第二十二章『雲壌懸隔』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
雲壌懸隔
C3東京支部に、真昼達より先に連れて行かれた強欲組が放り込まれたその空間には、吊戯の言葉に偽りなく。リヒトの好物であるメロンが準備されていただけでなく、それぞれの個室までもあり。そこには風呂、トイレ、キッチンも完備されていて―――――極めつけにリヒトが毎日練習で弾くことも考慮したかのようにピアノまで用意されていることから。長期間、ここに二人だけで軟禁されることは明白だった。
そうしてそんな中では二人がケンカになろうと、止めてくれる人物がいる訳もなく。
ストレスが溜まるだけの状況下に耐えかねたロウレスが、身体の異変を訴えながら、〝怠惰〟の兄さんを呼べと、狂態を演じると。
「も―――――限界っス。病人をこんなとこに閉じ込めてどーゆーつもりっスか!! 極悪非道!! 出せ―――――!!」
その結果、支部内には警報が鳴り響くこととなり、ロウレスは簡易ベッドだけが用意された薄暗い部屋に一人放り込まれることとなってしまい。その後、ガンガンガンッと、扉を蹴って猛抗議をしたものの、誰かが様子を見に来る気配はなく。
「ううっ・・・天使ちゃんのピアノの音色が聴こえるっス・・・通常運転っスね・・・。リヒトなんてピアノが弾けてメロンが食えれば満足なんスよね・・・」
主人であるリヒトはどうしているだろうかと、扉に顔を寄せながら耳を澄ませてみると、動揺の色が一切感じらない旋律に、ロウレスは思わず半泣きになってしまう。
そうして「連れて行かれたオレのことなんてどーせ微塵も・・・」とぼやいていると、ガチャと外から扉が開かれて。「おわっ?」と驚きの声を漏らしたロウレスは、そのまま前に向かって倒れ込みそうになってしまったのだが。
「無事か―――――・・・」
閉じ込められていた部屋の扉を開いたのが、待ち侘びていた相手だと気づくや否や。
「兄さん!! 遅いっスよ!! 弟が苦しんでるってのに!! 何してたんスか、ダル兄貴!!」
即座にクロの胸倉を両手で掴むと、がくがくと揺さぶりながら猛抗議をしてきて。
「オレのせいじゃね―――――・・・」
敢えて弟にされるが儘になりながらクロが応じた中で。
「あの、ハイド君・・・・・・?」
「ロウレス・・・? お前、体調は?」
瑠璃と真昼が戸惑いの面持ちになりながら尋ねかけると。
「・・・仮病だろ?」
ロウレスから解放されたクロがチラリと弟のほうを見遣りながら口にした言葉がそれで。
「仮病っス!!」
するとロウレスもまた、握りしめた左手の親指で自身を指し示しながら、昂然と胸を張ってそう言い放ったのだ。
「仮病!!」
「そうだったのね」
それに対し、真昼が驚嘆の声を上げて、瑠璃が呆然とした面持ちでロウレスを見返すと。
「そうっスよ、瑠璃ちゃん。ロウレスちゃんの演技力でC3をだましてやったんスよ! おかげで兄さん達と無事合流・・・」
ロウレスは得意気な雰囲気を醸し出しながら、ダテに観劇を趣味にしてないっス! と右手を胸に添えつつ、左手を掲げながらそう言ったものの。ロウレスを部屋から出すのに協力してくれた盾一郎は最初から気づいていたようで。
「まあ、そんなとこだろうとは」
呆れたような眼差しでロウレスを見ていて。
「バレてる」
そこで真昼が勢いよく、突っ込みを入れるかの如く声を上げると。
「だから雑に扱われたんだろ・・・」
クロもまたやれやれといった様子でそんなふうに呟いていて。
「雑・・・・・・」
クロのその発言には、瑠璃も苦笑いを浮かべるしかなかったのだが。
「うっ・・・だめだ。もう死んでしまう!! 早く・・・ほかの主人を!! そして〝ミストレス〟にも会って力を分けてもらわねば!!」
「わーったから黙ってろっつの」
その時、此方に向かってガラガラガラガラと何かを運んでくる音と、耳に覚えのある二人の声が聴こえてきて。
「この声って・・・・・・」
目を瞬かせた瑠璃が声の聴こえてきた方に視線を向けると。
「くっ・・・苦しい・・・!! 早く城田真昼と瑪瑙瑠璃に会わないと・・・!!」
一人で何処かに行っていた弓景が運んできた病人用の移動ベッドの上には胸元のシャツを掴みながら呻き声を漏らしている御園の姿が在り。
「え!? 御園君!?」
瑠璃が驚愕するのと同時に気づいた真昼もまた「御園!」と呼びかけた。
刹那―――――
「瑠璃! 城田! まったく貴様らは何をやっている!」
がばっと御園はベッドから起き上がると、思い切り眉を顰めながら此方を見据えてきて。
「もしかして、御園君も・・・・・・」
「御園・・・お前も仮病で・・・」
瑠璃と真昼が揃って、思わず乾いた笑みを浮かべると。
「ふふん! そうとも! 機転を利かせ見事に部屋を脱出してやったぞ!」
先のロウレスと同じように、御園も誇らしげな顔で、左手の親指と人差し指を立てながらそう告げてきたのだが。
「これと同レベルだと思うと恥ずかしいっス」
「お兄ちゃんも恥ずかしいぞ・・・」
その時、そんな御園の姿を目にしたロウレスがマフラーの裾で顔を覆う仕草をしながら、さめざめとした口調でそう漏らして。それに対しクロもまた、呆れ交じりの口調で頷き返すと。
「なんだ貴様ら!? 僕の名演技にケチをつける気か!?」
「えと、御園君・・・・・・ハイド君もクロも悪気があって言ったわけじゃないと思うから」
そのやり取りに御園が激昂したものの「とりあえず落ち着いて」と瑠璃が宥めすかし。
その後、一人部屋に残されていたリヒトもそこから連れ出して、盾一郎が予め抑えていた小会議室に三人の主人と二人の真祖。そして〝ミストレス〟が集まった処で―――――
「・・・で。なんで瑠璃ちゃんとアンタはC3の制服なんか着てんスか。すっかり懐柔されちゃって」
リヒトとロウレスと机を挟んで向かい合う形でクロと真昼が着席し。クロの側の端の席に瑠璃が。真昼の側の端の席に御園が座ると。机の上に右肘をおきながら頬杖をつきつつ、ムスッとした顔でそう言ったのはロウレスだった。
「違うのよ、ハイド君」
「ただ反抗してたって動けないんだから。シンプルに考えて協力したほうがいいだろ?」
しかし、瑠璃がやんわりとした口調で〝懐柔〟という言葉を否定し、真昼が自分達の意志を口にすると。
「出た・・・シンプル・・・」
ロウレスは眉を顰めたのだが。
「だから私達側もどうするべきか、皆で話し合いをしたいの」
瑠璃が嘆願するように想いを口にすると。
「おい、バカネズミ! 瑠璃のことを困らせるんじゃねー!!」
「うぉ!? ちょっ、リヒト!? オレは別に瑠璃ちゃんを困らせたりなんてしてないっスよ!?」
リヒトがロウレスの態度に苛立ちを覚えたようで蹴りかかろうとして、ケンカが勃発しそうになったものの。
「リヒト君!? 私は大丈夫だから、落ち着いて!!」
「リヒトさん!! 瑠璃姉も、こう言ってることですし。今はロウレスとケンカするよりも、これからどうしていくべきかの話をしましょう!!」
と―――――
今回は二人のケンカを仲裁するのは慣れたものとなった、瑠璃と真昼が揃っていた事から、すぐに場は収まることとなり。
「ロウレスと言ったな・・・貴様は元気そうで何よりだが。一刻も早く相談しなければならないことがあるんだ」
