第三章『ロボット博覧会への誘い』
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「やっぱり船のコンピューターの故障だったの?」
注文したデザートのスプーンを手に、船室に戻って来たシグナル達から聞かされた話に、クリスが眉を寄せながら言った。
正信とハーモニーに連れられて、シグナル達が出掛けていたのは船倉だったのだが、そこでA―――ナンバーズ最初のロボット〝アトランダム〟を盗みにやって来た強盗と遭遇し、捕まえようと追いかけたところ、突然、船内の防火シャッターが下り、その中の空気が抜かれるという出来事が起こったのだそうだ。
報告を受けた船の保安部はありえないと言っていたらしいのだが・・・。
ふと、船室の外に正信が出ようとしているのを見た瑠璃は、シグナル達から離れて、後を追いかけるように近づき呼びかけた。
「――――正信さん」
「おや、どうかしたんですか? 瑠璃さん」
船室の外の通路で、足を止め振り返って来た正信に、微かに迷うような表情を浮かべながら、瑠璃は問いかけた。
「正信さん、ロボット博覧会について何か隠していらっしゃるんじゃないですか?」
はっきりとは解らない、曖昧な記憶。―――けれど、何かがある、そんな思いが意識の奥に存在している。
「さっきシグナル君たちが話していた、今回の事件、それも何か関係があるんじゃ・・・・・・・・」
言葉を続けた瑠璃は、フッと制するように目の前に差し出された正信の手の平に、目を瞠った。
「―――――瑠璃さん。さすが・・・と言いたいところですが僕は確証のないことは言いたくないタチなんです。
だから今はまだ何も言いません。特にアトランダムに関しては」
瑠璃の素性は教授以外に、帰国してきた正信とみのるにも語ったため、知られている。
二人も教授と同様に信じると言ってくれ、同時に呼び方に関しては名前で構わないと瑠璃に告げてきた。
―――それは瑠璃が信彦に、姉弟のように仲良くできると嬉しいといったことも慮ってのことだった。
だから瑠璃まだ顔を合わせてから数日しか過ぎてはいないものの、二人が教授と同じようにとても温かい、優しい存在だと瑠璃は感じていた。
けれど、今の正信の眼差しは―――――。
(・・・〝アトランダム〟と正信さんの間に何かあったのかな・・・)
歩き出した正信の背中を見つめ瑠璃は胸中で呟く。
それから程なくして、船は博覧会が行なわれる会場に到着した。
海上都市―――リュケイオン。
そこはまさしく、その名の通り、海に存在する都市だった。
「先生! お久しぶりです。お忙しい中ご足労願いまして―――――」
海底トンネルの向こう側から、こちらに歩いてきた人影が、正信に呼びかけてくる。
現れたのは、海老茶のタキシードに身を包み、手にも白い手袋を着けた、上品そうな雰囲気の金髪の青年だった。
「カルマ。これ、僕の息子の信彦。それから瑠璃さんだよ。―――二人とも、こっちは〝KARUMA 〟〝アトランダムナンバーズ〟の一人だ」
笑みを浮かべた正信に、信彦と共に紹介された瑠璃は、改めて青年―――カルマに挨拶をした。
「音井教授のところでお世話になっている、瑪瑙瑠璃といいます。―――そしてこの子がA―――ナンバーズ新メンバーのSIGNAL 君です」
瑠璃の腕の中から「こんち―――」と挨拶をしてきた、〝ちびシグナル〟を、カルマは「え?」と唖然とした顔で見つめた。
移動の間はシグナルが着ていたのが私服だった為、信彦はくしゃみを我慢していたのだが、リュケイオンに着いてからシグナルがいつもの格好に戻ると、耐えていたくしゃみを信彦は放ったので、現在シグナルはちびに変形をしてしまっているのだった。
「・・・小さくなるとは聞いていましたけど」
驚きの余り、大きく開きそうになった口元を、取り出したハンカチで隠しながらカルマは呟く。と、俄かに明るい声が響いてきた。
