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第三章『戦いの果てに』

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    戦いの果てに





 瑠璃がカルマから渡された冷却液―――――それを元々着ていたジャケットにエララが組み込んだおかげで、シグナルは本調子とまではいかないものの体力が回復した。

 だが、一方カルマによって片腕のブレードを壊されてしまったパルスは、修理をクリスが行なっていた最中、ふと気がつくと姿が見えなくなってしまっていたマリエルが、部屋の外に出て行ってしまったことが判明した為に、そのままシグナルと一緒に連れ戻しに行ってしまった。


 ――――おそらくマリエルは港に、コンスタンスと雷電を迎えに向かったのだろう。


 やがて、そう目星をつけたシグナルとパルスが港に向かって疾走していた中で、体を手に入れたアトランダムと遭遇し戦闘を開始した時。

「―――メインコントロールルームに行くチャンスかもしれません」

 研究室でコンピューターを操作して、何とか音声だけ傍受出来るようにした正信はそう瑠璃達に告げてきた。

 リュケイオンは全てカルマに管理されている―――――それを切り離すプログラムを正信は作ったのだが、プログラムはメインコンピューターに直接流さなければ効果が無い物なのだ。

「危険です!! そんな・・・!!」

「そ―――だよ―――!! 危ないよ!!」

 一種の賭けともいえる行動に出ようとする正信に、反対の声を上げたのはエララと信彦だった。

 だが、二人に静かな声で切り返しながら、正信は腕を背後のドアに伸ばしていく。

「今現在、多分シグナルとパルスも危ない目にあっていますよ」

「・・・・・・」

 その様を押し黙った表情で瑠璃は見つめていた。



『カルマの弟として・・・元のカルマに戻してみせる!!』



 昔、正信はカルマと兄弟のように一緒に暮らしていた頃があったのだそうだ。

 プログラム製作を手伝っていた時に瑠璃は正信から―――――カルマとの関係を聞くのと同時に、正信自身の決意を聞いていた。

 だから・・・自分は正信を止める事は出来ない。


「クリス君、エララ君、瑠璃さん―――・・・信彦を頼みます」

「若先生!!」

「親父―――――!!」

 やがて視線を巡らせ言葉を残すと同時に正信は部屋の外に飛出すと、愕然と叫んだエララと信彦に応える事なく、そのまま駆け出して行ってしまった。





 そしてその時、トッカリでは。

「教授!! これを届ければ良いのだな!!」

「シグナルに渡してくれ!! 頼んだぞラヴェンダー!!」

 研究所に残っていた教授が、みのるからリュケイオンと連絡が取れなくなってしまったという知らせを受けて、自分を尋ねてやって来ていた―――――シグナル達にとっては『姉』に当たるロボット〝LAVEDER〟ラヴェンダー―――――に急ぎ先にリュケイオンに向ってくれるよう頼んだ上で、〝あるもの〟を託していた。



―――――頼む、皆―――――どうか無事で居てくれ!!―――――



 だが苦渋に満ちた表情で、ラヴェンダーを見送った教授の想いとは裏腹に、事態はさらに険しい方向に流れていく事となるのだった。




瑠璃さん、ちょっといい?」

 正信が部屋を出て行ってしまってから暫らく過ぎた頃、床に座りながらそわそわと落ち着きなく時計を睨みつける信彦の様子を、若干硬い表情で見ていた瑠璃に声を掛けてきたのはクリスだった。

 見ているこっちの方がイライラしてくる、と少し前まで信彦に対し唸っていたのだが、どうやら何か考え付いたらしい。

「・・・えぇ」

 何となく、クリスの用件に察しがついた瑠璃は、目を伏せ静かに頷くと、怪訝そうにこちらを見てきた信彦には、ちょっと待っていて欲しいと告げ、クリスと一緒にエララが居る隣の部屋に入室する。

「皆、遅すぎるから様子を見にこうと思うんだ」

「いえ、私が行こうと思っていたんです。クリスさんは信彦さんとここに居てください」

 ドアを後ろ手に閉めると同時に口火を切ったクリスに対し、異論を返したのはエララだった。

「ちょこっと行って見てくるだけよ! いっくらアトランダムが危ないっていってもさぁ・・・」

「いいえ。行くのならロボットの私が―――――」

 眉根を寄せるクリスにエララが真剣な表情で詰め寄って行く。

 先程、正信を止められなかった事が尾を引いているのだろうか。

 だが、正信を止めることが出来なかったというのは瑠璃も同じ。

 ―――――胸中に抱えている想いは同じものなのだ。

 ぎゅっと両手を握り締めると、瑠璃は部屋の外に出る為のドアの方に移動して行く。

 そっと開いたドアの向こうに身を滑り込ませ、二人に気づかれる前にと駆け出して通路を曲がったとき―――――不意に聞こえてきた声に瑠璃は僅かに目を瞠りながら振り返った。

