旅は、いつだって大切なことを教えてくれると知りました。
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『ひとを、愛せよ』
それが、俺を拾ってくれたドラゴンさんが一番初めに教えてくれたことだった。
旅は、いつだって大切なことを教えてくれると知りました。
サボがとある国の戦争を終わらせ、バルディゴに帰還するとの報告を受けてからエマは来る日も来る日も待ち侘びていた。何せ3か月ぶりの再会だったから誰よりも先にサボの姿を見つけて、一番に迎えてやりたかった。
だが待ちに待ったその日がきて、大勢の仲間たちからの歓声を受けて凱旋するサボの隣にコアラの姿を見つけ、エマは人知れず屋敷の中へ戻ってしまった。サボも出迎えの中に当然エマの姿もあるのもと思っていただけに出鼻をくじかれ、少しだけ肩を落として戦果報告へ向かうのだった。
それから数日後のある夜の遅い時間、目が覚めてしまったコアラは水を飲みに厨房へ向かう道すがら、図書室から灯りが漏れていることに気が付いた。誰かいるのだろうと思ったが、咽喉を潤してからもしかして電気の消し忘れかもしれないと思いなおし、図書室の扉を開けて思わず声を上げる。
「エマちゃん!こんなに遅くまで仕事?」
机とにらめっこしていたエマは驚いたように顔を上げ、見つかってしまったことにバツが悪そうな表情を浮かべる。
「昼間は鍛錬と家事をしてるから内務の仕事をする時間がなくて…」
「ええ!?そんなことだったら私が代わるよ!」
「ダメです!コアラさんこそ遠征明けで疲れてるんだから休んでください。それに私、内務の仕事好きなんですよ。勉強になるから」
だから気にしないで、と言われ、コアラは困ったように肩をすくめるとエマの向かい合わせに立ち、ざっと書類に目を通す。エマがまとめていたのはコアラやサボが活躍した先の戦いによる戦果報告書で、なるほどよくまとめられている。資金の使い道、報酬内容、負傷者数等々、まるで見てきたかのように事細かに記されている。
「エマちゃん、入隊してもう1年だっけ?」
「はい、もうすぐ1年になります」
「あなたの仕事ぶりにはサボ君も頼り切りだから大変でしょ。内務はぜんぶ押し付けられてるんじゃない?」
「押し付けられてるなんて思ってないですよ。ただ…内務だけじゃなくて、私も一緒に連れてってくれたらなぁって…思いますけど…」
「あ、それはサボ君絶対に許さないと思う。エマちゃんを危ないところには連れて行きたくないみたい」
「で、でも私だってハックさんに鍛えてもらってるし、自分のことくらい自分で守れます!」
「私に言われてもなぁ…。それに戦争って本当に悲惨だから、あんまりそういうのもあなたには見せたくないみたいだよ」
サボを擁護するコアラの発言ひとつひとつが引っかかり、エマの機嫌がそこはかとなく悪くなる。まるでサボの代弁者のような口ぶりにエマはすっかり拗ねてしまった。
「……なんかサボって、コアラさんには何でも話すんですね…」
言うつもりはなかったがついつい恨み言を口にしてしまい、エマは恥ずかしくて俯いてしまう。だがコアラはそれを不快に思うどころか嬉しくなり、含みを持たせた厭らしい笑みを浮かべた。
「エマちゃん、サボ君のことが好きなんだ?」
言われ、エマの顔が沸騰したように赤くなる。耳まで赤くなったその反応にコアラはますます含み笑いを濃くした。
「そっかそっか、そん~っなにサボ君のことが好きなのね~」
「ち、ちがっ」
「サボ君に教えてあげたいな~。知ったらきっと興奮して3日くらいで戦争終わらせてきちゃうんじゃないかな~」
「コアラさんっ!!」
これ以上からかったら泣き出しそうなエマの様子に我に返り、コアラは調子に乗りすぎた己を自重した。このまま去るのも後味が悪いので、コアラは姉貴風を吹かせて言った。
「サボ君、そういうのに疎いからはっきり言わないとわからないと思うよ。あと、お迎えのときエマちゃんの姿がないからすっごく落ち込んでた。かわいそうだから、サボ君すき~vぎゅーvってしてあげてね!」
