第二章『兄弟』
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兄弟
音井家で暮らし始めて早数週間。
いつもの様に順に部屋の掃除を行い、書斎に入った瑠璃は手にしていた掃除機を床に置くと本棚に視線を向けた。
ロボット工学の本など、興味の惹かれるたくさんの蔵書を自由に読んで構わないと教授から許可を得ていた為、
掃除以外でもよく瑠璃は書斎に出入りをしていた。
「―――あれ? これってもしかして・・・・」
「瑠璃姉ちゃん、なに見てるの?」
ふと、目に留まった音井家のアルバム。
それを手に取り、何となく眺めていた瑠璃に様子を見に来た信彦がドアから顔を覗かせて声を掛けてきた。
信彦が瑠璃を『姉』と呼ぶのは、シグナルと同じように『姉弟』のように仲良くしていけると嬉しい、と瑠璃が言ったからだった。
「ちょうど良かった。―――信彦君、この写真なんだけど」
「写真?」
傍に来た信彦に瑠璃はアルバムを差し出しながら一枚の写真を指さす。
「っ?! じいちゃ~~~~~ん!!」
すると信彦は大きく目を見開き、アルバムを持って書斎を飛び出して行ってしまった。
「なんじゃい、大声を出して」
シグナルのジャケットのチェックを行なっていた教授は、リビングに血相を変えて駆け込んできた信彦に眉を顰め振り返った。
「ね―――! これこれこれ!!」
「アルバム・・・―――――がどうしたんじゃ?」
怪訝そうな表情でアルバムを見つめ、教授は首を傾げると一枚の写真を指さしながら信彦は叫んだ。
「なんでこんなシグナルの古い写真があるの!?」
写真のシグナルは短髪で学ランを着ていた。
当人であるシグナルが「こんなの撮ったっけ?」と眉を寄せると、眼鏡を外してレンズを布で擦りながら、教授は嘆息し口を開いた。
「信彦。お前は自分の父親の顔を忘れたのか?」
「え゛!?」
呆然と信彦はするとリビングに入って来た瑠璃が笑みを浮かべて言った。
「―――やっぱり、その写真の人は信彦君のお父さんだったんですね」
写真の人物は信彦の父親である『正信』で、20年以上昔に撮ったものだということだった。
そして、その頃の姿をモデルに使用して、シグナルを造るより前に試作ロボットを一体、正信と共同開発したのだと教授は語った。
「ぼくに試作品 がいたとは初耳だな」
シグナルが呟くと、赤毛の少女―――クリス・サインが手を上げながら教授に進言した。
「あたし見たいわ」
クリスは瑠璃が音井家で暮らすようになってから一週間ほど過ぎた頃、シグナルに勝負を挑みにやって来たロボット工学者の卵だった。
けれど造ったロボットがシグナルに敗れてしまったため、いまは教授の助手として音井家に住んでいるのだ。
興味津々という表情のクリスに教授は告げる。
「ここにはないよ。正信が留学先に持っていってしまったからな」
「あらら」
残念そうな表情をクリスは浮かべると、対照的に瑠璃が笑みを零し言った。
「でも、シグナル君の前機種ってことは、そのロボットはシグナル君にとって『お兄さん』ってことになるんですよね」
「そうじゃな。―――まぁ、そのうち会えるじゃろうて。名は・・・そう〝PULSE〟パルスといったか・・・」
それから数時間後に教授の言葉どおり瑠璃たちはパルスと出会うことになるのだった。
「シグナル!! お前を逮捕する!!」
「バカも休み休み言えっ!」
突然、勢いよく玄関の扉を開き怒鳴り込んで来た真城巡査に、手錠で両手首を拘束され、シグナルは憤慨しながら手錠を引きちぎった。
「真城巡査、いきなりやって来てその行動は横暴なんじゃないですか?」
「そうですよね! 瑠璃さん」
眉を顰める瑠璃にシグナルはパッと笑みを浮かべ頷く。
それを見て、庇う言葉を言って貰えた事が嬉しかったのだろう、とシグナルに憮然とした眼差しを向けながら、信彦が真城巡査に尋ねた。
「大体、シグナルはずっと家に居たのになんで?」
「ええい! うるさい! 本官をいきなり襲ったのはお前だろうが!?
