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ガシャン、と荒々しくフェンスの揺れる音が異様に耳に響いた。
周りへのアンテナを張り巡らせていたから気づいたような、そんな雑踏の中の一つの音にすぎないがおそらく、いや確実に、音がした方向にいるのは彼で間違い無いと思う。
「(雅治…)」
私が今日ここに来ることを彼は知っている。
そして、私が遠山君のことを好きなことも。
先ほどの音から伝わるのは、私に対する執着、嫉妬、そんなどろどろとした感情だ。
姿を見ずとも、彼の怒りがぴりぴりと伝わってくる。
さきほどまでは姿が見えなかったので完全に油断していた。今の私たちのやりとりの一部始終を彼は見ていたのだろうか。
だとしたら、私は一体どんな顔をして彼に今の自分の気持ちを伝えればいい?
ちゃんと雅治の顔を見て、言えるだろうか。
彼の姿を確認したわけじゃない。でも…怖い。
雅治という存在が今、とてつもなく怖い。
「由紀?…どないした?手震えとるで」
「え…」
指先が冷たくなり、ぶるぶると小刻みに震えている。寒さからではなく、それは明らかに恐怖の感情から。
「やっぱり、あんまり調子よくないんとちゃう?」
「ううん、大丈夫。近くで応援させて」
でもここで逃げてしまったら、私が今日ここに来た理由がなくなってしまう。
もう少し気持ちを落ち着かせたら、雅治にも言いにいかなくてはいけない。私の今の気持ちを。
途端、ふわりと私の肩に何かがかけられる。暖かい。
それは、今の今まで彼が着用していた四天宝寺レギュラージャージだった。
「全然暖かくないかもしれへんかもしれんけど、それ羽織っとき」
「…ありがとう」
不思議だ。彼の手にかかれば、不安や怖さも一瞬で吹っ飛んでしまう。
そんな不思議な力を彼は持っているような気がする。
大丈夫、今はまだ彼の姿を見ることができないけど、もう少しでちゃんと伝えられる。
私は肩に羽織った彼の体温の温もりがまだ残っているそのジャージの裾をぎゅっと握った。
親善試合の流れは五分五分の勝負となっており、最終戦シングルス1の試合まで行うことがすでに確定している。
遠山君はそのシングルス1の選手なので、まだ試合を行っていない。
ちなみに雅治の方は先ほどダブルスの試合を終えたようで、自陣に戻っていく姿を遠くから見ていた。
一戦一戦がとても白熱した試合運びとなっており、見ていてとても楽しいが、長時間外に立ちっぱなしというシチュエーションは普段慣れていないせいもあるが中々に厳しい。
やはり少し体を暖めようと、テニスコートの端でアップをしている遠山君に話しかけた。
「ごめん遠山君、やっぱり少し寒いから校舎に入ってようかと思って」
「あ、それやったら部室の方が近いわ。ここまーっすぐ行ったらあんねんで。これ、鍵な」
チャリッと関西らしいたこ焼きのキーホルダーがついた部室の鍵を彼から受け取る。
「有難う、遠山君の試合までに帰ってくるね」
おん!と元気に返事をする彼から部室の鍵を借りてほんの少し休憩に向かうことにした。
テニスコートから少し離れたところまで歩き、ようやく部室を見つける。
かちゃかちゃと鍵をさして開けようとするが手がかじかんでしまい中々開けることが出来ない。
カチャリ
「あ、ようやく開いた…」
ドアノブを回して部室に入ろうとしたその時だった。
急に背筋がぞっとなり凍るほど冷たくなる。
そして、いま部室のドアノブは私以外の誰かが握っている。
「お前さん、遠山とずいぶん仲良うしとるな。それとも、俺への当てつけかのう」
すぐ傍から聞こえる聞きなれた低音。
「雅…治…」
振り向くことができないままその名前を呼ぶ。
