第二十一章『千錯万綜』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それからすぐに盾一郎が救護室に走って行き。
口元と顎に立派な髭を蓄えているだけでなく、厳つい雰囲気も纏った、救護室の職員である耶節という名の、白髪の男を連れて来て。
すぐさま吊戯は耶節の指示によって救護室に担ぎ込まれることとなり。
瑠璃と真昼もまた、負傷した黒猫を連れてそこに行った後。
仕切られたカーテンの先に在った場所を借りて、意識を取り戻した黒猫の身体を瑠璃がお湯を入れたボールの中で洗い。
「たいしたケガなくてよかったな、クロ」
次に真昼が用意していたタオルで黒猫の身体をわしわしと拭いてやりながらそう言うと。
「しかし精神的ダメージがやべーぞ・・・。ふかふかベッドで休息とる必要があるな・・・。つーわけで真昼、今夜は瑠璃の部屋のほうでオレは寝るぞ・・・・・・」
う―――――~~~、と呻くようにしながらそう黒猫が漏らしたものの。
そんな黒猫に対し「この状況下で何てこと言ってやがる、このニート」と真昼が眉を顰めつつ突っ込みを入れて。瑠璃もまた、「ここにいる間は、ちょっと難しいかもしれないわね」と苦笑いを浮かべると。
―――――吊戯さんは―――――・・・・・・。
チラリとカーテンの向こう側に目を向ける。
吊戯は救護室の奥にある処置室で耶節が診ていて、盾一郎と弓景がその扉の前で待機をしているのだ。
そしてその間に盾一郎は弓景から吊戯の状態に関して、知らされていなかった話を聞いていて。
「じゃあ・・・これが初めてじゃないんだな?」
「あ―――――・・・テメェの休職中に何度か・・・な。警報が鳴るたびにアレだ」
盾一郎が口にした確認の言葉に対し、弓景は眉を顰めながら頷くと。
「・・・あの日 、やっぱり吊戯は警報を聞いてたんだ」
「・・・・・・ああ・・・俺もそれは間違いねぇと思う」
「あの日のこと吊戯はお前に何か話したのか」
今度は盾一郎が弓景にそう訊き返したものの。
「いや・・・何も」
吊戯は弓景にでさえも、真実を語ることなく口を噤んでしまっているようで。
「・・・そうか・・・」と盾一郎が苦い顔で項垂れると。
「・・・・・・話せねぇ って感じだぜ」
弓景は処置室の扉のほうを睨むように見据えながらそう呟いて。
その言葉に「え?」と盾一郎が目を見開きながら弓景のほうを見返した処で。
「おい。落ち着いたぞ、入んな」
ガラと処置室の扉を開いて出てきた耶節が盾一郎と弓景に呼び掛けてきて。
二人の話はそこで終了となったのだが―――――。
―――――・・・・・・〝あの日〟・・・・・・〝警報〟・・・・・・。
―――――・・・・・・C3の中で、〝過去〟に何か〝大きな騒動〟があったのか?
聞こえてきた盾一郎と弓景の会話のやり取りに、瑠璃と真昼もまたモヤモヤとした想いを抱きながら、二人が処置室に向かって行ったタイミングでカーテンを開けて。彼らの後に続く形で入室すると―――――。
「ったく。こんなになる前にちゃんと検査に来いって言ってるだろうが」
ゴツン! と耶節が吊戯の頭に拳骨を落としていて。
「痛い!」とベッドに胡坐を崩した姿勢で座り込んでいた吊戯は右手で頭を抑えながら呻いていたものの。
その様を目にした盾一郎が、おお・・・?と唖然とした面持ちで目を瞠りつつ、
「平気か、吊戯」と呼びかけると。
「はっは! ごめんよ―――――」
へらりと見慣れた笑顔で吊戯は盾一郎に応じてきて。
―――――良かった、吊戯さん。
―――――平気そう・・・。
黒猫を抱いた瑠璃と真昼もまたそんな吊戯の姿を見て、ほ・・・と安堵の息を吐き出すと。
「瑠璃ちゃんも。びっくりさせちゃったね~」
此方に気づいた吊戯がひらひらと手を振って見せてきて。
そんな吊戯に「あ、はい・・・・・・」と瑠璃は微苦笑を浮かべながら頷くと。
耶節が呆れたような眼差しで吊戯を見遣りながら、
「可愛らしいお嬢さんだけじゃなく。ジジイにも心配かけるんじゃねぇよ。寿命が縮んじまうだろうが」
「大丈夫だよー。ヤブじい、オレより長生きするよ」
「そりゃあ大丈夫って言わねぇな」
はっはと笑いながら軽口を叩いた吊戯に耶節はやれやれと言った面持ちになりつつ。
「薬を取ってくる。騒ぐなよ3バカ共」
吊戯だけでなく、盾一郎と弓景にも釘を刺した上で、処置室から出て行くと。
「・・・お前。ヤバいんじゃないのか?」
吊戯に対してそう切り出したのは盾一郎だったのだが。
「いや~寝不足とかかな~~~~~~? 最近、接待に連れてかれることも多かったから~」
吊戯は素知らぬ様子で、へらっと笑って返してきて。
そんな吊戯の状態をまたしっかりと確認する為か、すぐ傍に在った丸椅子に腰かけた弓景が「飲みすぎってわけでもねーだろ」と言うと。
「えー? やだな~~~~~~オレこれでも未成年だよ~?」と吊戯は弓景に返答をしてきて。
「・・・・・・え?」
その吊戯の言葉に真昼が呆然とした声を漏らし。
「はあ? 何言って・・・」
盾一郎もまた、眉を顰めながら吊戯を見返し。
―――――吊戯さん、私より年上の26歳のはずじゃ・・・・・・。
瑠璃が困惑の面持ちになりながら吊戯を見つめていると。
―――――コンコン
処置室の扉をノックする音が聞こえてきて。
耶節が此方に戻ってきたのかと思いきや。
ガラ・・・と開かれた扉の向こう側から顔を見せたのは耶節ではなく。
黒いスーツを身に纏った2メートル近くは身長があるのではないかと思われる大男で。
