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12月25日。
終業式が終わり、教室に戻るとクラスメイトは一同に会して冬休みモードに突入する。
それは私も例外ではなく、転校してきてから初めての長期連休ということでようやく一息つくことができるかと思うと嬉しく感じていた。
ただ1つ、隣の席の彼にしばらく会う機会がなくなってしまうということが残念でならない。
先日のアクシデントをきっかけに彼への恋心を自覚してからというもの、毎日学校に行きたくてたまらなく、早く訪れればいいと思っていた放課後がこなければいいのに等、今までの自分とは驚くほど正反対な思考に切り替わっている。
少し早めのクリスマスプレゼントとして渡したあの手袋を彼は大事そうに毎日着用しており、これほんまあったかいわぁと言われるたびに私まで何だか暖かい気持ちになった。
思いも虚しく、幸せな時間はあっという間に過ぎ去っていく。
気が付けば最後のホームルームの終盤にまで差し掛かっていた。
担任からの今学期最後のやけにあっさりとした締めくくりの挨拶が終わると、解放されたかのようにクラスメイトは教室から次々と飛び出していく。
少し前までの私なら同じように教室を飛び出していたと思うが、今は少しでも長く彼と一緒の空間に居たくて堪らなかった。
彼の方も、私と同じくして中々席を立とうとしない。
年末年始の過ごし方や休み期間中の部活の話など、他愛もない話題を振ってきてくれる。
教室の一番後ろの席で二人並んで、別に今日話さなくてもいいような話題を話す。
なんてことない時間がとても楽しくて幸せだった。
彼が部活の話をしていると、あ、そうやと何かを急に思い出したようだった。
「三が日明けたらな、立海さんが親善試合しにうちに来るんことになっとるんやけど、知っとった?」
立海大附属がここにくる?
つまりそれはイコールおそらく彼も
「ううん、知らなかった」
「そか。なぁ由紀」
机越しに名前を呼ばれ、真剣な眼差しでぎゅっと力強く両手を握られる。
「仁王のにーちゃんと…その、付き合うてるんやないよな?」
その名前を聞いて、心臓がどくんと音を立て全身に響く。
「幼馴染だよ。どうして?」
「初めてワイと会うたときも一緒におったし、由紀ってにーちゃんの話題避けようとするやんか?もしかしてって思ってんねんけど」
遠山君が私と雅治の関係を気にしだしている。それはとどのつまり、私の幼馴染に対して妬いてくれているのかもしれないと、自惚れてもいいのだろうか。
「本当に、ただの幼馴染だよ」
自身の決意も乗せて、私の本心でそう告げる。
「ほんま?そんなら良かった。…一応、確認」
最後にぽつりと呟いた言葉は聞き取れなかったが、ほっとしたような彼の表情はいつもより少しだけ大人びて見えて。
本当は、良かったの言葉の意味をちゃんと聞きたかったのだが、彼のいつもと違う表情に自分の顔が火照るのが分かり平静を保つので精いっぱいだった。
「由紀には親善試合見に来てもらいたいねん。ほんで、仁王のにーちゃんやのうて、ワイのこと応援してほしい」
私が四天宝寺側にいることを、幼馴染みの彼はきっと面白く思わないだろう。
少し気にはかかったが試合ならそんなに長く話すような時間はないだろうし、そもそも四天宝寺の生徒である私がずっと自分のチーム側にいたってなんら不自然ではない。
「(それにまだ私の勘違いという路線も捨てきれてはいないし)」
何より、試合中の遠山君の姿を常々見たかった私は、二つ返事で了承した。
その直後、見回りをしていた担任に帰宅を促されて、話の途中だったが私たちは慌てて帰り自宅を済ませ教室を後にした。