再び席に座り直したロウレスを、眉根を寄せつつ見遣った御園が切り出してきた言葉に「相談?」と目を瞬かせた瑠璃はふと気づく。
「そういえば、リリイの姿が見当たらないけど。もしかして、相談って・・・・・・」
「ああ。リリイのことだが―――――・・・」
そして瑠璃に頷き返した御園が深刻な面持ちで話しだそうとしたその時。
扉近くの壁際に盾一郎と並んでパイプ椅子に座って、此方の様子を静観していた弓景のスマホがヴ―――――ヴ―――――と振動して。
画面を確認した弓景が「・・・・・・来たか」と椅子から立ち上がると。
「ちょっと待て、二人追加だ」
そう此方に向かって声を掛けてきた処で、カラと扉が開かれて。
「鉄!」
「それにヒューくんも!」
入室してきた傲慢組二人に向かって真昼と瑠璃が呼び掛けると。
「真昼のアニキに瑠璃・・・とみんな」
消沈した様子で鉄が応じてきて。
「鉄君、大丈夫? ヒューくんは何か変わったとこは・・・・・・」
そこで席を立った瑠璃がヒューの傍に近づいて行くと。
「なんじゃ、なんじゃ~? 可愛らしい娘さんだけじゃなく、他にも若いモンが大勢集まって・・・ずいぶんと賑やかじゃの~?」
何処からともなく具現化させたステッキを右手に持って、それを杖代わりにしつつ、好々爺といった態度でヒューは小首を傾げながら見上げてきて。
「え、と? ヒューくん・・・・・・?」
以前とは明らかに異なる様子のヒューを瑠璃が呆然となりながら見つめると。
「おお・・・いたたたた腰が・・・。大きいあんちゃん、すまんが手を貸してくれんかの~?」
ヨボボ・・・となったヒューは折り曲げた腰を左手で支える仕草をしながら呻きつつ、鉄に助けを求める言葉を口にして。
「・・・ヒュー、オレの名前は鉄だぞ」
「あ、鉄君。ここにヒューくんを座らせてあげて」
眉を下げつつ、沈鬱な面持ちでヒューに返事をした鉄に、瑠璃は戸惑いの面持ちになりながらも、ひとまず自分が座っていた席を指し示すと。
「すまんのぅ、娘さん・・・・・・あと、出来ればお茶を貰えんかの~」
「え・・・・・・?」
常ならば、吸血鬼らしく『血』を欲するはずのヒューの口から出たその言葉に、瑠璃が思わず目を見開くと。鉄もまた「血じゃないのか?」と確認をしたものの。ヒューの要望が変わることはなく。小会議室内に常備されていた急須に茶葉を入れて、ポットからお湯を注ぎ、瑠璃が用意をしていた間。
「老人 の方向に変わってしまったか・・・」
「ずいぶんのんびりしたおじいちゃんに・・・」
外見との釣り合いが取れる『完全幼児化』という方向ではなく『精神老衰』―――――あまりに衝撃的ともいえるその状態に御園と真昼もまた困惑の色を隠すことが出来ず。揃って何とも言えない面持ちでヒューのことを見ていて。
「はい、どうぞ。ヒューくん、熱いから気をつけて飲んでね」
お茶を淹れ終えた瑠璃が湯飲みをそっとヒューの前に置いた処で。
弓景達が座っていた壁際の端に置かれていた予備のパイプ椅子を鉄が二脚持ってきて。
「・・・・・・ありがとな、瑠璃。あと、これ椅子持ってきたから」
「ううん、これくらいのことは全然気にしないで」
覇気のない声音で礼を口にしてきた鉄に対し瑠璃はゆっくりと首を振り。
そうして鉄とともに椅子に座り直すと。
「鉄・・・あんまり落ち込むなよ。力を戻せないか考えよう」
真昼が鉄に向かって励ましの言葉を口にした後に―――――
「そうだ。御園、リリイのこと・・・って?」
御園に中断してしまった話の続きをしてくれるよう促すと。
「ああ・・・・・・」と御園は重々しい声音で頷いて。
「リリイは・・・動けない。リリイから灰塵が抜けて一カ月経つ。少しずつだが変化が起きているんだ。これが力を失った真祖のたどる先なのか―――――・・・その・・・」
リリイの身に起こっている事象を語り始めようとしたものの。その途中で言い淀んでしまった御園は、チラッ・・・と神妙な面持ちでロウレスに目を向けてきて。
「ちょ・・・なんスか! もったいぶんないで言えっスよ!」
それに気づいたロウレスが、逆に怖ェッス!!と御園を睨み返すと。
「リリイはもう・・・一日のほとんどを眠って過ごしている」
御園は淡々とした声音で続きを話し始めて。
「ま・・・まあ力を失ってんスからそれくらいは・・・」
あり得る・・・とロウレスは冷や汗を浮かべつつも、口元に笑みを浮かべながら、頷いたのだが。
「そしてリリイの体が少しずつ華奢に・・・小さくなってきているように感じる・・・」
しかし、次いで聞かされたその事実に対しては上辺の平静さを取り繕うのは無理だったようで。ロウレスは勢いよく椅子から立ち上がると同時に右手で自身の体のサイズを確かめるかのような仕草をしていて。そんなロウレスの様子にクロと真昼が思わず揃って憐れむような眼差しを向けると。
「ちょっ・・・どーゆーことっスか!?」
怖ェ!!と叫び声を上げたロウレスを、やかましいっと御園が一喝したのだが。
「僕にも詳しくはわからん」
しかし、ロウレスが知りたがっている事柄は御園も与り知らぬもののようで。
「これからオレらも・・・!?」
「ハイド君、気をしっかり持って。まだ、そうなると決まったわけじゃないんだから」
えっ、えっ、とテンパり始めてしまったロウレスを落ち着かせるべく、瑠璃が呼び掛けると。
「・・・・・・瑠璃ちゃん・・・・・・っ」
ロウレスは縋るような眼差しで瑠璃を見返してきて。静かになった処で、御園が再び口を開いたものの。
「わかるのは状態が〝悪化〟しているのだろうということだけだ。考えたくはないが・・・最悪の場合・・・死・・・」
「瑠璃ちゃ~~~ん、リヒた~~~ん、オレ死んじゃうっスよ~~~!?」
そこで浮上してきた、容認し難い可能性に、またもやロウレスが不死のはずだったのに―――――~!!とギャンギャン言い始めてしまって。しかし、御園の話は未だ途中までしか聞けていない状態なのだ。
「・・・・・・ハイド君」
この調子ではいつまで経っても、話の先に進むことが出来ない。
どうすればいいのかと瑠璃が困り顔でロウレスの名を呼ぶと。
「うるせぇ悪魔。瑠璃にまで面倒掛けるんじゃねぇ」
その時、主人であるリヒトがギロッとロウレスを睨みつけて。
「・・・・・・っ!?」
その迫力によってロウレスが条件反射のように沈黙すると。
「椿が行方をくらませている今、このまま時間だけがたってしまうのはだめだ」
〝最悪の結末〟を自分は受け入れるつもりはないのだという、その意思を御園が公然と述べた。
するとロウレスがまた「つったって、どーするんスか!」と食って掛かってきたのだが。一々取り合っていては、もはや切りがないので。
「僕がひとつ思うのは」
御園はそのまま『策』を話そうとしたものの。
「あっ。なんだ、案あるんスね」
その言葉を聞いたロウレスが「早く言えっス」と急かしてきて。
「キサマ、やかましいな」
誰のせいでここまで話すのに時間が掛かったと思っているのか―――――御園は眉を顰めながら怒りを滲ませつつロウレスを見遣った後。
「C3が使う道具。あれはあまりにも主人の武器 に似すぎていた。C3側が協力をしてくれるなら何か手がかりを得られるんじゃないか?」
御園が口にした『道具』に対する〝見解〟と、どうするべきかという〝思想〟に対し、