「あっ、カルマ君だ―――っ。こんなところで何してんのさっ」
一足先に都市内を見学して来たらしいハーモニーが、カルマの前にふわりと飛んでくる。
「私はリュケイオンの市長ですよ」
ハーモニーと知り合いなのだろう、微笑しながらカルマは答える。
そして「ロボットが市長!?」と驚愕の声をクリスが上げると、カルマは都市に関して、それと自分の仕事に関して語り始めた。
「この都市は全てコンピューターで制御されているのでロボットの方が適任なのです。ロボット博覧会はここリュケイオンに頭脳集団〝アトランダム〟の本部が置かれる記念セレモニーであり私の初仕事。市長となるべく造られた私にとり大いなる喜びです」
仕事に対して直向きな態度のカルマに、クリスは呆気に取られたようで、まじめくんなのね、と呟き、対してみのるが、おそらく正信と同様にカルマとは長い付き合いなのだろう。
―――カルマ君立派になって、とほろりと涙ぐみながらカルマを見ていた。
やがて、そんなカルマに正信が、僕たちはどうすればいいのかな、と声を掛けると、コントロールセンターに正信は向かうことになり、瑠璃達はカルマに案内されて、宿泊施設に移動することになったのだった。
「ここは大家族の長期宿泊用の部屋です。部屋の設備はご自由にお使い下さい」
「ありがとうカルマ君」
案内された部屋には既に荷物が運び込まれていたので、みのるがカルマにお礼を告げると、早速クリスがトランクを開けて、荷物の整理を開始する。
「夜の夕食を兼ねて歓迎会を予定しております。ぜひ、ご参加を」
恭しく礼をして戻って行ったカルマを見送ると、みのるはパルスの方を振り返り、笑みを浮かべて言った。
「カルマ君見てると昔のパルス君思い出すわあ」
どうやら以前のパルスの喋り方は、いまのカルマのような感じだったらしい。
「バグる前ですね♪」
可愛かったわ、と笑みを零し、隣に来て同じように荷物の整理を始めたみのるから、喜々とした笑みを浮かべて、更にクリスが話を聞きだそうと試みる。けれど、よほど昔の自分の事は知られたくないのだろう。
激しい形相でパルスが詰め寄り「そんなヒマがあるのなら整備の腕でもみがけ!!」と言うと、それにカチンときたクリスはそのままパルスと言い合いを始めてしまった。
だが、二人の言い合いはまるで痴話ゲンカのようにしか見えず、仲がいいわねと、みのるは微笑ましそうに見ながら荷物の整理を続け、その言葉に瑠璃は自分の荷物の整理を手伝ってくれていたエララと顔を見合わせると、同意するように笑みを浮かべた。
荷物の整理を終えると、外に遊びに行っていた信彦が戻って来て、かくれんぼの最中に隠れようとした部屋で、同じ年頃の少女とロボットと遭遇した、という話を瑠璃は聞かされた。
「へ―――、隣にロボットと女の子がいたんだ。でも、それなら一緒に遊んでくればよかったのに」
首を傾げながら瑠璃は言うと、信彦は困惑した様子で「二人とも何か変だったからさー」と唸り、気がつくとべったりと瑠璃に引っ付くようにしていた、ちびシグナルを、ムッとした様子で引き剥がしに掛かっていく。
そんな信彦に、パルスのブレードの整備を行なっていたクリスが、怪訝そうに問いかけた。
「お―――い信彦。そのロボットどんなヤツさ」
「ええ? ロボットロボットしたヤツだったよっ」
うりゃ、と言う掛け声とともに、ちびシグナルを瑠璃から剥がし終えた信彦は、ふと思い出したらしいロボットの名前を呟く。
―――確か『ライデン』と呼ばれていたと。
「どうしたの? クリスちゃん」
信彦が洩らしたロボットの名前を、同じように呟いたクリスは、突然ハッとした様子を見せたかと思うと、引き攣った表情を顔に浮かべていた。
眉を顰めた瑠璃は、ふと部屋の中に正信と連れ立ってやって来た女性が、クリスに呼びかけた瞬間、
「おねっおねっお姉さま!? ど―――――してぇっ!!?」
悲鳴を上げたクリスを呆然と見つめた。
―――お姉さま?