「なっ、なに言って…」
「じゃあね!おやすみ~♪」
エマに怒られる前に退散するコアラ。足音までどこか楽しそうでエマはさらに頭にきたが、当事者はすでに立ち去ってしまったため怒りのやり場がない。こんなに心をかき乱されてしまったら、もう仕事どころではない。もう今夜は寝てしまおうといそいそと仕事道具を片付け、部屋に戻ったエマだったが、心の奥底に隠しておいた秘密をコアラに知られてしまった恥ずかしさと憂鬱さに苛まれ、少しも眠ることができなかった。
サボたちから預かっていた内務の仕事がようやく終わった。
これで時間を気にせずゆっくりとサボと話せると思い、屋敷の中を探していると、裏庭にいるとコアラに教えてもらった。秘密を共有してしまったあの日以来、コアラはすっかりエマに懐いてしまい、ファイト!などと激励されたが、何を頑張れというのか、と呆れながら裏庭へ向かうと、テラス席で寝こけているサボの後姿を見つけた。
サボはテラス席で本を読むのを好んでいるが、気候が良いと眠くなってしまうらしく、日よけ代わりに本を顔に乗せて眠りこける姿がたびたび目撃されている。
起こすのも気が引けてしまい、少しだけ残念に思いながら隣に座る。人の気配に反応しやすい男だったから起きるかと思われたが、依然として胸を規則正しく上下させていた。
早く起きないかな、とエマは空を仰ぎ、サボがまだ眠っていることをちらりと確認してから、彼の肩に頭をもたれかけてみる。
二人で旅をしたとき、馬車で移動することがあった。
その時は疲労と車の揺れが心地よくて、二人で肩を貸しあって眠ってしまったのを思い出し、くすりと笑う。
なんだか、あの旅をしていた時が一番心地よかった。
ただの友達として肩を並べて、誰にも何の遠慮もせず、少しも気取ることなく接することができた。
でも今はお互いに立場があって、エマにとってサボは近いようで遠い存在になってしまった。
いつからサボを異性として意識していたのかはわからないし、友達だと思い込もうとしていたのかもわからない。近い存在のままだったらずっと友達と思い込ませることができたのかもしれないが、革命軍に入ってお互いの立場が明確になってから、憧れや敬愛の気持ちを抱き、抑え込んでいた気持ちが容器からあふれ出てしまった。
これで終わりにしたくなくてサボについていくと決めたのに、どんどん距離ができていくようでエマは寂しかった。
どうしたらもっとサボのそばにいられるのだろうか。
どうしたら、あの頃みたいに笑いあえるのだろう――。
『サボ君、そういうのに疎いからはっきり言わないとわからないと思うよ』
ふと、コアラに言われた言葉を思い出した。
自分から素直になって見せたら、何か変わるのだろうか。
この想いをわからせたら、サボは変わるのだろうか。
「…………好き…」
――なんて、正面切って言えたら苦労などしない。まったくコアラにそそのかされて自分は何を血迷いごとを口にしようとしているのか。
「――俺も」
そんな言葉と一緒に、ぐいっと肩を抱かれた。
一瞬の間をもって状況を判断し、エマが素っ頓狂な声を上げる。
「サ、サボ!?起きてたの!?」
驚いて離れようとするエマを逃がすまいと、サボはエマの肩を抱く腕を強めて放さない。
「ああ、お前の気配で起きた」
「割と早い段階で起きてた!!ってゆーか放して!」
「いやだ。なんでだ」
「なっ、なんでって…」
「俺のこと好きなんだろ?」
「ななな何言ってんの!!?そんなわけないし!!」
「え!?違うのか??じゃあお前、何を好きって言ったんだよ?」
「好きって…あああ声に出てたぁああ!!?」
己の失態に気づき涙目になって真っ赤になるエマの慌てぶりがおかしく、サボはぷっと噴き出して両腕でエマの頭をかき抱く。サボの胸に真っ赤な顔を押しつぶされ、エマは恥ずかしさと嬉しさと、都合の良い期待があふれ出して頭がおかしくなりそうだった。