「さすが御園君ね。真昼君と私も同じことを思っていたのよ」
瑠璃が感嘆の声を漏らすと。
「・・・協力ね・・・」
そう呟いたのは両手をズボンのポケットに突っ込みながら、左右の脚を組んで椅子に座っていた弓景だった。しかしその時、此方を見ていた弓景の視線はとても冷ややかなもので。
―――――・・・・・・月満さんとも、大分打ち解けられたと思っていたのだけれど。
―――――・・・・・・〝吸血鬼〟と〝協力〟っていうのが、やっぱり月満さんの中では〝障害〟になってしまっているのかしら。
それに気づいた瑠璃が困惑の面持ちになると、ロウレスもまた〝自分達〟に対してのみ、弓景が醸し出している冷然とした雰囲気を感じ取り。
「ちょっ・・・そーゆー前提が成り立たない話はナシっスよ! C3が吸血鬼に協力するわけないっス! どーせ今の状況だってサーヴァンプ半分力なくして好都合とか思ってるっスよ!?」
左手の親指と人差し指で、弓景だけでなく、腕組みをしながら考え込むような面持ちになっていた盾一郎のことも指し示しながら抗議する姿勢を見せてきて。
「しかしほかに・・・」
御園が眉を顰めながら、〝思い付く手立てが無い〟と、ロウレスに対してそう言おうとしたその時―――――ガタッと椅子から立ち上がった盾一郎が御園の傍にやって来て。
「吸血鬼の生態について詳しい研究者を知っている」
突然、C3側の人間から聞かされることとなったその申し出にロウレスは絶句し。御園は呆然となりながら盾一郎の顔を見返す。
―――――車守さん・・・・・・―――――
そして真昼と瑠璃は、自分達の話し合いの場においてもまた、きちんと協力の姿勢を示してきてくれた盾一郎に対し、目を瞠りつつもまずは静観の姿勢を取る事にする。
「C3 の非常研究員だ。その人を呼ぼう。力を戻す方法を何か知っているかもしれない」
「・・・!?」
その一方で吸血鬼と協力することを好ましく思っていなかった弓景が盾一郎の発言に愕然とした面持ちになった中。
「研究員・・・そいつが協力的ならそれは願ってもないことだが・・・」
御園が戸惑いの色を滲ませながらも、盾一郎の言葉を受け入れようとしたのだが。
「いや・・・いやいやいや!! そんなの実験体にされるだけっス! 絶対嫌っスからね! 力尽くでもC3から出て行くべきっス!」
その時、人型からハリネズミに姿を変えたロウレスが、クロの左肩に乗っていて。
「ハイド君、いつの間に・・・・・・」
瑠璃が目を瞬かせながら、ハリネズミを見つめると。
「さあ。瑠璃ちゃんと一緒に行くッス兄さん!!」
キュイキュイ!! と甲高い声でハリネズミは鳴きながら「瑠璃ちゃんが傍にいれば兄さんはサーヴァンプ最強なんスから!!」と言っていて。
耳朶に届いたその鳴き声に、キュイじゃね―――――よ・・・とクロは呆れたような面持ちになり。
「お前、一気にザコっぽくなったなあ」
すっかり様変わりしてしまったロウレスに真昼もしみじみとした口調でそう言うと。
「あ―――――悪い・・・。オレと瑠璃はもうデコちゃんに枷つけられちゃって・・・」
抵抗できね―――――・・・とクロがロウレスに告げて。
「実はそうなのよ・・・・・・ごめんね、ハイド君」
クロに続いて瑠璃も、申し訳なさそうな面持ちになりながら、自身の首につけられたお揃いの漆黒の首輪を示して見せると。
「っはァ―――――!? 何やってんスか、あんたは!!」
人型に戻ったロウレスが「もうあんたしかいね―――――んスよ?! つーか瑠璃ちゃんにまで枷つけられちゃうとか、ホントあんた何やってんスか?!」とクロに向かって怒鳴って。
「だ―――――から嫌なんスよC3 は!!」
腹の底から思いっ切り絶叫したロウレスに、ウルセ―――――とクロが眉を顰めると。
「待って、ハイド君」
「でも・・・・お前も御園も車守さんが出してくれたんだ。少し信用して・・・」
瑠璃と共に真昼もロウレスを説得しようと試みようとすると。
「・・・!」
盾一郎が微かに戸惑いの色を滲ませながら此方に目を向けてきて。
「つったってねぇ!! 特にあのカミヤツルギの評判はサイアク! あいつと同じチームの人間じゃねっスか!」
そんな盾一郎に対し、ロウレスが嫌悪感を剥き出しにしながら喚くと。
耳朶に届いた『友人』の名前に反応して、ゆっくりとロウレスのほうに顔を向けた盾一郎が、
「・・・これはC3の総意じゃない。『俺個人』の勝手な行動だ」
左手を机の上に突きながら淡々とした声音でそう言い切ると。
ガタン!! と音を立てて勢いよく椅子から立ち上がったのは弓景だった。
けれど、盾一郎は弓景の様子を気にすることなく。
「それに俺もただの善意でこんなこと言ってるわけじゃない」
そう言いながらさらに右手も机の上に突くと。
「もし力が戻ったなら俺達と一緒に戦ってほしい。協力してくれ。・・・頼む」
深々とロウレスに対して頭を下げたのだ。
「―――――車守さんっ!?」
その盾一郎の行動に瑠璃が愕然となると。
「やっ・・・めろバカ!! なんでそこまですんだよ!!」
同じく血相を変えた弓景が盾一郎の傍にやって来て。
ガッと上着の襟を掴みながら、盾一郎の顔を上げさせて、怒鳴りつけると。
盾一郎の思わぬ行動を目にした瞬間、固まってしまっていたロウレスも。
「そ・・・そうっスよ。なんで・・・」
盾一郎の事を睨みながら、思わず困惑の声を漏らしてしまう。
と―――――
「・・・吊戯はもう戦えない。戦わせない 。友達 を死なせたくないんだ」
盾一郎は静かな声音で、弓景とロウレスに対し、自身の〝偽らざる想い〟を口にした。
けれど、それを聞いても尚、弓景は苛立ちの感情を鎮めることは出来ないようで。
「俺だってそうだ。でも・・・テメェが頭を下げた相手は」
「わかってるよ・・・相手は吸血鬼で許せねぇのもわかるけど」
上着の襟を掴んだまま、唸るような声音で言葉を紡ぎ出した弓景に対し、盾一郎が顔色を変えることなく応じると。
「テメェのために 言ってんだよ!!」
弓景は盾一郎の上着の襟をさらに強く握りしめて、互いの距離を詰めた処で、激怒しながらそう言い放ったのだ。
しかし、それを聞いた瞬間、盾一郎の顔に浮かんだ表情は、驚きではなく。可笑しそうな笑みで。
「・・・はは。弓のそのセリフ、久しぶりに聞いた」
「ふざけてんじゃ・・・」
そこで弓景がまた、唸り声を漏らしながら、盾一郎の事を睨みつけると。
「俺が一度決めたら曲げないの知ってるだろ」
盾一郎はそんな弓景の視線を真っ向から受け止めた上で、ふてぶてしい笑みを浮かべながらそう言い返してきたのだ。
結果、弓景は盾一郎に対して最早何も言うことが出来ず。
「勝手にしろ!!」
怒鳴り声を上げるのと同時に、盾一郎に背を向けてバッと扉のほうに向かって行くと。通路に出た処で、そのまま八つ当たりをするように、バアンッと勢いよく扉を閉めたのだ。
その弓景の行動に盾一郎が苦笑を浮かべて。
今回もまた放っておいて大丈夫なのだろうかと真昼と瑠璃が当惑の面持ちになった中。
「城田と瑠璃は・・・その車守とやらを信用してもいいと思ってるんだな?」
腕組みをしながら逡巡するような様子になっていた御園が此方に向かって確認するように問いかけてきて。
「ああ」
「えぇ。車守さんの想いは偽りなく誠実なものよ」