すると直後、肩を掴まれて強制的に彼と対面する形となる。
視線が、合う。ひしひしと伝わる、怒りの感情。
「なんじゃ、幽霊でも見るかのような目をして」
どくんどくんと心臓が音を立てる。
こんなタイミングであうなんて、まったく予想していなかったからか、思わず彼に抱いていた恐怖の表情を隠すことが出来なかったようだ。
寒いはずなのに、緊張で背中に汗がじわりと滲む。
「そんな目で見てほしくて気持ちを伝えたわけじゃなかったんじゃが」
あー悲しい悲しいといつもの冗談交じりのように言ってみせる彼に一瞬だけほっとしたのも束の間、
するりと、彼の指先が頬を伝う。
身体がざわつくのを全身で感じる。これは、緊張でも、焦りでもない、嫌悪の感情だ。
彼の鋭い視線を真正面から受けて、逃げられない。
体が動かない。
「学校で、アクセサリーは禁止なんじゃなかったか?悪い生徒じゃのう」
「い…っ!」
ぐいっとブレスレットを身に付けている方の手首を持ち上げられる。
ぎりぎりと力のこもるそれは、紛れもない彼の嫉妬の感情だった。
痛い。怖い、逃げ出したい。
でも
「や…っめて!」
反射的に思わず、彼の手を振り払ってしまった。
私のそんな行動が予想外だったのか、彼は呆然と所在なさげな自身の手を見つめる。
「お…願い、もうこれ以上…雅治のこと嫌いになりたくない…っ!」
咄嗟に足が動いた。もう、あの場所にいるのは限界だった。
走りながら、ぼろぼろと涙が零れる。
「由紀…!」
遠くから雅治の私を呼ぶ声が聞こえたが、構わずその場から逃げ出した。
雅治のことを嫌いになれたら、どれだけ楽だったろう。
今までの優しい彼のことも知ってるから、この間のように無理矢理キスをされても、先ほどみたいに力任せに手首を掴まれても、やっぱり心の底から嫌いになるなんて私には出来なかった。
その気持ちをどう伝えようか悩んでいたのに、このままじゃどんどん雅治が嫌いになっていってしまいそうだった。
どれくらい走っただろうか、気づけばテニス部の敷地の端の方まで来てしまっていた。
とめどなく溢れる涙を止めようと必死で自身を落ち着かせるため深呼吸を繰り返す。
そんなとき、背後からパキリと枝の折れる音がした。
それも、すごく近い距離から。
まさかここまで追いかけてきたんじゃ、と考えが頭を過ったがその予想は見事に外れることになる。
「あんたさ、前にうちの生徒だった子だよね」
声のする方を振り返ると、見知らぬ3人の女性が立っていた。
服装は立海大附属のジャージ、ということはテニス部のマネージャーということが予想できる。
「私のこと覚えてない?」
「…あ」
先頭に立つ女性の顔をまじまじと見て、はっと昔のことを思い出す。
「貴方たち…雅治の…」
そう、彼女たちは以前私が中学に入学してすぐの頃、雅治と一緒に登下校したことに対してあちらこちらで嫌味をいい振らした元凶だ。
ファンクラブの人だという認識はあったが、まさかテニス部のマネージャーだったとは知らなかった。
「雅治だって、馴れ馴れしい。仁王君この子のどこがそんなにいいのかしら」
「痛…!」
突然ぐいっと髪を引っ張られ、視界に彼女の顔が広がる。
「しかもそれ、四天宝寺のレギュラージャージだよね。あっちでもこっちでも男漁りとか引くんですけど」
「ねえあんた、さっき仁王君と何を話してたわけ」
ひしひしと伝わる憎悪と嫉妬心。
久し振りに自身に向けられる敵意に体が思うように動かない。
でも、こんな人たちに屈したくない。
「私と雅治が何を話してたかなんて、貴女たちに関係ない」
「この状況でそれ言っちゃうんだ。立場わかって言ってる?あんた一人くらいいなくたって、誰も心配しないってこと、教えてあげる」