―――――・・・・・・えっ!?―――――
扉のすぐ傍にいた真昼と瑠璃の二人が思わず目を見開きながら固まってしまった中。
『!!』
弓景と盾一郎だけは、大男の姿を目にした瞬間から警戒心を露わにしていて。
しかし、大男はそんな二人の様子を目に留めた処で、嘲笑するかのように口の端を僅かに吊り上げると。
「失礼」
真昼と瑠璃に対して一言だけ、そう声を掛けた後に、ぬうと身を屈めるようにしながら、扉を潜り抜けてコツコツと靴音を響かせながら入室してきて。
―――――・・・うわ、背・・・高い・・・。
―――――・・・・・・リリイと同じくらい、かしら・・・・・・。
その姿を真昼と瑠璃が呆然とした面持ちで見ていると。
「具合はどうだ、吊戯」
「あれーどうしたの。今日、暇なの?」
見舞いの言葉を口にした大男に吊戯がニヤッと笑みを返したことから、どうやら親しい間柄のようだと思われたのだが。
「お前が不具合起こしたと聞いてわざわざ来てやったんだろうが」
―――――〝不具合〟って、まるで吊戯さんのことを、『道具』みたいに・・・・・・。
大男の発言に、引っかかりを感じた瑠璃が眉を顰めると。
「何の用だ、塔間」
椅子から立ち上がった弓景もまた大男の事を敵意に満ちた目で睨みつけて。
真昼と瑠璃はその瞬間、両手をズボンのポケットに軽く入れながら佇んでいる、その後ろ姿からも感じられる威圧的な気配に、緊張を覚えていた。
―――――・・・・・・この人が『塔間』さん・・・・・・!―――――
そして真昼と瑠璃が、目を瞠りながら塔間を見つめていると。
その視線に気づいたからなのだろうか。塔間はスーツの上から身に着けていた、独特の模様が描かれたストールを靡かせつつ、此方に振り返って来て。
「C3東京支部、副支部長。塔間泰士だ」
口元に笑みを浮かべながら真昼と瑠璃に向かって、まず己の立場と名前を名乗った後に。
塔間は右手を胸に添えながら、威圧感のある大きな体躯を折り曲げると、
「吸血鬼 と主人 の方々には不便をさせて申し訳ない。支部長は今、本部会議に呼ばれてイギリスに出張中でね。だから今は俺がここを預からせてもらってる」
詫びの言葉とともに、現状は自分が責任者であるのだと告げてきたのだが。
「ですが、〝ミストレス〟のお嬢さんは、ここでもうまくやっていけそうですね。吊戯とはずいぶんと〝仲よく〟して下さっていると聞いていますよ」
その後に、に対して向けられた視線と、紡ぎ出された含みのある言葉は、まるで値踏みでもしているのではないかと思わせるもので。
「・・・・・・っ」
刹那、背筋が冷たくなるような感覚を覚えた瑠璃が肩を震わせると。
「・・・・・・」
瑠璃の腕の中で目を閉じつつ、精神ダメージを回復すべく休んでいた黒猫が、不愉快だというように真紅の瞳を開いて塔間を見上げようとしたものの。その時、様子を見るようにしていた盾一郎が此方にやって来て。
「副支部長。吊戯に少し休暇をもらえませんか」
塔間からさりげなく引き離すように瑠璃の傍に並んで立つと、盾一郎が口にした発言に「え」と吊戯本人が驚いた声を漏らしたのだが。
「もうステージもⅢまで進んでる。これ以上は戦わせられない」
それには構うことなく、盾一郎がきっぱりとした口調でそう言い切ると。
「車守くん。復帰してくれて嬉しいよ。戦闘班はいつでも人手不足だからね」
しかし、塔間は盾一郎の言葉など聞いていなかったかのような態度で応じてきて。
「今、俺が話をして」
盾一郎は塔間を睨むように見据えながら文句を言おうとするも。
「もう一年以上前になるか。奥さんの件は辛かったと思うが―――――」
塔間の口から紡ぎ出されたその言葉を聞いた瞬間、盾一郎は凍り付いてしまう。
「テメェ、それ以上喋るとここで殺すぞ」
しかし、その瞬間、殺気に満ちた面持ちとなった弓景が所持していた『道具』を銃に変えて、塔間の後頭部に突き付けたのだ。
「・・・・・・月満さん!?」
その弓景の行動に対して、戸惑いの声を上げたのは瑠璃だった。
塔間本人は全く顔色すら変えることなく、代わりに瑠璃の様子を観察するように見遣った後。
「一応、俺は君の上司なんだがな? 〝ミストレス〟のお嬢さんも驚いているじゃないか。救護室で銃を向けるなんて」
弓景に対して余裕の態度を見せるかのように、首元のネクタイを緩めると。
「いくら君が・・・月満のご子息と言えど・・・」
煽るかのようにそう言ったのだが。
「やめろ、弓。この人のペースで話したらだめだ」
カッとなりかけた弓景の肩に左手を置きながら制したのは、その弓景の行動を目にして我に返った盾一郎だった。
けれど、決して塔間の身を案じて取った行動ではないというのを示すように。
チと舌打ちを漏らした弓景とともに、盾一郎もまた嫌悪に満ちた眼差しで塔間を睨みつけていて。
―――――・・・・・・月満さんだけじゃなく、車守さんまで、あんな顔をするなんて。
塔間という男は、この二人に一体何をしたのだろうか。
瑠璃が当惑の面持ちになった中、塔間本人は変わらずまったく堪えた様子もなく。
「相変わらずお前の友達はすごい目で俺を見るね、吊戯」
吊戯のほうに目を向けると、独特の間を持たせた口調で話しかけたのだが。
「はは。嫌な言いかたするからでしょ。だめだよ、泰ちゃん」
吊戯が『泰ちゃん』と塔間に向かって呼び掛けた刹那―――――
塔間は微かに驚いたように目を見開きながら吊戯のほうを見ていて。
弓景も愕然とした顔で吊戯を見つめていた。
―――――・・・『泰ちゃん』?
