍服ではあるが、ここまで軍服で来たのが良かったようだ。
 数発、足に命中する。折られてはねぇかと骨を確認するすきに、俺は抱えられてしまった。そして、何かをかがされる。どうやら、あくどい笑みを見せるこの中では、くらいの高そうな嫌な奴の顔は見なくてすんだらしい。
「お前は何か知らねぇのか?」
 イギリスはとっさに嘘をつく。俺が嘘をつけば兄さん達も守れるからな、嘘をつくことなんて簡単だ。澄ました顔で、何気なくそして、普段の苛ついた雰囲気を持って言葉を放つ。
「我が母は、そんな他人が教えたからと俺らに教えてくれるほど、優しくはないからな」
 そう言うと、相手はやはり眉間にシワを寄せている。まぁ、俺が素直に言うことなど、思ってはなさそうだが……。いや、俺をよく知らなければいうと思われているかもしれない。
「ほぉ……。さぞ、厳しい中で育ってきたと見た英国殿」
 いらぁ、としているらしい。顔が歪んでいる。
「当たり前だろう、俺は侵略され、侵略を繰り返しここまでの大きさになれた。子供たちのお陰であり、子供たちの幸せとたゆまぬ努力のおかげだからな。おかげで、実の兄弟からは嫌われている。弟にも嫌われた」
 悲しい顔をしてやれば、それなら情報はあまり来ていないと見たのか、彼は俺に銃を向けた。黒い物体の銃口はこちらをしっかりと捉え、撃てばこちらにしっかりと当たるだろう。後ろで、相変わらず泣き続けている彼に当たれば更にうるさくなるだろう。
「……この俺を狙うのか」
「さぁな、役立たずの英国殿」
「ほぉ……。役立たず……とな?」
 彼は、イタリアンマフィアの男だ。めんどくさいので、名前は伏せておこう。アメリカやイギリスでも、質の悪い薬を売っているとされるマフィアで、イタリアンマフィアのくせに身を隠している本社はここ、アメリカにある。あまりにもうざいし、イギリスの国民になにかあればサイアクだと思い、俺が個人的に情報部を動かしていたやつだ。上手く引っかかったとも思う、先程イタリアに嗅がせたあれは、多分その一つだろう。起きてから、口から流れる涎に嫌な感じがしたから俺はハンカチに湿らせて、それをしっかりとビニールをくくっておいた。
 そんなことを考えているイギリス。その裏ではやはり、彼の子どもたちが動いていた。そして、その頃のイギリス大使館。イギリスの護衛を務める軍部の人間、そして戦闘技術を有する情報部の人たち。何よりも、愛おしい祖国のためなら命だってかけてしまうそんな愛の重いイギリスの子どもたちである。
「さて、我が国が身を挺してイタリアを守っているそうだからな。早々にその子守を終わらして差し上げましょう(早々に助けてあげましょう)」
「そうするか、我が国はそれで元気だと思うか?(我が国は、元気に煽っていらっしゃるだろうか)」
「GPSは相変わらず、同じ場所を指していますからそこでしょう。多分、あの人は撃たれても悠々とされていますよ(撃たれたとしても、皮肉をいっていらっしゃるでしょう)」
「そうですね、僕も参加していいですか?」
「勿論ですとも、カナダさん」
 祖国を守るためと、言ってくれるカナダはイギリスの子どもたちともなかが良かった。だからこそ、マウリツォは、優しく見守っているのだった。
「さて、相手はイタリアンマフィアです」
 情報部により齎された情報が机の上に広げられる。いつの間にやら、FBIまで参戦していて、みなが笑った。俺だってやりたいんだぞーというアメリカが来そうなものだが、あの中の映像をあのマフィアは映像として流しているらしいから、アメリカに対するイタリアとイギリスの反感が高まっている。まさか、己の祖国が送り出した先で狙われているという状況などないだろう。
 しかし、あのことは広まってしまった。多分、撮影されていることはあの人はわかっているだろうと、マウリツォは思う。
「で、拉致されているのはイタリアですね。まぁうちの祖国様は、悲しいかな、あれを放っては置けなかったのでしょう」
「そうですね。あの人は、本来なら優しく穏やかな人です森のような人ですから」
「えぇ、優しくて不器用で繊細で、ネガティブ。あの人ほど、愛らしい人はいませんよ」
 その建物の地図を出して、最小限の人数で行くにはどうするべきかと考えて計画を立てた。イギリスの命よりも、イギリスという概念を守るために。

