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幼馴染とその母親に、どうしてここにいるのかとたずねると、こちらの学校より1日早く冬休みを迎えた彼は、所謂キャリアウーマンである彼の母親の本日の出張先が大阪で、元々我が家に立ち寄る予定だったことを聞きつけ、急遽一緒についてきたそうだ。
実は少し前から今日のことは決まっていたそうで、聞いてないよ目線で母に訴えると、ごめんねと小さく手をあわせた。
時刻は今で15時。18時の電車で帰るというので、出発まであと1時間ほど母たちはこの場で楽しく思い出話に浸るようだ。
「…部屋、行く?」
「ん?あぁ、そうじゃのう。折角じゃしお邪魔させてもらうか」
楽しい再会の時間を邪魔してはいけないと娘心に気を遣い、多少の不安と一緒に幼馴染を自室に招き入れることにした。
トントントンと二人分の階段を登る足音。
大丈夫、大丈夫と心の中で唱え、自室のドアを開けた。
「へぇ、レイアウトは変わっとるが何だか前とあんまり変わった気がしないのう」
きょろきょろと部屋を見回す。
「急だったし、家具は前の家からほとんどそのまま持って来たからね」
写真立てに自分が写っている写真を見つけると彼は懐かしいなと言葉を漏らした。
「学校はどうじゃ。楽しくやっとるか」
「うん、おかげさまで毎日楽しいよ」
「そうか。それは何より」
母たちとは今頃、前はあぁだったこうだったと思い出話にも花を咲かせている頃だろう。
最初は不安だったが、私たち二人も思っていたより、自然に会話が弾む。
「どうした、人の顔なんぞじっと見つめて。穴でも開ける気か?」
「なんか、こんな風に雅治とゆっくり話すのって久しぶりだなとおもって」
「…そうかもしれんのお」
私に見せるその表情は昔と変わらない兄のような優しい視線。
「そうだ。この間、ネックレス受け取ったよ。ありがとう」
「ん?あぁ、お前さんみたいで可愛かったろ。…でも身に付けてはくれてないんじゃな」
自分から話を振っておきながら、彼の言葉に一瞬全身に緊張が走る。
思わず今手首に身に付けているブレスレットに視線が流れそうになるが、彼のことだ。私が変な動きを見せればすぐに気づくだろう。
「うん、校則でアクセサリーは禁止だから」
なるべく自然を装いながら、私は自身の手首に巻かれているブレスレットの存在に気づかれる前に、そっと背の後ろで外し制服のポケットの中にしまい込む。
「それは残念。俺も、誕生日のTシャツありがとな。でも、あれ着てどこに出かければええんじゃろな」
「うーん、部活の練習とか?」
「お前な…そんなことしたら卒業どころか一生馬鹿にされるのが目に見えとるぜよ」
「ふふ…そうだね」
冗談を言いあって、お互いに笑って
驚くほど、昔と変わらない穏やかな時間。
もしかしたら、私の考えすぎだったのかもしれないという考えが過った瞬間、私の思考のスイッチが無意識に逃避に切り替わっていたことに気づけなかった。
頭が良くて顔も良くてスポーツができて、完璧な雅治が私のことが好きだなんて、私の勘違いだったに違いない。
そんな歪んだ自信が自分を追い込むことになるんて知らずに、私はいとも簡単に彼がそれまでずっと隠し持っていたスイッチを押してしまうことになる。
「私ね、雅治のこと少し誤解してたみたい」
「誤解って、何を?」
カチ
「学校で好きな人ができたんだ…今毎日学校が楽しいのもその人のおかげで…」
カチ
「恥ずかしいな、雅治が私のこと好きかもしれないだなんて勘違いして勝手に悩んだりして」
カチ
「本当に自意識過剰にもほどがあ…」
カチリ
押してはならない彼のスイッチがカチリとはまった音がした。
直後、私は自分の発言に後悔をすることになる。
するりと私の両耳と髪の間をすり抜けていく指先、後頭部を引き寄せられ視界にいっぱいに広がる見慣れた顔。
瞳に映るそれまで見たことがないほど熱く鋭い視線に身動きがとれない。
生暖かい感触に唇を深く覆われ、じわりじわりと息苦しさが増し自身のものかすらわからない何かが口の端から顎を伝う。
「ん…っ」
自分が長年兄のように慕ってきた幼馴染にキスされているのだと、すぐに理解することはできなかった。