そして吊戯が口にした塔間の呼び名に、真昼もまた呆然とした面持ちで目を瞬かせ。
静まり返った部屋の中で吊戯と塔間の二人を交互に見遣ると。
塔間はゆっくりと自身の肩にかけていたストールを外す仕草をして。
それをベッドの近くにあった机の上に置いた処で吊戯に向き直ると。
「・・・吊戯。そういえばお前、今月末、誕生日だったな。今いくつだったか・・・」
「え~何? 急に。ケーキでも買ってくれるの?」
唐突に塔間が切り出してきた話題に吊戯はへらと笑い返すと。
「狼谷吊戯。17歳で―――――・・・」
左手の親指と人差し指を立てながら、ニヤッと笑みを浮かべて、そう言いかけたのだが。
「・・・・・・吊戯さん?」
その言葉を聞いた瑠璃が思わず戸惑いの表情を浮かべながら吊戯の名前を呼ぶと。
数秒間、吊戯は固まった後に、「・・・や、あ―――――・・・えっと」としどろもどろになりながら視線を俯けてしまい。
「いや・・・に・・・じゅう・・・さん・・・?」
自身の年齢を正しく思い出すことが出来ないといった状態になってしまった吊戯に対し。
「・・・26だろ。・・・吊戯」
絞り出すような声音で盾一郎がそう告げると。
「・・・あ。ああ! あーそっか! そうだ、うん! いやー気持ちは永遠の17歳って感じでね!」
吊戯は弓景に対して強張っていた顔に無理矢理笑みを浮かべながら「はっは!」と笑い声を上げて返事をしたものの。その後にまた片膝を抱えるようにしながら項垂れてしまい。
「確かに少し 調子がよくないようだ。強めの安定剤を手配しておくよ」
そんな吊戯を慰めるかのように、塔間が左手でぽんぽんと頭を叩く仕草をしたのだが。
「こいつはお前の出世の道具じゃねぇんだよ!!」
その直後、盾一郎が勢いよく塔間のネクタイ締め上げるように掴み上げると、激怒した面持ちでそう言い放ったのだ。
けれど、塔間はそんな盾一郎の顔を嘲笑するかのような笑みを浮かべながら見返すと。
「・・・はは。懐かしいな。君はC3入社初日・・・同じことを言って俺を殴ってくれたよなぁ。変わらないなあ、君も俺も・・・吊戯 も」
そんな皮肉めいた言葉を口にしてきて。
このままでは言うだけに止まらず、塔間のことを盾一郎は殴ってしまうのではないだろうかと思われた中で。
「ああ。待って、盾ちゃん。オレ、平気だって。この人わざと、こう嫌な言いかたするのが好きなだけなんだから」
諍いを止めるべく声を上げたのが、当事者である吊戯だった。
そして吊戯が「ね」と塔間のスーツの裾を掴む仕草をすると。
それに応えるように塔間はスと盾一郎から視線を逸らした後に。
「耶節先生に用があってね。席を外してもらえるかな」
そう言った時、盾一郎は塔間に掴みかかっていた手を放していて。
「・・・くそ。コイツと話してっと頭おかしくなりそうだ」
弓景が右手で頭を抑える仕草をしながら塔間に背を向けて先にこの場から出て行くと。
「・・・吊戯。また・・・後で」
真昼と瑠璃も、吊戯にそう告げた盾一郎に促されて、一緒にそこから退室することとなったのだが。
「・・・道具だなんて。なあ吊戯。そんなことないよなあ。どちらかといえば家族みたいなものだよなあ」
その時、耳朶に聴こえてきた塔間の口から出た『家族』という言葉。
そして扉が閉じる直前に見えた、吊戯の『いびつな笑顔』が、真昼と瑠璃の胸の中に小さなシコリとなって残ったのだった。
それから救護室を後にして、盾一郎に連れられて通路を歩きだした処で。
先を歩いていた弓景が苛立ちをぶつけるように、小休憩スペースに置かれていたゴミ箱をガンと勢いよく蹴り飛ばしている様を目撃してしまい。
―――――・・・・・・ぁ―――――
真昼と瑠璃が揃って唖然とした表情を浮かべると、盾一郎が眉を顰めながら、
「こら弓。物に当たるな。物に」
注意をした後に、ったく、と言いながらゴミ箱を起こすと。
弓景はドスドスと大股で足を踏み鳴らすようにしながら、そのまま立ち去ろうとしていて。
「あ、月満さん・・・・・・どこに行くんですか」
散らばったゴミを盾一郎と一緒に拾っていた瑠璃がそれに気づき、弓景の背中に向かって呼び掛けると。
「便所!!」
弓景からは一応返事が返ってきたものの。
「・・・・・・」
追いかけたほうが良いだろうかと真昼が動こうとした処。
「ああ、大丈夫。頭が冷えたら戻ってくる」
そう盾一郎は言った後。このままここで少し休憩をしようという提案を持ち掛けてきて。
「コーヒーしかないけど」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「あっ・・・・ありがとうございます」
自販機で購入したそれを差し出してきた盾一郎に対し、瑠璃に続いて真昼もまた礼を言って受け取ろうとしたのだが。
「ああ、そう言えばお前は・・・『オレンジジュースが好きな子供のままでいい』んだっけな?」
ふと、盾一郎が思い出した様子でそんな言葉を漏らして。
「!? なっ、なんでそのセリフを・・・!?」
それを聞いた真昼が、カッと顔を赤くしながら盾一郎の顔を見返した中で。
「えっと・・・・・・?」
きょとんと瑠璃は目を瞬かせながら、盾一郎のほうに目を向けると。
「前に修平が連れてきたときの録画映像見たぞ。3人で見たんだが、吊戯が大爆笑で」
はははと盾一郎は笑いながら話をしてくれて。