 イギリスは銃口を前に、血が騒ぐのを感じていた。前線に立っていた頃の自分の気配がすぐそこまで迫っている。己を解き放てと、やっちまえと俺の中のアルマダいや、青年になったばかりの子供が騒ぐ。
「あぁ、役立たずだろう? お前は、気づいていないだろうがな。この状況……流されているのはきづいているか?」
「あぁ、きらりと反射するものがあったからな。この俺が、気づかないなんてあるわけがないだろう。俺は、気配には敏感なんだ。兄さんたちのおかげでな」
「ふんっ、お前が知らねぇなんて端からわかってんだよ」
「そうかよ、最初から分かってんだったら。言わねぇでいいじゃねーかよ」
ふっ、と笑ってやる。
「ヴェっ!なんで、イギリスは挑発するの!」
「だまっとけ、イタリア」
気づいているから、な。
「俺は、こいつを追ってきたんだよ。情報なら頭にある、逃さねぇぜ?」
「何を知ってるんだ!!」
 あいつは、逆上して、俺の頭を狙った。あぁ、やっちまったんだな。と、思ったが、とっさに避ける。奴等が、怒る場所を狙うとはな。逃げられたのがわかったのか、次は俺の足を狙った。ところで、俺の足は両方被弾したわけだが、痛い。
「はっ、下手くそなやつ。お前が、質の悪い薬をばらまいていることなんてしってんだよ、バーカ」
それをいって、ケラケラと笑ってやる。
「おい、お前っ!!言いやがったな」
「この俺を前にして、カメラなんて向けやがるからだ。諜報大国なめんなよ? ちなみに、お前の名前には追いつけてもどうやら本拠地は、アメリカは見つけてねぇみたいだからな」
真っ青な顔になっていく彼を見て、にぃっと嫌な顔をしてやった。後ろで、イタリアがヴェー、ヴェーと更に泣いている。悪かったなと背中をなでてやると、俺にしっかりとしがみついた。
「俺の、外交カードをここで掲示することになるとはなぁ、思っても見なかったぜ」
「こんのぉ!!」
 そう、あいつが発泡するのと同時に、けたたましい音がする。何機ものヘリコプターが、空中を飛ぶ音、にやぁとする。スタイパーが、放った玉があいつの手元を一寸違わずに狙った。
「ははっ、俺が何もせず乗り込んだと思うのかよ!ばかじゃねーの!? それにな、あいつらはな、愛おしい子どもたちなんだよ!アイツラの努力を見守るのはこの俺の役目だ、どんなに短い命であれど、子孫を残してくれる。それをみて、俺は人の尊さを、人に対する愛おしさを学んだんだ。俺の愛がどれほど重いと言われど、俺は俺なりに国民を愛しているつもりだ。
 きっと、こいつらだって一緒だろう。お前らを愛してるから、つい安心して秘密をまちなかで漏らしちまう。こいつらは、ほんと馬鹿でアホで、考えなしだからな。それでも、こいつらはお前の祖国だ。お前にはこんなことしてほしくはなかったと思うぜ?」
 後ろで泣いているイタリアを前に出してやる。あっけにとられている彼に、カナダが後ろについて、彼を縛り上げた。もう、大丈夫だ。と、教えるように背中を撫でた。
「ゔえっ、ゔぇっ、イギリスの言うとおりだよ。俺だって、そうだよ。俺だって、愛おしいんだよ!俺だって、みんなのことまだまだ知りたいし、今回でイギリスの良いところも知れたからね!国民のことだって、知らないこともあるだろうけど。俺はまだまだお前らのこと知りたいよ、教えてよ。苦しいことも、楽しいことも、教えてよ!」
「……」
 祖国、そう細くつぶやかれたそれにイタリアは涙をこぼしながら、彼を見送った。次々と下から登ってきた子どもたちと顔を合わせる。みんな、泣きながら、抱きついてきて俺は戸惑うんだ。
「イギリスさん、イギリスさぁん!!」
泣くなよ、そういえど彼らの涙は滝のように流れていく。イギリスの愛おしい子どもたちは涙を流してくれるほどに俺を、俺という国をそして俺という国体を愛してくれているんだ。
「すまねぇな、俺が……。自分から危ないところに、突っ込んで」
「いいんですよ。貴方は優しい人ですからね。森のような人ですから……」
「嬉しいよ、お前ら……」
「おいっ、祖国を着替えさせろ!!銃弾残ってたら抜いて差し上げろ!!」
 ぜってぇ、いてぇ。なんて、言いながら奥にはけたイギリスとその部下。イギリスは、銃弾を抜かれて、サポートを得ながら糸で縫う。きれいに縫えたら、ガーゼを当てて包帯を巻いて、持ってきてくれた軍服をきる。あれば、放送されてしまっているのは、多分あっている。ならば、と支えられながら俺はみんなのもとに駆け寄った。
みんなが、俺を見守ってくれている。そんな国民からの愛情を信じてもいいのかもしれない。俺の永遠を見つけれるなら、俺は見つけてみたい。そんな血持ちが湧いてきた。美しいものをみたい美しい愛情を得たい、与えてみたい。そう、素直に思うんだ。