御園のほうに顔を向けた真昼と共に、瑠璃もしっかりと頷き返すと。
「僕はリリイに力を戻してやると約束した・・・。しかし今、僕達にはほかに手立てもない。多少のリスクは承知の上だ」
御園の心は決まったようだった。しかしロウレスは「げっ。つったって・・・リスクしかね―――――っス・・・」と躊躇っている様子だったのだが。
主人であるリヒトがそんなロウレスの事を厳しい眼差しで見遣ると、
「おい、ぐだぐだネズミ。どうせこのまま何もしなきゃあ、てめぇは死ぬんだろうが」
「え・・・いや。そ、そうと決まったわけじゃあ・・・」
咎める発言をしたリヒトに対し、一応話きいてたんスね・・・とロウレスがたじろぐと。
「ロウレス。お前が言いたいこともわかる・・・けどな。オレは腹をくくってるぞ・・・」
最後の一押しとして、兄であるクロが弟に対してそう明言すると。
「~~~~~~っあーもーあーもー! わーかったっスよ!! なんかあったら兄さんに責任取ってもらうっスからね!! そんでもって瑠璃ちゃんに面倒見てもらうっスからね!!」
「それは・・・向き合えね―――――・・・。あと、瑠璃はオレのだからそれは却下だぞ・・・・・・」
やけくそ気味に言い放ったロウレスを、にゃ―――――~・・・とクロが半眼で見返すと。
「ダメだって思ったらさっさと抜け出して自分で情報収集してやるっスから!」
ギクッと顔を引き攣らせた後に、今度は真っ当的な宣言をロウレスはしたのだが―――――
「そこはネズミらしく・・・というわけか」
「キサマ、チョコマカしてて向いてそうだな」
リヒトがロウレスに対して口にした『ネズミ』という言い回しに、御園が感心した様子で、ちなみにハリネズミは、ネズミよりモグラに近いんだがな! と蘊蓄を披露したのに続いて。
「仲間にするの苦労したキャラは役に立つっていうRPG的法則が・・・」
大変だったからな・・・としみじみした口調でクロがそう言うと。
「なるほど。これからは情報提供キャラに!?」
真昼もそれに乗っかるように、両手を握りしめながら、嬉々とした笑みを浮かべて。
「ちょっと!! オレのこと何だと思ってんスか!?」
主人を始めとした面々から弄られることになったロウレスが拗ねた様子で抗議の声を上げた時。
―――――〝大切に想う存在〟を〝失いたくない〟。
―――――〝大切に想う存在〟を〝助けたい〟。
―――――吸血鬼も人も〝心〟に抱いている〝想い〟は同じだから。
―――――手を取り合って〝協力〟し合うことが出来れば、きっと〝最善の未来〟を掴み取ることが出来るって私は信じてる。
その様子を見ていた瑠璃はふわりと柔らかな笑みを浮かべながら心のなかでそう呟いたのだ。
そして―――――
盾一郎もまたその光景を見届けた処で、扉のほうに進んで行こうとしたのだが。
「・・・・・・瑠璃さん、弓の件で悪いんだけど。一つだけ頼まれてくれないか」
ふと、思い至った様子でそんなふうに声を掛けてきて。
「月満さんのですか?」
「弓のことを―――――」
カラ・・・という音とともに小会議室の扉がゆっくりと開かれる。
扉の近くには顔を伏せながら座りこんでいる弓景の姿が在り。
「・・・弓。俺はあの人に連絡してみる」
弓景に対して、静かな声音でそう告げてきたのは盾一郎だった。
けれど、ピクッと肩を震わせつつ反応を示した弓景は顔を上げることはせず、
「ウッセ。勝手にしろ、ボケッ」と突き放すように返事をしたのだが。
この場から立ち去ることなく残っていた―――――それこそが弓景の出した『答』だと、長い付き合いである盾一郎にはちゃんと伝わっていて。
微苦笑を浮かべた盾一郎が「・・・・・・ありがとな」と感謝の言葉を口にした処で。
チラと開いたままにしていた扉のほうに目を向けると、それを合図として瑠璃もまた此方側に出てきて。
「月満さん」
微かに緊張した様子で呼びかけてきたものの。
「・・・・・・んだよ。テメェも、何か俺に言いたい事でもあるのかよ・・・・・・」
弓景は顔を上げることなく、ふてくされた態度のままで応じたのだが。
「私達の話し合いの結果。〝みんなで協力する〟って決まりました。なので、改めてこれからよろしくお願いします。―――――〝弓景〟さん」
「・・・・・・あ゛ぁっ!?」
〝解っていた〟事柄を真摯な口調で告げてきた後に、柔らかな声音で自分の〝名前〟を呼んだ瑠璃に対して弓景は動揺のあまり、威嚇するような声を漏らしてしまったのだった。
―――――弓のことを〝名前〟で呼んでやってくれないか?
会議室から出ようとした盾一郎が瑠璃に対して告げてきた頼みごとがそれだった。
―――――俺の友達を助けてくれるか。真昼、瑠璃さん―――――
盾一郎は〝吊戯〟を助ける為に吸血鬼と協力をすると決めた時―――――〝主人〟と〝ミストレス〟である『少年』と『彼女』のことは対等な相手として認め、〝名前〟で呼ぶことを決めた。
だから―――――
怒っているように見えて、じつは心配性で相手のことを想うあまり、強い言葉を口にしてしまい―――――結果、吸血鬼達との話し合いの場から、腹に据えかねた態度で飛び出して行ってしまったもう一人の〝不器用な友人〟が気にかけている『彼女』には、その〝友人〟のこともまた、〝名前〟を呼んで欲しいと思ったのだ。
けれど、その後にその〝友人〟から、「俺だけじゃなく、盾のことも名前で呼ぶべきだろ」という、不服申し立てがあったことにより。結局、盾一郎もまた瑠璃から名前で呼ばれることとなるのだった。
それから然程時を置かずして―――――御園、リヒト、鉄の三人は、盾一郎が用意してくれたフード付きのコートを身に纏うと。その中に動物姿の真祖達を隠した状態で会議室から出ることとなり。盾一郎の後に続いて通路を歩いていき、薄暗い地下への階段を下りる事になった処で「どこへ移動するんだ」と御園が確認の言葉を口にすると。
「その人の実験室だ。連絡したらこっちにすぐに来てくれたそうでな」
盾一郎のその返答から『吸血鬼の生態について詳しい研究者』といよいよ対面となるのだと理解したものの。
お待たせしました。博士 」
盾一郎の手によって、ガアッと音を立てて開かれた扉の向こう側に見えた、外と同様に薄暗い実験室―――――そこに置かれた机の前に、だらりと両手を下げて逆さになりながら、行儀悪く口にストローを銜えて椅子に靠れた状態で座っていた、研究者らしく白衣を身に纏って眼鏡をかけているその男の姿は異様な雰囲気を感じさせるモノで。
「ああ――――――――――!! こんなにも大量の真祖で実験できる日がくるなンて―――――!!」
盾一郎から博士と呼ばれた男は御園達の姿を認めた瞬間、ニヤリと笑みを浮かべた後に、突如として歓喜の叫び声を上げながら、勢いよく上体を起こして椅子から立ち上がると。
「この瞬間よ・・・止まれ。汝は・・・泣くほど美しい・・・」
ああ・・・と声を漏らしつつ、右手で顔を覆う仕草をしながら、ばたばたばたと、瞳から涙を溢れさせて。
感情の起伏の激しい、マッドサイエンティスト―――――その正体は御国の店で真昼と瑠璃が出会った『ヨハネス・ミーミル・ファウストゥス』だった。
そして実験と言い切ったヨハネスに対して御園達は―――――
―――――生きて・・・帰れるか・・・?