「年の離れた妹さんがいるって聞いてたからもしかしたらって」
自分の尊敬する音井教授に闘いを挑むなんて無謀な子だねっ、と女性にひとしきりお説教をされると、クリスは笑みを浮かべ言った正信に、女性に頭を押されながら、怯えきった顔で叫んだ。
「迷惑をかけてすみませんでしたあっ!!」
クリスにとって頭の上がらない存在―――『姉』である彼女の名前は、コンスタンス・S ・キムというのだそうだ。
そして、以前シグナルが倒した、クリスが連れて来たロボット〝セリオン〟は、コンスタンスが造ったものらしく(共同制作だとクリスは言っていたのだが)セリオンを無断で連れて行ったことは、ロボット工学者としての腕前を見せてもらうことで不問にすると、クリスは彼女に告げられるのと同時に、納得のいく結果が出なければ即、親元に帰るのです、と宣告をされてしまった。
厳しすぎるのではないか、というみのるにコンスタンスは序の口だと腕組みをしながら答え、クリスが整備の途中だった為に、片方のブレードをいまだつけ終えておらず、何ともいえない表情を浮かべていたパルスと、その傍にいたエララやハーモニーに視線を向けると、コロッと態度を変えて言った。
「あらA―――ナンバーズ勢ぞろいだったのね? 最新ナンバーのシグナルは?」
ちびシグナルが、エララの腕の中から必死にアプローチするも、コンスタンスはそれに気づくことはなく、もちろん連れてきているんですよね、と正信を振り返る。
けれど、どうやら正信はちびシグナルを紹介するつもりはないらしく、後で見せるよ、とコンスタンスに答え、それに対し彼女も、後で私の〝雷電〟を皆さんに紹介しますわと、告げてきた。
(雷電!!)
「―――確か、信彦君が会ったていう女の子が、一緒に居たっていうロボットをそう呼んでいたんだったのよね」
「うん。さっきの子―――――もしかして、あのおばさんの?」
先程、話題に上ったばかりのロボットと同じ名が聞こえてきた為に、思わず瑠璃と信彦が互いに顔を見合わせる。
すると、そこにコンスタンスが歩み寄って来た。
「君が音井先輩の息子さんね。いくつ?」
覗きこむようにして、話し掛けてきたコンスタンスに、え、と信彦は戸惑いつつ、答える。
「はい、信彦です。11歳ですけど」
コンスタンスは、ちゃんと返事が出来てえらいえらいと、信彦の頭をポンポンと手でやる。
そして、更ににっこりと笑みを浮かべて、お母さん似で良かったね、と言葉を続けた。
信彦がきちんと返事が出来るのは「僕とみのるさんの子供だから」と笑みを浮かべていた正信は、コンスタンスのその言葉に沈黙し、何故か皆がそう言うのよね、と不思議そうにみのるが首を傾げる。
「うちのマリエルも信彦君くらい元気だといいんだけど」
二人の様子に構う事はせず、コンスタンスは溜息を洩らすと、ふと瑠璃に視線を向けると首を傾げた。
「あら、貴女は?」
「初めまして、瑪瑙瑠璃と申します。音井教授のところで、いまお世話になっているんです」
「ということは、貴女もロボット工学を?」
「はい。まだ勉強中なので、ロボットを造ったことはないんですけど」
「そうなの。じゃあ、あのバカ娘のことよろしくね」
先程の出来事からまだ立ち直っていないクリスに、コンスタンスは視線を向け、微笑する。
そして、そのまま彼女は正信と連れ立ってまた仕事へと戻って行ってしまった。
注文したデザートのスプーンを手に、船室に戻って来たシグナル達から聞かされた話に、クリスが眉を寄せながら言った。
