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暗い、寒い。
私が倉庫に閉じ込められてからどれくらいの時間が経ったのだろう。
私は、古びた倉庫の中で一人うずくまって静かに助けを待っていた。
状況は全く変化無し。
携帯は没収されてしまったし、今日はブレスレットをつけるから邪魔になると思い腕時計もしてきていなかった。
今が何時かはわからないが、僅かな隙間から漏れる光でまだ外が明るいということだけは認識できた。
ただこの倉庫、思っていたよりも寒い。
長年人の出入りがなかったせいか完全に締め切られていた空間であることがうかがえる。
今はまだ日中だから良いが、これが夜、明日の朝となった場合に果たして私は無事でいられるのだろうか。
何もすることがないと、どうしてもネガティブな思考に陥ってしまい、もし助けがこなかったらなどと極論も頭をよぎる。
段々、段々と不安が大きくなっていく。
彼女が言った通り、私を心配してくれる人が仮に一人もいなくて、誰も探しにきてくれなかったら私はこの倉庫で一人誰にも見つけられないまま凍死体として発見されるのだろうか。
「そんな死に方嫌だな…」
先ほどから耳を澄ませているが、私を探す声はまだ聞こえてこない。
でも、この羽織っているジャージの持ち主が、きっと試合の時間になっても戻らない私を心配しているはずだ。
ネガティブ思考が飛躍しすぎていることに気づき、パンっと自分の頬を叩いて現実に引き戻す。
私は、信じて待つ。そう決めたんだ。
だがそんな気合いとは裏腹に冷え切った身体は徐々に言うことをきかなくなってきている。
足先は凍るように冷たくなっており、指先はすでに動かない。
彼から預かったジャージを膝から足先に巻き付け、なんとか体温を保とうと試みているがこれもそう長くはもたないだろう。
凍傷って進行すると壊死するんだっけ、と以前にテレビ番組で見聞きした情報を掘り起こす。
…やめよう、余計に寒くなりそうだ。想像力が豊かすぎるのも困りものだった。
話し相手もいないので、一人で自問自答を繰り返す。
そうこうしているうちに自然と瞼が落ちてくる感覚に襲われる。
よく、雪山で遭難した人が眠くなるというシーンを見かけるがまさにこんな感覚なのだろうか。
不安も危機感もあるはずなのに、抗えない。
今ここで目を閉じたとして、再び目を開けられるだろうか。
もしかするとそのまま一生開かないかもしれないかもという錯覚さえ起こす。
こんなことになるなら、早く彼に自分の気持ちを打ち明ければよかった。
遠山君、遠山君…
「会いたいよ…」
次に目を開けた時、一番最初に見るのは彼だったらいいのに。
そんな願いとともに、押し寄せる睡魔に打ち勝てず私はその場で目を閉じた。
それからどれだけの時間が経ったかはわからないが、暗闇の中、ガラリと何かが開くような音と、人の声のようなものが聞こえた気がした。
しかし朦朧とした意識の中で自分の身に次は何が起こっているのか、考えることも出来ないままそのまま眠りについた。
ただ、何か暖かいものに包まれて冷え切った身体が溶けていくような、そんな幸せな眠りだった。
「…あれ」
目が覚めると、見慣れない天井がぼんやりと視界に広がった。
手の指先は、動く。
足先はまだ少しぎこちないが動くので完全に駄目にはなっていないようで安堵した。
ここは、どこだろうか。
あの薄暗い倉庫の中ではないことはわかるが。
ふと、自身の腕に違和感を感じて目線を動かす。
「‥点滴?」
白いカーテン、白い天井、薬品のツンとした香り。どうやら私は今、病院にいるようだ。
倉庫の中で助けを待ってるときに眠くなってしまったまでは覚えているが、そこから先の記憶がない。
ただ、この場にこうしているということは無事救助されたということだろう。
その事実に一旦安心し、深い溜息とともに肩の力が抜ける。
視線を前方に向けると、彼女たちに没収された携帯電話と、彼からもらったブレスレットが仲良さげに二つ並んで置いてあった。
携帯が見つかっている、ということはどこかに捨てられたのを誰かが見つけてくれたのだろう。