「~~~~~~っ」
それにより暫しの間、真昼は羞恥に悶えることとなってしまったのだが。
人型に戻ったクロも交えて4人で席に着いた後。
皆でコーヒーを飲みながら一息つくと。
「二人とも・・・魔術師やC3についてほぼ何も知らないんだな」
「・・・・・・はい。ですから、教えて頂けませんか」
淡々とした声音でそう漏らした盾一郎に対し、瑠璃が静かに頷き返すと―――――。
「・・・・・・俺達が使う『魔術』は精神への負荷がかかる」
僅かな沈黙の後に盾一郎は話をし始めて。
「使いすぎれば異常が現れる。みんな大体症状は似ていて。知っているはずの人間の顔が認識できなくなる。『顔のない人が迎えに来る』という幻覚を見る。精神が子供に還っていく」
―――――盾一郎が口にしたその症状は今の吊戯の容態に全て当てはまるモノばかりで。
「吊戯はもう・・・限界が来てるんだ。ちょっとしたきっかけでバランスを崩す。もう戦える状態じゃなくなって・・・」
そこまで盾一郎の口から話を聞き終えたその時。
―――――それなら―――――
真昼と瑠璃の中で、盾一郎に対して伝えるべき想いは、ハッキリと決まっていた。
「それならシンプルに考えて吸血鬼 と協力するべきじゃないですか」
「そうね。車守さん、私達と一緒に戦いましょう」
そして真昼と瑠璃が口にしたその言葉に対しクロが「めんどくせーけどな」とお決まりの台詞を口にしたものの。そちらに対しては真昼から「出た!ツンダル」―――――だるいツンだ―――――という突っ込みが入ることとなり。
その時、盾一郎もまたこれからどうすべきか―――――自身の『答』が決まったようだった。
「・・・じゃあまず、隔離しているほかの真祖 達と合流できたほうがいいよな」
そして盾一郎がそう言いいながら席を立った処で。
「〝強欲〟だけは何か体に異常が出ていて暴れたらしい。どうやら〝怠惰〟を呼べと喚いているそうだ」
提供されたその情報により、先程の警報はそれが原因だったのだと真昼と瑠璃は知ることとなったのだが―――――クロを呼べとロウレスが暴れた理由は一体何なのだろうか。
「クロ、何か心当りある?」
瑠璃が気遣わしげな眼差しでクロに尋ねかけると。
「あ―――――・・・・・・ある」
クロもまた、神妙な面持ちで頷き返してきて。
「それなら口実にもしやすい。俺が手配してみよう」
それを聞いた盾一郎がそう申し出てくれて。「お願いします」と瑠璃が頷いた後に。
「・・・車守さんは俺達の話を・・・聞いてくれるんですね」
飲み終えたコーヒーの缶を片付けるために、席を立った盾一郎の背に向かって真昼がそう言うと。
「・・・『何もしない』のはもうごめんだからな」
ガコンと缶を捨てた盾一郎は、真昼のその言葉に対する返答として、自身の『本心』を偽ることなく言葉にして紡ぎ出す。
「俺はただ家族や友人を失いたくない。それ以外のことは正直どうだっていい身勝手な人間だから」
そして真昼と瑠璃がそんな盾一郎の背中を強い意志を宿した瞳で見据えると―――――
「――――――俺の友達を助けてくれるか。真昼、瑠璃さん」
此方に顔を向けてきた盾一郎もまた、真昼と瑠璃に対して、真剣な眼差しで見返しながらそう告げてきたのだ。
そして―――――
―――――吊戯は盾一郎達にも何かを隠している。
―――――恐らくそれは〝塔間〟と〝吊戯〟だけが知る何か。
―――――『答』となる『鍵』は『椿』の『動機』と『目的』。
真実に辿り着き、吊戯を救う為に。真昼と瑠璃が盾一郎と共に、動き出すこととなった時。
「狼谷吊戯、26歳」
塔間から渡された1本の煙草。吊戯は虚ろな瞳で、それを口に銜えた状態で紫煙を燻らせながら、自身の名前と年齢を繰り返し呟いていた。
そして、バラバラになりかけた、精神と心を、ゆっくりと繋ぎ合わせていく。
―――――歴代の魔術師の悲願だ。これが成功すればすべてが解決する―――――
―――――俺が正しかったと証明してやる―――――
―――――誰にも言うなよ。知っているのは俺とお前だけだ―――――
そう言ったのは『彼』だった。
―――――『落ちて割れた卵は本当にもとには戻らない』のか?―――――
オレは戻りたくない。
―――――あの夜、どこで何をしてた―――――
―――――俺にも話せねぇってのかよ。なんでなんだよ吊戯!―――――
そう言ったのは『月』だった。
―――――ごめんよ、ごめんよ、ごめんよ。オレのことを許さないで―――――
けれど本当のことを話すことは出来ないから、オレはそう言うことしか出来なかった。
―――――怨めって言われたって、何もわからねぇんだ。それすらできねぇよ―――――
そう言ったのは『戦車』だった。
―――――このままここでかみさまにでもなるのか―――――
―――――お前はかみさまに一番近い男なんだから―――――
これは誰の言葉だっただろうか。
「〝明日世界が終るとしても〟〝私は今日も木を植える〟―――――・・・」
そしてふと思い出した言葉を吊戯は口にしたのだが。
「・・・何の木だったかな・・・」
その言葉の先を思い出すことは出来ないまま―――――。
しかし、その代償として一つだけ、吊戯の中に定まった〝事柄〟があった。
「大丈夫。予定通りのはずだ。〝憂鬱〟にも・・・誰にもゆずらない 。成し遂げるのはおれたちだ・・・」
