第三章『アトランダム始動』
『TWINSIGNAL夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〝アトランダム〟とユーロパが何処かに潜伏してしまった後、コントロールルームのメインエリアで二人の探索を行なうという
カルマからの連絡を待つ為に、一同は部屋へと戻って来ていた。
――――もちろん、マリエルも一緒である。
そしてその間に瑠璃はエララから彼女の妹であるユーロパについて話を聞いていた。
エララとユーロパは製作されてから暫らくの間は、製作者であるカシオペア博士のもとで暮らしていた。
だがその後、別々に引き取られてからユーロパの方だけ消息不明となってしまっていたのだそうだ。
「正信さん、カルマ君から連絡はありましたか?」
部屋の中に完備された研究室から正信が出てきたのを見ると、座っていたソファーから立ち上がり瑠璃は尋ねた。
「―――まだカルマから連絡はきてないんだけど、あれからかなり経ったか」
腕時計に視線を落とした正信は、踵を返すと内線電話が置いてある場所に近付いて行く。
ここに来たのは日暮れ前のこと。今は空にあるのは、太陽ではなく月である。
「変だな・・・カルマが2体のロボットにこんな時間を掛けるなんて―――――」
眉を顰めながら受話器を手にボタンを押した正信の姿を一同が眺めていると、どうやらカルマと連絡が取れたようだった。
だが、連絡を取り終えて受話器を戻したとき、正信の顔には怪訝そうな表情が浮かんでいた。
「今のカルマの口調―――――何か引っ掛かるんだが―――――」
口元に手を当てながら、考え込むように正信は呟く。
――――が、ロボット心理学は正信の専門外。
今は外に行っていて居ない、みのるがそちらの専門である。
「パルス、整備 終わったらシグナルと一緒にカルマの指示に従って」
暫しの間、正信は眉を寄せて唸っていたが、やがてひとまずカルマからの要請を告げる事にしたらしい。
シグナルがまたちびに変形してしまっていた為、パルスのみが返事をすると、ふと正信は真剣な顔つきで言った。
「いいか―――――アトランダムには気をつけられるだけ気をつけろ。絶対に気を抜くな。
あと―――――少しカルマに注意しててくれ。何か・・・おかしい」
〝アトランダム〟に対する事を言い含めた上で、さらにカルマの事を口にした正信の言葉は、その時のパルスにとっては不可解なものでしかなかった。
けれど、シグナルと共にカルマに同行して向かった倉庫―――――そこでシグナルの髪の毛を切ったカルマが「全てはアトランダムの為に」と言って持ち去ってしまった事から、正信の言葉の意味が明白なものとなった。
――――カルマは〝アトランダム〟に操られていたのだ。
『覚えておけ!! いつか私は自分の体を手に入れお前達に復讐してやる!!』
―――――26年前、封印されようとしたとき、〝アトランダム〟が科学者達に対し言った憎悪の言葉。
「じゃ、今までの事はみんな復讐の為―――――?」
一夜明けた次の日。シグナル達は改めて正信から、〝アトランダム〟について話を聞いていた。
「だから早めに機能を停止させたかったんだが―――――」
呆然と声を洩らしたシグナルに肯定するように頷き、ソファーに座った正信の顔に微かだが苦々しい表情が浮かぶ。
「予想外だったのがアトランダムの新しい能力とユーロパだ。おかげで裏をかかれまくってしまった」