後でお礼を言わなければならないなとぼんやり頭で考えつつ、もう一度眠りにつこうと寝返りをうったとき、初めてそこに居る自分以外の人の存在に気づいた。
「遠山君…?」
私のベッドに突っ伏して寝息を立てている赤髪。服装は、親善試合の時のままだ。
もしかして、ずっとこうして私が目覚めるのを待って傍についていてくれたのだろうか。
鼻の奥がつんとなるのを感じた。
あの子たちに何をされても涙は出なかったのに、彼の姿を見つけただけでこんなに泣きそうになるなんて。
何が起こったのか聞きたい、でもそれ以上に早く彼の顔が見たい、話したい。
けれど、あまりにも気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てているので起こすのも忍びなかった私は彼の頭を優しく撫でるだけにとどめる。
ふわふわで、少し猫っ毛なその髪は撫でていてとても気持ちが良かった。
「遠山君が、助けてくれたの…?」
そんな問いかけを独り言のようにぽつりと呟くと、んっと声を漏らして彼は身動ぎした。
どうやら起こしてしまったようだ。
残念なような、申し訳ないような、嬉しいような、くすぐったい気持ち。
ベッドに突っ伏していた顔を上げ、眠気眼で周囲を見回す。自分が病院にいるといういまの状況がまだわかっていないようだ。そんな姿さえ、愛おしい。
「遠山君、おはよう」
そう一声かけると、半分閉じかけていた瞳がかっと大きく開き私を見つめる。
「由紀…っ!」
「わ…っ」
名前を呼ばれ、返事をする間もなく彼に正面から力強く抱きしめられる。
苦しい、でもこの力強さの中にずっと居たいと思うほど心地よくて、暖かい。
そっと彼の大きな背中に腕をまわして、抱きしめる。
「…すぐ助けられんくてごめんな」
「遠山君がきっと探してくれるって信じてたから、怖くなかったよ」
かすれ声の謝罪の言葉。それに対し本心で返事をするも、彼からの返答はない。
徐々に彼の身体が小刻みに震えだす。
それでも、私を抱きしめている腕を緩めようとはしなかった。
「…泣いてるの?」
そっと彼の胸に手を置き、少し身体を離して顔を覗き込むと、静かに、涙を流していた。そっと彼の頬に手を触れる。
「倉庫ん中で倒れとる由紀を見つけた時な…ほんま死んでしもうてたらどないしよ思ってん…体はどんどん冷たくなってくし、顔色も悪いし…なんでもっと早く見つけてあげられへんかったんやろって…」
私の代わりに涙を流してくれる素敵な人。
その純粋で綺麗な涙を指先で掬い取る。
「怖い思いさせてごめんね。遠山君のせいじゃないよ。私がもっと、色々気をつけていれば…」
「由紀は何も悪いことしてへんやん!悪いのはイチャもんつけてこんな思いさせたあいつらや!」
『あいつら』
そのワードで、彼は私の身に何が起こり今ここに至るのか全て知っていることを物語っていた。
「あいつら、仁王のにーちゃんが由紀のこと好きや思うて腹立って嫌がらせしてきよったんやって」
「うん、わかってた。それでその、彼女たちは?」
「…白石と幸村のにーちゃんがきっちり話つけとるさかい、おそらく退部は確実やろうけど事が事やからな。その先はどうなるかわからへん…でもどうなろうと由紀には指一本触させへんで。安心したってな」
ぽんぽんと頭を優しく叩く彼。
そこまで事情を聴いているということはもしかして、雅治からも何か聞いているのだろうか。
何か言いたさげな私の表情をくみ取ったのか、あぁーと言葉を一瞬濁してから口を開く。
「仁王のにーちゃんからも聞いた。由紀に好きて言うたって、でも酷いことばっかりしてしもうたって、なんや…凄く後悔しとる顔しとった」
きっと、彼に多くは語らなかったのだろう。そういう人だ、仁王雅治という人は。
「由紀のこと頼むって言うとった。自分が傍におっても傷つけるって、せやからもう自分のことは気にせんでえぇ…だからごめんなって」
「え…」
(雅治…)
その言葉の意味のなかには、私への諦めとこれからの応援と両方が入り混じっている気がした。