先日のアクシデント以来、彼は毎日のように日中のまだ明るい時には、自宅付近の路地まで、薄暗くなってきたら自宅の玄関先まで送ってくれる。
部活はどうしてるのかと聞くと、私を送り届けた後また学校に戻って通常通り参加しているという。
その申し訳なさから一度は断ったのだが、自分の見ていないところでまた私が変な目に遭うのは嫌だと真剣に言う彼の好意を無駄には出来なかった。
いつもの分岐の路地に到着する。
自然と繋がれていた手を離し、彼と別れようとした。
「あー!ちょい待ってえな!」
突然彼の制止の声が私に向けられる。
「びっくりした。どうしたの?」
「話に夢中ですっかり忘とったわ…確かこのへんに…あった!」
彼が鞄から取り出したのはラッピングが施された小さな袋。
「この間は手袋有難うな。ほんまのほんまに嬉しかった。ちゅうわけでワイからもクリスマスプレゼントや」
そっと彼の手の平からプレゼントを受け取る。開けてもいいか尋ねると、勿論と彼は優しく笑って言った。
袋からシャラリと音を立てて出てきたのは、金色のチェーンに花の装飾がいくつも施された可愛らしいブレスレットだった。
「由紀にはな、花みたいにずっと笑っとってほしいねん。あ。金にしたのはワイの金太郎とかけまして…って、それは冗談として。女物はようわからんくてな、ワイのセンスで気に入ってもらえるか心配なんやけど」
きっとこれは彼が私のために一生懸命悩んで選んでくれた物、その事実だけでも嬉しいのに、加えて彼の思いがこめられているなんて嬉しくないはずがなかった。
「嬉しい、すごく嬉しい。大切に使うね。早速つけていい?」
「ちょい待ち。ワイがつけたる」
彼の手で、ブレスレットが自身の手首に付けられる。
なかなか上手につけることができず、何度も手首に彼の指が触れるたびにくすぐったい気持ちになる。
ようやく自身の手首に身に付けたブレスレットを彼に向けて、似合うかな?と冗談交じりに笑って言えばめっちゃ可愛いだなんて真面目な顔で言うから、こちらの方が何だか恥ずかしくなった。
そのまま、私の手がそっと彼に握られる。
「あんな。ワイほんまはずっと…」
彼は何かを言いかけたがはっと口を手を覆い、しばしの沈黙。
「いや、やっぱり今はええわ。でも試合終わったら、話しがあんねん。そん時は聞いてくれるか?」
「…うん、わかった」
試合の日はちゃんとこのブレスレットをつけて来るようにと彼が言うので私はなんの躊躇もなく勿論だよ、と返事を返した。
彼が先ほど紡ごうとした言葉の先は何だったのだろう。早く聞きたくてしょうがないとはやる気持ちを押さえるのが大変だった。
年明けの親善試合の日にまた会おうと二人で約束して、私は家路へ彼は学校へと向かう。
ただいまーと声をかけながら玄関のドアを開くと、見知らぬ靴が2足玄関に並んでいた。
男性物のスニーカーと、女性物の上品なパンプス。
どこかで見たことがあるような気もしたが、とくにその時は気にも留めず靴を脱ぎリビングへと移動した。
がちゃりと廊下とリビングを繋ぐドアを開けようとすると、中から母の笑い声が聞こえる。
もう一方の笑い声は女性のものだったが、私はその声に聞き覚えがあった。
心臓が音を立てる。このドアの先に誰がいるのか、あの靴の持ち主は誰なのかわかってしまった私は、一瞬ドアを開ける手が躊躇する。一度大きく深呼吸をし意を決してリビングへ入った。
カチャリと音を立てドアを開くと、目の前のダイニングテーブルに母と、綺麗なブロンズのロングヘアーの女性が座っていた。
やっぱりか。私の予想はどうやら的中していたようだ。
「由紀ちゃん!どお?こっちの生活には慣れた?」
切れ長の瞳、はきはきと私に話しかけてくれるその素敵な女性の隣に座っている、もう一つの影。
「よう、お帰り」
「…久しぶり、雅治」
自分の母と談笑していたのは彼の母親。