慌てて彼の胸を押して距離をとろうとするが後頭部を両手でしっかりと固定されており抜け出すことが出来ない。
ぴちゃりぴちゃりと音をたてる水音、混ざりあう息遣いが部屋中に響き渡り、聴覚を刺激する。
喰らいつくようなその深いキスには、今まで彼がひた隠してきた感情すべてがぶつけられているようだった。
息継ぎの仕方がわからず、苦しさは増すばかり、視界が徐々に朦朧としてくる。
今自身が出せる精一杯の力で彼の胸の辺りを叩いて訴えると僅かに数cmの距離が生まれる。
「まさ…は…」
息も絶え絶えに彼の名前を呼ぼうとするも、酸素を求めている身体は思うように言葉を発せない。
くたりと力が入らなくなった私の身体を彼の腕が支える。
「俺はずっと昔から由紀のことしか見とらん。他の男の話なんて聞きとうない…っ」
「それ…は …っぁ」
幼馴染のそれまで聞いたこともない苦しそうな声色、見たことがないような泣きそうな目で真っすぐに私を見つめ、再び口づける。
何度も、何度も角度を変えて小刻みに降ってくるそれは、先ほどまでとは違い私のことを考えて息つぐ間を与えてくれるような優しいキスだった。
「好いとおよ…ずっと一人の女として見とった」
真正面から受けとる彼の想い。
やっぱり誤解、なんかじゃなかった。
薄々気づいてはいた。
雅治が私に向けていた熱い感情、目を背け続けた彼の気持ち。
私が雅治の気持ちに気づき始めたのはつい最近…そう、私の転校が決まって雅治と最後に一緒に帰ったあの日だ。
でもきっと、雅治自身はそれよりずっと前から私のことをそういう対象として見ていたのだろう。
その気持ちに気づいてもなお、私は彼を幼馴染や兄のようにしか見ることができなくて、私さえ気づかないふりをしていればきっとその内彼にも別に好きな人が出来てくれる、この穏やかな本当の兄妹のような関係を続けていけるだろうと思っていた。
でも、そうして彼の気持ちに向き合ってこなかった結果がこれだ。
いま雅治がこんなに辛そうな顔をしているのは、紛れもない私のせい。
距離感間違えたかのうと言いながらカリカリと頬を数回掻きながら、何も言わない私を正面から見据える。
「…遠山じゃなく俺を選んでくれんか」
そっと私を抱きしめる彼の震える腕をはねのけることが出来ず、朦朧とした意識の中でただ黙って彼の身体に身を預けて話を聞いているだけしかできなかった。
ゆっくりと彼の身体が離れ、力が入りきらない私の身体をそっとベッドの上に横たわらせる。
「すまん。本当はこんなことしに来たんじゃなかったんだが…」
それは彼の本心だったと思う。
雅治のことを責める資格が私には無かった。
彼が私との関係が壊れるのを避けて、隠し続けてきた心のスイッチ。
そのスイッチを押してしまったのは私自身だったのだから。
「来週の親善試合のこと聞いとるじゃろ。俺も出る。そん時でええから、返事聞かせてほしい」
彼はすっと立ち上がり、私の部屋のドアに向かって歩く。
「お前さんは寝てしまったことにしとくからのう。そんな泣き腫らした顔、おばさんに見せたら心配するからな。…いきなりキスして悪かった」
一度だけ私の頭をさらりと優しい手つきで撫でる。
パタリと扉が閉まり彼の姿が見えなくなるとようやく今自分が置かれている状況を理解し私は一人静かに涙を零した。
「母さん、俺先に駅に行くけぇの」
「あら雅治。由紀ちゃんは?」
「あぁー、それが疲れて寝てしもうてのう。来週親善試合でまたこっちに顔出すし、おばさん悪いがそのまま寝かせてやってくれんか」
「あら、そうなの。あの子ったらごめんね」
そんな会話が1階で繰り広げられてることも知らず、私は自室のベッドの上で未だ呆然としていた。
今まで見たことのない幼馴染みの表情、経験したことのない熱く深い口づけ。
思い出すだけで体の芯がじわりと熱くなるのを感じた。
シャラリと、先ほど自分の好きな人からもらったばかりのブレスレットがポケットから落ちてきらきらと光を放っている。
「遠山君…」
ブレスレットを拾い、震える手でぎゅっと強く握る。
早く彼に会って、あの笑顔を見て安心したい。