【本館/21・6/29/別館/21・6/30掲載】
口元と顎に立派な髭を蓄えているだけでなく、厳つい雰囲気も纏った、救護室の職員である耶節という名の、白髪の男を連れて来て。
すぐさま吊戯は耶節の指示によって救護室に担ぎ込まれることとなり。
瑠璃と真昼もまた、負傷した黒猫を連れてそこに行った後。
仕切られたカーテンの先に在った場所を借りて、意識を取り戻した黒猫の身体を瑠璃がお湯を入れたボールの中で洗い。
「たいしたケガなくてよかったな、クロ」
次に真昼が用意していたタオルで黒猫の身体をわしわしと拭いてやりながらそう言うと。
「しかし精神的ダメージがやべーぞ・・・。ふかふかベッドで休息とる必要があるな・・・。つーわけで真昼、今夜は瑠璃の部屋のほうでオレは寝るぞ・・・・・・」
う―――――~~~、と呻くようにしながらそう黒猫が漏らしたものの。
そんな黒猫に対し「この状況下で何てこと言ってやがる、このニート」と真昼が眉を顰めつつ突っ込みを入れて。瑠璃もまた、「ここにいる間は、ちょっと難しいかもしれないわね」と苦笑いを浮かべると。
―――――吊戯さんは―――――・・・・・・。
チラリとカーテンの向こう側に目を向ける。
吊戯は救護室の奥にある処置室で耶節が診ていて、盾一郎と弓景がその扉の前で待機をしているのだ。
そしてその間に盾一郎は弓景から吊戯の状態に関して、知らされていなかった話を聞いていて。
「じゃあ・・・これが初めてじゃないんだな?」
「あ―――――・・・テメェの休職中に何度か・・・な。警報が鳴るたびにアレだ」
盾一郎が口にした確認の言葉に対し、弓景は眉を顰めながら頷くと。
「・・・
「・・・・・・ああ・・・俺もそれは間違いねぇと思う」
「あの日のこと吊戯はお前に何か話したのか」
今度は盾一郎が弓景にそう訊き返したものの。
「いや・・・何も」
吊戯は弓景にでさえも、真実を語ることなく口を噤んでしまっているようで。
「・・・そうか・・・」と盾一郎が苦い顔で項垂れると。
「・・・・・・
弓景は処置室の扉のほうを睨むように見据えながらそう呟いて。
その言葉に「え?」と盾一郎が目を見開きながら弓景のほうを見返した処で。
「おい。落ち着いたぞ、入んな」
ガラと処置室の扉を開いて出てきた耶節が盾一郎と弓景に呼び掛けてきて。
二人の話はそこで終了となったのだが―――――。
―――――・・・・・・〝あの日〟・・・・・・〝警報〟・・・・・・。
―――――・・・・・・C3の中で、〝過去〟に何か〝大きな騒動〟があったのか?
聞こえてきた盾一郎と弓景の会話のやり取りに、瑠璃と真昼もまたモヤモヤとした想いを抱きながら、二人が処置室に向かって行ったタイミングでカーテンを開けて。彼らの後に続く形で入室すると―――――。
「ったく。こんなになる前にちゃんと検査に来いって言ってるだろうが」
ゴツン! と耶節が吊戯の頭に拳骨を落としていて。
「痛い!」とベッドに胡坐を崩した姿勢で座り込んでいた吊戯は右手で頭を抑えながら呻いていたものの。
その様を目にした盾一郎が、おお・・・?と唖然とした面持ちで目を瞠りつつ、
「平気か、吊戯」と呼びかけると。
「はっは! ごめんよ―――――」
へらりと見慣れた笑顔で吊戯は盾一郎に応じてきて。
―――――良かった、吊戯さん。
―――――平気そう・・・。
黒猫を抱いた瑠璃と真昼もまたそんな吊戯の姿を見て、ほ・・・と安堵の息を吐き出すと。
「瑠璃ちゃんも。びっくりさせちゃったね~」
此方に気づいた吊戯がひらひらと手を振って見せてきて。
そんな吊戯に「あ、はい・・・・・・」と瑠璃は微苦笑を浮かべながら頷くと。
耶節が呆れたような眼差しで吊戯を見遣りながら、
「可愛らしいお嬢さんだけじゃなく。ジジイにも心配かけるんじゃねぇよ。寿命が縮んじまうだろうが」
「大丈夫だよー。ヤブじい、オレより長生きするよ」
「そりゃあ大丈夫って言わねぇな」
はっはと笑いながら軽口を叩いた吊戯に耶節はやれやれと言った面持ちになりつつ。
「薬を取ってくる。騒ぐなよ3バカ共」
吊戯だけでなく、盾一郎と弓景にも釘を刺した上で、処置室から出て行くと。
「・・・お前。ヤバいんじゃないのか?」
吊戯に対してそう切り出したのは盾一郎だったのだが。
「いや~寝不足とかかな~~~~~~? 最近、接待に連れてかれることも多かったから~」
吊戯は素知らぬ様子で、へらっと笑って返してきて。
そんな吊戯の状態をまたしっかりと確認する為か、すぐ傍に在った丸椅子に腰かけた弓景が「飲みすぎってわけでもねーだろ」と言うと。
「えー? やだな~~~~~~オレこれでも未成年だよ~?」と吊戯は弓景に返答をしてきて。
「・・・・・・え?」
その吊戯の言葉に真昼が呆然とした声を漏らし。
「はあ? 何言って・・・」
盾一郎もまた、眉を顰めながら吊戯を見返し。
―――――吊戯さん、私より年上の26歳のはずじゃ・・・・・・。
瑠璃が困惑の面持ちになりながら吊戯を見つめていると。
―――――コンコン
処置室の扉をノックする音が聞こえてきて。
耶節が此方に戻ってきたのかと思いきや。
ガラ・・・と開かれた扉の向こう側から顔を見せたのは耶節ではなく。
黒いスーツを身に纏った2メートル近くは身長があるのではないかと思われる大男で。