―――――ロボットを操る能力。
「・・・・でも、変ですよね」
「封印されていたのに開発できるものなのだろうか?」
眉を瑠璃が寄せると、〝アトランダム〟に操られてしまった時の事を思い返したのだろう。
表情を曇らせ、僅かに俯きながらパルスが言った。
「そう!! 正信とも喋ったけどそこが変なんだよね―――――」
パチンと指を鳴らし、ハーモニーが口を挟む。
と、そこに研究室の方に居たクリスとエララが姿を見せた為、話は一時中断を迎える事となった。
二人はリュケイオンに来る際に教授が持たせてくれていたMIRA を―――――シグナルの髪の毛を修復する為に荷物の中から探していたのだ。
だが、やはりそれも既にカルマに持ち去られてしまったようだった。
「つ、つまりそれってぼくの髪が元に戻らないって・・・」
「すみません、シグナルさん!!」
愕然とするシグナルにエララが勢いよく頭を下げた。
同行者の中で唯一、MIRAを扱える彼女が管理を行なっていたのだ。
「シグナル特殊金属 でできてるじゃん。大丈夫!! 伸びてくるって!」
ポンッとシグナルの腕を叩き、明るい口調で言ったのは信彦だった。
「自己修復するしな」
同意するように淡々とパルスも告げると、一瞬シグナルの顔に閉口したような表情が浮かぶ。
「うっとーしい髪がすっきりしてかえって良かったんじゃないの―――――っ?」
だが、カカカと他人事だと言わんばかりに、笑いながらクリスが言った言葉にどうやらシグナルはプチンと切れてしまったらしい。
「てめ―――――ら!! いい加減にしろよ!!」
声を上げると同時に憤然と3人に向かって行く。
が、その刹那襲ってきた眩暈によってシグナルは床へとひっくり返ってしまった。
「シグナルさん!? 大丈夫ですかっ」
駆け寄り、エララが傍に膝を折ると、何とか体を起こしたシグナルは荒い息を吐き出しながら呻いた。
「―――なんだ・・・? 体中・・・熱い―――」
熱があるということは、風邪ではないのか?
信彦とマリエルが、僅かに困惑したような表情でシグナルを見つめる。
けれど、ロボットであるシグナルに起こったその症状は風邪ではなく―――――
「・・・髪を短くされた所為ね」
そっと、シグナルの額に手を伸ばし、確認をした瑠璃が結論を言った。
人間形態 ロボットは髪で熱を体の外に逃がすことが多い。
シグナルは髪の毛が短くなった所為で、それがうまく機能しなくなり倒れてしまったのだ。
―――――ならば、シグナルのその症状を治す方法は只一つ。
MIRAの材料を地下の貯蔵庫から取ってきて、新しく合成を行なえばいい。
暫らくの話し合いの後、地下の貯蔵庫には瑠璃がパルスと共に向かう事になった。
最初はエララが行くといったのだが、唯一MIRAを扱える彼女に何かあった場合、元も子もなくなってしまう。
だから自分が行くからと、瑠璃がエララを説き伏せ、正信からボディーガードにパルスを連れて行くということを条件に了承を得たのだ。
一方その時、リュケイオンの外にコンスタンス達と出ていたみのるは、波止場で待ち合わせていた〝オラトリオ〟というロボットから、〝アトランダム〟についてある情報を得ていた。
―――――アトランダムが封印されていたというのは嘘で、何年も前から稼動していたらしい―――――
けれど、時既に遅し―――――カルマによって閉鎖されてしまったリュケイオンに居た正信たちにその情報を伝える事は 不可能となってしまっていたのだった。