けれど、未だ冷めきらない熱が彼のことを裏切ったような罪悪感を抱かせ、結局私は親善試合の日まで遠山君に連絡をとることができなかった。
既読がつかないメッセージ
実は少し前から今日のことは決まっていたそうで、聞いてないよ目線で母に訴えると、ごめんねと小さく手をあわせた。
時刻は今で15時。18時の電車で帰るというので、出発まであと1時間ほど母たちはこの場で楽しく思い出話に浸るようだ。
「…部屋、行く?」
「ん?あぁ、そうじゃのう。折角じゃしお邪魔させてもらうか」
楽しい再会の時間を邪魔してはいけないと娘心に気を遣い、多少の不安と一緒に幼馴染を自室に招き入れることにした。
トントントンと二人分の階段を登る足音。
大丈夫、大丈夫と心の中で唱え、自室のドアを開けた。
「へぇ、レイアウトは変わっとるが何だか前とあんまり変わった気がしないのう」
きょろきょろと部屋を見回す。
「急だったし、家具は前の家からほとんどそのまま持って来たからね」
写真立てに自分が写っている写真を見つけると彼は懐かしいなと言葉を漏らした。
「学校はどうじゃ。楽しくやっとるか」
「うん、おかげさまで毎日楽しいよ」
「そうか。それは何より」
母たちとは今頃、前はあぁだったこうだったと思い出話にも花を咲かせている頃だろう。
最初は不安だったが、私たち二人も思っていたより、自然に会話が弾む。
「どうした、人の顔なんぞじっと見つめて。穴でも開ける気か?」
「なんか、こんな風に雅治とゆっくり話すのって久しぶりだなとおもって」
「…そうかもしれんのお」
私に見せるその表情は昔と変わらない兄のような優しい視線。
「そうだ。この間、ネックレス受け取ったよ。ありがとう」
「ん?あぁ、お前さんみたいで可愛かったろ。…でも身に付けてはくれてないんじゃな」
自分から話を振っておきながら、彼の言葉に一瞬全身に緊張が走る。
思わず今手首に身に付けているブレスレットに視線が流れそうになるが、彼のことだ。私が変な動きを見せればすぐに気づくだろう。
「うん、校則でアクセサリーは禁止だから」
なるべく自然を装いながら、私は自身の手首に巻かれているブレスレットの存在に気づかれる前に、そっと背の後ろで外し制服のポケットの中にしまい込む。
「それは残念。俺も、誕生日のTシャツありがとな。でも、あれ着てどこに出かければええんじゃろな」
「うーん、部活の練習とか?」
「お前な…そんなことしたら卒業どころか一生馬鹿にされるのが目に見えとるぜよ」
「ふふ…そうだね」
冗談を言いあって、お互いに笑って
驚くほど、昔と変わらない穏やかな時間。
もしかしたら、私の考えすぎだったのかもしれないという考えが過った瞬間、私の思考のスイッチが無意識に逃避に切り替わっていたことに気づけなかった。
頭が良くて顔も良くてスポーツができて、完璧な雅治が私のことが好きだなんて、私の勘違いだったに違いない。
そんな歪んだ自信が自分を追い込むことになるんて知らずに、私はいとも簡単に彼がそれまでずっと隠し持っていたスイッチを押してしまうことになる。
「私ね、雅治のこと少し誤解してたみたい」
「誤解って、何を?」
カチ
「学校で好きな人ができたんだ…今毎日学校が楽しいのもその人のおかげで…」
カチ
「恥ずかしいな、雅治が私のこと好きかもしれないだなんて勘違いして勝手に悩んだりして」
カチ
「本当に自意識過剰にもほどがあ…」
カチリ
押してはならない彼のスイッチがカチリとはまった音がした。
直後、私は自分の発言に後悔をすることになる。
するりと私の両耳と髪の間をすり抜けていく指先、後頭部を引き寄せられ視界にいっぱいに広がる見慣れた顔。
瞳に映るそれまで見たことがないほど熱く鋭い視線に身動きがとれない。
生暖かい感触に唇を深く覆われ、じわりじわりと息苦しさが増し自身のものかすらわからない何かが口の端から顎を伝う。
「ん…っ」
自分が長年兄のように慕ってきた幼馴染にキスされているのだと、すぐに理解することはできなかった。
慌てて彼の胸を押して距離をとろうとするが後頭部を両手でしっかりと固定されており抜け出すことが出来ない。
ぴちゃりぴちゃりと音をたてる水音、混ざりあう息遣いが部屋中に響き渡り、聴覚を刺激する。