そんな一抹の不安を抱きながらも、失った力を取り戻す手掛かりを掴む為。
暫くの間、ヨハネスの研究室に留まることとなるのだった。
【本館/21・8/01/別館/21・8/01掲載】
●21/9/18加筆修正。
【弓景さんとのやり取りに関して思う処が出た為、加筆させて頂きましたが・・・。もし、不要だと思われる方いらっしゃいましたらご意見頂けましたらと思います)
★雲壌懸隔(うんじょうけんかく)⇒大きな違いがあること。
C3東京支部に、真昼達より先に連れて行かれた強欲組が放り込まれたその空間には、吊戯の言葉に偽りなく。リヒトの好物であるメロンが準備されていただけでなく、それぞれの個室までもあり。そこには風呂、トイレ、キッチンも完備されていて―――――極めつけにリヒトが毎日練習で弾くことも考慮したかのようにピアノまで用意されていることから。長期間、ここに二人だけで軟禁されることは明白だった。
そうしてそんな中では二人がケンカになろうと、止めてくれる人物がいる訳もなく。
ストレスが溜まるだけの状況下に耐えかねたロウレスが、身体の異変を訴えながら、〝怠惰〟の兄さんを呼べと、狂態を演じると。
「も―――――限界っス。病人をこんなとこに閉じ込めてどーゆーつもりっスか!! 極悪非道!! 出せ―――――!!」
その結果、支部内には警報が鳴り響くこととなり、ロウレスは簡易ベッドだけが用意された薄暗い部屋に一人放り込まれることとなってしまい。その後、ガンガンガンッと、扉を蹴って猛抗議をしたものの、誰かが様子を見に来る気配はなく。
「ううっ・・・天使ちゃんのピアノの音色が聴こえるっス・・・通常運転っスね・・・。リヒトなんてピアノが弾けてメロンが食えれば満足なんスよね・・・」
主人であるリヒトはどうしているだろうかと、扉に顔を寄せながら耳を澄ませてみると、動揺の色が一切感じらない旋律に、ロウレスは思わず半泣きになってしまう。
そうして「連れて行かれたオレのことなんてどーせ微塵も・・・」とぼやいていると、ガチャと外から扉が開かれて。「おわっ?」と驚きの声を漏らしたロウレスは、そのまま前に向かって倒れ込みそうになってしまったのだが。
「無事か―――――・・・」
閉じ込められていた部屋の扉を開いたのが、待ち侘びていた相手だと気づくや否や。
「兄さん!! 遅いっスよ!! 弟が苦しんでるってのに!! 何してたんスか、ダル兄貴!!」
即座にクロの胸倉を両手で掴むと、がくがくと揺さぶりながら猛抗議をしてきて。
「オレのせいじゃね―――――・・・」
敢えて弟にされるが儘になりながらクロが応じた中で。
「あの、ハイド君・・・・・・?」
「ロウレス・・・? お前、体調は?」
瑠璃と真昼が戸惑いの面持ちになりながら尋ねかけると。
「・・・仮病だろ?」
ロウレスから解放されたクロがチラリと弟のほうを見遣りながら口にした言葉がそれで。
「仮病っス!!」
するとロウレスもまた、握りしめた左手の親指で自身を指し示しながら、昂然と胸を張ってそう言い放ったのだ。
「仮病!!」
「そうだったのね」
それに対し、真昼が驚嘆の声を上げて、瑠璃が呆然とした面持ちでロウレスを見返すと。
「そうっスよ、瑠璃ちゃん。ロウレスちゃんの演技力でC3をだましてやったんスよ! おかげで兄さん達と無事合流・・・」
ロウレスは得意気な雰囲気を醸し出しながら、ダテに観劇を趣味にしてないっス! と右手を胸に添えつつ、左手を掲げながらそう言ったものの。ロウレスを部屋から出すのに協力してくれた盾一郎は最初から気づいていたようで。
「まあ、そんなとこだろうとは」
呆れたような眼差しでロウレスを見ていて。
「バレてる」
そこで真昼が勢いよく、突っ込みを入れるかの如く声を上げると。
「だから雑に扱われたんだろ・・・」
クロもまたやれやれといった様子でそんなふうに呟いていて。
「雑・・・・・・」
クロのその発言には、瑠璃も苦笑いを浮かべるしかなかったのだが。
「うっ・・・だめだ。もう死んでしまう!! 早く・・・ほかの主人を!! そして〝ミストレス〟にも会って力を分けてもらわねば!!」
「わーったから黙ってろっつの」
その時、此方に向かってガラガラガラガラと何かを運んでくる音と、耳に覚えのある二人の声が聴こえてきて。
「この声って・・・・・・」
目を瞬かせた瑠璃が声の聴こえてきた方に視線を向けると。
「くっ・・・苦しい・・・!! 早く城田真昼と瑪瑙瑠璃に会わないと・・・!!」
一人で何処かに行っていた弓景が運んできた病人用の移動ベッドの上には胸元のシャツを掴みながら呻き声を漏らしている御園の姿が在り。
「え!? 御園君!?」
瑠璃が驚愕するのと同時に気づいた真昼もまた「御園!」と呼びかけた。
刹那―――――
「瑠璃! 城田! まったく貴様らは何をやっている!」
がばっと御園はベッドから起き上がると、思い切り眉を顰めながら此方を見据えてきて。
「もしかして、御園君も・・・・・・」
「御園・・・お前も仮病で・・・」
瑠璃と真昼が揃って、思わず乾いた笑みを浮かべると。
「ふふん! そうとも! 機転を利かせ見事に部屋を脱出してやったぞ!」
先のロウレスと同じように、御園も誇らしげな顔で、左手の親指と人差し指を立てながらそう告げてきたのだが。
「これと同レベルだと思うと恥ずかしいっス」
「お兄ちゃんも恥ずかしいぞ・・・」
その時、そんな御園の姿を目にしたロウレスがマフラーの裾で顔を覆う仕草をしながら、さめざめとした口調でそう漏らして。それに対しクロもまた、呆れ交じりの口調で頷き返すと。
「なんだ貴様ら!? 僕の名演技にケチをつける気か!?」
「えと、御園君・・・・・・ハイド君もクロも悪気があって言ったわけじゃないと思うから」
そのやり取りに御園が激昂したものの「とりあえず落ち着いて」と瑠璃が宥めすかし。
その後、一人部屋に残されていたリヒトもそこから連れ出して、盾一郎が予め抑えていた小会議室に三人の主人と二人の真祖。そして〝ミストレス〟が集まった処で―――――
「・・・で。なんで瑠璃ちゃんとアンタはC3の制服なんか着てんスか。すっかり懐柔されちゃって」
リヒトとロウレスと机を挟んで向かい合う形でクロと真昼が着席し。クロの側の端の席に瑠璃が。真昼の側の端の席に御園が座ると。机の上に右肘をおきながら頬杖をつきつつ、ムスッとした顔でそう言ったのはロウレスだった。
「違うのよ、ハイド君」
「ただ反抗してたって動けないんだから。シンプルに考えて協力したほうがいいだろ?」
しかし、瑠璃がやんわりとした口調で〝懐柔〟という言葉を否定し、真昼が自分達の意志を口にすると。
「出た・・・シンプル・・・」
ロウレスは眉を顰めたのだが。
「だから私達側もどうするべきか、皆で話し合いをしたいの」
瑠璃が嘆願するように想いを口にすると。
「おい、バカネズミ! 瑠璃のことを困らせるんじゃねー!!」
「うぉ!? ちょっ、リヒト!? オレは別に瑠璃ちゃんを困らせたりなんてしてないっスよ!?」
リヒトがロウレスの態度に苛立ちを覚えたようで蹴りかかろうとして、ケンカが勃発しそうになったものの。
「リヒト君!? 私は大丈夫だから、落ち着いて!!」
「リヒトさん!! 瑠璃姉も、こう言ってることですし。今はロウレスとケンカするよりも、これからどうしていくべきかの話をしましょう!!」
と―――――