正信とハーモニーに連れられて、シグナル達が出掛けていたのは船倉だったのだが、そこでA―――ナンバーズ最初のロボット〝アトランダム〟を盗みにやって来た強盗と遭遇し、捕まえようと追いかけたところ、突然、船内の防火シャッターが下り、その中の空気が抜かれるという出来事が起こったのだそうだ。
報告を受けた船の保安部はありえないと言っていたらしいのだが・・・。
ふと、船室の外に正信が出ようとしているのを見た瑠璃は、シグナル達から離れて、後を追いかけるように近づき呼びかけた。
「――――正信さん」
「おや、どうかしたんですか? 瑠璃さん」
船室の外の通路で、足を止め振り返って来た正信に、微かに迷うような表情を浮かべながら、瑠璃は問いかけた。
「正信さん、ロボット博覧会について何か隠していらっしゃるんじゃないですか?」
はっきりとは解らない、曖昧な記憶。―――けれど、何かがある、そんな思いが意識の奥に存在している。
「さっきシグナル君たちが話していた、今回の事件、それも何か関係があるんじゃ・・・・・・・・」
言葉を続けた瑠璃は、フッと制するように目の前に差し出された正信の手の平に、目を瞠った。
「―――――瑠璃さん。さすが・・・と言いたいところですが僕は確証のないことは言いたくないタチなんです。
だから今はまだ何も言いません。特にアトランダムに関しては」
瑠璃の素性は教授以外に、帰国してきた正信とみのるにも語ったため、知られている。
二人も教授と同様に信じると言ってくれ、同時に呼び方に関しては名前で構わないと瑠璃に告げてきた。
―――それは瑠璃が信彦に、姉弟のように仲良くできると嬉しいといったことも慮ってのことだった。
だから瑠璃まだ顔を合わせてから数日しか過ぎてはいないものの、二人が教授と同じようにとても温かい、優しい存在だと瑠璃は感じていた。
けれど、今の正信の眼差しは―――――。
(・・・〝アトランダム〟と正信さんの間に何かあったのかな・・・)
歩き出した正信の背中を見つめ瑠璃は胸中で呟く。
それから程なくして、船は博覧会が行なわれる会場に到着した。
海上都市―――リュケイオン。
そこはまさしく、その名の通り、海に存在する都市だった。
「先生! お久しぶりです。お忙しい中ご足労願いまして―――――」
海底トンネルの向こう側から、こちらに歩いてきた人影が、正信に呼びかけてくる。
現れたのは、海老茶のタキシードに身を包み、手にも白い手袋を着けた、上品そうな雰囲気の金髪の青年だった。
「カルマ。これ、僕の息子の信彦。それから瑠璃さんだよ。―――二人とも、こっちは〝
笑みを浮かべた正信に、信彦と共に紹介された瑠璃は、改めて青年―――カルマに挨拶をした。
「音井教授のところでお世話になっている、瑪瑙瑠璃といいます。―――そしてこの子がA―――ナンバーズ新メンバーの
瑠璃の腕の中から「こんち―――」と挨拶をしてきた、〝ちびシグナル〟を、カルマは「え?」と唖然とした顔で見つめた。
移動の間はシグナルが着ていたのが私服だった為、信彦はくしゃみを我慢していたのだが、リュケイオンに着いてからシグナルがいつもの格好に戻ると、耐えていたくしゃみを信彦は放ったので、現在シグナルはちびに変形をしてしまっているのだった。
「・・・小さくなるとは聞いていましたけど」
驚きの余り、大きく開きそうになった口元を、取り出したハンカチで隠しながらカルマは呟く。と、俄かに明るい声が響いてきた。
「あっ、カルマ君だ―――っ。こんなところで何してんのさっ」
一足先に都市内を見学して来たらしいハーモニーが、カルマの前にふわりと飛んでくる。
「私はリュケイオンの市長ですよ」
ハーモニーと知り合いなのだろう、微笑しながらカルマは答える。