地下の貯蔵庫にやって来た瑠璃は、たくさん並んでいる引き出しの付いた棚を順に巡りながら、受け取ってきたメモに記された材料集めを開始していた。
「瑠璃、全部、見つけられそうか?」
「えぇ、大丈夫よ。あともう少しで全部集まるわ」
入り口に見張りとして立っていてくれているパルスに答えると、再度メモに視線を落とし瑠璃は呟く。
「それにしても、MIRAってこんな材料で出来ていたのね」
「これはこれは勉強になりますね」
――――刹那、聞こえてきた背後からの声に瑠璃はハッと振り返る。
「カルマ君!!」
「お手伝いしましょうか?」
驚愕の声を上げた瑠璃に、カルマは普段どおり穏やかに微笑んでみせる。
「瑠璃、伏せろ!!」
けれどそこにブレードを構えたパルスが駆け出して来た時、カルマは不敵な笑みを浮かべていた。
そして瑠璃が床に伏せた直後、唸りにも似た激しい風とともに繰り出されてきたパルスのブレードを跳躍して避け、棚の上に着地を行い。
同時に、すぐさま手を閃かせ取り出したナイフを瑠璃に向かって投げていた。
「あっ・・・」
ピタッと眉間の手前で静止した刃に対し、瑠璃の喉の奥から擦れた悲鳴が漏れ出す。
眉間に触れる少し手前のところで、刃はパルスの指に挟まれる事によって止められていた。
ブレードを振り下ろした直後にパルスは、カルマの動きを見て瑠璃の背後に素早く移動していたからこそ、 伸ばした腕を使って指でナイフを止める事が出来たのだ。
「本気だな―――――カルマ」
「えぇ、もちろん」
額に微かに汗を浮かべながら言ったパルスに、変わらず穏やかとも言える口調でカルマが返す。
――――それが攻撃の合図となった。
カルマ目掛けてパルスの瞳からレーザーが放たれていく。
素早く身を翻し、カルマは棚の影に逃げ込んでいくも、その時に髪を束ねていたリボンが焼き切られてしまっていた。
「もう後はないぞカルマ!! さぁ観念しろ!!」
「私は戦闘に向いていないんですよ」
身を潜めた棚の影から、片腕のブレードを上に構えたパルスにカルマは呟く。
「さっさと出て来い! でないと斬り裂く!!」
「戦闘には向いてませんが」
再度同じ言葉を洩らしたカルマは、両腕のブレードをパルスが掲げた瞬間、それを狙っていたかのように棚の影から飛び出すと、両手を閃かせ構えたナイフを一本投げつけていく。
するとブレードと腕とのつなぎ目――――そこに刃が命中し、パルスの片腕のブレードはキンという音を立て床に落ちてしまう。
ハッとパルスが我に返ったのは「王手 」というすぐ傍で囁かれたカルマの声と、首筋に突きつけられた冷たいナイフの感触によってだった。
「私、ダーツは誰にも負けたことがないんです」
悠然と紡がれるカルマの言葉。
「パルス君!!」
愕然と瑠璃が叫ぶと、カルマはパルスにナイフを突きつけたまま、こちらを振り返ってくる。
「月並みですが・・・パルス君に怪我をさせたくなければ、瑠璃さんあのメモを渡してもらいましょうか」
「―――・・・・・・」
ここで渡さなければ、間違いなくカルマは刃を振り切るだろう。
押し黙ったまま瑠璃はカルマにメモを差し出す。
「ありがとう」
にっこりと笑みを浮かべ礼を述べてきたその表情は、先程と同じ瑠璃が知る限りの―――――普段の彼の顔だ。
本当にカルマはアトランダムに洗脳されてしまったのだろうか?