私のことを待っていたのは神奈川にいるはずの幼馴染だった。
終業式が終わり、教室に戻るとクラスメイトは一同に会して冬休みモードに突入する。
それは私も例外ではなく、転校してきてから初めての長期連休ということでようやく一息つくことができるかと思うと嬉しく感じていた。
ただ1つ、隣の席の彼にしばらく会う機会がなくなってしまうということが残念でならない。
先日のアクシデントをきっかけに彼への恋心を自覚してからというもの、毎日学校に行きたくてたまらなく、早く訪れればいいと思っていた放課後がこなければいいのに等、今までの自分とは驚くほど正反対な思考に切り替わっている。
少し早めのクリスマスプレゼントとして渡したあの手袋を彼は大事そうに毎日着用しており、これほんまあったかいわぁと言われるたびに私まで何だか暖かい気持ちになった。
思いも虚しく、幸せな時間はあっという間に過ぎ去っていく。
気が付けば最後のホームルームの終盤にまで差し掛かっていた。
担任からの今学期最後のやけにあっさりとした締めくくりの挨拶が終わると、解放されたかのようにクラスメイトは教室から次々と飛び出していく。
少し前までの私なら同じように教室を飛び出していたと思うが、今は少しでも長く彼と一緒の空間に居たくて堪らなかった。
彼の方も、私と同じくして中々席を立とうとしない。
年末年始の過ごし方や休み期間中の部活の話など、他愛もない話題を振ってきてくれる。
教室の一番後ろの席で二人並んで、別に今日話さなくてもいいような話題を話す。
なんてことない時間がとても楽しくて幸せだった。
彼が部活の話をしていると、あ、そうやと何かを急に思い出したようだった。
「三が日明けたらな、立海さんが親善試合しにうちに来るんことになっとるんやけど、知っとった?」
立海大附属がここにくる?
つまりそれはイコールおそらく彼も
「ううん、知らなかった」
「そか。なぁ由紀」
机越しに名前を呼ばれ、真剣な眼差しでぎゅっと力強く両手を握られる。
「仁王のにーちゃんと…その、付き合うてるんやないよな?」
その名前を聞いて、心臓がどくんと音を立て全身に響く。
「幼馴染だよ。どうして?」
「初めてワイと会うたときも一緒におったし、由紀ってにーちゃんの話題避けようとするやんか?もしかしてって思ってんねんけど」
遠山君が私と雅治の関係を気にしだしている。それはとどのつまり、私の幼馴染に対して妬いてくれているのかもしれないと、自惚れてもいいのだろうか。
「本当に、ただの幼馴染だよ」
自身の決意も乗せて、私の本心でそう告げる。
「ほんま?そんなら良かった。…一応、確認」
最後にぽつりと呟いた言葉は聞き取れなかったが、ほっとしたような彼の表情はいつもより少しだけ大人びて見えて。
本当は、良かったの言葉の意味をちゃんと聞きたかったのだが、彼のいつもと違う表情に自分の顔が火照るのが分かり平静を保つので精いっぱいだった。
「由紀には親善試合見に来てもらいたいねん。ほんで、仁王のにーちゃんやのうて、ワイのこと応援してほしい」
私が四天宝寺側にいることを、幼馴染みの彼はきっと面白く思わないだろう。
少し気にはかかったが試合ならそんなに長く話すような時間はないだろうし、そもそも四天宝寺の生徒である私がずっと自分のチーム側にいたってなんら不自然ではない。
「(それにまだ私の勘違いという路線も捨てきれてはいないし)」
何より、試合中の遠山君の姿を常々見たかった私は、二つ返事で了承した。
その直後、見回りをしていた担任に帰宅を促されて、話の途中だったが私たちは慌てて帰り自宅を済ませ教室を後にした。
先日のアクシデント以来、彼は毎日のように日中のまだ明るい時には、自宅付近の路地まで、薄暗くなってきたら自宅の玄関先まで送ってくれる。