瑠璃姉ちゃん!」

「・・・信彦君?・・・なんで?」

「俺だって皆の事が心配なんだ! だから一緒に行く!!」

 置いてけぼりは嫌だと憮然とした表情が浮かんではいるが、その瞳は真っ直ぐにこちらを見据えてきている。

 ―――――信彦を連れて行くか否か。瑠璃が迷ったのは、ほんの数秒間の事だった。

「分かったわ、信彦君。一緒に行きましょう」

「うん!」

 ニッと笑みを浮かべると、信彦は差し出された瑠璃の手を取り、一緒に通路を走り出した。





リュケイオンの建物内の地図は、正信のプログラム製作を手伝っていた時に、見せてもらったものを瑠璃は頭の中に叩き込んでいた。

 だからおそらくはシグナル達が通って行っただろう港までの最短距離―――――それを瑠璃はひとまず辿っていたのだが。

 ロビーまで来たとき、ハッと瑠璃は信彦と共に柱の影へと身を潜めていた。

「レーザーは拡散してしまえば単なる〝光〟だ。自由に組成を変えられるMIRAの性質を利用できればたやすい芸当。つまり手を特殊なレンズにしてレーザーを拡散したわけだ」

「MIRAを使いこなせるのか!?」

「間抜けとはいえ、最新型のシグナルにも扱いかねているMIRAを!?」

 優越感に満ちた男の声。それに対し、愕然としたらしい二人の声が聞こえてくる。

 柱の向こうには、アトランダムと対峙するシグナルとパルスの姿が在った。

 だが、緊迫していたはずの空気はどこへいってしまったのだろうか。

間抜けと言う言葉に反応して「失礼なこと言うなパルス!!」とシグナルが噛み付いていけば―――――

「事実だろうが」

 と僅かに眉根を寄せながらパルスが言葉を返していく。

「漫才をしている暇があるのなら私と闘ってくれ。26年間の運動不足を解消したいのだからな」

 状況を忘れていつもの兄弟ゲンカを始めようとした二人に、さしものアトランダムも呆れた表情を見せる。

だが、二人に言葉を投じると、ふと剣呑な眼差しでアトランダムは、肩越しに瑠璃達が潜む柱の方を振り返った。

「そこの柱の影にいるやつ、隠れているつもりかい?」

 様子を見る為に、信彦が顔を覗かせていたのだが、どうやら気づかれてしまったらしい。

「さぁ、出ておいで」

 冷徹さを含んだ呼びかけに「しまったっ」と信彦が身を引いた直後―――――こちらに向かって掲げられたアトランダムの手から光弾が放たれてくる。

「信彦君!!」

 ひっ、と悲鳴を洩らし、身体を強張らせた信彦に瑠璃が腕を伸ばし、守るようにぎゅっと抱きしめると、そのまま柱が打ち砕かれて引き起こされた爆風によって飛ばされていく。

「信彦!! 瑠璃さん!!」

瑠璃!!」

 ほぼ同時にシグナルとパルスが叫んだとき、信彦を抱いた瑠璃は背中から壁にぶつかった状態となっていた。

「おや? 信彦・・・というと正信の息子か? 瑠璃・・・というのは・・・」

 冷然と視線を向け、呟くアトランダムから隠すように、俊足にシグナル達が正面に移動すると、受けた衝撃に僅かに顔を歪めながら瑠璃が目を開け、その腕に守られたおかげで無傷だった信彦が、呆然と二人の名を呼ぶ。