――――ふと、浮かんでくる疑念。
〝アトランダム〟に心酔するあまり、一時的に自分を見失っているだけではないのか。
困惑した表情で瑠璃が見つめると、アトランダムに良いお土産ができたと言いながらタキシードの内ポケットにメモを入れたカルマは「メモのお礼にシグナル君に渡して下さい」と小さな箱をこちらに向かって投げてきた。
―――――箱の中身は冷却用循環液。人間でいうところの熱さましの薬である。
「・・・カルマ君、貴方・・・」
「いずれまた。今度はアトランダムが挨拶に来たいと言っておりました」
口を開きかけた瑠璃に対し優雅に一礼したカルマの姿は下りてきたシャッターの向こうに消えていく。
こうして第一幕の舞台は終演を迎えた。
そしてその後―――――今度は体を手に入れた〝アトランダム〟によって―――――カルマの予告通り第二幕の舞台が開演される事となるのだった。
<後書き>
ここまで読んで下さってありがとうございました。
第三章のリュケイオン編。
この話は過去にあるサイトに貰っていただいたものを大幅に加筆修正したものです。
そして今回は名前のみの登場となってしまったキャラたちも出てくる事によって、
ようやく次回でリュケイオン編は終幕を迎えます。
原作沿いといいつつ、少しづつ展開を変更してはおりますが、楽しんで読んで頂けていたなら嬉しく思います。
それでは。
05・6/28 朱臣繭子 拝
カルマからの連絡を待つ為に、一同は部屋へと戻って来ていた。
――――もちろん、マリエルも一緒である。
そしてその間に瑠璃はエララから彼女の妹であるユーロパについて話を聞いていた。
エララとユーロパは製作されてから暫らくの間は、製作者であるカシオペア博士のもとで暮らしていた。
だがその後、別々に引き取られてからユーロパの方だけ消息不明となってしまっていたのだそうだ。
「正信さん、カルマ君から連絡はありましたか?」
部屋の中に完備された研究室から正信が出てきたのを見ると、座っていたソファーから立ち上がり瑠璃は尋ねた。
「―――まだカルマから連絡はきてないんだけど、あれからかなり経ったか」
腕時計に視線を落とした正信は、踵を返すと内線電話が置いてある場所に近付いて行く。
ここに来たのは日暮れ前のこと。今は空にあるのは、太陽ではなく月である。
「変だな・・・カルマが2体のロボットにこんな時間を掛けるなんて―――――」
眉を顰めながら受話器を手にボタンを押した正信の姿を一同が眺めていると、どうやらカルマと連絡が取れたようだった。
だが、連絡を取り終えて受話器を戻したとき、正信の顔には怪訝そうな表情が浮かんでいた。
「今のカルマの口調―――――何か引っ掛かるんだが―――――」
口元に手を当てながら、考え込むように正信は呟く。
――――が、ロボット心理学は正信の専門外。
今は外に行っていて居ない、みのるがそちらの専門である。
「パルス、
暫しの間、正信は眉を寄せて唸っていたが、やがてひとまずカルマからの要請を告げる事にしたらしい。
シグナルがまたちびに変形してしまっていた為、パルスのみが返事をすると、ふと正信は真剣な顔つきで言った。
「いいか―――――アトランダムには気をつけられるだけ気をつけろ。絶対に気を抜くな。
あと―――――少しカルマに注意しててくれ。何か・・・おかしい」
〝アトランダム〟に対する事を言い含めた上で、さらにカルマの事を口にした正信の言葉は、その時のパルスにとっては不可解なものでしかなかった。
けれど、シグナルと共にカルマに同行して向かった倉庫―――――そこでシグナルの髪の毛を切ったカルマが「全てはアトランダムの為に」と言って持ち去ってしまった事から、正信の言葉の意味が明白なものとなった。
――――カルマは〝アトランダム〟に操られていたのだ。
『覚えておけ!! いつか私は自分の体を手に入れお前達に復讐してやる!!』
―――――26年前、封印されようとしたとき、〝アトランダム〟が科学者達に対し言った憎悪の言葉。
「じゃ、今までの事はみんな復讐の為―――――?」
一夜明けた次の日。シグナル達は改めて正信から、〝アトランダム〟について話を聞いていた。