ぼろぼろと涙が溢れた。その涙は緊張の糸がほどけたからなのか、長年一緒だった幼馴染との事実上別れを経験したからなのか、おそらくその両方だったと思う。
大切で、大好きだった兄のような人。それはきっと、これからもずっと変わらない
いつかちゃんとまた笑って話せる時が来るようにと、心から願っている。
「あ!!!!」
「え?」
おもむろに叫んだかとおもった直後、がしりと両肩を掴まれる。
「ワイな今日話したいことがあるって言うとったやないか」
「あ…そういえば、そうだったね」
今日一日色々なことがありすぎて忘れていたが、試合の観戦に誘われたその日たしかに彼はそう言っていた。
「それ、今言うわ」
すうっと大きく息を吸い、ふうと一度溜めた酸素を深く吐き出すと、彼はまっすぐに視線をこちらに向ける。
「由紀のことが好きや。…本当は試合に勝って、格好いいとこ見せてから言いたかったんやけどな」
へへっと照れくさそうに笑う彼。
正直で、真っすぐな気持ち。私はきっと、初めから彼のこの真っすぐさに惹かれていた。
「ずっと傍におってほしいと思うてる。今日みたいな怖い思いも絶対にさせへん。約束する」
だから私も、ちゃんと彼に届くよう自分の想いを言葉にして伝えようと決心する。
「嬉しい、ありがとう。私も遠山君のことが好きだよ」
「ほんまに!?」
「きゃ…っ!」
がばりと勢いよく抱き着かれ、バランスを崩した私たちはベッドの上になだれ込むように倒れた。
至近距離に映る彼の大きな瞳。熱い視線に目が離せない。
おもむろに、彼の指先がするりと頬から唇に伝うように這う。
「遠山君…!ここ病院…っ」
その動作の先に待っている彼の行動を察して慌てて静止を試みるが、彼の真剣で、でもどこか嬉しそうな顔を見てしまったら本気で抵抗なんて出来るわけがなかった。
私たちはどちらからともなく口づけを交わした。
少しだけ長いキスのあと、そっと唇が離れる。
額をくっつけ互いに見つめ合い、満面の笑みで言う。
「由紀、ワイと付き合うてくれるか?」
「…はい」
暖かくて優しくて、少したどたどしいキスが愛おしくて、幸せな時間がただただ穏やかに流れて行った。
私が倉庫に閉じ込められてからどれくらいの時間が経ったのだろう。
私は、古びた倉庫の中で一人うずくまって静かに助けを待っていた。
状況は全く変化無し。
携帯は没収されてしまったし、今日はブレスレットをつけるから邪魔になると思い腕時計もしてきていなかった。
今が何時かはわからないが、僅かな隙間から漏れる光でまだ外が明るいということだけは認識できた。
ただこの倉庫、思っていたよりも寒い。
長年人の出入りがなかったせいか完全に締め切られていた空間であることがうかがえる。
今はまだ日中だから良いが、これが夜、明日の朝となった場合に果たして私は無事でいられるのだろうか。
何もすることがないと、どうしてもネガティブな思考に陥ってしまい、もし助けがこなかったらなどと極論も頭をよぎる。
段々、段々と不安が大きくなっていく。
彼女が言った通り、私を心配してくれる人が仮に一人もいなくて、誰も探しにきてくれなかったら私はこの倉庫で一人誰にも見つけられないまま凍死体として発見されるのだろうか。
「そんな死に方嫌だな…」
先ほどから耳を澄ませているが、私を探す声はまだ聞こえてこない。
でも、この羽織っているジャージの持ち主が、きっと試合の時間になっても戻らない私を心配しているはずだ。
ネガティブ思考が飛躍しすぎていることに気づき、パンっと自分の頬を叩いて現実に引き戻す。
私は、信じて待つ。そう決めたんだ。
だがそんな気合いとは裏腹に冷え切った身体は徐々に言うことをきかなくなってきている。
足先は凍るように冷たくなっており、指先はすでに動かない。
彼から預かったジャージを膝から足先に巻き付け、なんとか体温を保とうと試みているがこれもそう長くはもたないだろう。
凍傷って進行すると壊死するんだっけ、と以前にテレビ番組で見聞きした情報を掘り起こす。
…やめよう、余計に寒くなりそうだ。想像力が豊かすぎるのも困りものだった。
話し相手もいないので、一人で自問自答を繰り返す。