部活はどうしてるのかと聞くと、私を送り届けた後また学校に戻って通常通り参加しているという。
その申し訳なさから一度は断ったのだが、自分の見ていないところでまた私が変な目に遭うのは嫌だと真剣に言う彼の好意を無駄には出来なかった。
いつもの分岐の路地に到着する。
自然と繋がれていた手を離し、彼と別れようとした。
「あー!ちょい待ってえな!」
突然彼の制止の声が私に向けられる。
「びっくりした。どうしたの?」
「話に夢中ですっかり忘とったわ…確かこのへんに…あった!」
彼が鞄から取り出したのはラッピングが施された小さな袋。
「この間は手袋有難うな。ほんまのほんまに嬉しかった。ちゅうわけでワイからもクリスマスプレゼントや」
そっと彼の手の平からプレゼントを受け取る。開けてもいいか尋ねると、勿論と彼は優しく笑って言った。
袋からシャラリと音を立てて出てきたのは、金色のチェーンに花の装飾がいくつも施された可愛らしいブレスレットだった。
「由紀にはな、花みたいにずっと笑っとってほしいねん。あ。金にしたのはワイの金太郎とかけまして…って、それは冗談として。女物はようわからんくてな、ワイのセンスで気に入ってもらえるか心配なんやけど」
きっとこれは彼が私のために一生懸命悩んで選んでくれた物、その事実だけでも嬉しいのに、加えて彼の思いがこめられているなんて嬉しくないはずがなかった。
「嬉しい、すごく嬉しい。大切に使うね。早速つけていい?」
「ちょい待ち。ワイがつけたる」
彼の手で、ブレスレットが自身の手首に付けられる。
なかなか上手につけることができず、何度も手首に彼の指が触れるたびにくすぐったい気持ちになる。
ようやく自身の手首に身に付けたブレスレットを彼に向けて、似合うかな?と冗談交じりに笑って言えばめっちゃ可愛いだなんて真面目な顔で言うから、こちらの方が何だか恥ずかしくなった。
そのまま、私の手がそっと彼に握られる。
「あんな。ワイほんまはずっと…」
彼は何かを言いかけたがはっと口を手を覆い、しばしの沈黙。
「いや、やっぱり今はええわ。でも試合終わったら、話しがあんねん。そん時は聞いてくれるか?」
「…うん、わかった」
試合の日はちゃんとこのブレスレットをつけて来るようにと彼が言うので私はなんの躊躇もなく勿論だよ、と返事を返した。
彼が先ほど紡ごうとした言葉の先は何だったのだろう。早く聞きたくてしょうがないとはやる気持ちを押さえるのが大変だった。
年明けの親善試合の日にまた会おうと二人で約束して、私は家路へ彼は学校へと向かう。
ただいまーと声をかけながら玄関のドアを開くと、見知らぬ靴が2足玄関に並んでいた。
男性物のスニーカーと、女性物の上品なパンプス。
どこかで見たことがあるような気もしたが、とくにその時は気にも留めず靴を脱ぎリビングへと移動した。
がちゃりと廊下とリビングを繋ぐドアを開けようとすると、中から母の笑い声が聞こえる。
もう一方の笑い声は女性のものだったが、私はその声に聞き覚えがあった。
心臓が音を立てる。このドアの先に誰がいるのか、あの靴の持ち主は誰なのかわかってしまった私は、一瞬ドアを開ける手が躊躇する。一度大きく深呼吸をし意を決してリビングへ入った。
カチャリと音を立てドアを開くと、目の前のダイニングテーブルに母と、綺麗なブロンズのロングヘアーの女性が座っていた。
やっぱりか。私の予想はどうやら的中していたようだ。
「由紀ちゃん!どお?こっちの生活には慣れた?」
切れ長の瞳、はきはきと私に話しかけてくれるその素敵な女性の隣に座っている、もう一つの影。
「よう、お帰り」
「…久しぶり、雅治」
自分の母と談笑していたのは彼の母親。
私のことを待っていたのは神奈川にいるはずの幼馴染だった。