今回は二人のケンカを仲裁するのは慣れたものとなった、瑠璃と真昼が揃っていた事から、すぐに場は収まることとなり。
「ロウレスと言ったな・・・貴様は元気そうで何よりだが。一刻も早く相談しなければならないことがあるんだ」
再び席に座り直したロウレスを、眉根を寄せつつ見遣った御園が切り出してきた言葉に「相談?」と目を瞬かせた瑠璃はふと気づく。
「そういえば、リリイの姿が見当たらないけど。もしかして、相談って・・・・・・」
「ああ。リリイのことだが―――――・・・」
そして瑠璃に頷き返した御園が深刻な面持ちで話しだそうとしたその時。
扉近くの壁際に盾一郎と並んでパイプ椅子に座って、此方の様子を静観していた弓景のスマホがヴ―――――ヴ―――――と振動して。
画面を確認した弓景が「・・・・・・来たか」と椅子から立ち上がると。
「ちょっと待て、二人追加だ」
そう此方に向かって声を掛けてきた処で、カラと扉が開かれて。
「鉄!」
「それにヒューくんも!」
入室してきた傲慢組二人に向かって真昼と瑠璃が呼び掛けると。
「真昼のアニキに瑠璃・・・とみんな」
消沈した様子で鉄が応じてきて。
「鉄君、大丈夫? ヒューくんは何か変わったとこは・・・・・・」
そこで席を立った瑠璃がヒューの傍に近づいて行くと。
「なんじゃ、なんじゃ~? 可愛らしい娘さんだけじゃなく、他にも若いモンが大勢集まって・・・ずいぶんと賑やかじゃの~?」
何処からともなく具現化させたステッキを右手に持って、それを杖代わりにしつつ、好々爺といった態度でヒューは小首を傾げながら見上げてきて。
「え、と? ヒューくん・・・・・・?」
以前とは明らかに異なる様子のヒューを瑠璃が呆然となりながら見つめると。
「おお・・・いたたたた腰が・・・。大きいあんちゃん、すまんが手を貸してくれんかの~?」
ヨボボ・・・となったヒューは折り曲げた腰を左手で支える仕草をしながら呻きつつ、鉄に助けを求める言葉を口にして。
「・・・ヒュー、オレの名前は鉄だぞ」
「あ、鉄君。ここにヒューくんを座らせてあげて」
眉を下げつつ、沈鬱な面持ちでヒューに返事をした鉄に、瑠璃は戸惑いの面持ちになりながらも、ひとまず自分が座っていた席を指し示すと。
「すまんのぅ、娘さん・・・・・・あと、出来ればお茶を貰えんかの~」
「え・・・・・・?」
常ならば、吸血鬼らしく『血』を欲するはずのヒューの口から出たその言葉に、瑠璃が思わず目を見開くと。鉄もまた「血じゃないのか?」と確認をしたものの。ヒューの要望が変わることはなく。小会議室内に常備されていた急須に茶葉を入れて、ポットからお湯を注ぎ、瑠璃が用意をしていた間。
「
「ずいぶんのんびりしたおじいちゃんに・・・」
外見との釣り合いが取れる『完全幼児化』という方向ではなく『精神老衰』―――――あまりに衝撃的ともいえるその状態に御園と真昼もまた困惑の色を隠すことが出来ず。揃って何とも言えない面持ちでヒューのことを見ていて。
「はい、どうぞ。ヒューくん、熱いから気をつけて飲んでね」
お茶を淹れ終えた瑠璃が湯飲みをそっとヒューの前に置いた処で。
弓景達が座っていた壁際の端に置かれていた予備のパイプ椅子を鉄が二脚持ってきて。
「・・・・・・ありがとな、瑠璃。あと、これ椅子持ってきたから」
「ううん、これくらいのことは全然気にしないで」
覇気のない声音で礼を口にしてきた鉄に対し瑠璃はゆっくりと首を振り。
そうして鉄とともに椅子に座り直すと。
「鉄・・・あんまり落ち込むなよ。力を戻せないか考えよう」
真昼が鉄に向かって励ましの言葉を口にした後に―――――
「そうだ。御園、リリイのこと・・・って?」
御園に中断してしまった話の続きをしてくれるよう促すと。
「ああ・・・・・・」と御園は重々しい声音で頷いて。
「リリイは・・・動けない。リリイから灰塵が抜けて一カ月経つ。少しずつだが変化が起きているんだ。これが力を失った真祖のたどる先なのか―――――・・・その・・・」
リリイの身に起こっている事象を語り始めようとしたものの。その途中で言い淀んでしまった御園は、チラッ・・・と神妙な面持ちでロウレスに目を向けてきて。
「ちょ・・・なんスか! もったいぶんないで言えっスよ!」
それに気づいたロウレスが、逆に怖ェッス!!と御園を睨み返すと。
「リリイはもう・・・一日のほとんどを眠って過ごしている」
御園は淡々とした声音で続きを話し始めて。
「ま・・・まあ力を失ってんスからそれくらいは・・・」
あり得る・・・とロウレスは冷や汗を浮かべつつも、口元に笑みを浮かべながら、頷いたのだが。
「そしてリリイの体が少しずつ華奢に・・・小さくなってきているように感じる・・・」
しかし、次いで聞かされたその事実に対しては上辺の平静さを取り繕うのは無理だったようで。ロウレスは勢いよく椅子から立ち上がると同時に右手で自身の体のサイズを確かめるかのような仕草をしていて。そんなロウレスの様子にクロと真昼が思わず揃って憐れむような眼差しを向けると。
「ちょっ・・・どーゆーことっスか!?」
怖ェ!!と叫び声を上げたロウレスを、やかましいっと御園が一喝したのだが。
「僕にも詳しくはわからん」
しかし、ロウレスが知りたがっている事柄は御園も与り知らぬもののようで。
「これからオレらも・・・!?」
「ハイド君、気をしっかり持って。まだ、そうなると決まったわけじゃないんだから」
えっ、えっ、とテンパり始めてしまったロウレスを落ち着かせるべく、瑠璃が呼び掛けると。
「・・・・・・瑠璃ちゃん・・・・・・っ」
ロウレスは縋るような眼差しで瑠璃を見返してきて。静かになった処で、御園が再び口を開いたものの。
「わかるのは状態が〝悪化〟しているのだろうということだけだ。考えたくはないが・・・最悪の場合・・・死・・・」
「瑠璃ちゃ~~~ん、リヒた~~~ん、オレ死んじゃうっスよ~~~!?」
そこで浮上してきた、容認し難い可能性に、またもやロウレスが不死のはずだったのに―――――~!!とギャンギャン言い始めてしまって。しかし、御園の話は未だ途中までしか聞けていない状態なのだ。
「・・・・・・ハイド君」
この調子ではいつまで経っても、話の先に進むことが出来ない。
どうすればいいのかと瑠璃が困り顔でロウレスの名を呼ぶと。
「うるせぇ悪魔。瑠璃にまで面倒掛けるんじゃねぇ」
その時、主人であるリヒトがギロッとロウレスを睨みつけて。
「・・・・・・っ!?」
その迫力によってロウレスが条件反射のように沈黙すると。
「椿が行方をくらませている今、このまま時間だけがたってしまうのはだめだ」
〝最悪の結末〟を自分は受け入れるつもりはないのだという、その意思を御園が公然と述べた。
するとロウレスがまた「つったって、どーするんスか!」と食って掛かってきたのだが。一々取り合っていては、もはや切りがないので。
「僕がひとつ思うのは」
御園はそのまま『策』を話そうとしたものの。
「あっ。なんだ、案あるんスね」
その言葉を聞いたロウレスが「早く言えっス」と急かしてきて。
「キサマ、やかましいな」
誰のせいでここまで話すのに時間が掛かったと思っているのか―――――御園は眉を顰めながら怒りを滲ませつつロウレスを見遣った後。
「C3が使う道具。あれはあまりにも主人の
御園が口にした『道具』に対する〝見解〟と、どうするべきかという〝思想〟に対し、