そうこうしているうちに自然と瞼が落ちてくる感覚に襲われる。
よく、雪山で遭難した人が眠くなるというシーンを見かけるがまさにこんな感覚なのだろうか。
不安も危機感もあるはずなのに、抗えない。
今ここで目を閉じたとして、再び目を開けられるだろうか。
もしかするとそのまま一生開かないかもしれないかもという錯覚さえ起こす。
こんなことになるなら、早く彼に自分の気持ちを打ち明ければよかった。
遠山君、遠山君…
「会いたいよ…」
次に目を開けた時、一番最初に見るのは彼だったらいいのに。
そんな願いとともに、押し寄せる睡魔に打ち勝てず私はその場で目を閉じた。
それからどれだけの時間が経ったかはわからないが、暗闇の中、ガラリと何かが開くような音と、人の声のようなものが聞こえた気がした。
しかし朦朧とした意識の中で自分の身に次は何が起こっているのか、考えることも出来ないままそのまま眠りについた。
ただ、何か暖かいものに包まれて冷え切った身体が溶けていくような、そんな幸せな眠りだった。
「…あれ」
目が覚めると、見慣れない天井がぼんやりと視界に広がった。
手の指先は、動く。
足先はまだ少しぎこちないが動くので完全に駄目にはなっていないようで安堵した。
ここは、どこだろうか。
あの薄暗い倉庫の中ではないことはわかるが。
ふと、自身の腕に違和感を感じて目線を動かす。
「‥点滴?」
白いカーテン、白い天井、薬品のツンとした香り。どうやら私は今、病院にいるようだ。
倉庫の中で助けを待ってるときに眠くなってしまったまでは覚えているが、そこから先の記憶がない。
ただ、この場にこうしているということは無事救助されたということだろう。
その事実に一旦安心し、深い溜息とともに肩の力が抜ける。
視線を前方に向けると、彼女たちに没収された携帯電話と、彼からもらったブレスレットが仲良さげに二つ並んで置いてあった。
携帯が見つかっている、ということはどこかに捨てられたのを誰かが見つけてくれたのだろう。
後でお礼を言わなければならないなとぼんやり頭で考えつつ、もう一度眠りにつこうと寝返りをうったとき、初めてそこに居る自分以外の人の存在に気づいた。
「遠山君…?」
私のベッドに突っ伏して寝息を立てている赤髪。服装は、親善試合の時のままだ。
もしかして、ずっとこうして私が目覚めるのを待って傍についていてくれたのだろうか。
鼻の奥がつんとなるのを感じた。
あの子たちに何をされても涙は出なかったのに、彼の姿を見つけただけでこんなに泣きそうになるなんて。
何が起こったのか聞きたい、でもそれ以上に早く彼の顔が見たい、話したい。
けれど、あまりにも気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てているので起こすのも忍びなかった私は彼の頭を優しく撫でるだけにとどめる。
ふわふわで、少し猫っ毛なその髪は撫でていてとても気持ちが良かった。
「遠山君が、助けてくれたの…?」
そんな問いかけを独り言のようにぽつりと呟くと、んっと声を漏らして彼は身動ぎした。
どうやら起こしてしまったようだ。
残念なような、申し訳ないような、嬉しいような、くすぐったい気持ち。
ベッドに突っ伏していた顔を上げ、眠気眼で周囲を見回す。自分が病院にいるといういまの状況がまだわかっていないようだ。そんな姿さえ、愛おしい。
「遠山君、おはよう」
そう一声かけると、半分閉じかけていた瞳がかっと大きく開き私を見つめる。
「由紀…っ!」
「わ…っ」
名前を呼ばれ、返事をする間もなく彼に正面から力強く抱きしめられる。
苦しい、でもこの力強さの中にずっと居たいと思うほど心地よくて、暖かい。
そっと彼の大きな背中に腕をまわして、抱きしめる。
「…すぐ助けられんくてごめんな」
「遠山君がきっと探してくれるって信じてたから、怖くなかったよ」
かすれ声の謝罪の言葉。それに対し本心で返事をするも、彼からの返答はない。
徐々に彼の身体が小刻みに震えだす。
それでも、私を抱きしめている腕を緩めようとはしなかった。
「…泣いてるの?」