―――――・・・・・・えっ!?―――――
扉のすぐ傍にいた真昼と瑠璃の二人が思わず目を見開きながら固まってしまった中。
『!!』
弓景と盾一郎だけは、大男の姿を目にした瞬間から警戒心を露わにしていて。
しかし、大男はそんな二人の様子を目に留めた処で、嘲笑するかのように口の端を僅かに吊り上げると。
「失礼」
真昼と瑠璃に対して一言だけ、そう声を掛けた後に、ぬうと身を屈めるようにしながら、扉を潜り抜けてコツコツと靴音を響かせながら入室してきて。
―――――・・・うわ、背・・・高い・・・。
―――――・・・・・・リリイと同じくらい、かしら・・・・・・。
その姿を真昼と瑠璃が呆然とした面持ちで見ていると。
「具合はどうだ、吊戯」
「あれーどうしたの。今日、暇なの?」
見舞いの言葉を口にした大男に吊戯がニヤッと笑みを返したことから、どうやら親しい間柄のようだと思われたのだが。
「お前が不具合起こしたと聞いてわざわざ来てやったんだろうが」
―――――〝不具合〟って、まるで吊戯さんのことを、『道具』みたいに・・・・・・。
大男の発言に、引っかかりを感じた瑠璃が眉を顰めると。
「何の用だ、塔間」
椅子から立ち上がった弓景もまた大男の事を敵意に満ちた目で睨みつけて。
真昼と瑠璃はその瞬間、両手をズボンのポケットに軽く入れながら佇んでいる、その後ろ姿からも感じられる威圧的な気配に、緊張を覚えていた。
―――――・・・・・・この人が『塔間』さん・・・・・・!―――――
そして真昼と瑠璃が、目を瞠りながら塔間を見つめていると。
その視線に気づいたからなのだろうか。塔間はスーツの上から身に着けていた、独特の模様が描かれたストールを靡かせつつ、此方に振り返って来て。
「C3東京支部、副支部長。塔間泰士だ」
口元に笑みを浮かべながら真昼と瑠璃に向かって、まず己の立場と名前を名乗った後に。
塔間は右手を胸に添えながら、威圧感のある大きな体躯を折り曲げると、
「
詫びの言葉とともに、現状は自分が責任者であるのだと告げてきたのだが。
「ですが、〝ミストレス〟のお嬢さんは、ここでもうまくやっていけそうですね。吊戯とはずいぶんと〝仲よく〟して下さっていると聞いていますよ」
その後に、に対して向けられた視線と、紡ぎ出された含みのある言葉は、まるで値踏みでもしているのではないかと思わせるもので。
「・・・・・・っ」
刹那、背筋が冷たくなるような感覚を覚えた瑠璃が肩を震わせると。
「・・・・・・」
瑠璃の腕の中で目を閉じつつ、精神ダメージを回復すべく休んでいた黒猫が、不愉快だというように真紅の瞳を開いて塔間を見上げようとしたものの。その時、様子を見るようにしていた盾一郎が此方にやって来て。
「副支部長。吊戯に少し休暇をもらえませんか」
塔間からさりげなく引き離すように瑠璃の傍に並んで立つと、盾一郎が口にした発言に「え」と吊戯本人が驚いた声を漏らしたのだが。
「もうステージもⅢまで進んでる。これ以上は戦わせられない」
それには構うことなく、盾一郎がきっぱりとした口調でそう言い切ると。
「車守くん。復帰してくれて嬉しいよ。戦闘班はいつでも人手不足だからね」
しかし、塔間は盾一郎の言葉など聞いていなかったかのような態度で応じてきて。
「今、俺が話をして」
盾一郎は塔間を睨むように見据えながら文句を言おうとするも。
「もう一年以上前になるか。奥さんの件は辛かったと思うが―――――」
塔間の口から紡ぎ出されたその言葉を聞いた瞬間、盾一郎は凍り付いてしまう。
「テメェ、それ以上喋るとここで殺すぞ」
しかし、その瞬間、殺気に満ちた面持ちとなった弓景が所持していた『道具』を銃に変えて、塔間の後頭部に突き付けたのだ。
「・・・・・・月満さん!?」
その弓景の行動に対して、戸惑いの声を上げたのは瑠璃だった。
塔間本人は全く顔色すら変えることなく、代わりに瑠璃の様子を観察するように見遣った後。
「一応、俺は君の上司なんだがな? 〝ミストレス〟のお嬢さんも驚いているじゃないか。救護室で銃を向けるなんて」
弓景に対して余裕の態度を見せるかのように、首元のネクタイを緩めると。
「いくら君が・・・月満のご子息と言えど・・・」
煽るかのようにそう言ったのだが。
「やめろ、弓。この人のペースで話したらだめだ」
カッとなりかけた弓景の肩に左手を置きながら制したのは、その弓景の行動を目にして我に返った盾一郎だった。
けれど、決して塔間の身を案じて取った行動ではないというのを示すように。
チと舌打ちを漏らした弓景とともに、盾一郎もまた嫌悪に満ちた眼差しで塔間を睨みつけていて。
―――――・・・・・・月満さんだけじゃなく、車守さんまで、あんな顔をするなんて。
塔間という男は、この二人に一体何をしたのだろうか。
瑠璃が当惑の面持ちになった中、塔間本人は変わらずまったく堪えた様子もなく。
「相変わらずお前の友達はすごい目で俺を見るね、吊戯」
吊戯のほうに目を向けると、独特の間を持たせた口調で話しかけたのだが。
「はは。嫌な言いかたするからでしょ。だめだよ、泰ちゃん」
吊戯が『泰ちゃん』と塔間に向かって呼び掛けた刹那―――――
塔間は微かに驚いたように目を見開きながら吊戯のほうを見ていて。
弓景も愕然とした顔で吊戯を見つめていた。
―――――・・・『泰ちゃん』?
