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自宅の玄関ドアを開け放ち、はぁと息を空に吹きかけると白い煙が立ち上る。
早朝のこのひんやりとした冬の空気は嫌いではない。
今日は12月20日。
私が立海大附属から四天宝寺に転校してから2か月と少しが経とうとしていた。
通学の途中、周りも見るとどの生徒もすっかり冬支度を済ませマフラーや手袋、コートなど冬の装いだ。
冬は嫌いではないのだが、身体は寒さにそれほど強くないため黒タイツにマフラー、手袋、コート、ポケットの中のホッカイロと周りよりも少し多めに着込んでいる。
冬の空気にのって吹く風が頬をかすめるとその冷たさに思わず身震いする。
せめてもの抵抗と、マフラーに出来るかぎり顔を埋め、速足で学校へと向かった。
「あ、神崎さんおはよう」
「 由紀おはよう。今日も寒いね」
教室に入り、クラスメイトと朝の挨拶を交わしながら自分の席に着席する。
寒いところから急に暖かい空間に移動したからか、膝が少し痒かった。
この2か月弱で、クラスメイトともかなり打ち解けることが出来た。
転校したときには文化祭や体育祭等の大きな行事がすでに終わっていたこともあり、変に孤立する機会がなかったからかもしれない。
それとやはり、左隣の席の彼の影響が大きかったように思う。
初めて二人で放課後に寄り道をしたあの日以来、彼の部活が休みの日にはたびたび声がかかるようになった。
すっかり馴染みの店となったあのたこ焼き屋に行くこともあれば、普通に買い物をすることもあったし、少し薄暗くなる時間まで数人のクラスメイトと一緒に教室で雑談して終わる日もあったりと過ごし方は様々だったが、どれもとても楽しい時間。
ガラガラピシャンッと、勢いよくドアが開け放たれる。
寒さを訴えながら身を縮こませ教室に入ってきたのは、私の左隣の男子だ。
この寒さの中、防寒対策はマフラーの1点。それではさすがに寒いはずだ。
「おはようさん、おぉー寒い…」
「さすがにマフラー1つじゃ寒いと思うよ」
「やって、これしかあらへんもん。男は気合や気合」
ようするに買いに行くまででもない、というより面倒くさいということなのだろう。
最近、彼の精神論の真意がそこそこわかるようになってきていることは自負している。
それだけ、一緒の時間を過ごしているということにもなるのだけれど。
「よかったらこれどうぞ。まだ暖かいと思う」
私は、コートのポケットに忍ばせていたホッカイロを取り出し彼に手渡す。
おおきになぁといつもの笑顔で言い、彼はしばらくの間まるで猫のようにそのホッカイロに頬を摺り寄せていた。
1時限目を終え、2時限目の授業は音なので、友人と一緒に教室を移動する。
「最近カップル増えたねぇ」
その友人の一言がなければ、おそらく私は当日まですっかり忘れていただろう。
恋人たちにとって、誕生日の次に大事なイベント言っても過言ではない、と前の学校の友人が言っていたっけ。
そういえば最近、あちらこちらで男女が二人の組み合わせをよく見てはいたが、そういうことだったのかと納得する。
「クリスマスかぁ」
私のクリスマスの過ごし方と言えば、母がご馳走を作り会社帰りの父がケーキを買って来てそれを3人で仲良く食べる、それぐらいのものだった。
周りの友人たちは彼氏に何を買おう、どこに行こうと浮足立っていたが彼氏がいない私はそういった話題には全く入っていけなかった。
ただ、きらきらと楽しそうに彼氏との予定を計画している彼女たちを見ているのは楽しかったし、そんな彼女たちがとても可愛く見えたものだ。
そういえば、私の幼馴染も毎年と言っていいほど必ず何かしらのプレゼントを用意してくれていたっけとふと思い出す。
私の方はというと、彼の誕生日が12月の初旬なので毎年そこで細やかな贈り物をしており、とくにクリスマスだからと言って特別なことはしていなかった。
(今年は大阪にちなんで、なんでやねんとかかれたTシャツを送った)
私は彼女じゃないんから毎年用意しなくていいんだよ伝えても、幼馴染はもう恒例行事みたいなもんじゃき、と笑って言ってそのやりとりはずっと続いている。
今年は物理的に距離も離れたし、おそらく彼の方も恒例行事が一区切りついたと思っていることだろう。
音楽室から教室への移動の途中、友人からクリスマスは誰とどう過ごすのか?という質問が飛んできて意識が現実に戻る。
「とくに決めてないかな。彼氏もいないし」
「え、そうなん?てっきり金ちゃんと一緒に過ごすもんやとばっかり思っとったわぁ」
「私が、遠山君と?」
まるで、彼と過ごすことが当然決まっていたかのような反応をする友人に一瞬戸惑う。