喰らいつくようなその深いキスには、今まで彼がひた隠してきた感情すべてがぶつけられているようだった。
息継ぎの仕方がわからず、苦しさは増すばかり、視界が徐々に朦朧としてくる。
今自身が出せる精一杯の力で彼の胸の辺りを叩いて訴えると僅かに数cmの距離が生まれる。
「まさ…は…」
息も絶え絶えに彼の名前を呼ぼうとするも、酸素を求めている身体は思うように言葉を発せない。
くたりと力が入らなくなった私の身体を彼の腕が支える。
「俺はずっと昔から由紀のことしか見とらん。他の男の話なんて聞きとうない…っ」
「それ…は …っぁ」
幼馴染のそれまで聞いたこともない苦しそうな声色、見たことがないような泣きそうな目で真っすぐに私を見つめ、再び口づける。
何度も、何度も角度を変えて小刻みに降ってくるそれは、先ほどまでとは違い私のことを考えて息つぐ間を与えてくれるような優しいキスだった。
「好いとおよ…ずっと一人の女として見とった」
真正面から受けとる彼の想い。
やっぱり誤解、なんかじゃなかった。
薄々気づいてはいた。
雅治が私に向けていた熱い感情、目を背け続けた彼の気持ち。
私が雅治の気持ちに気づき始めたのはつい最近…そう、私の転校が決まって雅治と最後に一緒に帰ったあの日だ。
でもきっと、雅治自身はそれよりずっと前から私のことをそういう対象として見ていたのだろう。
その気持ちに気づいてもなお、私は彼を幼馴染や兄のようにしか見ることができなくて、私さえ気づかないふりをしていればきっとその内彼にも別に好きな人が出来てくれる、この穏やかな本当の兄妹のような関係を続けていけるだろうと思っていた。
でも、そうして彼の気持ちに向き合ってこなかった結果がこれだ。
いま雅治がこんなに辛そうな顔をしているのは、紛れもない私のせい。
距離感間違えたかのうと言いながらカリカリと頬を数回掻きながら、何も言わない私を正面から見据える。
「…遠山じゃなく俺を選んでくれんか」
そっと私を抱きしめる彼の震える腕をはねのけることが出来ず、朦朧とした意識の中でただ黙って彼の身体に身を預けて話を聞いているだけしかできなかった。
ゆっくりと彼の身体が離れ、力が入りきらない私の身体をそっとベッドの上に横たわらせる。
「すまん。本当はこんなことしに来たんじゃなかったんだが…」
それは彼の本心だったと思う。
雅治のことを責める資格が私には無かった。
彼が私との関係が壊れるのを避けて、隠し続けてきた心のスイッチ。
そのスイッチを押してしまったのは私自身だったのだから。
「来週の親善試合のこと聞いとるじゃろ。俺も出る。そん時でええから、返事聞かせてほしい」
彼はすっと立ち上がり、私の部屋のドアに向かって歩く。
「お前さんは寝てしまったことにしとくからのう。そんな泣き腫らした顔、おばさんに見せたら心配するからな。…いきなりキスして悪かった」
一度だけ私の頭をさらりと優しい手つきで撫でる。
パタリと扉が閉まり彼の姿が見えなくなるとようやく今自分が置かれている状況を理解し私は一人静かに涙を零した。
「母さん、俺先に駅に行くけぇの」
「あら雅治。由紀ちゃんは?」
「あぁー、それが疲れて寝てしもうてのう。来週親善試合でまたこっちに顔出すし、おばさん悪いがそのまま寝かせてやってくれんか」
「あら、そうなの。あの子ったらごめんね」
そんな会話が1階で繰り広げられてることも知らず、私は自室のベッドの上で未だ呆然としていた。
今まで見たことのない幼馴染みの表情、経験したことのない熱く深い口づけ。
思い出すだけで体の芯がじわりと熱くなるのを感じた。
シャラリと、先ほど自分の好きな人からもらったばかりのブレスレットがポケットから落ちてきらきらと光を放っている。
「遠山君…」
ブレスレットを拾い、震える手でぎゅっと強く握る。
早く彼に会って、あの笑顔を見て安心したい。
けれど、未だ冷めきらない熱が彼のことを裏切ったような罪悪感を抱かせ、結局私は親善試合の日まで遠山君に連絡をとることができなかった。
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