そして吊戯が口にした塔間の呼び名に、真昼もまた呆然とした面持ちで目を瞬かせ。
静まり返った部屋の中で吊戯と塔間の二人を交互に見遣ると。
塔間はゆっくりと自身の肩にかけていたストールを外す仕草をして。
それをベッドの近くにあった机の上に置いた処で吊戯に向き直ると。
「・・・吊戯。そういえばお前、今月末、誕生日だったな。今いくつだったか・・・」
「え~何? 急に。ケーキでも買ってくれるの?」
唐突に塔間が切り出してきた話題に吊戯はへらと笑い返すと。
「狼谷吊戯。17歳で―――――・・・」
左手の親指と人差し指を立てながら、ニヤッと笑みを浮かべて、そう言いかけたのだが。
「・・・・・・吊戯さん?」
その言葉を聞いた瑠璃が思わず戸惑いの表情を浮かべながら吊戯の名前を呼ぶと。
数秒間、吊戯は固まった後に、「・・・や、あ―――――・・・えっと」としどろもどろになりながら視線を俯けてしまい。
「いや・・・に・・・じゅう・・・さん・・・?」
自身の年齢を正しく思い出すことが出来ないといった状態になってしまった吊戯に対し。
「・・・26だろ。・・・吊戯」
絞り出すような声音で盾一郎がそう告げると。
「・・・あ。ああ! あーそっか! そうだ、うん! いやー気持ちは永遠の17歳って感じでね!」
吊戯は弓景に対して強張っていた顔に無理矢理笑みを浮かべながら「はっは!」と笑い声を上げて返事をしたものの。その後にまた片膝を抱えるようにしながら項垂れてしまい。
「確かに
そんな吊戯を慰めるかのように、塔間が左手でぽんぽんと頭を叩く仕草をしたのだが。
「こいつはお前の出世の道具じゃねぇんだよ!!」
その直後、盾一郎が勢いよく塔間のネクタイ締め上げるように掴み上げると、激怒した面持ちでそう言い放ったのだ。
けれど、塔間はそんな盾一郎の顔を嘲笑するかのような笑みを浮かべながら見返すと。
「・・・はは。懐かしいな。君はC3入社初日・・・同じことを言って俺を殴ってくれたよなぁ。変わらないなあ、君も俺も・・・
そんな皮肉めいた言葉を口にしてきて。
このままでは言うだけに止まらず、塔間のことを盾一郎は殴ってしまうのではないだろうかと思われた中で。
「ああ。待って、盾ちゃん。オレ、平気だって。この人わざと、こう嫌な言いかたするのが好きなだけなんだから」
諍いを止めるべく声を上げたのが、当事者である吊戯だった。
そして吊戯が「ね」と塔間のスーツの裾を掴む仕草をすると。
それに応えるように塔間はスと盾一郎から視線を逸らした後に。
「耶節先生に用があってね。席を外してもらえるかな」
そう言った時、盾一郎は塔間に掴みかかっていた手を放していて。
「・・・くそ。コイツと話してっと頭おかしくなりそうだ」
弓景が右手で頭を抑える仕草をしながら塔間に背を向けて先にこの場から出て行くと。
「・・・吊戯。また・・・後で」
真昼と瑠璃も、吊戯にそう告げた盾一郎に促されて、一緒にそこから退室することとなったのだが。
「・・・道具だなんて。なあ吊戯。そんなことないよなあ。どちらかといえば家族みたいなものだよなあ」
その時、耳朶に聴こえてきた塔間の口から出た『家族』という言葉。
そして扉が閉じる直前に見えた、吊戯の『いびつな笑顔』が、真昼と瑠璃の胸の中に小さなシコリとなって残ったのだった。
それから救護室を後にして、盾一郎に連れられて通路を歩きだした処で。
先を歩いていた弓景が苛立ちをぶつけるように、小休憩スペースに置かれていたゴミ箱をガンと勢いよく蹴り飛ばしている様を目撃してしまい。
―――――・・・・・・ぁ―――――
真昼と瑠璃が揃って唖然とした表情を浮かべると、盾一郎が眉を顰めながら、
「こら弓。物に当たるな。物に」
注意をした後に、ったく、と言いながらゴミ箱を起こすと。
弓景はドスドスと大股で足を踏み鳴らすようにしながら、そのまま立ち去ろうとしていて。
「あ、月満さん・・・・・・どこに行くんですか」
散らばったゴミを盾一郎と一緒に拾っていた瑠璃がそれに気づき、弓景の背中に向かって呼び掛けると。
「便所!!」
弓景からは一応返事が返ってきたものの。
「・・・・・・」
追いかけたほうが良いだろうかと真昼が動こうとした処。
「ああ、大丈夫。頭が冷えたら戻ってくる」
そう盾一郎は言った後。このままここで少し休憩をしようという提案を持ち掛けてきて。
「コーヒーしかないけど」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「あっ・・・・ありがとうございます」
自販機で購入したそれを差し出してきた盾一郎に対し、瑠璃に続いて真昼もまた礼を言って受け取ろうとしたのだが。
「ああ、そう言えばお前は・・・『オレンジジュースが好きな子供のままでいい』んだっけな?」
ふと、盾一郎が思い出した様子でそんな言葉を漏らして。
「!? なっ、なんでそのセリフを・・・!?」
それを聞いた真昼が、カッと顔を赤くしながら盾一郎の顔を見返した中で。
「えっと・・・・・・?」
きょとんと瑠璃は目を瞬かせながら、盾一郎のほうに目を向けると。
「前に修平が連れてきたときの録画映像見たぞ。3人で見たんだが、吊戯が大爆笑で」
はははと盾一郎は笑いながら話をしてくれて。