なぜそこで遠山君の名前が出てくるのかと問えば、友人は憐れみを含んだ声色で金ちゃん、壁は思っとるより険しく高いで…と誰にも聞こえない音量で呟いた。
でも確かに、私がこちらに来てから彼には相当お世話になっている。
クリスマスというイベントに特段こだわりはなかったが、感謝の気持ちを伝えるいい機会かもしれない。
いいことを思いつかせてくれた友人にありがとうと告げる。
友人はわけがわからないと言った様子で頭の上に?マークを浮かべていたが、そんな友人をよそに、私は早く放課後がこないかとそわそわし始めていた。
今日は彼が部活であることも好都合であった。
待ちに待った放課後になり、また明日とお互いに声を掛け合う。
彼は部活へ、私は遠山君へのプレゼントを選ぶため足早に街の方へと向かった。
プレゼントを選んでいる時間は結構好きだ。
どんな物なら喜んでもらえるだろう、どんな色がいいだろう。
渡す相手のことを考えながら選ぶ時間はあっという間に過ぎていってしまう。
相手が喜びそうな物で、かつ受け取ってもらっても後々重く感じない物。
彼にはそういう物を渡そうと決めていた。
ふと、今朝の情景を思い出す。
寒がりなはずなのに、買いに行くのが面倒くさいからと防寒対策がマフラーだけの彼。
なら、あのマフラーに合う手袋はどうだろうか。
値段もそこまで高くないのでお小遣いの範囲で買えるし、買いに行くこと自体を面倒に思ってるあたりクリスマスまでに自分で買ったりすることもしないだろう。
そうと決まればと、早速彼に合いそうな手袋を求めてあちこちの店を転々として回った。
気が付けばあたりはすっかりと暗くなってしまっていた。
思っていたより買い物に時間がかかってしまったが、ようやくこれだという物に出会えたので気持ちは満足している。
あとの問題はプレゼントを渡すタイミングだけだった。
クリスマス当日だと何となくあからさまな気がして嫌だったし、かといっていきなり渡しても急に何だと言われそうな気がしてならない。
ふと路地の方を見やると、いつも馴染みのたこ焼き屋の店内に明かりが灯るのが見えた。
そうだ、次に彼の部活が無い日にあの店へ誘ってみよう。
そこでお礼のプレゼントを渡して感謝の言葉を伝え、たこ焼きを奢る。我ながらいい流れを思いついたと思う。
明日学校に行ったら早速彼に予定を聞いてみようと完全に浮足立っていた私。
以前に彼から受けた忠告のことをすっかり忘れ、暗闇の背後から徐々に忍び寄ってくる不穏な気配に、この時の私は全く気づいていなかった。
早朝のこのひんやりとした冬の空気は嫌いではない。
今日は12月20日。
私が立海大附属から四天宝寺に転校してから2か月と少しが経とうとしていた。
通学の途中、周りも見るとどの生徒もすっかり冬支度を済ませマフラーや手袋、コートなど冬の装いだ。
冬は嫌いではないのだが、身体は寒さにそれほど強くないため黒タイツにマフラー、手袋、コート、ポケットの中のホッカイロと周りよりも少し多めに着込んでいる。
冬の空気にのって吹く風が頬をかすめるとその冷たさに思わず身震いする。
せめてもの抵抗と、マフラーに出来るかぎり顔を埋め、速足で学校へと向かった。
「あ、神崎さんおはよう」
「 由紀おはよう。今日も寒いね」
教室に入り、クラスメイトと朝の挨拶を交わしながら自分の席に着席する。
寒いところから急に暖かい空間に移動したからか、膝が少し痒かった。
この2か月弱で、クラスメイトともかなり打ち解けることが出来た。
転校したときには文化祭や体育祭等の大きな行事がすでに終わっていたこともあり、変に孤立する機会がなかったからかもしれない。
それとやはり、左隣の席の彼の影響が大きかったように思う。
初めて二人で放課後に寄り道をしたあの日以来、彼の部活が休みの日にはたびたび声がかかるようになった。
すっかり馴染みの店となったあのたこ焼き屋に行くこともあれば、普通に買い物をすることもあったし、少し薄暗くなる時間まで数人のクラスメイトと一緒に教室で雑談して終わる日もあったりと過ごし方は様々だったが、どれもとても楽しい時間。
ガラガラピシャンッと、勢いよくドアが開け放たれる。
寒さを訴えながら身を縮こませ教室に入ってきたのは、私の左隣の男子だ。
この寒さの中、防寒対策はマフラーの1点。それではさすがに寒いはずだ。
「おはようさん、おぉー寒い…」
「さすがにマフラー1つじゃ寒いと思うよ」
「やって、これしかあらへんもん。男は気合や気合」
ようするに買いに行くまででもない、というより面倒くさいということなのだろう。
最近、彼の精神論の真意がそこそこわかるようになってきていることは自負している。
それだけ、一緒の時間を過ごしているということにもなるのだけれど。
「よかったらこれどうぞ。まだ暖かいと思う」
