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第三章『戦いの果てに』

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電脳世界へ・・・。
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「オラトリオ、やっぱり―――――私もリュケイオンに一緒に行きたいんだけど」

 波止場に停められたモーターボート。

 リュケイオンの閉鎖を解きに行く為に、用意したそれに乗ろうとしたオラトリオを呼び止めたのは―――――後からリュケイオンに向かう事に決まった

みのるだった。

「みのるさーん、さっきも言ったでしょーっ。かっ飛ばして行きやすから人間には耐えられませんよ」

 胸の前で手を組みながら、懇願するような表情で見上げてくるみのるに、振り返ったオラトリオは苦笑する。

「でも・・・」

「ロボットの私達に任せて下さい」

 オラトリオの言う事は正論であるとは分かっていても、やはり感情の方が納得しきれず、みのるは言葉を紡ごうとする。

 それを制したのは先にオラトリオと一緒にリュケイオンに向かう事に決まった雷電だった。

「私達が行くまでに片をつけておけ」

 そして、沈黙してしまったみのるに代わって言葉を言い放ったのは、トッカリからやって来たラヴェンダーだった。

 彼女の製作者は音井教授であり、シグナルとパルスとの関係は定義づけるならば『姉弟』というものになる。

 だが、二人よりも前に教授はもう一体、情報処理を得意とするロボット―――――オラトリオを製作していた。

 つまり、オラトリオもラヴェンダーの『弟』に当たるのだ。

「へいへい」

 だからなのだろう。腕を組みながら見据えてくる『姉』に軽く肩を竦めながら、片手を挙げてオラトリオは頷くと、

そのまま異論を返すことなくモーターボートに乗り込んでいく。

 運転席にオラトリオが座ると、続いて後部席に乗った雷電がみのる達に振り返った。

「みのるさん、ラヴェンダーさん、キム女史をお願いします」

 この場にコンスタンスの姿がないのはリュケイオンの件を聞いた後、マリエルを残して来てしまった事にショックを受けて

寝込んでしまったからなのだ。

「あぁ」

「雷電・・・オラトリオも気をつけてね。信彦と瑠璃ちゃん達をよろしく」

「息子さんとお嬢さんだけでなく旦那の名前も言わなきゃ拗ねられまっせ」

 ラヴェンダーが頷いた後に、ゆっくりと口を開いたみのるは、縋るような眼差しで二人を見つめる。

 それに対しわざと茶目っ気たっぷりの笑みをオラトリオが返すと、エンジンは唸るような音を轟かせていく。

「まっ!! 大船に乗った気でまかせなさ―――――いっ。いってきや―――――す」



 ―――――信彦・・・瑠璃ちゃん・・・正信さん!! どうか無事でいて・・・!!―――――



 爆走していくモーターボードの姿が、あっという間に見えなくなってしまった時、みのるは目を伏せながら祈るように両手を組んでいた。





 廊下の先に続いている階段を上ると、そこにメインコントロールルームがある。

 ―――――おそらくあの中にはカルマがいるだろう。

「カルマをメインコントロールルームから出さなければならんか」

「当たり前でしょう!!」

 正面にある扉を見据え、パルスが思案するように顎に手を当てながら呟く。

 だが、その呟かれた言葉にしかめっ面でクリスが突っ込みを入れると、パルスは顔を向き直らせ、問いかけてきた。

「クリス、プログラムをメインコンピューターに流すのにどのぐらいかかる?」

「そうねぇ・・・・10分――――・・・って言いたいところだけど・・・9分!! いえ・・・8分!!」

「かなりかかるな」

「すんごいむっずかし―――――プログラムだもの。カルマと人工都市の接続を切るわけだからね」

 眉根を寄せながら答えたクリスが、手にしていたディスクを閃かせる。

 それを一瞥してから、ここに来る少し前から黙り込んでいた瑠璃に、パルスは視線を移動させる。

 じっと、瑠璃は扉を見つめていた。

 だが、おそらくその瞳が捉えているのは扉ではなく、その先に居る人物の姿―――――。

瑠璃

 呼びかけるように、パルスは瑠璃に声を掛けた。

 すると、ゆっくりとこちらに振り返ってきた瑠璃は、淡々と言葉を紡ぎだした。

「・・・・・パルス君、お願いがあるの。リュケイオンとの接続が切れるとカルマ君は自動的に機能停止してしまう。

だけど正信さんも私もカルマ君にこれ以上過ちを犯してほしくないからプログラムを作ったのであって―――――カルマ君自身に止まってほしいとは思っていないわ。だから・・・・・もし、カルマ君が自分から死を望んだ場合、『冬眠モードに切り替えて』と、そう伝えて」