「まあ…俺も白状しちまったからなぁ」
宙ぶらりんになったエマの腕が、期待感に縋りつくようにサボの背中に回され、遠慮がちに服を握りしめる。それをしっかり感じ、サボは言った。
「俺は、お前が好きだ、エマ」
――ひとを愛せ、とドラゴンさんは教えてくれた。憎むべきは人ではなく、環境や境遇だと。
だから俺は人を知ることに努力した。その人にどんな過去があって、どれだけの思いがあって、なぜその行動に出たのか。
中には到底理解できない奴もいたけど、大抵の人は好きになれたし、分かり合うことができた。
そしてエマは、あの島でたくさんの人に愛されていて、多くの愛情を受けて育ち、その受けた愛をみんなに返そうとするやつだった。
そんなエマを、俺は好きになった。
エマを好きになった自分を誇りに思った。
やっとドラゴンさんの教えが実になったと思ったんだ。
エマと恋をするために、ひとを愛するんだと――。
「……サボ、いたい…」
固い胸板に遠慮なく押し付けられてエマがようやく声を上げると慌ててサボは手を放す。乱れた髪を軽く流してやると、顔を上げたエマはふっと噴き出した。
「顔真っ赤」
「う、うるせェ!見んな!」
先ほどとは形勢が逆転してしまい、それがおかしくてエマがクスクス笑っていると、最初は怒っていたサボだったがつられて笑ってしまう。
あの時、エマには敵わなくて尻に敷かれてしまっている自分が想像できて複雑な気持ちになったが、現実となると思ったより悪い気分ではない。
エマが笑っていると嬉しくなって自分も笑えてくる。
エマが怒っていると言い訳をする気も起きなくてさっさと謝ってしまって、また笑わせたいと思う。
エマと喧嘩したって、はやく仲直りしたくて何もなかったふりをしてしまう。
エマが泣いていたら、死んでもエマを泣かせるすべてのものを排除してやりたくなる。
エマが笑ってくれてればなんだっていい。そんな風に思えることがまず幸せなんだとサボは思うのだった。
fin.
それが、俺を拾ってくれたドラゴンさんが一番初めに教えてくれたことだった。
旅は、いつだって大切なことを教えてくれると知りました。
サボがとある国の戦争を終わらせ、バルディゴに帰還するとの報告を受けてからエマは来る日も来る日も待ち侘びていた。何せ3か月ぶりの再会だったから誰よりも先にサボの姿を見つけて、一番に迎えてやりたかった。
だが待ちに待ったその日がきて、大勢の仲間たちからの歓声を受けて凱旋するサボの隣にコアラの姿を見つけ、エマは人知れず屋敷の中へ戻ってしまった。サボも出迎えの中に当然エマの姿もあるのもと思っていただけに出鼻をくじかれ、少しだけ肩を落として戦果報告へ向かうのだった。
それから数日後のある夜の遅い時間、目が覚めてしまったコアラは水を飲みに厨房へ向かう道すがら、図書室から灯りが漏れていることに気が付いた。誰かいるのだろうと思ったが、咽喉を潤してからもしかして電気の消し忘れかもしれないと思いなおし、図書室の扉を開けて思わず声を上げる。
「エマちゃん!こんなに遅くまで仕事?」
机とにらめっこしていたエマは驚いたように顔を上げ、見つかってしまったことにバツが悪そうな表情を浮かべる。
「昼間は鍛錬と家事をしてるから内務の仕事をする時間がなくて…」
「ええ!?そんなことだったら私が代わるよ!」
「ダメです!コアラさんこそ遠征明けで疲れてるんだから休んでください。それに私、内務の仕事好きなんですよ。勉強になるから」
だから気にしないで、と言われ、コアラは困ったように肩をすくめるとエマの向かい合わせに立ち、ざっと書類に目を通す。エマがまとめていたのはコアラやサボが活躍した先の戦いによる戦果報告書で、なるほどよくまとめられている。資金の使い道、報酬内容、負傷者数等々、まるで見てきたかのように事細かに記されている。
「エマちゃん、入隊してもう1年だっけ?」
「はい、もうすぐ1年になります」