「~~~~~~っ」
それにより暫しの間、真昼は羞恥に悶えることとなってしまったのだが。
人型に戻ったクロも交えて4人で席に着いた後。
皆でコーヒーを飲みながら一息つくと。
「二人とも・・・魔術師やC3についてほぼ何も知らないんだな」
「・・・・・・はい。ですから、教えて頂けませんか」
淡々とした声音でそう漏らした盾一郎に対し、瑠璃が静かに頷き返すと―――――。
「・・・・・・俺達が使う『魔術』は精神への負荷がかかる」
僅かな沈黙の後に盾一郎は話をし始めて。
「使いすぎれば異常が現れる。みんな大体症状は似ていて。知っているはずの人間の顔が認識できなくなる。『顔のない人が迎えに来る』という幻覚を見る。精神が子供に還っていく」
―――――盾一郎が口にしたその症状は今の吊戯の容態に全て当てはまるモノばかりで。
「吊戯はもう・・・限界が来てるんだ。ちょっとしたきっかけでバランスを崩す。もう戦える状態じゃなくなって・・・」
そこまで盾一郎の口から話を聞き終えたその時。
―――――それなら―――――
真昼と瑠璃の中で、盾一郎に対して伝えるべき想いは、ハッキリと決まっていた。
「それならシンプルに考えて
「そうね。車守さん、私達と一緒に戦いましょう」
そして真昼と瑠璃が口にしたその言葉に対しクロが「めんどくせーけどな」とお決まりの台詞を口にしたものの。そちらに対しては真昼から「出た!ツンダル」―――――だるいツンだ―――――という突っ込みが入ることとなり。
その時、盾一郎もまたこれからどうすべきか―――――自身の『答』が決まったようだった。
「・・・じゃあまず、隔離しているほかの
そして盾一郎がそう言いいながら席を立った処で。
「〝強欲〟だけは何か体に異常が出ていて暴れたらしい。どうやら〝怠惰〟を呼べと喚いているそうだ」
提供されたその情報により、先程の警報はそれが原因だったのだと真昼と瑠璃は知ることとなったのだが―――――クロを呼べとロウレスが暴れた理由は一体何なのだろうか。
「クロ、何か心当りある?」
瑠璃が気遣わしげな眼差しでクロに尋ねかけると。
「あ―――――・・・・・・ある」
クロもまた、神妙な面持ちで頷き返してきて。
「それなら口実にもしやすい。俺が手配してみよう」
それを聞いた盾一郎がそう申し出てくれて。「お願いします」と瑠璃が頷いた後に。
「・・・車守さんは俺達の話を・・・聞いてくれるんですね」
飲み終えたコーヒーの缶を片付けるために、席を立った盾一郎の背に向かって真昼がそう言うと。
「・・・『何もしない』のはもうごめんだからな」
ガコンと缶を捨てた盾一郎は、真昼のその言葉に対する返答として、自身の『本心』を偽ることなく言葉にして紡ぎ出す。
「俺はただ家族や友人を失いたくない。それ以外のことは正直どうだっていい身勝手な人間だから」
そして真昼と瑠璃がそんな盾一郎の背中を強い意志を宿した瞳で見据えると―――――
「――――――俺の友達を助けてくれるか。真昼、瑠璃さん」
此方に顔を向けてきた盾一郎もまた、真昼と瑠璃に対して、真剣な眼差しで見返しながらそう告げてきたのだ。
そして―――――
―――――吊戯は盾一郎達にも何かを隠している。
―――――恐らくそれは〝塔間〟と〝吊戯〟だけが知る何か。
―――――『答』となる『鍵』は『椿』の『動機』と『目的』。
真実に辿り着き、吊戯を救う為に。真昼と瑠璃が盾一郎と共に、動き出すこととなった時。
「狼谷吊戯、26歳」
塔間から渡された1本の煙草。吊戯は虚ろな瞳で、それを口に銜えた状態で紫煙を燻らせながら、自身の名前と年齢を繰り返し呟いていた。
そして、バラバラになりかけた、精神と心を、ゆっくりと繋ぎ合わせていく。
―――――歴代の魔術師の悲願だ。これが成功すればすべてが解決する―――――
―――――俺が正しかったと証明してやる―――――
―――――誰にも言うなよ。知っているのは俺とお前だけだ―――――
そう言ったのは『彼』だった。
―――――『落ちて割れた卵は本当にもとには戻らない』のか?―――――
オレは戻りたくない。
―――――あの夜、どこで何をしてた―――――
―――――俺にも話せねぇってのかよ。なんでなんだよ吊戯!―――――
そう言ったのは『月』だった。
―――――ごめんよ、ごめんよ、ごめんよ。オレのことを許さないで―――――
けれど本当のことを話すことは出来ないから、オレはそう言うことしか出来なかった。
―――――怨めって言われたって、何もわからねぇんだ。それすらできねぇよ―――――
そう言ったのは『戦車』だった。
―――――このままここでかみさまにでもなるのか―――――
―――――お前はかみさまに一番近い男なんだから―――――
これは誰の言葉だっただろうか。
「〝明日世界が終るとしても〟〝私は今日も木を植える〟―――――・・・」
そしてふと思い出した言葉を吊戯は口にしたのだが。
「・・・何の木だったかな・・・」
その言葉の先を思い出すことは出来ないまま―――――。
しかし、その代償として一つだけ、吊戯の中に定まった〝事柄〟があった。
「大丈夫。予定通りのはずだ。〝憂鬱〟にも・・・誰にも
【本館/21・6/29/別館/21・6/30掲載】