「あらたて、UnitedKingdom、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の代表、イングランドだ。よろしくな!」
「ヴェー、北イタリアだよ!ヴェネチアーノ、よろしくねぇ!」

 これで、国民は安心してくれただろうか。
 あぁ、早く帰らなければ。

「僕、怒っているんですからね!」
「わかったよ、わかったから!!」
 抱きついてくるカナダと後ろから抱きついているイタリアをみて、俺は涙を流した。あぁ、そんな情けない俺を国民に見させたくなかったのに。
「心配してくれてありがとな、お前ら」
 イギリスのその時の背中は。
 ウェールズが語るには、優しくて強くて、良かったよ、らしい。
 スコットランドが語るには、情けなくて、寂しそうで、でも弱さの中の強さはお前が勝っていたぜ、らしい。
 北アイルランドが語るには、強さの中に可愛さがあって、可愛さの中に鋭い警戒感があった、らしい。

 セルシアーナが言うには、

「私達を守ろうとするような、優しい甘さ、それでも鋭い刺すような威圧感があってどんな時も守ってくれるそんな感じがしました。無事で良かったです」

そんな涙を流す、彼女が……。
なおさら愛おしく思ったんだ。

永遠を違えるのは、お前なのかな。
なんて、なんて情けない言葉だろう。
それでも、お前が受け入れてくれて、運命がお前を選んだのなら。
俺は、望んでもいいのだろうか。
「いいんじゃない?だって、詳しいことは教えてないし、まぁ……関係ない子どもたちが俺たちに押し付けられないかってことが心配だね」
 それが、一番心配だね。と、誰もが納得する。その共通点が生まれただけでも、安心してことを進められそうだ。なんて、考えてから自分も同意する。
「そうなんですよね」
「まぁ、政府には文書として渡しておくか?」
 スコット兄さんの提案に、頷けば次々に同意が返ってくる。やはり、こうして自分の提案に乗ってくれることは嬉しくてたまらない。そして、何より兄上たちの表情も明るくて安心する。
「そうだな。兄さん達も手伝ってくれるか?」
「おー、やろう!!」
「手伝えることは手伝うからね!」
「とりあえず、今日は休ませてくれ……兄上達」
 それは、そうかなんて笑いながらカナダと共にマナー・ハウスへと向かった。

 そこまでが、今週末に起こったことだ。
 無事に復帰を果たした俺は、ポロポロと涙をこぼすセルシアーナのそばでゆっくり話をすることになってしまった。誰かのために流す涙は美しいと思う。

 セルシアーナにとって、イギリスは大切な祖国ということだけではなかった。良き教育者であり理解者でもあった。幼少期から付き纏う寂しいという感情に向き合いきれなくなった時に、どれだけ抱きしめてもらったのかわからない、紅茶を入れてもらったのかわからない。
 そんな人が、撃たれているところをみて嬉しいと思うのか。という話であって、政府は情報規制に立ち回っていたが、今は方向転換して国民の代わりに体を張ったとして大きく称賛したのだ。だけど、身内としては国として存在し、死なない身であってもイギリスの傷つくところを見たくはなかった。イギリスは、それを知っているからこそ。ただ寄り添うのだった。
「ぐすっ、ぐすっ……」
「大丈夫だ、俺はここにいる。撃たれても、死にやしねぇよ。お前らが守ってくてるんだから」
 そうだ、国体を守るならば、国の本体を守らなければならない。だから、こうして私達が国のために、走りまわっていることが意味があると彼は言う。そうして、言葉にして伝えてくれる。大切にしてくれていることが伝わってきて嬉しい。
「そ、そうですねよ。でも、痛いのは痛いでしょう?」
「たしかに痛いのはいたいぜ? でも、お前らが撃たれるより、俺が撃たれれば死なねぇんだよ。これが、俺の愛情の示し方なんだ。受け止めてくれよ」
そんな、愛情の示し方、悲しい。たしかに愛し方かもしれない。それでも、セルシアーナには悲しい愛し方だと思った。そんなことを思えば、まだまだ止まらない涙は更に止まらない。
「俺は、お前のことを大切にしたいよ」
涙を止めるように、頬ににチュッと落とされたキスは優しくて薔薇と紅茶の香りがふわりとした。
「アーサーさん……」
「俺は、愛されてこなかった……。愛を知らずに幼少期は生きてきたんだ。それが原因なのか、不器用にしか愛せない。愛し方があっているのかさえわからない。それでも、俺はお前らを愛したいんだ」
悲しげな表情を私に向けて、強く抱きしめてくれる。先程よりも強い薔薇と紅茶の香りに、癒やされていく。その中に、森のような爽やかな木々の香りが混ざっていることに気がついた。
「私は、貴方が大好きです。だから……無理はしないで……」
「わかった、約束しよう。約束しような、セルシアーナ」
甘い声に、肯定する言葉。向けられるはずのない甘くて穏やかで愛おしさを感じられるほどの声色にきゅっと目を閉じる。
「お詫びに次の休み俺の個人宅来ねぇか?」
「いいんですか?」