そして「ロボットが市長!?」と驚愕の声をクリスが上げると、カルマは都市に関して、それと自分の仕事に関して語り始めた。
「この都市は全てコンピューターで制御されているのでロボットの方が適任なのです。ロボット博覧会はここリュケイオンに頭脳集団〝アトランダム〟の本部が置かれる記念セレモニーであり私の初仕事。市長となるべく造られた私にとり大いなる喜びです」
仕事に対して直向きな態度のカルマに、クリスは呆気に取られたようで、まじめくんなのね、と呟き、対してみのるが、おそらく正信と同様にカルマとは長い付き合いなのだろう。
―――カルマ君立派になって、とほろりと涙ぐみながらカルマを見ていた。
やがて、そんなカルマに正信が、僕たちはどうすればいいのかな、と声を掛けると、コントロールセンターに正信は向かうことになり、瑠璃達はカルマに案内されて、宿泊施設に移動することになったのだった。
「ここは大家族の長期宿泊用の部屋です。部屋の設備はご自由にお使い下さい」
「ありがとうカルマ君」
案内された部屋には既に荷物が運び込まれていたので、みのるがカルマにお礼を告げると、早速クリスがトランクを開けて、荷物の整理を開始する。
「夜の夕食を兼ねて歓迎会を予定しております。ぜひ、ご参加を」
恭しく礼をして戻って行ったカルマを見送ると、みのるはパルスの方を振り返り、笑みを浮かべて言った。
「カルマ君見てると昔のパルス君思い出すわあ」
どうやら以前のパルスの喋り方は、いまのカルマのような感じだったらしい。
「バグる前ですね♪」
可愛かったわ、と笑みを零し、隣に来て同じように荷物の整理を始めたみのるから、喜々とした笑みを浮かべて、更にクリスが話を聞きだそうと試みる。けれど、よほど昔の自分の事は知られたくないのだろう。
激しい形相でパルスが詰め寄り「そんなヒマがあるのなら整備の腕でもみがけ!!」と言うと、それにカチンときたクリスはそのままパルスと言い合いを始めてしまった。
だが、二人の言い合いはまるで痴話ゲンカのようにしか見えず、仲がいいわねと、みのるは微笑ましそうに見ながら荷物の整理を続け、その言葉に瑠璃は自分の荷物の整理を手伝ってくれていたエララと顔を見合わせると、同意するように笑みを浮かべた。
荷物の整理を終えると、外に遊びに行っていた信彦が戻って来て、かくれんぼの最中に隠れようとした部屋で、同じ年頃の少女とロボットと遭遇した、という話を瑠璃は聞かされた。
「へ―――、隣にロボットと女の子がいたんだ。でも、それなら一緒に遊んでくればよかったのに」
首を傾げながら瑠璃は言うと、信彦は困惑した様子で「二人とも何か変だったからさー」と唸り、気がつくとべったりと瑠璃に引っ付くようにしていた、ちびシグナルを、ムッとした様子で引き剥がしに掛かっていく。
そんな信彦に、パルスのブレードの整備を行なっていたクリスが、怪訝そうに問いかけた。
「お―――い信彦。そのロボットどんなヤツさ」
「ええ? ロボットロボットしたヤツだったよっ」
うりゃ、と言う掛け声とともに、ちびシグナルを瑠璃から剥がし終えた信彦は、ふと思い出したらしいロボットの名前を呟く。
―――確か『ライデン』と呼ばれていたと。
「どうしたの? クリスちゃん」
信彦が洩らしたロボットの名前を、同じように呟いたクリスは、突然ハッとした様子を見せたかと思うと、引き攣った表情を顔に浮かべていた。
眉を顰めた瑠璃は、ふと部屋の中に正信と連れ立ってやって来た女性が、クリスに呼びかけた瞬間、
「おねっおねっお姉さま!? ど―――――してぇっ!!?」
悲鳴を上げたクリスを呆然と見つめた。
―――お姉さま?