「シグナル!! パルス!!」

「馬鹿! 何しにきた!!」

「・・・シグナル君、信彦君は悪くないの。先に私が飛出して、追ってきてくれた信彦君を止めずに一緒に連れてきちゃったから」

 いつまでも座り込んでいる訳にはいかない。

 険しい表情のシグナルに告げながら、信彦と一緒に瑠璃は立ち上がり、人間形態となったアトランダムの姿を、改めて確認するように見据える。

 見上げるほどの長身を包むのはハードレザーの黒一色のコート。

「ふん・・・二人共、ガキと女を庇える余裕はあるんだねぇ」

 刃のような輝きのプラチナブロンドの髪と――――氷のような瞳。

「行け!! 信彦、瑠璃さんと一緒に早く逃げろ!!」

「私達が食い止めていられるうちに!!」

 冷笑したアトランダムが、こちらに踏み出してくると同時にシグナルとパルスが叫んだ。

「シグナル・・・パルス・・・」

 それに答えようと口を開きかけた信彦の顔が、顰められたのはその直後。

 鼻を腕で押さえるようにしたその仕草も空しく、信彦はくしゃみをしてしまい、

シグナルの悲鳴が上がると―――――そこには変わってちびシグナルが現れる。

 こうなってしまってはアトランダムを食い止めることが出来ない。

 一瞬、呆然としてしまったパルスを我に返らせたのは、アトランダムの異変に気づいた瑠璃の声だった。

「パルス君!! あれ!!」

「ぐ・・・あ・・・」

 床にひざを着いたアトランダムの顔には、苦悶の表情が浮んでいる。

「な・・・何!?」

「アトランダムどうしたの?」

 驚く信彦とパルスの視線の先で、何とか立ち上がろうとしてよろけながら手を掛けた柱を、アトランダムは絶叫をとどろかせながら粉砕し、また床に崩れ慄いていく。

 ―――――いったい、どうしたというのか?