その不敵な笑みにぞっとするや否や他の2人の女性に無理矢理両腕を引っ張られ強制的に歩かされる。
たどり着いたのは、敷地の端の端、もう誰も使っていないような古びた倉庫だった。
半ば投げ捨てられるような形でその倉庫の中に放り込まれる。
「携帯は没収ね。そのへんに捨てておくから後で探して。ま、そのうち助けが来るとは思うけどそのころには私たち神奈川に帰ってる頃だし、一切関係なしということで」
ガラガラと扉が徐々に閉まっていく。
「こんなことしたって…雅治は喜ばないよ」
「生意気。一生そこにいれば」
ガシャン
捨て台詞と共に扉が閉められる。
突如訪れる暗闇と静寂。
長年使われていないことが物語る独特の埃臭さ。
念のためと扉を開けようと試みるが、予想通り外から何かしらの細工がしてあるようで開かない。
「どうしてこうなったのかなぁ…」
溜息をつきながら扉にもたれかかり、ずるずると腰を下ろす。
思いのほか、こんな状況でも焦りを感じていない自分自身に驚く。
つい先日も他校の生徒に絡まれたばかりだからだろうか、それとも幼馴染との出来事の方がショックが大きかっただろうか。
今となってはどちらでもいい。
これは、私に対する罰なんだろうか。
雅治と関わったこと?
幼馴染みの気持ちに気づいていながら遠山君を好きになってしまったこと?
でも、私は雅治と出会ったことに後悔なんて一つもしていないし、遠山君を好きになったことも、後悔していない。
おそらく、試合の時間になっても現れない私に遠山君が気づいてくれるはずだ。
もしかしたら、私がいないことに気づいて探し始めるのは試合の後かもしれないから長くて3時間後、そこから捜索となると発見は夜…下手したら明日かもしれない。
でもきっと彼なら助けに来てくれる。
不思議とそう思えば怖くはなかった。
遠山君を、信じよう。
彼のジャージとブレスレットを抱きしめて、私は暗闇の中で一人静かにうずくまった。
周りへのアンテナを張り巡らせていたから気づいたような、そんな雑踏の中の一つの音にすぎないがおそらく、いや確実に、音がした方向にいるのは彼で間違い無いと思う。
「(雅治…)」
私が今日ここに来ることを彼は知っている。
そして、私が遠山君のことを好きなことも。
先ほどの音から伝わるのは、私に対する執着、嫉妬、そんなどろどろとした感情だ。
姿を見ずとも、彼の怒りがぴりぴりと伝わってくる。
さきほどまでは姿が見えなかったので完全に油断していた。今の私たちのやりとりの一部始終を彼は見ていたのだろうか。
だとしたら、私は一体どんな顔をして彼に今の自分の気持ちを伝えればいい?
ちゃんと雅治の顔を見て、言えるだろうか。
彼の姿を確認したわけじゃない。でも…怖い。
雅治という存在が今、とてつもなく怖い。
「由紀?…どないした?手震えとるで」
「え…」
指先が冷たくなり、ぶるぶると小刻みに震えている。寒さからではなく、それは明らかに恐怖の感情から。
「やっぱり、あんまり調子よくないんとちゃう?」
「ううん、大丈夫。近くで応援させて」
でもここで逃げてしまったら、私が今日ここに来た理由がなくなってしまう。
もう少し気持ちを落ち着かせたら、雅治にも言いにいかなくてはいけない。私の今の気持ちを。
途端、ふわりと私の肩に何かがかけられる。暖かい。
それは、今の今まで彼が着用していた四天宝寺レギュラージャージだった。
「全然暖かくないかもしれへんかもしれんけど、それ羽織っとき」
「…ありがとう」
不思議だ。彼の手にかかれば、不安や怖さも一瞬で吹っ飛んでしまう。
そんな不思議な力を彼は持っているような気がする。
大丈夫、今はまだ彼の姿を見ることができないけど、もう少しでちゃんと伝えられる。