 静かな瑠璃の声。

 だが、浮んでいる表情はここに同行すると言い放ったときと同じ。

 真剣で―――――哀しい表情。

「分かった」

 暫し、じっと瑠璃の顔を見つめると、パルスは頷き、左腕のブレードを携えるようにしながら歩き出す。

 その背に困惑した様子のクリスの問いが投げかけられた。

「ど、どうする気?」

「―――――私が合図するまで瑠璃と一緒に隠れていろ」

 パルスの言葉に、クリスは瑠璃を振り返る。

 と、瑠璃がそれに応えるように首を縦に振った。


 二人が身を隠すとパルスはブレードを閃かせていく。

 ガコ、という音を立て台形に斬れた扉の先―――――コントロールルームには予想どおりカルマの姿が在った。

「これはこれは・・・パルス君じゃないですか。この前の雪辱戦にいらっしゃったのですか?」

 冷笑を浮かべたカルマに対し、「なんとでも言え!!」と左腕のブレードを構えながら、おもむろにパルスが反対の手を束ねた髪に伸ばす。

「今度は負けん!!」

 次の瞬間、梳かれた髪が咆哮と同時に放電を纏い、赤い瞳からレーザーが放たれる。

「!!」

 反射的に顔の前で腕を交差させながら身を捻ってカルマが避けると、焼き切られたのは一部のコントロールのケーブルだった。

「コントロールを破壊するつもりですか!! パルス君!! 生命維持系のコントロール装置を壊してしまえば私たちはともかく人間は生きていけませんよ!!」

「そのかわりお前はこのリュケイオンを操れなくなるのだろう」

 顔を上げると、思わず愕然とした様子で叫んだカルマに、パルスは冷静ともいえる表情のまま淡々と告げる。

「人間は生きていけんと言ってもすぐにというわけではないだろう。その前に助ければいいことだ」

「『助けられれ・・ば』でしょう?」

 刹那、動揺の表情を消したカルマが、パルス目掛けてナイフを投げつけていく。

 だが、サッとパルスが避けた為ナイフはその背後の機械へと突き刺さっていた。

「お前こそコントロールを破壊するつもりか?」

 さらにナイフを投げようとしていたカルマはハッと動きを止める。

 それを見て、「この中ではお互い闘いにくいな」とパルスが呟き―――――

「来い!! 他で決着をつけるぞ!!」

 叫ぶと、躊躇うようにカルマは視線を俯かせたが、それは一瞬のことだった。



 先にコントロールルームから出たパルスは、柱の陰に隠れていた二人に〝合図〟を送ると、そのまま足を止めることなく通路を疾走する。

 そして、出た先に広がっていた円形の路の手すりを飛び越えて下の階に降り立つと、後を追ってきたカルマも同じように飛び降りて行く。

 ―――――パルスは自分を囮にしてカルマをコントロールルームから出したのだ。

 やがて、無人となったその部屋でプログラムを流すべく、メインコンピューターに向かってクリスが作業を開始すると、 瑠璃の方は〝あるモノ〟を見つけるべく周囲の探査を行なっていた。

「準備は出来た? クリスちゃん」

「――――・・・はい。あとはパスカードを使うだけです」

 クリスの視線の先―――――コンピューターの画面にはこんな文章が現れていた。


 ―――――このプログラムを進行させるにはパスカードが必要です―――――


〝2枚のパスカード〟―――――そのうちの1枚を、瑠璃からクリスは受け取って席を立つ。

 瑠璃が探していたのは、〝2枚のパスカード〟

 だが、これが必要だと、2枚あるのだと、何故最初から瑠璃は知っていたのか。

 疑念が脳裏に過ぎるも、いまはそれを考えている場合ではない。

 2枚のカードは同時に差入口に入れなければならない。

 失敗したら2度と―――――二度とプログラムを流せなくなってしまう。

「じゃあ瑠璃さん、1・2・3でいきますよ」

「えぇ」


1・2・3!!