「あなたの仕事ぶりにはサボ君も頼り切りだから大変でしょ。内務はぜんぶ押し付けられてるんじゃない?」
「押し付けられてるなんて思ってないですよ。ただ…内務だけじゃなくて、私も一緒に連れてってくれたらなぁって…思いますけど…」
「あ、それはサボ君絶対に許さないと思う。エマちゃんを危ないところには連れて行きたくないみたい」
「で、でも私だってハックさんに鍛えてもらってるし、自分のことくらい自分で守れます!」
「私に言われてもなぁ…。それに戦争って本当に悲惨だから、あんまりそういうのもあなたには見せたくないみたいだよ」
サボを擁護するコアラの発言ひとつひとつが引っかかり、エマの機嫌がそこはかとなく悪くなる。まるでサボの代弁者のような口ぶりにエマはすっかり拗ねてしまった。
「……なんかサボって、コアラさんには何でも話すんですね…」
言うつもりはなかったがついつい恨み言を口にしてしまい、エマは恥ずかしくて俯いてしまう。だがコアラはそれを不快に思うどころか嬉しくなり、含みを持たせた厭らしい笑みを浮かべた。
「エマちゃん、サボ君のことが好きなんだ?」
言われ、エマの顔が沸騰したように赤くなる。耳まで赤くなったその反応にコアラはますます含み笑いを濃くした。
「そっかそっか、そん~っなにサボ君のことが好きなのね~」
「ち、ちがっ」
「サボ君に教えてあげたいな~。知ったらきっと興奮して3日くらいで戦争終わらせてきちゃうんじゃないかな~」
「コアラさんっ!!」
これ以上からかったら泣き出しそうなエマの様子に我に返り、コアラは調子に乗りすぎた己を自重した。このまま去るのも後味が悪いので、コアラは姉貴風を吹かせて言った。
「サボ君、そういうのに疎いからはっきり言わないとわからないと思うよ。あと、お迎えのときエマちゃんの姿がないからすっごく落ち込んでた。かわいそうだから、サボ君すき~vぎゅーvってしてあげてね!」
「なっ、なに言って…」
「じゃあね!おやすみ~♪」
エマに怒られる前に退散するコアラ。足音までどこか楽しそうでエマはさらに頭にきたが、当事者はすでに立ち去ってしまったため怒りのやり場がない。こんなに心をかき乱されてしまったら、もう仕事どころではない。もう今夜は寝てしまおうといそいそと仕事道具を片付け、部屋に戻ったエマだったが、心の奥底に隠しておいた秘密をコアラに知られてしまった恥ずかしさと憂鬱さに苛まれ、少しも眠ることができなかった。
サボたちから預かっていた内務の仕事がようやく終わった。
これで時間を気にせずゆっくりとサボと話せると思い、屋敷の中を探していると、裏庭にいるとコアラに教えてもらった。秘密を共有してしまったあの日以来、コアラはすっかりエマに懐いてしまい、ファイト!などと激励されたが、何を頑張れというのか、と呆れながら裏庭へ向かうと、テラス席で寝こけているサボの後姿を見つけた。
サボはテラス席で本を読むのを好んでいるが、気候が良いと眠くなってしまうらしく、日よけ代わりに本を顔に乗せて眠りこける姿がたびたび目撃されている。
起こすのも気が引けてしまい、少しだけ残念に思いながら隣に座る。人の気配に反応しやすい男だったから起きるかと思われたが、依然として胸を規則正しく上下させていた。
早く起きないかな、とエマは空を仰ぎ、サボがまだ眠っていることをちらりと確認してから、彼の肩に頭をもたれかけてみる。
二人で旅をしたとき、馬車で移動することがあった。
その時は疲労と車の揺れが心地よくて、二人で肩を貸しあって眠ってしまったのを思い出し、くすりと笑う。
なんだか、あの旅をしていた時が一番心地よかった。
ただの友達として肩を並べて、誰にも何の遠慮もせず、少しも気取ることなく接することができた。
でも今はお互いに立場があって、エマにとってサボは近いようで遠い存在になってしまった。