私は肩に羽織った彼の体温の温もりがまだ残っているそのジャージの裾をぎゅっと握った。
親善試合の流れは五分五分の勝負となっており、最終戦シングルス1の試合まで行うことがすでに確定している。
遠山君はそのシングルス1の選手なので、まだ試合を行っていない。
ちなみに雅治の方は先ほどダブルスの試合を終えたようで、自陣に戻っていく姿を遠くから見ていた。
一戦一戦がとても白熱した試合運びとなっており、見ていてとても楽しいが、長時間外に立ちっぱなしというシチュエーションは普段慣れていないせいもあるが中々に厳しい。
やはり少し体を暖めようと、テニスコートの端でアップをしている遠山君に話しかけた。
「ごめん遠山君、やっぱり少し寒いから校舎に入ってようかと思って」
「あ、それやったら部室の方が近いわ。ここまーっすぐ行ったらあんねんで。これ、鍵な」
チャリッと関西らしいたこ焼きのキーホルダーがついた部室の鍵を彼から受け取る。
「有難う、遠山君の試合までに帰ってくるね」
おん!と元気に返事をする彼から部室の鍵を借りてほんの少し休憩に向かうことにした。
テニスコートから少し離れたところまで歩き、ようやく部室を見つける。
かちゃかちゃと鍵をさして開けようとするが手がかじかんでしまい中々開けることが出来ない。
カチャリ
「あ、ようやく開いた…」
ドアノブを回して部室に入ろうとしたその時だった。
急に背筋がぞっとなり凍るほど冷たくなる。
そして、いま部室のドアノブは私以外の誰かが握っている。
「お前さん、遠山とずいぶん仲良うしとるな。それとも、俺への当てつけかのう」
すぐ傍から聞こえる聞きなれた低音。
「雅…治…」
振り向くことができないままその名前を呼ぶ。
すると直後、肩を掴まれて強制的に彼と対面する形となる。
視線が、合う。ひしひしと伝わる、怒りの感情。
「なんじゃ、幽霊でも見るかのような目をして」
どくんどくんと心臓が音を立てる。
こんなタイミングであうなんて、まったく予想していなかったからか、思わず彼に抱いていた恐怖の表情を隠すことが出来なかったようだ。
寒いはずなのに、緊張で背中に汗がじわりと滲む。
「そんな目で見てほしくて気持ちを伝えたわけじゃなかったんじゃが」
あー悲しい悲しいといつもの冗談交じりのように言ってみせる彼に一瞬だけほっとしたのも束の間、
するりと、彼の指先が頬を伝う。
身体がざわつくのを全身で感じる。これは、緊張でも、焦りでもない、嫌悪の感情だ。
彼の鋭い視線を真正面から受けて、逃げられない。
体が動かない。
「学校で、アクセサリーは禁止なんじゃなかったか?悪い生徒じゃのう」
「い…っ!」
ぐいっとブレスレットを身に付けている方の手首を持ち上げられる。
ぎりぎりと力のこもるそれは、紛れもない彼の嫉妬の感情だった。
痛い。怖い、逃げ出したい。
でも
「や…っめて!」
反射的に思わず、彼の手を振り払ってしまった。
私のそんな行動が予想外だったのか、彼は呆然と所在なさげな自身の手を見つめる。
「お…願い、もうこれ以上…雅治のこと嫌いになりたくない…っ!」
咄嗟に足が動いた。もう、あの場所にいるのは限界だった。
走りながら、ぼろぼろと涙が零れる。
「由紀…!」
遠くから雅治の私を呼ぶ声が聞こえたが、構わずその場から逃げ出した。
雅治のことを嫌いになれたら、どれだけ楽だったろう。
今までの優しい彼のことも知ってるから、この間のように無理矢理キスをされても、先ほどみたいに力任せに手首を掴まれても、やっぱり心の底から嫌いになるなんて私には出来なかった。
その気持ちをどう伝えようか悩んでいたのに、このままじゃどんどん雅治が嫌いになっていってしまいそうだった。