「さすが御園君ね。真昼君と私も同じことを思っていたのよ」
瑠璃が感嘆の声を漏らすと。
「・・・協力ね・・・」
そう呟いたのは両手をズボンのポケットに突っ込みながら、左右の脚を組んで椅子に座っていた弓景だった。しかしその時、此方を見ていた弓景の視線はとても冷ややかなもので。
―――――・・・・・・月満さんとも、大分打ち解けられたと思っていたのだけれど。
―――――・・・・・・〝吸血鬼〟と〝協力〟っていうのが、やっぱり月満さんの中では〝障害〟になってしまっているのかしら。
それに気づいた瑠璃が困惑の面持ちになると、ロウレスもまた〝自分達〟に対してのみ、弓景が醸し出している冷然とした雰囲気を感じ取り。
「ちょっ・・・そーゆー前提が成り立たない話はナシっスよ! C3が吸血鬼に協力するわけないっス! どーせ今の状況だってサーヴァンプ半分力なくして好都合とか思ってるっスよ!?」
左手の親指と人差し指で、弓景だけでなく、腕組みをしながら考え込むような面持ちになっていた盾一郎のことも指し示しながら抗議する姿勢を見せてきて。
「しかしほかに・・・」
御園が眉を顰めながら、〝思い付く手立てが無い〟と、ロウレスに対してそう言おうとしたその時―――――ガタッと椅子から立ち上がった盾一郎が御園の傍にやって来て。
「吸血鬼の生態について詳しい研究者を知っている」
突然、C3側の人間から聞かされることとなったその申し出にロウレスは絶句し。御園は呆然となりながら盾一郎の顔を見返す。
―――――車守さん・・・・・・―――――
そして真昼と瑠璃は、自分達の話し合いの場においてもまた、きちんと協力の姿勢を示してきてくれた盾一郎に対し、目を瞠りつつもまずは静観の姿勢を取る事にする。
「
「・・・!?」
その一方で吸血鬼と協力することを好ましく思っていなかった弓景が盾一郎の発言に愕然とした面持ちになった中。
「研究員・・・そいつが協力的ならそれは願ってもないことだが・・・」
御園が戸惑いの色を滲ませながらも、盾一郎の言葉を受け入れようとしたのだが。
「いや・・・いやいやいや!! そんなの実験体にされるだけっス! 絶対嫌っスからね! 力尽くでもC3から出て行くべきっス!」
その時、人型からハリネズミに姿を変えたロウレスが、クロの左肩に乗っていて。
「ハイド君、いつの間に・・・・・・」
瑠璃が目を瞬かせながら、ハリネズミを見つめると。
「さあ。瑠璃ちゃんと一緒に行くッス兄さん!!」
キュイキュイ!! と甲高い声でハリネズミは鳴きながら「瑠璃ちゃんが傍にいれば兄さんはサーヴァンプ最強なんスから!!」と言っていて。
耳朶に届いたその鳴き声に、キュイじゃね―――――よ・・・とクロは呆れたような面持ちになり。
「お前、一気にザコっぽくなったなあ」
すっかり様変わりしてしまったロウレスに真昼もしみじみとした口調でそう言うと。
「あ―――――悪い・・・。オレと瑠璃はもうデコちゃんに枷つけられちゃって・・・」
抵抗できね―――――・・・とクロがロウレスに告げて。
「実はそうなのよ・・・・・・ごめんね、ハイド君」
クロに続いて瑠璃も、申し訳なさそうな面持ちになりながら、自身の首につけられたお揃いの漆黒の首輪を示して見せると。
「っはァ―――――!? 何やってんスか、あんたは!!」
人型に戻ったロウレスが「もうあんたしかいね―――――んスよ?! つーか瑠璃ちゃんにまで枷つけられちゃうとか、ホントあんた何やってんスか?!」とクロに向かって怒鳴って。
「だ―――――から嫌なんスよ
腹の底から思いっ切り絶叫したロウレスに、ウルセ―――――とクロが眉を顰めると。
「待って、ハイド君」
「でも・・・・お前も御園も車守さんが出してくれたんだ。少し信用して・・・」
瑠璃と共に真昼もロウレスを説得しようと試みようとすると。
「・・・!」
盾一郎が微かに戸惑いの色を滲ませながら此方に目を向けてきて。
「つったってねぇ!! 特にあのカミヤツルギの評判はサイアク! あいつと同じチームの人間じゃねっスか!」
そんな盾一郎に対し、ロウレスが嫌悪感を剥き出しにしながら喚くと。
耳朶に届いた『友人』の名前に反応して、ゆっくりとロウレスのほうに顔を向けた盾一郎が、
「・・・これはC3の総意じゃない。『俺個人』の勝手な行動だ」
左手を机の上に突きながら淡々とした声音でそう言い切ると。
ガタン!! と音を立てて勢いよく椅子から立ち上がったのは弓景だった。
けれど、盾一郎は弓景の様子を気にすることなく。
「それに俺もただの善意でこんなこと言ってるわけじゃない」
そう言いながらさらに右手も机の上に突くと。
「もし力が戻ったなら俺達と一緒に戦ってほしい。協力してくれ。・・・頼む」
深々とロウレスに対して頭を下げたのだ。
「―――――車守さんっ!?」
その盾一郎の行動に瑠璃が愕然となると。
「やっ・・・めろバカ!! なんでそこまですんだよ!!」
同じく血相を変えた弓景が盾一郎の傍にやって来て。
ガッと上着の襟を掴みながら、盾一郎の顔を上げさせて、怒鳴りつけると。
盾一郎の思わぬ行動を目にした瞬間、固まってしまっていたロウレスも。
「そ・・・そうっスよ。なんで・・・」
盾一郎の事を睨みながら、思わず困惑の声を漏らしてしまう。
と―――――
「・・・吊戯はもう戦えない。
盾一郎は静かな声音で、弓景とロウレスに対し、自身の〝偽らざる想い〟を口にした。
けれど、それを聞いても尚、弓景は苛立ちの感情を鎮めることは出来ないようで。
「俺だってそうだ。でも・・・テメェが頭を下げた相手は」
「わかってるよ・・・相手は吸血鬼で許せねぇのもわかるけど」
上着の襟を掴んだまま、唸るような声音で言葉を紡ぎ出した弓景に対し、盾一郎が顔色を変えることなく応じると。
「
弓景は盾一郎の上着の襟をさらに強く握りしめて、互いの距離を詰めた処で、激怒しながらそう言い放ったのだ。
しかし、それを聞いた瞬間、盾一郎の顔に浮かんだ表情は、驚きではなく。可笑しそうな笑みで。
「・・・はは。弓のそのセリフ、久しぶりに聞いた」
「ふざけてんじゃ・・・」
そこで弓景がまた、唸り声を漏らしながら、盾一郎の事を睨みつけると。
「俺が一度決めたら曲げないの知ってるだろ」
盾一郎はそんな弓景の視線を真っ向から受け止めた上で、ふてぶてしい笑みを浮かべながらそう言い返してきたのだ。
結果、弓景は盾一郎に対して最早何も言うことが出来ず。
「勝手にしろ!!」
怒鳴り声を上げるのと同時に、盾一郎に背を向けてバッと扉のほうに向かって行くと。通路に出た処で、そのまま八つ当たりをするように、バアンッと勢いよく扉を閉めたのだ。
その弓景の行動に盾一郎が苦笑を浮かべて。
今回もまた放っておいて大丈夫なのだろうかと真昼と瑠璃が当惑の面持ちになった中。
「城田と瑠璃は・・・その車守とやらを信用してもいいと思ってるんだな?」
腕組みをしながら逡巡するような様子になっていた御園が此方に向かって確認するように問いかけてきて。
「ああ」
「えぇ。車守さんの想いは偽りなく誠実なものよ」
御園のほうに顔を向けた真昼と共に、瑠璃もしっかりと頷き返すと。
「僕はリリイに力を戻してやると約束した・・・。しかし今、僕達にはほかに手立てもない。多少のリスクは承知の上だ」
御園の心は決まったようだった。しかしロウレスは「げっ。つったって・・・リスクしかね―――――っス・・・」と躊躇っている様子だったのだが。