ちょっとしか見てないがあの後ろ姿!! メカニック!! お前以外に誰がいる!!」
「違う」
否定の声を発したのは、電話の応対をしていた教授だった。
「それはシグナルじゃない・・・多分」
「なんだって!?」
真城巡査を始めとして、一同の視線が教授に向く。
受話器を置いて、振り返ってきた教授の顔は引き攣っており、体は微かに震えていた。
「―――大丈夫ですか? 教授」
眉を顰め瑠璃が教授に声を掛ける。最初に電話を受けたのは瑠璃だった。
電話の相手は正信だったのだが、教授に代わる前に受け答えをしたときには、
特に何かトラブルがあったという雰囲気は、全く感じられなかった。
「正信のところから、パルスが盗まれたそうだ」
「何~~~~~~!?」
虚ろな笑みを浮かべた教授の言葉に一同は愕然と声を上げた。
「音井教授が造られたロボットが盗まれたというのは解りましたが、海外で盗まれたロボットが何故この町にいるのですか?」
やがて、自分を襲ってきたのはシグナルとは別人(別ロボット)だと、一応理解した真城巡査が茫然とした表情で教授に尋ねた。
「それは分からんが・・・」
「プログラムが狂ったのかもな」
会話に口を挟んだのはシグナルだった。
チェックの終わったジャケットを着て、出掛けようとしているシグナルの姿を見て、ハッと振り返った真城巡査は詰問口調で問いかけた。
「シグナル、どこに行く!?」
「何があったにせよ、捜して連れて来た方がいいだろう?
それに本当に『兄さん』ならぼく以外、取り押さえられないだろうし」
正論である為に言い返すことが出来ず、真城巡査が押し黙ると、教授が懇願するようにシグナルに言った。
「もし暴れても、あまり傷つけんでくれよ。お前もパルスもわしの大事な『息子』なんじゃから」
「―――出来るなら『兄弟』で争うなんていう事態にならないと良いんだけど・・・」
シグナルが出て行った後、リビングに戻って来てからポツリと瑠璃は呟いた。
嫌な予感がする。眉根を寄せていると、また電話が鳴り響く音が聞こえてきた。
「ま―――た電話か!!」
「今度、俺取る、俺!!」
微かに苛立ったような表情で教授が唸ると、喜々とした笑みを浮かべて信彦が駆けだして行く。
電話の主はまた正信で、告げられてきた内容は事態をさらに逼迫させるものだった。
「あ―――の常識なしのガキゃあっ!!」
「じいちゃん・・・どうしたのさ」
怒りを露わにしている教授に、恐る恐るといった様子で信彦が声を掛ける。
『超高密度の高分子カッターと小型レーザーを開発してそれをパルスに取り付けた』
正信から伝言として教授に伝えて欲しいといわれた為、内容は聞いてはいたが意味までは信彦には解らなかったのだ。
「どーしたもこーしたも!! 今のパルスはまさしく全身凶器! 〝歩く刀〟じゃ!!
たいていのものは高分子カッターに引き裂かれレーザーに焼き切られる!!
本当にプログラムが狂っていたらえらい事になる!!」
怒りをそのままに叫んだ教授は、絶望したような表情を浮かべた。
「そうなったら普通の人間ではパルスは止められん!! シグナルに任せるしか・・・!!」
教授の言葉に一同の間に騒然とした雰囲気が流れる。
すると、それを破るようにして一通の手紙が速達で配達されてきた。
送り主は教授が大学の研究室に居た頃の同期となる『梅小路星麿』という男だった。
何かにつけて教授のことをライバル視し、ロボットチャンピオン大会で教授に敗れて以来ますます険悪になっているらしい。
この忙しいときに、といいながら封を切り手紙に目を通す教授の顔に、ふと呆気にとられたような表情が浮かんだ。
「難しいな、どういうこと?」
横から手紙を覗き込んだ信彦が眉根を寄せると、我に返った教授は声を上げた。
「つまり狙われているのはシグナルということじゃ!! シグナルが危ない!!」
手紙の内容は、いまだ教授に対してのライバル視の意識が消えていなかった梅小路博士が、
教授に対しての復讐としてパルスを正信のところから盗み、シグナルを破壊すべくそのプログラムを変更したというものだった。
「しかし音井教授!!」
「パルスはシグナルの試作品でしょう? シグナルの方が性能的に上ではないの?」
困惑の色を滲ませながら、真城巡査とクリスが教授に問いかける。
「正信がいじくっていなければ、じゃ!! なんとかパルスのプログラムを直さんと・・・」