 原因は解からないが、いまアトランダムは自分達のことは眼中にないようだ。

「パルス君!」

「あぁ。信彦掴まれ!!」

 瑠璃と目を合わせ頷き合うと、ちびシグナルを抱いている信彦をブレードが着いていない方の腕でパルスは抱え上げる。

そしてこの場から離れるべく二人で走り出した。




 部屋の近くの通路まで戻って来たところで、瑠璃達はクリスと合流を果たした。

 その為、まず瑠璃と信彦が勝手に飛出して行ってしまったことをクリスに対し謝罪を行なうと、そこに口を挟むようにして、

シグナルのMIRAを使用してアトランダムが人間形態ヒューマンフォームロボットになったと報せたパルスは、珍しく神妙な面持ちで呻いた。

「くやしいが私もシグナルもヤツには勝てん! アトランダムは恐ろしく強い・・・強すぎる!!」

「あんたもシグナルも本調子じゃないから・・・でしょ?」

 カルマに負けたときでさえ、あの時は油断していただけだ。

 次は勝つ! とパルスは断言をしていたのだ。

 それなのに、アトランダムに対してこの言葉は・・・・・。

 瞠目するクリスに、パルスは答える事をしなかった。

「パルス君わぁ、アトランダム君に負けてしまいました。かわいそうですね―――――」

 代わって口を開いたのは、ちびシグナルである。

 だが、小首を傾げた後に、嘆息しながら言ったちびシグナルの発言はパルスにとって聞き捨てならないものだったらしい。

「ちょっと待てシグナル!! 言っておくがな、お前もアトランダムには敵わなかったのだぞ!!」

「ぼくじゃありませ―――ん。大きいシグナル君が負けたんで―――す」

 怒りに肩を震わせるパルスに猫の子のように首根っこを掴まれても、ちびシグナルは平然と笑みを浮かべたまま。

 いつもと違って強気なちびシグナルの姿をクリスと信彦が思わず呆然と見つめる中、ふと瑠璃はこちらに向かって飛んでくる影に気がつき目を瞬いた。

 あれは・・・・

「大変だぁ!!」

 かなり慌てた様子で現れたのはハーモニーだった。

 思い返してみればマリエルが居なくなった時、ハーモニーの姿も見当たらなくなっていた。

 ということは一緒に居た可能性が高い。

 気が動転してしまっているハーモニーを瑠璃が落ち着かせ、話を聞いてみると予想通り、マリエルと一緒に居たということが明らかになった。

 そして正信と会い、二人は逃がされたのだということも。

「それでハーモニー君、マリエルちゃんは? どこにいるの!!」

「こちらです瑠璃さん」

 後ろから聞こえてきた声に振り返ると、そこには腕にマリエルを抱いたエララの姿が在った。

「エララに頼んで連れてきてもらったんだ」

 事情を語るハーモニーに、エララは一枚のディスクを差し出してくる。

「それよりハーモニーさん、貴方が若先生から預かったこのディスクどうしますか?」

「なんだ、それは」

 眉を顰め、問いかけたのはパルスである。

 カルマとリュケイオンの接続リンクを切るディスク―――――それの説明を正信が行なっていた時、パルスは眠っていた為に聞いていなかったのだ。

「カルマ君とリュケイオンの接続を切るプログラムディスクよ。でも、メインコントロールルームのコンピューターに流さなきゃ駄目なの」

 瑠璃が答えると、パルスは思案するように沈黙する。

 その間に、敵のアジトなんか誰が行くっつーのよ!! とクリスが喚いていたが、やがてパルスが出した結論は先にメインコントロールルームに行くというものだった。

「若先生のことだ、何か策があってのことだろう。それに早くプログラムを流せば、それだけ若先生への危険も少なくなるだろう」

「あぁ、そう。頑張ってね」

 腕を組みながら、淡々と語るパルスに、他人事のように言ったのはクリスである。

 見送るつもりらしく、ハンカチを取り出し、それをひらひらと振っている。

 だが、そんなクリスの肩を、パルスは組んでいた腕を解くと、片手でガシッと掴んだ。

「一番コンピューターに詳しいのは、お前か瑠璃だろうが!! 来い!!」

「ちょっとパルス!! か弱いあたしをそんな危ない所に~!?」

「大丈夫よ、クリスちゃん。私も一緒に行くから」

 離しなさいよと喚くクリスに瑠璃が告げ、パルスの顔を見据える。

 一瞬、パルスは目を見開き、驚いたような表情を浮かべていた。

「どうせ止めたところで聞かないだろうからな。行くぞ!」

 だが、すぐに溜息を吐き出すと、ふ、と真剣な顔つきになり、様子を見ていた信彦達に声を掛けるとそのまま歩き出したのだった。





「いいか、信彦達は隠れていろ。プログラムを流せたらすぐ逃げられるように港の近くに居るんだ」

 二方に分かれる通路。ここまでは何事もなく来る事ができた。

 だが、まだ油断出来ない。これからが本番なのだ。

 自然と表情が厳しくなっているパルスが信彦達に指示を出すと、プログラムディスクをクリスに差し出す。

瑠璃姉ちゃんもクリス姉ちゃんも頑張ってね」

「えぇ、ありがとう」

 そして、クリスがディスクを受け取り、見送ってくれる信彦やちびシグナルに頷きながら瑠璃が背を向けた時。

「!!?」

 突然、起こった出来事に一同は騒然となった。

 激しい揺れが襲ってくるのと同時に今まで立っていた床が三つに分離を始めたのだ。

「ちび、危ない!!」

「信彦!! 早くそこの廊下に逃げなさい!」

 床を転がり落ちそうになったちびシグナルを、腕を伸ばし抱きかかえた信彦に、クリスが叫ぶ。

 だが、叫んだクリス自身もバランスを崩し、穿たれた穴に向かって身を滑らせていく。

「クリスちゃん!?」

「クリス!! お前こそ自分の足元を見るのだな!」

 慌てて瑠璃が手を伸ばした時、落下する寸前のところでクリスは隣に来ていたパルスが、ブレードの着いていない方の腕を伸ばして腰を捉えた為、無事だった。

 一方、マリエルと一緒に取り残されてしまっていたエララも。

「マリエルさん、私にしっかり掴まっていて下さいね」

分かれた後にさらに後退していく床から、信彦が避難した方の廊下に向かって腕にマリエルを抱いたまま、勢いよく跳躍をおこない何とか危機から脱した。

 だが、何故いきなり床が抜けるなどという出来事が起こったのだろうか。

「緊急用のシステムが作動させられたのね・・・誰かに・・・」

 ふと、思い浮んだ答えを呟いた瑠璃の顔が強張る。

〝誰か〟とは言っても、そんな事を出来る人物は限られている。

「緊急用システム。災害時にブロックを切り離し被害を抑える・・・そんなところか。

こんなシステムを作動させるとは、アトランダムかカルマか知らんが許せん」

 瑠璃の言葉を反芻しながら状況分析を行なったパルスは、キッと背後のメインコントロールルームに繋がる廊下を睨みつけると、

反対側の虚空の先の廊下に居る信彦に向かって声を張り上げた。

「信彦! お前達はそのまま港に行け!! 私達は当初の予定通りメインコントロールルームに行く!!」

「俺達だけで?」

「危なくなったらシグナルを大きくしろ!」

 当惑した様子を見せた信彦にパルスは決然と告げ、踵を返す。

 それを止めたのは、落下しそうになった恐怖から、まだ立ち直りきっていなかったクリスだった。

「私達―――――ってやっぱりあたしもこのプログラムディスク流しに行かなきゃダメ?」

「・・・ええ。おそらく、私だけじゃプログラムを流す事は出来ないと思うから」

「行くぞ!! 一刻も早くプログラムを流す!!」

 だが、何かを思い返そうとするかのように目を伏せていた瑠璃が、真剣な表情で頷くと次いでパルスも言い放ち、同時に走り出してしまった為、結局クリスはそのまま同行を余儀なくされることとなってしまったのだった。
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