どれくらい走っただろうか、気づけばテニス部の敷地の端の方まで来てしまっていた。
とめどなく溢れる涙を止めようと必死で自身を落ち着かせるため深呼吸を繰り返す。
そんなとき、背後からパキリと枝の折れる音がした。
それも、すごく近い距離から。
まさかここまで追いかけてきたんじゃ、と考えが頭を過ったがその予想は見事に外れることになる。
「あんたさ、前にうちの生徒だった子だよね」
声のする方を振り返ると、見知らぬ3人の女性が立っていた。
服装は立海大附属のジャージ、ということはテニス部のマネージャーということが予想できる。
「私のこと覚えてない?」
「…あ」
先頭に立つ女性の顔をまじまじと見て、はっと昔のことを思い出す。
「貴方たち…雅治の…」
そう、彼女たちは以前私が中学に入学してすぐの頃、雅治と一緒に登下校したことに対してあちらこちらで嫌味をいい振らした元凶だ。
ファンクラブの人だという認識はあったが、まさかテニス部のマネージャーだったとは知らなかった。
「雅治だって、馴れ馴れしい。仁王君この子のどこがそんなにいいのかしら」
「痛…!」
突然ぐいっと髪を引っ張られ、視界に彼女の顔が広がる。
「しかもそれ、四天宝寺のレギュラージャージだよね。あっちでもこっちでも男漁りとか引くんですけど」
「ねえあんた、さっき仁王君と何を話してたわけ」
ひしひしと伝わる憎悪と嫉妬心。
久し振りに自身に向けられる敵意に体が思うように動かない。
でも、こんな人たちに屈したくない。
「私と雅治が何を話してたかなんて、貴女たちに関係ない」
「この状況でそれ言っちゃうんだ。立場わかって言ってる?あんた一人くらいいなくたって、誰も心配しないってこと、教えてあげる」
その不敵な笑みにぞっとするや否や他の2人の女性に無理矢理両腕を引っ張られ強制的に歩かされる。
たどり着いたのは、敷地の端の端、もう誰も使っていないような古びた倉庫だった。
半ば投げ捨てられるような形でその倉庫の中に放り込まれる。
「携帯は没収ね。そのへんに捨てておくから後で探して。ま、そのうち助けが来るとは思うけどそのころには私たち神奈川に帰ってる頃だし、一切関係なしということで」
ガラガラと扉が徐々に閉まっていく。
「こんなことしたって…雅治は喜ばないよ」
「生意気。一生そこにいれば」
ガシャン
捨て台詞と共に扉が閉められる。
突如訪れる暗闇と静寂。
長年使われていないことが物語る独特の埃臭さ。
念のためと扉を開けようと試みるが、予想通り外から何かしらの細工がしてあるようで開かない。
「どうしてこうなったのかなぁ…」
溜息をつきながら扉にもたれかかり、ずるずると腰を下ろす。
思いのほか、こんな状況でも焦りを感じていない自分自身に驚く。
つい先日も他校の生徒に絡まれたばかりだからだろうか、それとも幼馴染との出来事の方がショックが大きかっただろうか。
今となってはどちらでもいい。
これは、私に対する罰なんだろうか。
雅治と関わったこと?
幼馴染みの気持ちに気づいていながら遠山君を好きになってしまったこと?
でも、私は雅治と出会ったことに後悔なんて一つもしていないし、遠山君を好きになったことも、後悔していない。
おそらく、試合の時間になっても現れない私に遠山君が気づいてくれるはずだ。
もしかしたら、私がいないことに気づいて探し始めるのは試合の後かもしれないから長くて3時間後、そこから捜索となると発見は夜…下手したら明日かもしれない。
でもきっと彼なら助けに来てくれる。
不思議とそう思えば怖くはなかった。
遠山君を、信じよう。
彼のジャージとブレスレットを抱きしめて、私は暗闇の中で一人静かにうずくまった。