「だから早めに機能を停止させたかったんだが―――――」
呆然と声を洩らしたシグナルに肯定するように頷き、ソファーに座った正信の顔に微かだが苦々しい表情が浮かぶ。
「予想外だったのがアトランダムの新しい能力とユーロパだ。おかげで裏をかかれまくってしまった」
―――――ロボットを操る能力。
「・・・・でも、変ですよね」
「封印されていたのに開発できるものなのだろうか?」
眉を瑠璃が寄せると、〝アトランダム〟に操られてしまった時の事を思い返したのだろう。
表情を曇らせ、僅かに俯きながらパルスが言った。
「そう!! 正信とも喋ったけどそこが変なんだよね―――――」
パチンと指を鳴らし、ハーモニーが口を挟む。
と、そこに研究室の方に居たクリスとエララが姿を見せた為、話は一時中断を迎える事となった。
二人はリュケイオンに来る際に教授が持たせてくれていた
だが、やはりそれも既にカルマに持ち去られてしまったようだった。
「つ、つまりそれってぼくの髪が元に戻らないって・・・」
「すみません、シグナルさん!!」
愕然とするシグナルにエララが勢いよく頭を下げた。
同行者の中で唯一、MIRAを扱える彼女が管理を行なっていたのだ。
「シグナル
ポンッとシグナルの腕を叩き、明るい口調で言ったのは信彦だった。
「自己修復するしな」
同意するように淡々とパルスも告げると、一瞬シグナルの顔に閉口したような表情が浮かぶ。
「うっとーしい髪がすっきりしてかえって良かったんじゃないの―――――っ?」
だが、カカカと他人事だと言わんばかりに、笑いながらクリスが言った言葉にどうやらシグナルはプチンと切れてしまったらしい。
「てめ―――――ら!! いい加減にしろよ!!」
声を上げると同時に憤然と3人に向かって行く。
が、その刹那襲ってきた眩暈によってシグナルは床へとひっくり返ってしまった。
「シグナルさん!? 大丈夫ですかっ」
駆け寄り、エララが傍に膝を折ると、何とか体を起こしたシグナルは荒い息を吐き出しながら呻いた。
「―――なんだ・・・? 体中・・・熱い―――」
熱があるということは、風邪ではないのか?
信彦とマリエルが、僅かに困惑したような表情でシグナルを見つめる。
けれど、ロボットであるシグナルに起こったその症状は風邪ではなく―――――
「・・・髪を短くされた所為ね」
そっと、シグナルの額に手を伸ばし、確認をした瑠璃が結論を言った。
シグナルは髪の毛が短くなった所為で、それがうまく機能しなくなり倒れてしまったのだ。
―――――ならば、シグナルのその症状を治す方法は只一つ。
MIRAの材料を地下の貯蔵庫から取ってきて、新しく合成を行なえばいい。
暫らくの話し合いの後、地下の貯蔵庫には瑠璃がパルスと共に向かう事になった。
最初はエララが行くといったのだが、唯一MIRAを扱える彼女に何かあった場合、元も子もなくなってしまう。
だから自分が行くからと、瑠璃がエララを説き伏せ、正信からボディーガードにパルスを連れて行くということを条件に了承を得たのだ。
一方その時、リュケイオンの外にコンスタンス達と出ていたみのるは、波止場で待ち合わせていた〝オラトリオ〟というロボットから、〝アトランダム〟についてある情報を得ていた。
―――――アトランダムが封印されていたというのは嘘で、何年も前から稼動していたらしい―――――
けれど、時既に遅し―――――カルマによって閉鎖されてしまったリュケイオンに居た正信たちにその情報を伝える事は 不可能となってしまっていたのだった。
地下の貯蔵庫にやって来た瑠璃は、たくさん並んでいる引き出しの付いた棚を順に巡りながら、受け取ってきたメモに記された材料集めを開始していた。
「瑠璃、全部、見つけられそうか?」
「えぇ、大丈夫よ。あともう少しで全部集まるわ」
入り口に見張りとして立っていてくれているパルスに答えると、再度メモに視線を落とし瑠璃は呟く。
「それにしても、MIRAってこんな材料で出来ていたのね」
「これはこれは勉強になりますね」