いいんだよ。そう、笑うアーサーさんに私はすごく嬉しくて抱きついた。
「まったく、お前ってやつは。かわいいやつだ」
そんな優しいことを言わないで、そんなことをおもってしまった。


 週末、イギリスの自宅に招かれたセルシアーナはアンティークの家具の数々に懐かしさを感じていた。穏やかで時間の流れがゆったりしている。
 セルシアーナは、アーサーの家には妖精が多いことに気づいていた。
「妖精さんが、多いですね」
「そうだな。昔からの友人もいるんだ。良かったら、声を掛けてやるといいぜ」
 アーサーが、普段よりリラックスした丸みのある容認発音でのイングリッシュはまるで、森の中の優しい木々の声のような雰囲気を帯びていた。
艶のある木は、アーサーの瞳の色とマッチしていて彼のためにそこにあるような気さえしてくる。艶のある紅茶の色とかは、いつものイギリスさんらしい色と香りでリラックスできる。
「好きに過ごせよ、ここはお前の故郷と同じような場所だ。俺が、好んでいる場所。そして、俺しかいない」
 まろやかな声で言われてしまえば、はい。と素直に返事をした。
お前と俺の唯一の言葉ってなんだろう。
そんなことが頭から離れない。
あぁ、この日に見つけられるだろうか。

「ねぇねぇ、アーサーさん」
 ふとしたときに、ぎこちなく触れてくる彼女の手を取る。祖国との距離はかなり近くなるのが、国民というものだから、気にはしない。
「なんだ、なにかしてほしいのか?」
 安心させるように笑えば、彼女からも帰ってくる笑顔。それが、嬉しくて俺もまた笑顔を返す。
「あのね、私ね。あの日会えただけでも奇跡だと思ったんです」
 あの日と言われて思い出されるのは、彼女が佇むあの青い景色、森の中の青空、ブルーベルの花森だ。
「そうなのか?」
「はい、でも。こうしていれているだけで奇跡だと思うんです。何より、あなたに会えてよかった」
 幸せなんです。そう締めくくった彼女のささやかな気持ちは暖かくて嬉しい。そうだ、話してみよう。

「なぁ、お前は。運命という言葉を信じるか?」

 運命というものは、残酷だ。流れを決めてしまうものであるから。それでも、運命という荒波を越えてしまう人もいるだろう。そういう国民のことは、俺は美しいと思う。
「運命ですか? ロマンチックだと思いますよ。でも、なんだか……寂しいなぁと。恋人だったら、一生懸命アプローチして、されて一緒になりたいですし。あってすぐって味気ないなぁって思います。でも、あったら嬉しいです」
「そ、そうか……」
なんか、寂しいなぁと思ってしまったけれど。信じてくれるならいいか。と、思った。それでも、急に話しだした俺の目を見てくれる彼女がいて、嬉しく思う。
「俺達には、一人だけ、ほんの一人だけ、運命の人がいるらしい。見つけられまれるか転生かなんだろうけどな。いるんだってさ。

俺とその人の、流れが繋がる運命の人がいる。
その人は、俺の直感だけが頼りの中で見つけられるんだ。
だけど……。その中で、涙と言葉が頼りになるらしい。何か、俺とその誰かだけの言葉。何かわからないけれど……。それが合致すれば、俺が死すときまで共に生きれる。そんな存在。

お前だったらな。って、何度も思ったんだ」
隣で立っている彼女を抱きしめる。逃げないでほしい、そんな期待と願いを込めてイギリスは抱きしめた。

「なら、お付き合いからスタートですね?」
「おう、そうだな」
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