私は、コートのポケットに忍ばせていたホッカイロを取り出し彼に手渡す。
おおきになぁといつもの笑顔で言い、彼はしばらくの間まるで猫のようにそのホッカイロに頬を摺り寄せていた。
1時限目を終え、2時限目の授業は音なので、友人と一緒に教室を移動する。
「最近カップル増えたねぇ」
その友人の一言がなければ、おそらく私は当日まですっかり忘れていただろう。
恋人たちにとって、誕生日の次に大事なイベント言っても過言ではない、と前の学校の友人が言っていたっけ。
そういえば最近、あちらこちらで男女が二人の組み合わせをよく見てはいたが、そういうことだったのかと納得する。
「クリスマスかぁ」
私のクリスマスの過ごし方と言えば、母がご馳走を作り会社帰りの父がケーキを買って来てそれを3人で仲良く食べる、それぐらいのものだった。
周りの友人たちは彼氏に何を買おう、どこに行こうと浮足立っていたが彼氏がいない私はそういった話題には全く入っていけなかった。
ただ、きらきらと楽しそうに彼氏との予定を計画している彼女たちを見ているのは楽しかったし、そんな彼女たちがとても可愛く見えたものだ。
そういえば、私の幼馴染も毎年と言っていいほど必ず何かしらのプレゼントを用意してくれていたっけとふと思い出す。
私の方はというと、彼の誕生日が12月の初旬なので毎年そこで細やかな贈り物をしており、とくにクリスマスだからと言って特別なことはしていなかった。
(今年は大阪にちなんで、なんでやねんとかかれたTシャツを送った)
私は彼女じゃないんから毎年用意しなくていいんだよ伝えても、幼馴染はもう恒例行事みたいなもんじゃき、と笑って言ってそのやりとりはずっと続いている。
今年は物理的に距離も離れたし、おそらく彼の方も恒例行事が一区切りついたと思っていることだろう。
音楽室から教室への移動の途中、友人からクリスマスは誰とどう過ごすのか?という質問が飛んできて意識が現実に戻る。
「とくに決めてないかな。彼氏もいないし」
「え、そうなん?てっきり金ちゃんと一緒に過ごすもんやとばっかり思っとったわぁ」
「私が、遠山君と?」
まるで、彼と過ごすことが当然決まっていたかのような反応をする友人に一瞬戸惑う。
なぜそこで遠山君の名前が出てくるのかと問えば、友人は憐れみを含んだ声色で金ちゃん、壁は思っとるより険しく高いで…と誰にも聞こえない音量で呟いた。
でも確かに、私がこちらに来てから彼には相当お世話になっている。
クリスマスというイベントに特段こだわりはなかったが、感謝の気持ちを伝えるいい機会かもしれない。
いいことを思いつかせてくれた友人にありがとうと告げる。
友人はわけがわからないと言った様子で頭の上に?マークを浮かべていたが、そんな友人をよそに、私は早く放課後がこないかとそわそわし始めていた。
今日は彼が部活であることも好都合であった。
待ちに待った放課後になり、また明日とお互いに声を掛け合う。
彼は部活へ、私は遠山君へのプレゼントを選ぶため足早に街の方へと向かった。
プレゼントを選んでいる時間は結構好きだ。
どんな物なら喜んでもらえるだろう、どんな色がいいだろう。
渡す相手のことを考えながら選ぶ時間はあっという間に過ぎていってしまう。
相手が喜びそうな物で、かつ受け取ってもらっても後々重く感じない物。
彼にはそういう物を渡そうと決めていた。
ふと、今朝の情景を思い出す。
寒がりなはずなのに、買いに行くのが面倒くさいからと防寒対策がマフラーだけの彼。
なら、あのマフラーに合う手袋はどうだろうか。
値段もそこまで高くないのでお小遣いの範囲で買えるし、買いに行くこと自体を面倒に思ってるあたりクリスマスまでに自分で買ったりすることもしないだろう。
そうと決まればと、早速彼に合いそうな手袋を求めてあちこちの店を転々として回った。
気が付けばあたりはすっかりと暗くなってしまっていた。
思っていたより買い物に時間がかかってしまったが、ようやくこれだという物に出会えたので気持ちは満足している。
あとの問題はプレゼントを渡すタイミングだけだった。
クリスマス当日だと何となくあからさまな気がして嫌だったし、かといっていきなり渡しても急に何だと言われそうな気がしてならない。
ふと路地の方を見やると、いつも馴染みのたこ焼き屋の店内に明かりが灯るのが見えた。
そうだ、次に彼の部活が無い日にあの店へ誘ってみよう。
そこでお礼のプレゼントを渡して感謝の言葉を伝え、たこ焼きを奢る。我ながらいい流れを思いついたと思う。
明日学校に行ったら早速彼に予定を聞いてみようと完全に浮足立っていた私。
以前に彼から受けた忠告のことをすっかり忘れ、暗闇の背後から徐々に忍び寄ってくる不穏な気配に、この時の私は全く気づいていなかった。