急ぎ玄関に向かって走り出しながら、教授は信彦と瑠璃に振り返る。
「信彦は瑠璃さんとここにいなさい!瑠璃さん、すまないが信彦のこと頼むよ!!」
教授の後に続いて、真城巡査とクリスも飛び出して行ってしまった。
「ここにいろってな~~~~~~~~~~!」
「ここでじっと待っているなんて出来る訳ないじゃない!!」
腕組みをしながら信彦は唸る。その隣で眉根を寄せ瑠璃が言った。
そして、結局瑠璃も信彦を連れてパルスを捜しに外に出たのだった。
音井家で暮らし始めて早数週間。
いつもの様に順に部屋の掃除を行い、書斎に入った瑠璃は手にしていた掃除機を床に置くと本棚に視線を向けた。
ロボット工学の本など、興味の惹かれるたくさんの蔵書を自由に読んで構わないと教授から許可を得ていた為、
掃除以外でもよく瑠璃は書斎に出入りをしていた。
「―――あれ? これってもしかして・・・・」
「瑠璃姉ちゃん、なに見てるの?」
ふと、目に留まった音井家のアルバム。
それを手に取り、何となく眺めていた瑠璃に様子を見に来た信彦がドアから顔を覗かせて声を掛けてきた。
信彦が瑠璃を『姉』と呼ぶのは、シグナルと同じように『姉弟』のように仲良くしていけると嬉しい、と瑠璃が言ったからだった。
「ちょうど良かった。―――信彦君、この写真なんだけど」
「写真?」
傍に来た信彦に瑠璃はアルバムを差し出しながら一枚の写真を指さす。
「っ?! じいちゃ~~~~~ん!!」
すると信彦は大きく目を見開き、アルバムを持って書斎を飛び出して行ってしまった。
「なんじゃい、大声を出して」
シグナルのジャケットのチェックを行なっていた教授は、リビングに血相を変えて駆け込んできた信彦に眉を顰め振り返った。
「ね―――! これこれこれ!!」
「アルバム・・・―――――がどうしたんじゃ?」
怪訝そうな表情でアルバムを見つめ、教授は首を傾げると一枚の写真を指さしながら信彦は叫んだ。
「なんでこんなシグナルの古い写真があるの!?」
写真のシグナルは短髪で学ランを着ていた。
当人であるシグナルが「こんなの撮ったっけ?」と眉を寄せると、眼鏡を外してレンズを布で擦りながら、教授は嘆息し口を開いた。
「信彦。お前は自分の父親の顔を忘れたのか?」
「え゛!?」
呆然と信彦はするとリビングに入って来た瑠璃が笑みを浮かべて言った。
「―――やっぱり、その写真の人は信彦君のお父さんだったんですね」
写真の人物は信彦の父親である『正信』で、20年以上昔に撮ったものだということだった。
そして、その頃の姿をモデルに使用して、シグナルを造るより前に試作ロボットを一体、正信と共同開発したのだと教授は語った。
「ぼくに
シグナルが呟くと、赤毛の少女―――クリス・サインが手を上げながら教授に進言した。
「あたし見たいわ」
クリスは瑠璃が音井家で暮らすようになってから一週間ほど過ぎた頃、シグナルに勝負を挑みにやって来たロボット工学者の卵だった。
けれど造ったロボットがシグナルに敗れてしまったため、いまは教授の助手として音井家に住んでいるのだ。
興味津々という表情のクリスに教授は告げる。
「ここにはないよ。正信が留学先に持っていってしまったからな」
「あらら」
残念そうな表情をクリスは浮かべると、対照的に瑠璃が笑みを零し言った。
「でも、シグナル君の前機種ってことは、そのロボットはシグナル君にとって『お兄さん』ってことになるんですよね」
「そうじゃな。―――まぁ、そのうち会えるじゃろうて。名は・・・そう〝PULSE〟パルスといったか・・・」
それから数時間後に教授の言葉どおり瑠璃たちはパルスと出会うことになるのだった。
「シグナル!! お前を逮捕する!!」
「バカも休み休み言えっ!」
突然、勢いよく玄関の扉を開き怒鳴り込んで来た真城巡査に、手錠で両手首を拘束され、シグナルは憤慨しながら手錠を引きちぎった。
「真城巡査、いきなりやって来てその行動は横暴なんじゃないですか?」
「そうですよね! 瑠璃さん」
眉を顰める瑠璃にシグナルはパッと笑みを浮かべ頷く。
それを見て、庇う言葉を言って貰えた事が嬉しかったのだろう、とシグナルに憮然とした眼差しを向けながら、信彦が真城巡査に尋ねた。
「大体、シグナルはずっと家に居たのになんで?」
「ええい! うるさい! 本官をいきなり襲ったのはお前だろうが!?