主人であるリヒトがそんなロウレスの事を厳しい眼差しで見遣ると、
「おい、ぐだぐだネズミ。どうせこのまま何もしなきゃあ、てめぇは死ぬんだろうが」
「え・・・いや。そ、そうと決まったわけじゃあ・・・」
咎める発言をしたリヒトに対し、一応話きいてたんスね・・・とロウレスがたじろぐと。
「ロウレス。お前が言いたいこともわかる・・・けどな。オレは腹をくくってるぞ・・・」
最後の一押しとして、兄であるクロが弟に対してそう明言すると。
「~~~~~~っあーもーあーもー! わーかったっスよ!! なんかあったら兄さんに責任取ってもらうっスからね!! そんでもって瑠璃ちゃんに面倒見てもらうっスからね!!」
「それは・・・向き合えね―――――・・・。あと、瑠璃はオレのだからそれは却下だぞ・・・・・・」
やけくそ気味に言い放ったロウレスを、にゃ―――――~・・・とクロが半眼で見返すと。
「ダメだって思ったらさっさと抜け出して自分で情報収集してやるっスから!」
ギクッと顔を引き攣らせた後に、今度は真っ当的な宣言をロウレスはしたのだが―――――
「そこはネズミらしく・・・というわけか」
「キサマ、チョコマカしてて向いてそうだな」
リヒトがロウレスに対して口にした『ネズミ』という言い回しに、御園が感心した様子で、ちなみにハリネズミは、ネズミよりモグラに近いんだがな! と蘊蓄を披露したのに続いて。
「仲間にするの苦労したキャラは役に立つっていうRPG的法則が・・・」
大変だったからな・・・としみじみした口調でクロがそう言うと。
「なるほど。これからは情報提供キャラに!?」
真昼もそれに乗っかるように、両手を握りしめながら、嬉々とした笑みを浮かべて。
「ちょっと!! オレのこと何だと思ってんスか!?」
主人を始めとした面々から弄られることになったロウレスが拗ねた様子で抗議の声を上げた時。
―――――〝大切に想う存在〟を〝失いたくない〟。
―――――〝大切に想う存在〟を〝助けたい〟。
―――――吸血鬼も人も〝心〟に抱いている〝想い〟は同じだから。
―――――手を取り合って〝協力〟し合うことが出来れば、きっと〝最善の未来〟を掴み取ることが出来るって私は信じてる。
その様子を見ていた瑠璃はふわりと柔らかな笑みを浮かべながら心のなかでそう呟いたのだ。
そして―――――
盾一郎もまたその光景を見届けた処で、扉のほうに進んで行こうとしたのだが。
「・・・・・・瑠璃さん、弓の件で悪いんだけど。一つだけ頼まれてくれないか」
ふと、思い至った様子でそんなふうに声を掛けてきて。
「月満さんのですか?」
「弓のことを―――――」
カラ・・・という音とともに小会議室の扉がゆっくりと開かれる。
扉の近くには顔を伏せながら座りこんでいる弓景の姿が在り。
「・・・弓。俺はあの人に連絡してみる」
弓景に対して、静かな声音でそう告げてきたのは盾一郎だった。
けれど、ピクッと肩を震わせつつ反応を示した弓景は顔を上げることはせず、
「ウッセ。勝手にしろ、ボケッ」と突き放すように返事をしたのだが。
この場から立ち去ることなく残っていた―――――それこそが弓景の出した『答』だと、長い付き合いである盾一郎にはちゃんと伝わっていて。
微苦笑を浮かべた盾一郎が「・・・・・・ありがとな」と感謝の言葉を口にした処で。
チラと開いたままにしていた扉のほうに目を向けると、それを合図として瑠璃もまた此方側に出てきて。
「月満さん」
微かに緊張した様子で呼びかけてきたものの。
「・・・・・・んだよ。テメェも、何か俺に言いたい事でもあるのかよ・・・・・・」
弓景は顔を上げることなく、ふてくされた態度のままで応じたのだが。
「私達の話し合いの結果。〝みんなで協力する〟って決まりました。なので、改めてこれからよろしくお願いします。―――――〝弓景〟さん」
「・・・・・・あ゛ぁっ!?」
〝解っていた〟事柄を真摯な口調で告げてきた後に、柔らかな声音で自分の〝名前〟を呼んだ瑠璃に対して弓景は動揺のあまり、威嚇するような声を漏らしてしまったのだった。
―――――弓のことを〝名前〟で呼んでやってくれないか?
会議室から出ようとした盾一郎が瑠璃に対して告げてきた頼みごとがそれだった。
―――――俺の友達を助けてくれるか。真昼、瑠璃さん―――――
盾一郎は〝吊戯〟を助ける為に吸血鬼と協力をすると決めた時―――――〝主人〟と〝ミストレス〟である『少年』と『彼女』のことは対等な相手として認め、〝名前〟で呼ぶことを決めた。
だから―――――
怒っているように見えて、じつは心配性で相手のことを想うあまり、強い言葉を口にしてしまい―――――結果、吸血鬼達との話し合いの場から、腹に据えかねた態度で飛び出して行ってしまったもう一人の〝不器用な友人〟が気にかけている『彼女』には、その〝友人〟のこともまた、〝名前〟を呼んで欲しいと思ったのだ。
けれど、その後にその〝友人〟から、「俺だけじゃなく、盾のことも名前で呼ぶべきだろ」という、不服申し立てがあったことにより。結局、盾一郎もまた瑠璃から名前で呼ばれることとなるのだった。
それから然程時を置かずして―――――御園、リヒト、鉄の三人は、盾一郎が用意してくれたフード付きのコートを身に纏うと。その中に動物姿の真祖達を隠した状態で会議室から出ることとなり。盾一郎の後に続いて通路を歩いていき、薄暗い地下への階段を下りる事になった処で「どこへ移動するんだ」と御園が確認の言葉を口にすると。
「その人の実験室だ。連絡したらこっちにすぐに来てくれたそうでな」
盾一郎のその返答から『吸血鬼の生態について詳しい研究者』といよいよ対面となるのだと理解したものの。
お待たせしました。
盾一郎の手によって、ガアッと音を立てて開かれた扉の向こう側に見えた、外と同様に薄暗い実験室―――――そこに置かれた机の前に、だらりと両手を下げて逆さになりながら、行儀悪く口にストローを銜えて椅子に靠れた状態で座っていた、研究者らしく白衣を身に纏って眼鏡をかけているその男の姿は異様な雰囲気を感じさせるモノで。
「ああ――――――――――!! こんなにも大量の真祖で実験できる日がくるなンて―――――!!」
盾一郎から博士と呼ばれた男は御園達の姿を認めた瞬間、ニヤリと笑みを浮かべた後に、突如として歓喜の叫び声を上げながら、勢いよく上体を起こして椅子から立ち上がると。
「この瞬間よ・・・止まれ。汝は・・・泣くほど美しい・・・」
ああ・・・と声を漏らしつつ、右手で顔を覆う仕草をしながら、ばたばたばたと、瞳から涙を溢れさせて。
感情の起伏の激しい、マッドサイエンティスト―――――その正体は御国の店で真昼と瑠璃が出会った『ヨハネス・ミーミル・ファウストゥス』だった。
そして実験と言い切ったヨハネスに対して御園達は―――――
―――――生きて・・・帰れるか・・・?
そんな一抹の不安を抱きながらも、失った力を取り戻す手掛かりを掴む為。
暫くの間、ヨハネスの研究室に留まることとなるのだった。
【本館/21・8/01/別館/21・8/01掲載】
●21/9/18加筆修正。
【弓景さんとのやり取りに関して思う処が出た為、加筆させて頂きましたが・・・。もし、不要だと思われる方いらっしゃいましたらご意見頂けましたらと思います)
★雲壌懸隔(うんじょうけんかく)⇒大きな違いがあること。