いつからサボを異性として意識していたのかはわからないし、友達だと思い込もうとしていたのかもわからない。近い存在のままだったらずっと友達と思い込ませることができたのかもしれないが、革命軍に入ってお互いの立場が明確になってから、憧れや敬愛の気持ちを抱き、抑え込んでいた気持ちが容器からあふれ出てしまった。
これで終わりにしたくなくてサボについていくと決めたのに、どんどん距離ができていくようでエマは寂しかった。
どうしたらもっとサボのそばにいられるのだろうか。
どうしたら、あの頃みたいに笑いあえるのだろう――。
『サボ君、そういうのに疎いからはっきり言わないとわからないと思うよ』
ふと、コアラに言われた言葉を思い出した。
自分から素直になって見せたら、何か変わるのだろうか。
この想いをわからせたら、サボは変わるのだろうか。
「…………好き…」
――なんて、正面切って言えたら苦労などしない。まったくコアラにそそのかされて自分は何を血迷いごとを口にしようとしているのか。
「――俺も」
そんな言葉と一緒に、ぐいっと肩を抱かれた。
一瞬の間をもって状況を判断し、エマが素っ頓狂な声を上げる。
「サ、サボ!?起きてたの!?」
驚いて離れようとするエマを逃がすまいと、サボはエマの肩を抱く腕を強めて放さない。
「ああ、お前の気配で起きた」
「割と早い段階で起きてた!!ってゆーか放して!」
「いやだ。なんでだ」
「なっ、なんでって…」
「俺のこと好きなんだろ?」
「ななな何言ってんの!!?そんなわけないし!!」
「え!?違うのか??じゃあお前、何を好きって言ったんだよ?」
「好きって…あああ声に出てたぁああ!!?」
己の失態に気づき涙目になって真っ赤になるエマの慌てぶりがおかしく、サボはぷっと噴き出して両腕でエマの頭をかき抱く。サボの胸に真っ赤な顔を押しつぶされ、エマは恥ずかしさと嬉しさと、都合の良い期待があふれ出して頭がおかしくなりそうだった。
「まあ…俺も白状しちまったからなぁ」
宙ぶらりんになったエマの腕が、期待感に縋りつくようにサボの背中に回され、遠慮がちに服を握りしめる。それをしっかり感じ、サボは言った。
「俺は、お前が好きだ、エマ」
――ひとを愛せ、とドラゴンさんは教えてくれた。憎むべきは人ではなく、環境や境遇だと。
だから俺は人を知ることに努力した。その人にどんな過去があって、どれだけの思いがあって、なぜその行動に出たのか。
中には到底理解できない奴もいたけど、大抵の人は好きになれたし、分かり合うことができた。
そしてエマは、あの島でたくさんの人に愛されていて、多くの愛情を受けて育ち、その受けた愛をみんなに返そうとするやつだった。
そんなエマを、俺は好きになった。
エマを好きになった自分を誇りに思った。
やっとドラゴンさんの教えが実になったと思ったんだ。
エマと恋をするために、ひとを愛するんだと――。
「……サボ、いたい…」
固い胸板に遠慮なく押し付けられてエマがようやく声を上げると慌ててサボは手を放す。乱れた髪を軽く流してやると、顔を上げたエマはふっと噴き出した。
「顔真っ赤」
「う、うるせェ!見んな!」
先ほどとは形勢が逆転してしまい、それがおかしくてエマがクスクス笑っていると、最初は怒っていたサボだったがつられて笑ってしまう。
あの時、エマには敵わなくて尻に敷かれてしまっている自分が想像できて複雑な気持ちになったが、現実となると思ったより悪い気分ではない。
エマが笑っていると嬉しくなって自分も笑えてくる。
エマが怒っていると言い訳をする気も起きなくてさっさと謝ってしまって、また笑わせたいと思う。
エマと喧嘩したって、はやく仲直りしたくて何もなかったふりをしてしまう。
エマが泣いていたら、死んでもエマを泣かせるすべてのものを排除してやりたくなる。
エマが笑ってくれてればなんだっていい。そんな風に思えることがまず幸せなんだとサボは思うのだった。
fin.
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