そっと彼の胸に手を置き、少し身体を離して顔を覗き込むと、静かに、涙を流していた。そっと彼の頬に手を触れる。
「倉庫ん中で倒れとる由紀を見つけた時な…ほんま死んでしもうてたらどないしよ思ってん…体はどんどん冷たくなってくし、顔色も悪いし…なんでもっと早く見つけてあげられへんかったんやろって…」
私の代わりに涙を流してくれる素敵な人。
その純粋で綺麗な涙を指先で掬い取る。
「怖い思いさせてごめんね。遠山君のせいじゃないよ。私がもっと、色々気をつけていれば…」
「由紀は何も悪いことしてへんやん!悪いのはイチャもんつけてこんな思いさせたあいつらや!」
『あいつら』
そのワードで、彼は私の身に何が起こり今ここに至るのか全て知っていることを物語っていた。
「あいつら、仁王のにーちゃんが由紀のこと好きや思うて腹立って嫌がらせしてきよったんやって」
「うん、わかってた。それでその、彼女たちは?」
「…白石と幸村のにーちゃんがきっちり話つけとるさかい、おそらく退部は確実やろうけど事が事やからな。その先はどうなるかわからへん…でもどうなろうと由紀には指一本触させへんで。安心したってな」
ぽんぽんと頭を優しく叩く彼。
そこまで事情を聴いているということはもしかして、雅治からも何か聞いているのだろうか。
何か言いたさげな私の表情をくみ取ったのか、あぁーと言葉を一瞬濁してから口を開く。
「仁王のにーちゃんからも聞いた。由紀に好きて言うたって、でも酷いことばっかりしてしもうたって、なんや…凄く後悔しとる顔しとった」
きっと、彼に多くは語らなかったのだろう。そういう人だ、仁王雅治という人は。
「由紀のこと頼むって言うとった。自分が傍におっても傷つけるって、せやからもう自分のことは気にせんでえぇ…だからごめんなって」
「え…」
(雅治…)
その言葉の意味のなかには、私への諦めとこれからの応援と両方が入り混じっている気がした。
ぼろぼろと涙が溢れた。その涙は緊張の糸がほどけたからなのか、長年一緒だった幼馴染との事実上別れを経験したからなのか、おそらくその両方だったと思う。
大切で、大好きだった兄のような人。それはきっと、これからもずっと変わらない
いつかちゃんとまた笑って話せる時が来るようにと、心から願っている。
「あ!!!!」
「え?」
おもむろに叫んだかとおもった直後、がしりと両肩を掴まれる。
「ワイな今日話したいことがあるって言うとったやないか」
「あ…そういえば、そうだったね」
今日一日色々なことがありすぎて忘れていたが、試合の観戦に誘われたその日たしかに彼はそう言っていた。
「それ、今言うわ」
すうっと大きく息を吸い、ふうと一度溜めた酸素を深く吐き出すと、彼はまっすぐに視線をこちらに向ける。
「由紀のことが好きや。…本当は試合に勝って、格好いいとこ見せてから言いたかったんやけどな」
へへっと照れくさそうに笑う彼。
正直で、真っすぐな気持ち。私はきっと、初めから彼のこの真っすぐさに惹かれていた。
「ずっと傍におってほしいと思うてる。今日みたいな怖い思いも絶対にさせへん。約束する」
だから私も、ちゃんと彼に届くよう自分の想いを言葉にして伝えようと決心する。
「嬉しい、ありがとう。私も遠山君のことが好きだよ」
「ほんまに!?」
「きゃ…っ!」
がばりと勢いよく抱き着かれ、バランスを崩した私たちはベッドの上になだれ込むように倒れた。
至近距離に映る彼の大きな瞳。熱い視線に目が離せない。
おもむろに、彼の指先がするりと頬から唇に伝うように這う。
「遠山君…!ここ病院…っ」
その動作の先に待っている彼の行動を察して慌てて静止を試みるが、彼の真剣で、でもどこか嬉しそうな顔を見てしまったら本気で抵抗なんて出来るわけがなかった。
私たちはどちらからともなく口づけを交わした。
少しだけ長いキスのあと、そっと唇が離れる。
額をくっつけ互いに見つめ合い、満面の笑みで言う。
「由紀、ワイと付き合うてくれるか?」
「…はい」
暖かくて優しくて、少したどたどしいキスが愛おしくて、幸せな時間がただただ穏やかに流れて行った。