ちょっとしか見てないがあの後ろ姿!! メカニック!! お前以外に誰がいる!!」
「違う」
否定の声を発したのは、電話の応対をしていた教授だった。
「それはシグナルじゃない・・・多分」
「なんだって!?」
真城巡査を始めとして、一同の視線が教授に向く。
受話器を置いて、振り返ってきた教授の顔は引き攣っており、体は微かに震えていた。
「―――大丈夫ですか? 教授」
眉を顰め瑠璃が教授に声を掛ける。最初に電話を受けたのは瑠璃だった。
電話の相手は正信だったのだが、教授に代わる前に受け答えをしたときには、
特に何かトラブルがあったという雰囲気は、全く感じられなかった。
「正信のところから、パルスが盗まれたそうだ」
「何~~~~~~!?」
虚ろな笑みを浮かべた教授の言葉に一同は愕然と声を上げた。
「音井教授が造られたロボットが盗まれたというのは解りましたが、海外で盗まれたロボットが何故この町にいるのですか?」
やがて、自分を襲ってきたのはシグナルとは別人(別ロボット)だと、一応理解した真城巡査が茫然とした表情で教授に尋ねた。
「それは分からんが・・・」
「プログラムが狂ったのかもな」
会話に口を挟んだのはシグナルだった。
チェックの終わったジャケットを着て、出掛けようとしているシグナルの姿を見て、ハッと振り返った真城巡査は詰問口調で問いかけた。
「シグナル、どこに行く!?」
「何があったにせよ、捜して連れて来た方がいいだろう?
それに本当に『兄さん』ならぼく以外、取り押さえられないだろうし」
正論である為に言い返すことが出来ず、真城巡査が押し黙ると、教授が懇願するようにシグナルに言った。
「もし暴れても、あまり傷つけんでくれよ。お前もパルスもわしの大事な『息子』なんじゃから」
「―――出来るなら『兄弟』で争うなんていう事態にならないと良いんだけど・・・」
シグナルが出て行った後、リビングに戻って来てからポツリと瑠璃は呟いた。
嫌な予感がする。眉根を寄せていると、また電話が鳴り響く音が聞こえてきた。
「ま―――た電話か!!」
「今度、俺取る、俺!!」
微かに苛立ったような表情で教授が唸ると、喜々とした笑みを浮かべて信彦が駆けだして行く。
電話の主はまた正信で、告げられてきた内容は事態をさらに逼迫させるものだった。
「あ―――の常識なしのガキゃあっ!!」
「じいちゃん・・・どうしたのさ」
怒りを露わにしている教授に、恐る恐るといった様子で信彦が声を掛ける。
『超高密度の高分子カッターと小型レーザーを開発してそれをパルスに取り付けた』
正信から伝言として教授に伝えて欲しいといわれた為、内容は聞いてはいたが意味までは信彦には解らなかったのだ。
「どーしたもこーしたも!! 今のパルスはまさしく全身凶器! 〝歩く刀〟じゃ!!
たいていのものは高分子カッターに引き裂かれレーザーに焼き切られる!!
本当にプログラムが狂っていたらえらい事になる!!」
怒りをそのままに叫んだ教授は、絶望したような表情を浮かべた。
「そうなったら普通の人間ではパルスは止められん!! シグナルに任せるしか・・・!!」
教授の言葉に一同の間に騒然とした雰囲気が流れる。
すると、それを破るようにして一通の手紙が速達で配達されてきた。
送り主は教授が大学の研究室に居た頃の同期となる『梅小路星麿』という男だった。
何かにつけて教授のことをライバル視し、ロボットチャンピオン大会で教授に敗れて以来ますます険悪になっているらしい。
この忙しいときに、といいながら封を切り手紙に目を通す教授の顔に、ふと呆気にとられたような表情が浮かんだ。
「難しいな、どういうこと?」
横から手紙を覗き込んだ信彦が眉根を寄せると、我に返った教授は声を上げた。
「つまり狙われているのはシグナルということじゃ!! シグナルが危ない!!」
手紙の内容は、いまだ教授に対してのライバル視の意識が消えていなかった梅小路博士が、
教授に対しての復讐としてパルスを正信のところから盗み、シグナルを破壊すべくそのプログラムを変更したというものだった。
「しかし音井教授!!」
「パルスはシグナルの試作品でしょう? シグナルの方が性能的に上ではないの?」
困惑の色を滲ませながら、真城巡査とクリスが教授に問いかける。
「正信がいじくっていなければ、じゃ!! なんとかパルスのプログラムを直さんと・・・」
急ぎ玄関に向かって走り出しながら、教授は信彦と瑠璃に振り返る。
「信彦は瑠璃さんとここにいなさい!瑠璃さん、すまないが信彦のこと頼むよ!!」
教授の後に続いて、真城巡査とクリスも飛び出して行ってしまった。
「ここにいろってな~~~~~~~~~~!」
「ここでじっと待っているなんて出来る訳ないじゃない!!」
腕組みをしながら信彦は唸る。その隣で眉根を寄せ瑠璃が言った。
そして、結局瑠璃も信彦を連れてパルスを捜しに外に出たのだった。