――――刹那、聞こえてきた背後からの声に瑠璃はハッと振り返る。
「カルマ君!!」
「お手伝いしましょうか?」
驚愕の声を上げた瑠璃に、カルマは普段どおり穏やかに微笑んでみせる。
「瑠璃、伏せろ!!」
けれどそこにブレードを構えたパルスが駆け出して来た時、カルマは不敵な笑みを浮かべていた。
そして瑠璃が床に伏せた直後、唸りにも似た激しい風とともに繰り出されてきたパルスのブレードを跳躍して避け、棚の上に着地を行い。
同時に、すぐさま手を閃かせ取り出したナイフを瑠璃に向かって投げていた。
「あっ・・・」
ピタッと眉間の手前で静止した刃に対し、瑠璃の喉の奥から擦れた悲鳴が漏れ出す。
眉間に触れる少し手前のところで、刃はパルスの指に挟まれる事によって止められていた。
ブレードを振り下ろした直後にパルスは、カルマの動きを見て瑠璃の背後に素早く移動していたからこそ、 伸ばした腕を使って指でナイフを止める事が出来たのだ。
「本気だな―――――カルマ」
「えぇ、もちろん」
額に微かに汗を浮かべながら言ったパルスに、変わらず穏やかとも言える口調でカルマが返す。
――――それが攻撃の合図となった。
カルマ目掛けてパルスの瞳からレーザーが放たれていく。
素早く身を翻し、カルマは棚の影に逃げ込んでいくも、その時に髪を束ねていたリボンが焼き切られてしまっていた。
「もう後はないぞカルマ!! さぁ観念しろ!!」
「私は戦闘に向いていないんですよ」
身を潜めた棚の影から、片腕のブレードを上に構えたパルスにカルマは呟く。
「さっさと出て来い! でないと斬り裂く!!」
「戦闘には向いてませんが」
再度同じ言葉を洩らしたカルマは、両腕のブレードをパルスが掲げた瞬間、それを狙っていたかのように棚の影から飛び出すと、両手を閃かせ構えたナイフを一本投げつけていく。
するとブレードと腕とのつなぎ目――――そこに刃が命中し、パルスの片腕のブレードはキンという音を立て床に落ちてしまう。
ハッとパルスが我に返ったのは「
「私、ダーツは誰にも負けたことがないんです」
悠然と紡がれるカルマの言葉。
「パルス君!!」
愕然と瑠璃が叫ぶと、カルマはパルスにナイフを突きつけたまま、こちらを振り返ってくる。
「月並みですが・・・パルス君に怪我をさせたくなければ、瑠璃さんあのメモを渡してもらいましょうか」
「―――・・・・・・」
ここで渡さなければ、間違いなくカルマは刃を振り切るだろう。
押し黙ったまま瑠璃はカルマにメモを差し出す。
「ありがとう」
にっこりと笑みを浮かべ礼を述べてきたその表情は、先程と同じ瑠璃が知る限りの―――――普段の彼の顔だ。
本当にカルマはアトランダムに洗脳されてしまったのだろうか?
――――ふと、浮かんでくる疑念。
〝アトランダム〟に心酔するあまり、一時的に自分を見失っているだけではないのか。
困惑した表情で瑠璃が見つめると、アトランダムに良いお土産ができたと言いながらタキシードの内ポケットにメモを入れたカルマは「メモのお礼にシグナル君に渡して下さい」と小さな箱をこちらに向かって投げてきた。
―――――箱の中身は冷却用循環液。人間でいうところの熱さましの薬である。
「・・・カルマ君、貴方・・・」
「いずれまた。今度はアトランダムが挨拶に来たいと言っておりました」
口を開きかけた瑠璃に対し優雅に一礼したカルマの姿は下りてきたシャッターの向こうに消えていく。
こうして第一幕の舞台は終演を迎えた。
そしてその後―――――今度は体を手に入れた〝アトランダム〟によって―――――カルマの予告通り第二幕の舞台が開演される事となるのだった。
<後書き>
ここまで読んで下さってありがとうございました。
第三章のリュケイオン編。
この話は過去にあるサイトに貰っていただいたものを大幅に加筆修正したものです。
そして今回は名前のみの登場となってしまったキャラたちも出てくる事によって、
ようやく次回でリュケイオン編は終幕を迎えます。
原作沿いといいつつ、少しづつ展開を変更してはおりますが、楽しんで読んで頂けていたなら嬉しく思います。
それでは。
05・6/28 朱臣繭子 拝