「―――――っ!?」

 左右にある差入口の前に立った二人のカウントが重なり合い、2枚のパスカードが入った直後―――――パルスと交戦を行なっていたカルマが、それによって引き起こされた反動を受けて崩れおののいていく。

 その姿を見てパルスが叫んだ。

「プログラムが流せたか!!」

 だが、完全に倒れ込む前にカルマは最後の力を振り絞るかのようにして、ナイフを投げてくる。

 頬を掠め、さらに束ねていた髪も数本切れたが、それに構うことなく、パルスはブレードをカルマ目掛けて振り下ろし―――――寸でのところで静止させていた。

 それはカルマが覚悟を決めた様子で、目を閉じていたからだった。

 交戦の中で感じていた―――――『疑惑』をパルスは茫然と口にする。

「カルマお前・・・―――――もしかしてこれを待っていたのか?」

 リュケイオンとの接続を切られることを。

 自らを破壊されることを。

「私はメインコントロールルームから出たときにもう負けていましたから。 接続を切るプログラム・・・正信の組んだものでしょう?」

 ふっ・・・と自嘲的な笑みを浮べながら言ったカルマの言葉に、パルスは思い返す。

「そういえば若先生は!?」


「無事・・・とは言い難いですが生きています。あとで医務室に行ってください」


 答えると、ふとカルマは目を伏せて静かな声で言った。

「もし私がアトランダムに完璧に洗脳されていたら、私は正信を消していた・・・・・かもしれません」

「今までのことは正気で・・・自分の意思でやっていたというのか!?」

「いえ、最初のうちはアトランダムに操られていたと思います。

正信と争ったときからでしょうか。ふと気づくと自分の意志で動いていました。

君とシグナル君と同じですよ。バグったというか・・・前の『私』が洗脳された『私』を取り込んだというか」

 淡々と語るカルマを、愕然と見ていたパルスは、ふとその顔が苦痛の表情を浮かべたのに気づいた―――――同時に浮んでくる瑠璃の言葉。


〝リュケイオンとの接続が切れるとカルマ君は自動的に機能停止してしまう〟


「・・・・・・」

「私はリュケイオンの部品ですから。こことの接続を切られることは、すなわち私の機能不良として自動的に機能停止するよう造られています」


 ―――――機能停止。それはロボットの〝死〟だ。


 パルスの考えを見透かしたかのように、告げたカルマは自身の心情を語りだす。


 音井教授のところに預けられていた頃はよかった―――――・・・あの方も・・・正信もロボットに敬意を持ってつきあってくれた・・・。

 だが、他の場所では自分はただの機械。アトランダムの代替品でしかなかったのだと。

「いつの間にか私は自分が〝カルマ〟なのか、〝アトランダム〟の影なのか、解からなくなってしまいました。 けれど正信と争っているうちに自分の過去を思い出して・・・そこでようやく解かりました。〝私〟は〝私〟だと。 皮肉ですね、こんなことで自分が解かるなんて!!」

 込み上げてきた感情に耐え切れなくなったのか、カルマは顔を両手で覆った。

「正信さんには悪いことをしました。アトランダムの命令に従いつつ正信の生命を守るにはあれしか方法がなかったんです。 ―――――カルマが〝すまなかった〟と言っていたと正信さんに伝えておいて下さいませんか」

 嘆きながら、言伝を託してきたカルマを、パルスは腰に手を当てながら見据えた。

 ふと、胸中に静かな憤りの感情が渦巻いてきたのを感じながら―――――。

「若先生に言いたいことがあったら直接言え。私は知らん」

「言いたくても・・・あの、私は」

 きっぱりとした口調で言い放つと、呆然と顔を上げて見上げてきたカルマと視線が合う。





〝正信さんも私もカルマ君にこれ以上過ちを犯してほしくないからプログラムを作ったのであって―――――カルマ君自身に止まってほしいとは思っていないわ。 だから・・・・・もし、カルマ君が自分から死を望んだ場合『冬眠モードに切り替えて』と、そう伝えて〟




「私もシグナルも非常時には冬眠モードにして眠ることができる。冬眠モードに切り替えれば機能停止は避ける事ができるだろう」


「―――パルス君・・・」


「これは瑠璃から、お前に伝えてほしいと頼まれたことだ―――――だから、おそらくはそうすれば音井教授か若先生がお前を修理してくれるだろう」


 抑揚の無い声でパルスが告げると「・・・瑠璃さんから?」と僅かに驚いた表情でカルマは目を見開く。

 が、次いで小声で洩らされたのは、修理してくれるわけはないでしょうに、という否定の言葉。

「それは音井教授と若先生が決めること―――――私はあいつが哀しむ顔を見たくないから伝えただけだ。 だが、お前も二人を信頼できるのなら冬眠モードに入る方が機能停止よりよっぽどいいのではないのか」

 変わらぬ声の調子で言葉を続け、カルマからの返答をパルスは待つ。

「そうですね。分かりました―――――皆さんにお任せします」

 やがてカルマは了承の言葉を返すと―――――静かな微笑を浮かべて眠りに就いていった。
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