「年の離れた妹さんがいるって聞いてたからもしかしたらって」
自分の尊敬する音井教授に闘いを挑むなんて無謀な子だねっ、と女性にひとしきりお説教をされると、クリスは笑みを浮かべ言った正信に、女性に頭を押されながら、怯えきった顔で叫んだ。
「迷惑をかけてすみませんでしたあっ!!」
クリスにとって頭の上がらない存在―――『姉』である彼女の名前は、コンスタンス・
そして、以前シグナルが倒した、クリスが連れて来たロボット〝セリオン〟は、コンスタンスが造ったものらしく(共同制作だとクリスは言っていたのだが)セリオンを無断で連れて行ったことは、ロボット工学者としての腕前を見せてもらうことで不問にすると、クリスは彼女に告げられるのと同時に、納得のいく結果が出なければ即、親元に帰るのです、と宣告をされてしまった。
厳しすぎるのではないか、というみのるにコンスタンスは序の口だと腕組みをしながら答え、クリスが整備の途中だった為に、片方のブレードをいまだつけ終えておらず、何ともいえない表情を浮かべていたパルスと、その傍にいたエララやハーモニーに視線を向けると、コロッと態度を変えて言った。
「あらA―――ナンバーズ勢ぞろいだったのね? 最新ナンバーのシグナルは?」
ちびシグナルが、エララの腕の中から必死にアプローチするも、コンスタンスはそれに気づくことはなく、もちろん連れてきているんですよね、と正信を振り返る。
けれど、どうやら正信はちびシグナルを紹介するつもりはないらしく、後で見せるよ、とコンスタンスに答え、それに対し彼女も、後で私の〝雷電〟を皆さんに紹介しますわと、告げてきた。
(雷電!!)
「―――確か、信彦君が会ったていう女の子が、一緒に居たっていうロボットをそう呼んでいたんだったのよね」
「うん。さっきの子―――――もしかして、あのおばさんの?」
先程、話題に上ったばかりのロボットと同じ名が聞こえてきた為に、思わず瑠璃と信彦が互いに顔を見合わせる。
すると、そこにコンスタンスが歩み寄って来た。
「君が音井先輩の息子さんね。いくつ?」
覗きこむようにして、話し掛けてきたコンスタンスに、え、と信彦は戸惑いつつ、答える。
「はい、信彦です。11歳ですけど」
コンスタンスは、ちゃんと返事が出来てえらいえらいと、信彦の頭をポンポンと手でやる。
そして、更ににっこりと笑みを浮かべて、お母さん似で良かったね、と言葉を続けた。
信彦がきちんと返事が出来るのは「僕とみのるさんの子供だから」と笑みを浮かべていた正信は、コンスタンスのその言葉に沈黙し、何故か皆がそう言うのよね、と不思議そうにみのるが首を傾げる。
「うちのマリエルも信彦君くらい元気だといいんだけど」
二人の様子に構う事はせず、コンスタンスは溜息を洩らすと、ふと瑠璃に視線を向けると首を傾げた。
「あら、貴女は?」
「初めまして、瑪瑙瑠璃と申します。音井教授のところで、いまお世話になっているんです」
「ということは、貴女もロボット工学を?」
「はい。まだ勉強中なので、ロボットを造ったことはないんですけど」
「そうなの。じゃあ、あのバカ娘のことよろしくね」
先程の出来事からまだ立ち直っていないクリスに、コンスタンスは視線を向け、微笑する。
そして、そのまま彼女は正信と連れ立ってまた仕事へと戻って行ってしまった。